響乱交狂曲   作:上新粉

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なんだか久々に長くなってしまいました。
戦闘シーンは相変わらずですがねw


第八十番

 兵装準備が完了し、工廠を出てから一時間。

演習を始める為に俺とレ級はそれぞれ二十キロ程離れた位置へと着いた。

無線での連絡が取れないレ級には一発目の空砲が戦闘開始の合図だと伝えてある。

 

「ほんとうにわたしたちでよかったのか?」

 

「せんせいのほうがよかったんじゃないですか~?」

 

俺は左手の主砲の装填を済まていると、二人の妖精が砲塔から姿を現して不安そうに尋ねてくる。

こいつらの先生ってのは恐らくあの砲雷長の事だろう。

 

「あいつは近くに居なかったからな。それにお前らなら他の奴よりこの主砲の扱いに慣れてんだろ?」

 

「わたしたちはふようだったんじゃないのか?」

 

「いらないからおいだしたんじゃないのですかぁ?」

 

妖精は今にも泣きそうな目で俺を見るが俺にこいつらを追い出した記憶なんてものはない。

 

「追い出した?俺がいつそんな事したってんだ」

 

「ながとさんたちとわかれたあとです~」

 

「へいそうのなかできゅうそくをとっていたらとつぜんはじきだされたのだ」

 

長門達と別れた後か……そういえばあの時武蔵しか顔を出さなかったな。

そうか、基地に一緒に戻ってた訳じゃなかったのか。

俺があの時の事を思い出していると突如右肩から声が聞こえてきた。

 

「あの艤装はお前たちが入れる隙間が無かっただけだ。安心すると良い、此奴が追い出したわけではない」

 

「「ほんとうにっ!?」」

 

「ま、そんな所だ」

 

「やはりそうだったか!しんじていたぞ!」

 

「よかったぁ~!てっきりやくたたずだからすてられたんだとおもってたよぉ~」

 

実際の所その辺りの記憶は曖昧なんだが……まぁなにはともあれ二人が安心してくれたなら良しとしよう。

……で、今俺の肩に乗っかってる妖精だが。

 

「いつの間に来たんだ……武蔵」

 

俺の右肩の上で腕を組む妖精、武蔵はひとしきり笑った後で俺の質問に答えた。

 

「ふふっ、私はお前さんの艤装を抑えてるんだぞ?艤装と一体になってるに決まってんだろう」

 

「んなもん知らねぇよ。つかそれだと逆に昨日はどうやって抑えてたんだよ」

 

「存外細かい男だな。なに、この体はお前さん艤装を借りて作った精神体の様なものだよ」

 

やれやれと肩を竦める武蔵の姿に怒りを覚えた俺は武蔵を軽く指先で小突こうとするが、その指は武蔵の体をすり抜けて空を切った。

 

「これで納得したか?」

 

「……ああ、意味が分からん事が分かった」

 

「ま、世の中そんなもんさ。それより準備が出来たのならさっさと始めてやったらどうだ?」

 

おっとそうだった。レ級をこれ以上待たせるのも悪ぃしな。

 

「準備は良いかお前ら!」

 

「まかせなっ!」

 

「がってん!」

 

力強い返事に満足した俺は右手の五十一センチ連装砲を空に掲げ号砲を轟かせた。

その一分後、俺は機関を稼働させ電探を起動させた。

妖精曰くレ級にまで音が伝わるのに一分位掛かるという事らしい。

つまり正しくは今からが戦闘開始と言う訳だ。

 

「二十キロか、普通なら充分射程圏内だが……」

 

相手はあの時のレ級flagshipだ。

近距離で撃っても横っ飛びで難なく避けて来る相手にこの距離から撃ってもまず当たらないだろう。

なら近づくしかねぇ……だが簡単に近付かしてくれるかどうか。

頭の中でどうするか考えていると、妖精が俺に呼び掛けてきた。

 

「どうした?」

 

「こうくうきがきてるっ!」

 

「しかもばくげききだよぅ~」

 

爆撃機……マジか、レ級って戦艦じゃなかったか?

ってああ、そういや魚雷も撃ってたっけな……って今はそんな事言ってる場合じゃねぇ。

すぐ様対空電探に切り替えると二百は超えようかという反応が真っ直ぐこっちに向かってきていた。

 

「成程、全力で戦うつったしな……三式弾へ換装急げっ!」

 

「あいさ~!」

 

俺は砲弾の換装を行いながら、いつでも撃てるように航空機の群れに連装砲を構えつつ空を睨み付ける。

約束した以上俺も全力でやらせて貰うぜ!

換装完了の報告を受けた俺は、既にすぐ近くまで来ている爆撃機の向かう先目掛けて一斉射目を放つ。

上空で炸裂した三式弾は数万もの子弾を撒き散らしながら次々とレ級の爆撃機を落としていく。

 

「てっきちょくじょう!」

 

「しょうげきそなえ~!」

 

一斉射では全てを落としきれなかった爆撃機四十機程が次々に爆弾を投下していく。

 

「ちっ……こんなの損傷の内にも入らねぇぜ」

 

俺は撃ち漏らした爆撃機に再び狙いを定めようと上を見ると奴らは二手に分かれており一方はレ級の下へ戻ったが、もう一方は何故か俺の上空に張り付くように飛び回っていた。

 

「なんだ解んねぇが逃げねぇっつうんだったら望み通り撃ち墜としてやんよ!」

 

俺は砲身を上空の爆撃機に向けて再装填を待っていると再び妖精が騒ぎ始める。

 

「わ~!ほうげきだぁ!!」

 

「たいひー!たいひー!」

 

ちっ、そりゃ撃ってくるよな。

だが俺だってこの距離で当たるつもりはねぇぜ?

レ級、この技はお前から教わったものだからなっ!

俺は左足に力を十分に込めてから思い切り右へと飛び跳ねた。

その数秒後、本来なら俺が居たであろう場所に正確な砲撃が突き刺さり大きな水飛沫を上げた。

 

「ほう?ものにしていたのか」

 

「いや?初めて見たときと今ので二回目だ」

 

「……いるよな、運動神経だけは良い馬鹿って」

 

「うっせぇ、つかテメェも同類じゃねぇのかよ」

 

「心外だな、横須賀の主力は阿呆には務まらんのだ」

 

「知るか、つか今はんな事言ってる場合じゃねぇんだよ」

 

ってああもう次が来てんじゃねぇか!

だが見えてしまえばこっちのもんだ。

俺は再び左足に力を込め大きく右側へ飛ぶ。

 

「門長っ、もう一度飛べっ!」

 

「なに?」

 

綺麗に着水したその直後武蔵が何故か声を荒げた。

俺は何事かとレ級が放った砲弾を再度見ると何と避けたはずの弾が俺目掛けて飛んできている。

 

「なっ!?ぐぅ……っ!くそっ、どうなってやがんだ」

 

「恐らく直上の爆撃機を用いての弾着観測射撃だ。お前さんの安易な考えが見抜かれ……っ!?下だ門長!」

 

「したっ!?なんだとぉっ!」

 

武蔵の声に反応し下を見るとすぐそこまでやってきていた数本の魚雷の内一本が足元で起爆し周囲の魚雷を巻き込んで大きな水柱を上げた。

立て続けの攻撃を受け俺の身体は思うように動かず…………という事は無かった。

 

「……まあ、百以上も魚雷を受けても平気な身体がこれぐらいでどうこうなるわけが無いわな」

 

「ふむ、既にお前さんの存在がフェアでは無かったという事だな」

 

レ級に攻撃を当てなければ俺に勝ちはないな。

それでもいいが、お互い全力でやりあってる訳だし折角なら勝ちてぇよなぁ。

だったらどうするか……なんて考えるまでもねぇ!

 

「よし、全速力でレ級の下まで突っ込むぞ!」

 

「お~けぇ~!」

 

「やってやろうぜ!」

 

「ははっ、やはりいつも通りだな」

 

いつも通りで結構。小細工なんて柄じゃねぇんだよ!

俺は機関の出力を今出せる限界まで引き出して一直線にレ級の所へ突き進んだ。

四十センチを超える弾雨は両手の主砲で方向をずらし、俺の進行方向を先回りする様に放たれた魚雷は跳躍によりその上を通り過ぎて行った。

 

「良いぞっ、これなら大した損傷も無く接近出来そうだ」

 

「あちらさんも簡単には近寄らせてはくれないみたいだぜ?」

 

「てきばくげききせっきん!」

 

「うわぁ~!?またきたー!!」

 

にわかに騒ぎ出す妖精達の声に反応し対空電探に切り替えると先程の倍以上の数の爆撃機が一斉に向かって来ていた。

だが、何機来ようが関係ねぇ!一つ残らず叩き落としてやるぜ!

 

「墜ちろオラァ!!」

 

俺は再び三式弾を装填し、ギリギリまで引き付けた所で四発の砲弾を一斉に撃ち放った。

レ級の爆撃機に直撃したのか放たれた三式弾は一キロ先で擬似爆煙と共に炸裂した為、子弾が俺の身体に僅かな損傷を与えた上に煙で視界までもが奪われてしまった。

状況は見えねぇがあれだけ固まってりゃ少なくとも半数以上は落ちたはずだ。

そう判断した俺は直ぐに煙を抜けると、そこには予想だにしなかった光景が広がっていた。

 

「一機も居ないだと?まさか全て墜ちたっつうのか」

 

「ふっふっふ、ばくげききなどおそるるにたらず!」

 

……いや、それならそれで好都合だ。

一先ずそう結論付けるも、言い知れぬ違和感は拭い切れなかった。

そして数秒後、武蔵の一言によってそれが間違いでなかった事を知らされる事となる。

 

「右舷後方から爆撃機だ!それもかなりの数が残っている!」

 

「なっ!?」

 

対空電探で確認した俺はその数に驚きを隠せなかった。

最初は四十機程残っていたが、今度は四十機程しか落とせていなかったのだ。

ちぃっ!兎に角今は避け続けるしかねぇか……。

 

「再装填急げよ!」

 

「まかせろっ!」

 

「い~そ~げ~!!」

 

右や左に飛び跳ねる事で爆撃を避けようとしたが、流石の俺も三百もの絨毯爆撃から逃れる事は叶わなかった。

その結果、二百発近い爆撃を受けた俺は異常な耐久性を持ちながらもかなり追い詰められていた。

 

「ちくしょう……損傷はどうなってる」

 

「そんしょうはまだしょうはだけど~、げんざいさんかしょでかさいがはっせいちゅう。ちんかにじかんがかかります~」

 

「それよりもねんりょうがのこりわずかだ」

 

小破か……それ位ならまだやれるが、燃料が切れそうなのは不味いな。

燃料が切れれば確実に負ける……演習とは言えそんな致命的な敗北だけは避けねぇとな。

 

「……あの爆撃機を何とかしねぇ事にはなぁ」

 

「それなんだが、三式弾を放った直後に爆撃機の一部が弾頭目掛けて突っ込んでる様に見えたんだ」

 

「なに?それで被害が抑えられるっつーのかよ」

 

「そこまでは解らんが、もしかしたら奴はそれを見越して動かしたのでは無いかと思ってな」

 

「良ク解ッタナ!ダガ解ッタ所デモウ遅セェ!!」

 

不意に前方から聞こえてきた声に俺は思わずレ級の方へ向き直った。

 

「なっ、いつの間にこんな所まで……それにもう遅いだと?」

 

「アア、モウ艦載機ハ使ワナイカラナ!」

 

そう言うとレ級は駆け寄りながら魚雷を無造作にばら撒く。

だが距離が近い為すり抜けられる程間は無く、加えて燃料の問題から飛び越える事も出来ずに俺は正面から魚雷群に突っ込む羽目になった。

 

「ぐぅっ……!まだまだぁぁっ!」

 

噴き上がる水柱の中を強引に突っ切りレ級の目の前まで接近する事に成功した俺は、後でレ級には謝ろうと心の中で決意すると左の主砲を彼女の体の中央へと撃ち出した。

 

「ナ、グガァァァッ!?」

 

「あっ。わ、わりぃ!」

 

亜音速で放たれる五十センチ超の砲弾は案の定二発ともレ級の腹部に直撃し、彼女ごと数百メートル遠方へと弾き飛ばした。

激しい自責の念に駆られた俺はレ級の安否を確認する為、彼女の下まで急いで駆け寄る。

 

「大丈夫か!?」

 

「クッ……」

 

レ級は俺の呼びかけに応じたように立ち上がるが腹部をさすりながら何かを堪えている様子だ。

もしかしたら内部をやってるかも知んねぇ、直ぐに連れて帰らねぇと。

俺はレ級を連れて戻るためにその手を取ろうとするも、レ級自身によってその手は弾かれてしまった。

 

「なにしてんだっ、早く直しに戻らねぇと……」

 

「クク……クックックッ……アッハハハハハハハハ!!!イイゾトナガッ!ヤッパリオマエトヤリ合ウノハオモシレェ!!」

 

「は?突然な──ぐぁっ!?」

 

いきなり高笑いを始めたかと思いきや、レ級はそう言って突如俺の首元を掴み上げた。

 

「戻ルナンテ寂シイ事イウナヨォ。マダマダ楽シモウゼェ!!」

 

「ぐぅ……っ!」

 

握り締めるレ級の右手は尋常でない位に力が込められており、俺の首を圧し折ろうという意思がその手からひしひしと伝わって来ていた。

う~む、こりゃあやべぇな……今頃肉弾戦禁止だなんて言う訳にも行かねぇし。

けどなぁ、模擬弾とはいえこれ以上レ級の苦痛に歪む顔は見たくねぇしなぁ。

なんてこった……まさか近付く事がこうも裏目に出るとは思わなかったぜ。

 

「おいっ、何をしてるんだ門長っ!このままでは死ぬぞ!!」

 

「ちっ、んな事分かってんだよ」

 

こんな所で死ぬつもりはねぇっつうの!

俺はレ級の目を見ながらその手首を左手で握った。

 

「レ?」

 

「レ級、結構痛いと思うがゴメンな?」

 

レ級に一言謝ってから俺は握った手首に力を込めた。

 

「ギャアァァッ!!」

 

手首を握り潰される様な痛みを感じたレ級は思わず右手を開いてしまい、その瞬間に俺はレ級の手から抜け出した。

はぁ…………愛する少女達を護るべき力で少女を傷付けてしまうとはなんて最低な奴なんだ。

出来る事ならこれ以上傷付けたくないと考えるも、当然レ級の戦意が衰える気配はない。

俺に残された手はレ級の意識を奪う事だけだ。

 

「武蔵、レ級を苦しめずに気絶させる方法はないか?」

 

「ふむ……それはまた難題だな」

 

「頼む、これ以上は俺の心が耐えられん」

 

「……そうか」

 

そうこうしている内に痛みが落ち着いて来たレ級が既に此方へ狙いを定めていた。

 

「だぁぁっ!?また捕まるわけには行かねぇぞ!」

 

「ならば逆にお前さんがレ級を捕らえて絞め落とせば良いんじゃないか?」

 

「俺が?」

 

レ級を絞め落とす、か。

いや、確かに出来るし加減すれば怪我をさせる心配も無いが…………色々な意味で俺の正気が保てるかどうか。

だが悩んだり他の手を考えてる余裕はねぇ!今こそこの三ヶ月で鍛え上げた鋼鉄の理性の本領を発揮するぜ!!

 

「うおぉぉぉ!!やってやるぜぇぇーっ!!!」

 

「アハハハハッ!!イイナァ、面白イナ!トナガァッ!!!」

 

レ級は心底楽しそうに笑い声を上げながら拳を強く握り締め、今度は助走をつけて俺の顔面へ全力で振りかぶって来た。

俺はそれを少しだけ左下に屈み右腕でレ級の拳を受ける。

吹き飛びそうな衝撃と右腕に走る鈍痛は歯を食いしばる事で堪え、もう片方の手でレ級の肩を捕えようとしたその時、レ級の背後から無数の物体が飛んで来るのが俺の目に映った。

 

「レ級っ、こっちだ!」

 

「オウッ!?」

 

俺はレ級の腕を掴むと全力で後ろに飛び退いた。

その直後、さっきまでレ級と俺が居た場所には大小様々な砲弾が雨の様に降り注いでいた。

 

「艦娘カ……?俺ノ楽シミヲ邪魔シヨウッテ言ウノナラ容赦シネェゾ」

 

レ級は不意打ちを受けた事よりも俺との勝負に水を差されたのが余程気に食わなかったのか、殺気を漲らせながら弾の飛んできた方角を睨み付けて今にも艦載機を発艦させようと両腕を前に伸ばしている。

かくいう俺はレ級とのひとときを邪魔されたっつう苛立ちとこれ以上レ級を傷付けないで済むっつう安堵がないまぜになりなんとも複雑な心境であった。

どうすっかなぁこの状況……レ級を止めるか、レ級と一緒に奴らをとっちめるか。

頭の中が纏まらないまま何気なく電探を起動させた俺は、状況が芳しくない事を悟った。

 

「ちっ……レ級、一旦基地に戻るぞ」

 

「ヤダ、俺ハ邪魔シタ奴ヲ潰シニ行ク」

 

「どっちにしろその弾じゃ足止めにしかならねぇだろ?」

 

「……ワカッタ、変エタラスグ行クゾ」

 

「それは約束出来ねぇが、代わりに落ち着いたらまた何時でも付き合ってやるから我慢してくれ」

 

「エー……絶対ダカラナ?」

 

「ああ、約束だ」

 

「絶対絶対ゼェーッタイダカラナッ!」

 

「おうよ!」

 

ぐふぅ!上目遣いは反則だぜ……って、こりゃあまた戦う事になっちまうな……まぁ、今は良しとしよう。

それにしても正面に六……右後ろと左後ろにそれぞれ六隻……見えるだけでも十八隻か。

この島を包囲するつもりか?だとしたら後ろにも一艦隊いるかも知れねぇな。

奴らが何しに来たのかは知らねぇが、これは直ぐに響や電達の所に戻るべきだと俺の勘が告げている!

 

「うおぉぉぉぉぉぉ!!響に何かしやがったらただじゃおか……ね……え?」

 

な、何が起きた!?突然進まなくなりやがったぞ?

それどころか足を動かす事すら出来ねぇじゃねぇか!

 

「とながさん。ざんねんなおしらせです~」

 

「ねんりょうが…………きれた」

 

「は…………はあぁぁぁぁっ!!?」

 

待て待て待て!燃料が無くなると兵装が使えなかったり航行が出来なくなるのは分かるが歩けなくとは聞いてねぇぞ!

これじゃあ戻れねぇじゃねぇかっ!砲弾が降り注ぐ中立ち往生か!?

いや、まだだ……まだ方法は残されている!

俺は急いで無線を繋いでみた。

 

「おい、誰か聞こえるか!おい!」

 

だが機関が動いてない所為か無線も繋ぐ事は出来ず、幾ら待とうとも応答が返って来る事はなかった。

そ、それでもまだ手はあるはず……はっ、そうだ!俺が動けないのなら動けるレ級に曳航して貰えば良い!

 

「レ級、さっきの戦いで燃料が切れちまったみたいだ。わりぃが俺を基地まで引っ張ってってくれないか?」

 

「ソウナノ?ワカッタ!」

 

二つ返事で応えてくれたレ級の優しさに涙腺が崩壊した俺は目から体液をだだ漏らしながらレ級に手を伸ばすが、ここで新たな問題が露わとなる。

 

「ウググググ……ンンンンッ……!」

 

「レ級?大丈夫、か?」

 

「マダマダァ……」

 

レ級は頑張ってくれているがどうやら俺の排水量(体重)が異常らしく、進んではいるものの全然速度を出せないのだった。

 

「ありがとなレ級、でももう大丈夫だ。俺は一人で何とか戻るから代わりに艦娘の艦隊に包囲されてる事を基地の奴らに伝えて来てくれ」

 

「ウー……マダヤレル!俺ノチカラハコンナモンジャネェ!!」

 

「解ってる。だがこの事を一刻も早くあいつらに伝えてやらないといけないんだ。頼むレ級」

 

それでも諦めずに引っ張ってくれるレ級には感謝しかないが、これ以上俺につき合わせるとレ級を巻き込みかねない。

 

「ムムムムム……分カッタ、行ッテクル」

 

納得はしてなさそうだがレ級は渋々了承すると、俺の手を放して基地へと戻って行った。

これでいい……幸い上半身は動かせるんだ。後は誰かが来るまで耐え抜くだけだな。

 

「おらぁ!掛かってこいやっ!!」

 

俺は気を引き締め直すと二つの動かなくなった主砲を手に、降り注ぐ砲弾を弾いて行くのであった。

 

 

 

 

 




某検証動画でも有りましたが人の姿で軍艦と同じ重量だと色々と解決しがたい問題が発生するようですので此処では下記のように定義しております。

艦艇の魂である艦娘は、艤装を付けたまま海上に立つと海底にある船体と繋がり海を航行する事が出来るようになり、その過程で排水量及び密度を船体と共有させる必要がある。

要するに陸に居る時は見た目相応の体重となり、海上に居る時は軍艦の排水量と同じ体重となるという事ですね。

まあ今後体重に触れる事は殆ど無いと思いますが……

因みに門長の通常体重は77kgで排水量としては約200000t(第八十番現在)程となっております。
どこぞの列車砲積もうとしてた戦艦や氷山を船体に使おうとした空母と比べればまだまだ小さい方ですね(錯乱

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