響乱交狂曲   作:上新粉

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レ級は可愛い!ヲ級も可愛いです(キリッ


第七十九番

 翌朝、俺はエリレ達に確認する為に二人の部屋の扉を叩いた。

少しして内側から空母が返事をしたので扉を開き中へと入ると、そこには帽子のような艤装を外し椅子に腰掛ける空母とその横のベッドですぅすぅと可愛らしい寝息を立てるエリレの姿があった。

 

「ふふ、エリレはまだおネムか」

 

「気持チ悪イ視線ヲエリレニ向ケナイデ。話ナラ外デ聞クワ」

 

「あ"あ"?空母てめぇ喧嘩売ってんのか?」

 

「デ、ナンノ用?私達ニ話ガアッテ来タンデショ」

 

くそっ、会ったときから腹立たしい奴だ。

だが話があるのは事実だし気持ちよさそうに眠ってるエリレを起こすのも忍びない……こいつの事は嫌いだが仕方ねぇ。

 

「ちっ、ああそうだよ。てめぇで良いからちょっと来い」

 

「他人ヲ呼ブ態度デハ無イケレド、此処デ騒ガレルノモ迷惑ネ」

 

「いちいちムカつく野郎だ……こっちだ」

 

俺は苛立ちを抑えながら空母に付いてくるように言うと、中庭に設置してあるベンチまで足を運んだ。

まだ朝が早い事もあって、中庭には人影は無く二人の足音だけが耳に伝わって来た。

一足先にベンチへと腰掛けた俺は空母が隣に座るのも待たず話を始める。

 

「取り敢えずお前に聞きたい事がある」

 

「ジャマ、モウ少シ端ニ座リナサイヨ…………ソレデ?何ガ聞キタイノ」

 

「邪魔なのはテメェの帽子だろうが。何で被ってきてんだよ……ってんな事どうでもいい。聞きたいのはあの島に居た艦娘が誰なのかって事だ」

 

「艦娘…………エエ、私ノ様ナ髪色ノ艦娘ト此処ニ居ル茶色髪ノ艦娘ガイタワ。確カヴェールヌイト電ッテ言ッテイタ」

 

「そうか、やはり電も居たのか……で、その二人はどうしたんだ?」

 

「島ニ来タ艦隊ハ二人ノ僚艦ダト言ッテイタシ、恐ラク自分達ノ鎮守府ニ帰ッタト思ウケド……見送ッタ訳ジャナイカラ絶対トハ言エナイ」

 

「ふぅむ……」

 

電も居てあの島に来た奴等も二人の僚艦。どうやら明石の予想は概ね正しい事が解ったが一応これも聞いとくか。

 

「じゃあ次だ。二人とはいつ何処で出会ったんだ?」

 

「ソウネ……二人ト会ッタノハ私達ガ組織ヲ抜ケテ間モ無クダカラ、三ヶ月位前ニナルノカシラ。私達ガアノ島ニ上陸シタ時ニ浜辺ニ打チ上ゲラレテイタノダケレド……」

 

三ヶ月前だとすると大体明石の奴が此処に漂着してたのと同時期だな。

となると奴等が此処に来る可能性はかなり高めと見て良いだろう。

 

「よしっ、大体解った」

 

「ソレガ……ッテ?」

 

俺はベンチから立ち上がり大きく伸びをしてから空母にこう告げた。

 

「戻ったらエリレに伝えてくれ。仮定呉の連中に見られると面倒だから事が落ち着くまでなるべく建物から出ないようにしてくれってな」

 

「エ、エェ解ッタワ……」

 

「頼むぞ、じゃあな」

 

「エッ、スパイカドウカヲ確認スル為ニ呼ンダンジャナイノ?」

 

俺が立ち去ろうとすると空母の奴が不思議そうな顔をして訳分かんない事を口走り始めやがった。

スパイかどうかなんて確かめた所で現状で裏付けが取れねぇんだから時間の無駄だろうがっ!

つか例えエリレがどっかのスパイだろうと可愛い事に変わりはねぇしテメェがスパイじゃなかろうとムカつく奴だって事は変わらねぇっつうの!

……まあつまり何が言いたいかと言うとだな。

 

「んな無駄な事してる暇があったらなぁ……響といちゃいちゃしに行くんだよぉっ!!!」

 

「…………ハ?」

 

俺は声高々に宣誓した後、空母をその場に置き去りにして響の元へ歩み始める。

っとその前に暁達の所に行ってワ級に暫く基地に来ない様に伝えて貰わなきゃな。

ええと時間は……わからん。だが朝から出撃の予定があったはずだし今頃は工廠いるだろ。

工廠へ向かおうと中庭を出ると正門の方から黒い影がこっちに向かって突っ込んで来ていた。

 

「あれは……?」

 

「オーイッ!トーナーガーッ!!」

 

「お前は離島のとごふぉっ!?」

 

近づく影の正体を捉えた直後、腹部に鈍い衝撃が走り俺はその場に膝をつく。

 

「ドーシタ?アソボーゼー」

 

「ぐぅぅ……レ級、危ないから思いっきし突っ込んで来るのは止めような?」

 

「何ガ?ソンナ事ヨリ何時マデ待タセンダヨ!早ク続キスルゾ!」

 

くっ、流石に忘れてなかったか。

はぁ……正直美少女達に砲を向ける事はしたくないんだがなぁ。

まぁ約束しちまったのは俺だし受けないわけには行かねぇが、実弾何て以ての外だし麻酔弾もちょっとフェアじゃねぇ。

となると演習用の模擬弾だけだが、果たして深海棲艦に通用するかどうか…………取り敢えず確認しに行くか。

 

「まぁ待て、この間の続きをしようにも兵装は今工廠一度工廠に行かなければならないんだ」

 

「エェ~、ジャア工廠ッテトコニ行ケバ続キガ出来ルンダナ?」

 

「そりゃあ……まぁ、な」

 

「ヨシッ!ナラサッサト行コウゼ門長!!」

 

「わかったからあんま引っ張んなって、危ないだろ」

 

俺はレ級に腕を引かれながら再び工廠へと歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 十分後、工廠に辿り着いた俺は丁度出て行こうとする明石の肩を掴み引き止める。

 

「いっ!?いきなりなんですかぁ。私はこれから朝食に行くので話なら後にして貰えませんか?」

 

「だとよ?待てるかレ級」

 

「冗談ジャナイ!ドンダケ待タセルンダッ!」

 

「だよな、我慢出来ないよな?」

 

「えぇ~……ですが摩耶さんも待ってますしぃ」

 

「んなもん先に食っとけって伝えとけ」

 

明石は不服そうにこっちを見るが俺は引き下がるつもりはない。

ただでさえ暁達が水平線上に消えてくのを見送ったばかりだっつうのに明石まで逃がしちまったら俺が此処に来た意味が無くなっちまうだろうがっ。

そんな俺の意思が伝わったのか分からねぇが明石は溜息を吐きながら工廠へと引き返した。

 

「はぁ……直ぐに対応出来るかは内容によりますからね?」

 

「別に難しい事じゃねぇよ。演習用模擬弾が深海棲艦に効果があるのか知りたいだけだ」

 

「深海棲艦にですかぁ?うーん……解りました、確認してみますのでレ級さんにちょっと協力をお願いできますか?」

 

「ナンダ!ヤルカッ?」

 

「その気はありませんよ。身体が動かしにくくなったら教えて頂くだけで結構です」

 

「何スル気ダ!ヤラレル前ニヤッテヤルッ!」

 

俺は今にも飛び掛かりそうなレ級の腕を抱えながら何とか言い聞かせようと試みる。

 

「まあ待て、これは……その……あれだ。全力の俺と戦うには必要な事なんだ」

 

「必要?」

 

「そうだ、俺はお前も仲間だと思ってる。だから仲間に実弾を使うなんて事はしたくないんだ」

 

本音を言えば例え敵であってもこんな愛らしい少女を手に掛ける事はしたくないだけだがな。

つうわけで明石が怪訝な目でこっちを見てようがそんな事はどうでもいいのだ。

俺の言葉を受けたレ級は暫し首を傾げて考えていたがいまいちピンと来ない様子で答える。

 

「ウーン……良ク分カンナイケドコレガ終ワレバ全力デ相手シテクレンダナ?」

 

「あ、まあそんな所だ」

 

「ヨシ、ジャア早クシロピンク!」

 

「そうだ早くしろピンク」

 

「ピンクって私の事ですか……ってか門長さんまでピンクって呼ばないで下さいよっ!?」

 

「いいから早くしろって」

 

「もぉ~、何なんですかこの扱いは……じゃあ電磁波を発生させますので体に異変を感じたら言って下さいね」

 

明石はぶつぶつ言いながら円錐状の筒をレ級のお腹に当てながら手元の機械を弄り始めた。

暫くは特に変化が無いのか不思議そうに自分に当てられてる筒を眺めていたレ級だったが、それから十分程経過した頃レ級の表情が変化した。

 

「ナ、何ヲシタピンクッ!ヤメロォ!!」

 

「あっ、無理に動いちゃ駄目ですよ!」

 

「ア、レ?ウワァァッ!!?」

 

「レ級っ!」

 

レ級は自身の身体を襲った初めての異変に危機感を覚えたのか咄嗟に右に飛び退くが、思い通りに動かせず足が縺れてそのまま派手にすっころんでしまった。

俺は慌てて駆け寄りレ級の無事を確認すると、レ級を抱き上げてから明石を睨み付ける。

 

「おい明石、レ級に何をやったんだ」

 

「そんな怖い顔されても……模擬弾に使用されてる特殊電磁波が有効か確認しただけです」

 

「……そうか。で、その模擬弾は万一にも沈める心配は無いんだよな?」

 

「それは心配ありませんよ。港湾さん達に頼んで彼女達の修理もやらせて貰ってますが海水で腐食しない事以外は機関や船体は我々艦娘と変わらないので機関や兵装が止まった所で沈むような事はありませんよ」

 

「もしこれでレ級が轟沈するような事があればてめぇがどうなるか解って言ってんだろうなぁ?」

 

「門長さんが打撃を行わなければその弾で撃沈する事は出来ませんから大丈夫ですよ」

 

くっ、こいつ……まさかタウイタウイで俺が響に説教を受けた事を知っているのか?

きっと金剛の奴が話したに違いない、許さん!

奴の処罰は後で考えるとして、明石がこう言う以上俺は奴の言う事を鵜呑みにする他無いようだ。

 

「分かったよ、じゃあ演習用の弾薬に切り替えてくる。レ級も弾薬の換装は出来るか?」

 

「カンソウ?」

 

俺は模擬弾を工廠の妖精に用意するよう頼んだ。

数分して妖精達が持って来た弾薬箱から一つ取り出しレ級に見せる。

 

「この弾薬だ。撃てるか?」

 

「ン?同ジ形ダシ撃テルダロウケド、ナニコレ?」

 

「これが何度でも俺と戦える代物だ」

 

「ホントニ!?スッゲーッ!解ッタ使ウ!!」

 

意気揚々と換装を始めるレ級とその姿に癒されながら弾薬を切り替えていた俺が明石の居ない事に気付いたのは三十分後のレ級の換装が済んだ後であった。

 

 

 

 

 

 

 

 




話が全然進んでない気が……気にしない!
次回は演習回です!

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