響乱交狂曲   作:上新粉

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上新粉っ!完全復活!!(花粉症的な意味で)


第八十一番

海の上では不動の標的艦と化した門長が必死の抵抗を見せている中、門長達の拠点である中部前線基地へ戻ったレ級flagshipは何処に艦娘が居るのか解らないので一先ず置いて行った弾薬を取りに工廠へと足を運んでいた。

 

「アッ、艦娘イタッ!!」

 

工廠では明石がエリレの艤装を整備していたのだが、突然の訪問者に明石、エリレ、フラヲの三人は一様にレ級flagshipの方を見やった。

 

「へ?えと、レ級さん?」

 

「ナ~ニ?」

 

「貴女ノ事ジャナイワ。ソレニシテモ……港湾サン達ダケジャナクテマサカ離島サンノ所ニ配属サレテルレ級flagshipマデ出入リシテルノネ」

 

「えと、まぁ色々ありまして……」

 

呆れたように呟くヲ級と苦い顔を浮かべる明石をよそにエリレは興味津々でレ級flagshipに張り付いていた。

 

「強ソウ!イイナァ……ネェネェ!ドウヤッタラフラグシップニナレルノッ?」

 

「ドウヤッテ?ウーン……強クナレバ良インジャネ?」

 

「オオ!ナルホドッ、アリガトッ!!」

 

実際はレ級flagship自身も生み出された時からflagship級なので確証も何もある訳では無いのだがエリレはその答えに納得すると嬉しそうにフラヲの下へと戻って行く。

興奮気味のエリレの頭を帽子に付いてる触手で撫でて落ち着かせるフラヲを茫然と眺めていたレ級flagshipだったが、ふと此処に来た理由を思い出し慌てて用件を話し始める。

 

「アッ、ソウダッタ!門長ガ此処ノ艦娘ニ直グニ伝エテクレッテ言ッテタンダヨ!」

 

「門長さんが?」

 

「ソウ!ソレニ門長モ今動ケナクナッテンダ!」

 

「レ級さん……だと混同しますのでえと、レフラさん。今の話詳しくお聞かせ頂けますか?」

 

レ級flagship改めレフラから島が包囲されている事、そして門長が燃料切れを起こして立ち往生している事を聞かされた明石は一つの可能性を想起していた。

それはつい先日門長達の話し合いで自身が話した呉の艦隊についてである。

勿論、レフラの姿を捉えた別の艦隊という可能性も捨て切れないが、それだと四艦隊で島を包囲している理由としては不十分だ。

明石は昨日話した対応策を思い出し、直ぐに基地にいる全ての艦娘へ回線を繋ぎこう伝えた。

 

「皆さん、大至急工廠に集まって下さい!」

 

『明石さん、何があったんだい?』

 

「事情は集まってから話します。それとなるべく建物内を通ってきて下さい」

 

明石が招集を掛けてから十分後、遠征に出てる暁、吹雪、不知火を除く二十名もの人、艦娘、深海棲艦が工廠に集まっていた。

その中で踏み台に上がった明石は全員の意識が自身に集中したのを確認すると咳払いを一つしてから落ち着いて話し始める。

 

「皆さんに集まって頂いたのは今置かれている状況をお伝えする為でもあります。が、それ以上に工廠が構造上一番安全だと考えたからです」

 

「明石さん、安全ってどういう事?一体何が起きてるんだい?門長の姿も無いみたいだし……」

 

不安気に尋ねる響に対して明石は一拍置いてから答えた。

 

「門長さんは燃料が無く今は動けない状態にあります」

 

「なら燃料を届けに行けば──」

 

「ですがこの島は既に四艦隊に、つまり二十四隻もの艦娘に包囲されています。ですから我々が彼女達に敵対する意思は無いという事を伝えるまでは皆さんには安全の為こちらの工廠に避難していて頂きたいと思います」

 

「避難しろっつうのは構わねぇけどよ、その囲んでる奴等が攻撃してこないとは限らねぇだろ?」

 

「それは……」

 

明石は摩耶の質問に答えようとして言葉を詰まらせた。

摩耶や他の艦娘達にとっては当然の様に浮かび上がってくるそれは、相手が呉第一鎮守府の艦隊だというただの願望に囚われていた明石を現実に引き戻すには十分な力を持っていた。

摩耶の言葉で少しばかり冷静さを取り戻した明石は再びどうするか考えた。

自身の所属する鎮守府の艦隊で無ければそもそも話し合いも出来ないかも知れない。

それに舞鶴第八(響や長門が所属していた)鎮守府の例がある以上、明石の所属する艦隊にしろ絶対大丈夫とは言い切れないのだ。

だが、そこまで考えが及んでもなお諦める事が出来なかった彼女は悪く言えばやはり冷静さを欠いていたのだろう。

 

「……確かに摩耶さんの言う通り相手が一方的に攻撃してこないとは限りません。ですので、皆さんはいつでも此処を離れられる様に準備しておいて下さい」

 

「皆さんはって……お前はどうしようってんだよ」

 

発言に疑問を抱いた摩耶に対して明石は一呼吸置いてから口を開いた。

 

「私は一度彼女達への呼び掛けを行きます。その後、相手が応じないようであれば皆さんお伝えしてから私も撤退致しますので後程合流しましょう。」

 

「呼び掛けるって……そんな無茶認める訳ねぇだろっ!」

 

「そうだよ明石さん!自分で何を言ってるか解ってるのかい!?」

 

四方を囲む二十四隻の艦隊を相手から明石一人で逃げ切る事がどれだけ無謀であるかなど、摩耶と響だけではなくこの場にいる全員、それこそ明石自身ですら理解している。

だが、包囲されている以上基地を離れるには相手が誰であろうと応戦しなければならず、そうなれば両間に交渉の余地などなくなってしまう。

 

「わかってる。でも……もしかしたら呉の皆が私を迎えに来ただけかも知れない。もしそうならっ」

 

誰も傷付かずに済むかもしれない。

 

 

「けど今来てんのがそいつらかだって解んねぇんだろ?無線とかで確認出来ねぇのか?」

 

「無線は皆さんが集まる前に確認しましたが私が最後に使用していたチャンネルでは応答はありませんでした」

 

「じゃあ尚更行かせる訳には行かねぇよ」

 

「摩耶さん……」

 

俯いたまま何かを堪えるように拳を強く握る明石の姿に摩耶はいたたまれなくなり視線を逸らす。

摩耶とて明石の事を大切に思ってるし出来るならその思いも汲んでやりたいと考えている。

だが……いや、だからこそ彼女にそんな危険な賭けをさせたくはないのだ。

 

「……とにかく、あの変態も居ねぇ以上その行動は認めらんねぇ」

 

そして、自分には彼女の願いを叶えるだけの力が無いという認めざるを得ない事実に幾ら憤りを覚えようと摩耶にはこう答える事しか出来なかった。

だが、そんな摩耶の気持ちを知る由もない明石は俯いたまま静かに呟く。

 

「……摩耶さんには解らないですよ。大切な仲間同士が争い合う未来を回避出来る可能性があるのに『危険だから』なんて言葉で片付けられる程私は冷徹にはなれません!!」

 

「うっ……」

 

真剣な眼差しで見つめる明石に思わず息を呑む。

此処で建造され、此処の仲間と日々を共にしている摩耶には気持ちは分かるなどと言えるはずもなかった。

 

「……すみません。回線は開いておきますので相手が応じなければ直ぐに此処を離れて下さい」

 

「おい待てっ!」

 

明石は艤装を装備しながら一言伝えると、そのまま工廠を飛び出して行った。

 

「くそがっ……どうすりゃ良かったんだよ」

 

そう呟き、腹立たしげに頭を掻き毟る摩耶の前に響が歩み寄り摩耶の目をみてはっきりと言い切った。

 

「決まってるだろう?何があっても大丈夫な様に戦闘準備を整えるんだよ。明石さんを護るんだ」

 

「はぁ?相手はここまで来る様な高練度の艦娘が四艦隊もいるんだぞ!?そんな相手に先制を取らせてまともにやり合えるわけ──」

 

「ナンナラ俺一人デ全員沈メテクルゼ。キヒッ、丁度門長トノ戦イニ水ヲ差シタ事ヲ水底デ後悔サセヨウト思ッテタ所ダカラヨ」

 

「……やれんのか?」

 

「一艦隊ズツ近付イテ潰シテケバ楽勝ダッツウノ」

 

摩耶は考えた。

レフラの実力は解らないが金剛が話していたレ級のflagship個体ならばそれぐらいやって退けるのだろうと。レフラの一分の揺らぎすら見せない自信に満ちたその眼がそう信じさせる。

だがそこに響からの待ったが入り、摩耶とレフラは一様に響の方を振り向く。

 

「それはやめよう。レフラも無事じゃ済まないだろうし。何より相手が明石さんの仲間達なら()()()()()()()()()()()

 

「ケッ、甘チャンメ」

 

「響……」

 

摩耶は決意に満ちたその言葉から響自身嘗て今の明石と同じ境遇であり、それを切っ掛けに此処に居る三名を除く全ての仲間を失っていた事実に気付いた。

自分より幾分も幼いその身に自分には想像も付かない程深い傷を背負う少女が、自身と同じ悲しみを今の仲間に背負わせたくないと弱音を吐かずに息巻いているのを見た瞬間、摩耶には響が自分より断然強く大きい存在の様に感じていた。

 

「…………ったく、しゃあねぇな。他の奴らもそれでいいんだな?」

 

摩耶はそれを悟られないように格好付けがましく全員に問い掛けた。

すると全員からは当然の様に肯定が返って来たので、摩耶は不敵な笑みを作ってみせると全員に号令を掛けた。

 

「おっし!!全員いつでも動ける様に戦闘準備を怠るんじゃねぇぞっ!!」

 

「「おぉーっ!!!」」

 

直後、空気を揺るがす様な雄叫びが工廠中に響き渡ったのであった。

 

 

 

 




花粉症は治った……しかし今度は猛烈な眠気が……( ˇωˇ )

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