せめて本作が完結してからにしますが^^;
門長達と別れた三人は急ぎレフラの所へ向かっている。
その道中はとても静かで暫くは誰も口を開く事は無かった。
だが、その空気に耐え切れなくなった金剛が一番にその口を開いた。
「ヘーイ、ナガト?」
「ん?どうした」
「彼女を……レ級flagshipを本当に連れ戻すつもりデスカ?」
レ級flagshipを本当に無事に連れ戻せるのか?
加減しては返り討ちに遭うのではないか?
金剛の質問はそういった不安の色が表れていた。
それは長門自身も思わないことではなく、実際には決めかねている所でもあった。
「金剛。お前ならこの作戦をどう見る?」
「どう考えて、も…………いえ、そうですネ」
金剛は長門の真剣な目を見て直ぐに思考を切り替える。
そして一つずつ状況を確認し始めた。
「呉の主力なら平均練度は九十七位……それにフラヲにエリレ……そしてワタシとナガトにムツ………」
金剛はブツブツと呟きながら頭の中で情報を纏めた上で二人にこう告げた。
「インポッシブルではないと思いマス……ケド、フラレの実力がアンノウンである以上決して良策とは言い難いネー。最悪ミスタークラスなら沈める事すら容易では無いですカラ個人的にはおすすめ出来ないデース」
「そうか……確かにな。むしろ門長と同等であればやるべき事は明瞭だったのだがな」
長門が危惧しているのはレフラと門長の間にどれだけの差があるかという事である。
もし差がないのであれば彼女が今しがた口にした通りやれる事など残った二艦隊の合流、そして門長が戻ってくるまでの時間稼ぎ位だろう。
しかし、連合艦隊に匹敵するとはいえレフラが地力では遠く門長には及ばない事を長門は知っている。
が、逆に言えばそれだけしか知らないのだ。
敵の力量を早々に見極めねて動かねば双方の被害を抑える事など出来るはずがない。
故に長門は此処でどう動くべきか慎重にならざるを得ないのだ。
「……どうするべきか」
「ナガト……」
険しい面持ちで構える長門を見て、陸奥も何か案がないか考えつつ徐に口を開く。
「そう、ねぇ……門長さんは一体どうやって止めるつもりだったのかしら?」
「門長だったら?あいつなら恐らくレフラに突っ込んで…………そうかっ!」
「え?な、なに!?どうしたの姉さん!?」
突然の大声に目を見開く陸奥を余所に長門は一人自嘲気味に笑い始める。
「はは……散々奴に言っといて辿り着く場所は私も同じでは人の事を言えんな。問題は残る……が、上手く行けばこれ以上無い位に平和的な方法だろう」
「姉さん、なにか作戦があるの?」
「ああ、作戦とも言えないお粗末なものがな?」
二人は長門を訝しげに見つめるが長門は気にせず金剛に質問を投げ掛けた。
「金剛、最大で何ノットまで出せる?」
「へ?えーと、一杯で三十二ノット迄なら行けると思うネ……」
「そうか、ありがとう。そしたら一つ頼みたい事がある」
長門は金剛と陸奥に作戦内容を一通り説明した所、その内容に二人はただ唖然とするしかなかった。
しかし、こうなる事を予想していた長門はにやりと口角を上げると大きく息を吸い込み通信機を口元に構えた。
そして……
「喝っ!!」
「「ひゃいっ!!?」」
砲撃が耳元で放たれたかの様な長門の一喝に二人は思わず飛び上がる。
「なっ、何するのよ!いきなりビックリしたじゃない!」
「鼓膜がブレイクするかと思ったネー……」
「すまんすまん、お前達の惚けている様が目に見えたのでな」
「あんな説明を聞けば当然でしょ!?頭をどうかしたのかと思ったわよ」
「オーウナガト……これもミスターの影響ですカー?」
耳を抑えながら抗議する二人の話を聞きながら長門は二、三頷くと足踏みをしながら金剛の質問に答えた
「ふむ、それもあるだろう。だか私は今の自分の方が好きだし、何より楽しいからな」
「本当ですカ?」
「ああ、だからこそこの場所はより良い形で護りたいのだ」
艦娘、人間、そして深海棲艦。
全ての種族が手を取り合って過ごしている世界の理想とも言えるこの居場所を護って行く為にも誰一人沈めるわけには行かない。
そんな長門の決意を理解した金剛もまた覚悟を決めた。
「ザッツライト、大切な場所を護るためにはワタシ達が此処で踏ん張らなきゃデース!」
「仕方ないわね、他の方法を考えてる余裕もないもの。金剛さん、姉さん。二人共気を付けるのよ」
「無論だ、奴を相手に油断する気は毛頭無いさ」
「任せて下サーイ!無事にミッションコンプリートしてくるネー!!」
この掛け合いを合図に金剛は機関を一気にフル回転まで持っていき、徐々にその速度を上げていく。
それに続くように長門も回転数を上げ、その上で海面を力強く蹴り出した。
その力を以て長門は一気に加速し、更に大きく一歩を踏み出していく。
これは門長も使っていた横っ跳びと同じ要領であり最大速力を出した状態で更に前へ跳ぶ事で限界以上の速度を出す事が出来る航法である。
当然普通の艦娘であれば思い付きすらせず、たとえ思い付いたとしても一朝一夕で出来るようなものではない。
だが門長と肉体を共有していた長門には無理な話では無かった。
「オォウ……逆に追い付けるか心配ネー」
と高速戦艦ですら思わず口にしてしまう程にずば抜けた加速力を以て長門は海を文字通り駆け抜けていく。
金剛も置いてかれまいと何とか長門について行くのだった。
長門達が全速力でレフラを追いかけていく中、一足先に彼女を追い掛けていたフラヲ達は既にレフラとの航空戦を繰り広げている。
だが戦況としてはフラヲ達は苦戦を強いられていた。
搭載数が二人を大きく上回っており常に一体二以上の戦闘を強いられている為だ。
「エリレハ可能ナ限リレ級flagship本体ヲ狙ッテ」
「ウンッ、ワカッタ!」
ドッグファイトだけではレフラを足止め出来ないのでレフラ本体にも攻撃を行わなければならない。
その為、フラヲはレフラ本体に攻撃を集中する様にエリレに伝え自身はレフラの爆撃機を止める役目に専念したのだ。
「アッ、マタ落チチャッタ」
「エリレ、後何機残ッテルノ?」
「ウ~ント……後四十ダヨッ!」
エリレの元気の良い返答にフラヲは頭を悩ませる。
とは言ってもエリレが艦載機の扱いに重きを置いていない事は解っているしそもそも180機全て爆撃機である為、これだけ落とされるのは想定内である。
だからフラヲを悩ませているのはエリレではなくレフラの方であった。
三百を超える爆撃機は想定内ではあったものの、問題はその練度の高さにある。
フラヲ自身の戦闘機ですら徐々に落とされて始めている程であり、爆撃機相手に制空権を取られつつあるのだ。
「マサカ、爆撃機ニココマデ苦戦スルナンテ……」
「アッ、最後の一中隊ガ……」
エリレの報告を受けたフラヲの顔に焦りが見え始める。
エリレの爆撃機が尽きた以上戦力をレフラ本体にも割かねばならない。
だが残念な事に制空権が取られつつある現状においてはフラヲにそれを成し得るだけの
可能性とすれば戦艦であるエリレならレフラに接近して足止めをする事も出来るかも知れない……だが。
「エリレ、下ガッテ」
「エッ?マダ艦載機ガヤラレタダケダヨ?」
「イイカラ」
フラヲはエリレに単艦で突撃させる事を良しとしなかった。
そんなフラヲの判断に不満があるのかエリレは少し不貞腐れながらフラヲに尋ねた。
「ウ~……フラヲハドウスンノサ」
「私モ残リノ攻撃機ヲ放ッタラスグ行クワ」
「ジャア俺モ残ル!」
「……駄目ヨ。モシアイツガコッチニ向カッテキタラ貴女ノ速力ジャ追イツカレテシマウデショ?」
「ウゥ~…………ワカッタ、無理シチャダメダヨ?」
「……エェ、解ッテル」
フラヲの返答にエリレは渋々後退していった。
確かにエリレ自体も最大速力二十八ノットと決して遅くはない。
だが実際問題レフラの方が早く通常でも三十ノット以上出る為、一度追われると逃げ切る事は厳しい。
対して自身の速力であれば引き離す事も可能であり、尚且つ此処でレフラを中破させられれば後は艦娘達でどうにか出来る筈だと考えていた。
だからこその判断であったが、フラヲは一つ重要な事実を見落として……いや、知らなかったのだ。
二度ほど行われた門長とレフラの戦いを見ていない彼女には知る由もない事実を……。
「魚雷投下完了……命中……八……」
フラヲが発艦させた攻撃機は墜とされながらも次々とレフラ目掛けて魚雷を放っていく。
レフラは軽い身のこなしで躱していくが三十を超える攻撃機からの雷撃を全て回避する事は叶わず合計で八本の魚雷がレフラの足元で激しい水飛沫を上げて全身を包み込んだ。
それでもフラヲは油断する事なく第二次攻撃の発艦準備を整える。
「マダ中破ニモ至ラナ……ッ!?」
だがそんな時、フラヲの予想を超える事態が起こった。
雷撃を受けたレフラは標的をフラヲへと変える。
だが問題はそこではなく、問題はその速度であった。
「ソンナ……確カニマルレ隊ノレ級flagshipハEN.Dノ中デモ一、二ヲ争ウ怪物ダトハ聞イテイタケドマサカ……」
レフラは海面を
「クッ、第二次攻撃隊発艦!」
フラヲも後退しながら攻撃機を発艦させて抵抗するが、本気で向かって来ているレフラにとっては障害にすらならない。
「命中ゼロ……ナラバ爆撃機デッ」
すぐさま爆撃機を発艦させレフラの進路へ次々と爆弾を投下していくがレフラは減速するどころか更に加速して降り注ぐ爆撃の中を突っ切って来る。
その為フラヲの爆撃機が最後の爆撃を投下し終える頃には二人の距離は既に五キロを切ろうとしていた。
「テメェ等モ俺ノ邪魔スル気ナラ潰サレル覚悟ハ出来テンダロウナァッ!!」
「近イッ、攻撃隊発艦急ガ……グッ……不味イッ!」
フラヲが急いで発艦させようとしている所、飛行甲板目掛けて狙い済ましたかのようにレフラが放った五十センチ超の砲弾が突き抜ける。
フラヲは咄嗟に飛行甲板である帽子を掴みレフラが向かって来る方へ放り投げた。
その直後、フラヲの帽子は内部で誘爆を繰り返し激しい爆炎を撒き散らしながら海中へと没したのだ。
辛うじて対応が間に合ったものの、その損害は大きかった。
背後からの衝撃に堪え切れずフラヲは大きく吹き飛ばされ、海面へと何度も叩きつけられる。
爆炎は焼かれた背中のマントは崩れ落ち、その真っ白な背中にまで大きな傷痕を残していた。
全身を熱した鉄の棒で殴り付けられたような想像を絶する激痛に顔を歪ませながらも、フラヲはヨロヨロと立ち上がり後ろを振り返る。
「ウ……グゥ……ッ……少シデモ……足ヲ………」
フラヲはこれ以上逃げ切る事は出来ない事を悟り、レフラを少しでも足止めしようと手に持っている杖を両手で確りと握り正面に構えた。
「エリレ……ゴメン、無理シタクハ無カッタンダケドネ」
「艦載機ガ無キャ何モ出来ネェ空母如キガ俺様ノ邪魔ヲスルナンテ千年早ェンダヨォッ!!!」
黒煙の中をくぐり抜けて来たレフラが突進しながらフラヲへと全砲門を向ける。
だが既にフラヲにはそれを避ける事も捌く事も出来ない状態であり、フラヲ自身もその気は無かった。
殆ど身体を動かせないフラヲは刺し違えてでもレフラの足を止める覚悟をこの時既に決めていた。
「例エ身体ガ吹キ飛バサレヨウト、コノ手ハ離シハシナイワッ」
「死ニ損ナイガァ!斃リヤガレェッ!!」
最期の瞬間まで一点を睨み続けていたフラヲにレフラが引き金を引こうとしたその瞬間、フラヲの両サイドを二つの影が通り過ぎていった。
その影は一目散にレフラへと突っ込むとその足を取ってレフラの事を海面へ思い切り叩き付けた。
「ナッ!?誰ダテメェ等ハ!!離セッ!殺スゾ!!」
「そこまでだ!我々は門長からの伝言を伝えに来た!」
「ソーデース、だからビークワイエットでヒアリングしてネー?」
フラヲの目の前に突如現れた金剛と長門の二人はレフラを押さえ付けるとレフラに対して唐突に話を持ち掛けたのだった。
あぁ、レフラに首を掴み上げられながら罵倒されたい。