レ級flagship……レフラ接近の報を受けた私とヴェールヌイは更に急ぎ門長さんと合流を果たしました。
「明石、彼の補給を始めてくれ」
「解ったわ」
「おう明石。助かるぜ……って、ん?そっちの娘はもしかして……」
「やあ、こうして話すのは初めてだね。私は呉第一鎮守府所属、暁型駆逐艦二番艦ヴェールヌイだ。先程は私達の艦隊が迷惑を掛けてしまって済まなかった」
そう言って頭を深々と下げるヴェールヌイに門長さんは気まずそうにしながら言葉を返しました。
「いや……そんな気にする事の程でもねぇって。大丈夫大丈夫」
「済まない、このお詫びは必ずさせて貰うよ」
「お詫び?ほぉ……」
「門長さん?ヴェルに変な事したら響ちゃんにチクりますよ」
「てめっ……べ、別に髪を撫でたいとか抱き締めたいなんて言ってねぇだろうがっ!?」
「はぁ……そんなの響ちゃんに言えばいいじゃないですか。と言うか今はそれどころじゃないんですよ」
私は門長さんに釘を刺しながら摩耶さんからの話をを簡潔に伝えました。
「レ級が来てんのか……まあ確かにあいつの言い分も解らなくはねぇからなぁ」
「えぇ、ですがこのままではヴェル達に甚大な被害が出てしまいます」
「そうだなぁ……」
「お願いだ門長さん……虫が良いのは解っている。だが貴方無くして連合艦隊に匹敵すると言われているレ級flagshipを相手にどうにか出来る程の力は今の我々にはないし、かといって向こうの艦隊と合流する時間もない。だから……」
「門長さんっ、私からもお願いします!」
ヴェルに続いて私も頭を下げてお願いしました。
「……頭を上げな」
私達は門長さんに言われるままに頭を上げると門長さんはヴェルの頭の上に手を乗せると彼女の銀色に靡く髪を撫で始めました。
「えっ……?」
「と・な・がさ~ん……?」
「テメェは黙ってろ明石っ…………よし、依頼料はこれで良いだろう」
「へっ?えと……」
「何してんだ?さっさとレ級の所に行くぞ」
そうして門長さんはそのままレフラの所へ向かい始めました。
私は隣を向いてヴェルの様子を見てみるとヴェルは帽子を深く被って何かを呟いてました。
「……スパスィーバ」
「ははぁ~ん。ねぇヴェル、もしかして門長さんに惚れちゃった?」
「な、何をいうとるかっ!?いぃ、い、色恋沙汰なんてきょ、興味無いね!」
「そぉ?まぁでも止めといた方が良いわよ。あの人ロリコンだからヴェルにも優しくはしてくれるかも知れないけど一番は響ちゃんだから」
「…………私だって響だ」
「ん~?」
「なっ、何でもないっ!!早く行くよ明石っ!」
ヴェルは顔を真っ赤にしながら速力を上げて少し前に出ました。
私はそんなヴェルの背中を暖かく見守りながら内心何とも言えない気分になっていました。
う~ん、冗談半分だったんだけどなぁ。てか普通あれだけでそこまで意識しますかねぇ……?まぁそんなちょろい所も可愛いんですがね。
「明石おい!ちんたらやってると置いてくぞ!」
「ちょっ、私これで一杯一杯何ですけどぉ~!」
ただ、言っちゃ悪いですが門長さんは異性としては何が良いのか私にはさっぱり何ですよね。
だからヴェルには悪いけどこの恋は応援出来ないわ。
……まあでも、この一大事にこんな緊張感の無い事を考えてられるってのは門長さんがいる事による安心感があってこそだというのは紛れもない事実ですがね。
「門長さん、目標まで残り五キロだよ」
「任せろ、俺に考えがある」
私の思考が脱輪している間にどうやらレフラとの距離が詰まっていたらしい。
少し後ろを航行している私からはまだ見えないが、二人からはそろそろレフラの姿が見えてくる頃だろう。
「門長さん、どうするつもりですか?」
「もちろん突っ込む。まぁ兎に角見てろって」
そう言うと門長さんはいきなり両腕に持っている五十一センチ連装砲を放り投げると更に速度を上げて行きました。
確かに主砲塔一つでもかなり重量がありますから外せばその分速度は出るかも知れませんが、そこまで差は出ないと思いますし何より兵装も持たずにどうするつもりなんでしょうか。
そう考えていた私はヴェルから入った通信を聞いて茫然としました。
『凄いね、全速力でも離されていくよ』
「…………はい?」
ヴェルの最大速力三十八ノットに対して距離を離してる?
いやいやまさかそんなはずは。
「ヴェル、多分貴方の機関に異常があるんじゃないかしら」
私は門長さんの放り投げた砲塔を曳航しながらヴェルに尋ねるもヴェルの答えは一つだった。
『いや、機関に損傷はないよ。考え難いだろうけど確かに四十ノットは超えてるね』
「いやいや、門長さんの最大速力は三十ノットですよ?そんな何処かで聞いたような逸話じゃないんですからぁ」
『そうだね、私も例の逸話を目の当たりにしているような感覚だよ。おっと、そろそろ視認距離外に出てしまうね』
はぁ……門長さんはどれだけ理から外れれば気が済むんですか全く。
私は半ば呆れながら、重りのせいで遅くなった歩を進ませてお二人のもとを目指したのでした。
潮「男の人が凄い速度で走ってます!?きっと四十ノット以上は出てます!」