響乱交狂曲   作:上新粉

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書き上がってましたので予定通り行きますよ~!
因みにサブタイトルで判る方もいらっしゃるかも知れませんが今回は摩耶様視点では御座いませんのであしからず。



第七十五番

俺が横須賀を出てからおよそ一週間が経とうとしていた。

今の所は特に身体に異常は感じねぇが油断は出来ねぇ。

 

「武蔵、近くに敵の反応はねぇか?」

 

俺は索敵を任せてる武蔵に状況を確認した。

何がトリガーになるか分からん以上、出来れば戦闘は避けたいからな。

だが一向に返答が来ない武蔵に苛立ちを覚えた俺は口調を強めて再度武蔵を呼び出す。

 

「おいっ、聞いてんのか武蔵ッ!」

 

「……はっ!?す、済まない相棒。何だったかな」

 

「敵の反応が無いかって聞いてんだよ」

 

「敵の反応か……ああ、今の所大丈夫だ」

 

「そうか」

 

「…………むぅ」

 

ちっ、あれからずっとこの調子だ。

こいつの気持ちも分からないでもねぇが、いつまでも人の肩の上でうじうじされんのも鬱陶しい。

 

「おいこら、過ぎた事を何時までも引き摺ってたってしょうがねぇだろ!」

 

「うむ…………」

 

「ちっ……んなしょぼくれるのに無駄な時間割いてるくれぇなら、テメェが信じる元帥様の気持ちに報いる為に何が出来るか考えた方が百倍有意義だろうが!」

 

「門長…………くくっ……まさかお前さんからそんな風に励まされるとは思わなかったぞ?」

 

「あ?うっせぇよ。テメェが一週間もクヨクヨしてっからだろうが!こちとら我慢の限界なんだよ!」

 

柄じゃねぇ発言なのは自分が一番良く分かってんだよ!

あからさまに笑いを噛み殺しやがって…………ったく。

だがまぁ、折角の響との感動の再会をこんな事で水を差されたら溜まったもんじゃねぇからな。

 

「ふふっ、確かに言う通り時間は有意義に使わねばな…………ありがとうな、相棒」

 

「分かりゃ良いんだ分かりゃ……っておい、正面からなんか来てんじゃねぇかよ」

 

「あっ、すまん。さっきまでは居なかったと思ったのだが」

 

おいおい、マジで頼むぜ。

こっちはボートの運転で手が離せねぇから索敵を任せてるっつうのによ!

しかし、来ちまったもんた仕方ねぇと俺は奴が何者かを目を凝らして確認してみる。

ちっ、まだ遠くて解りにくいがあの黄色いオーラを纏って艦載機を飛ばしてるって事は空母のflagship級か?

敵だとするとかなり不味いな……取り敢えずボートから降りるか。

 

「武蔵、ボートの操縦頼めるか?」

 

「ああ分かった。だがお前さんはどうするつもりだ?」

 

「どうもこうもねぇ、相手がやる気なら受けて立つしかねぇだろ。話はそれからだ」

 

俺は相手を捉えたまま降りる為にモーターボートを減速させていると艦載機の様子がおかしい事に気付いた。

よく見ると艦載機は爆弾も魚雷も積んでおらず、代わりに翼下から垂れ幕の様な物をはためかせていた。

 

「なぁ、あれはなんだ?」

 

「あれは射撃訓練用の標的だな」

 

「つまりあいつは何がしたいんだ……?」

 

「…………さぁ?」

 

上に気を取られている間にも相手は着実に接近していたらしく俺がその異変に気付いた時にはそいつは俺の懐まで飛び込んで来ていた。

 

「トーナーガァーッ!遊ボウゼーッ!」

 

「な、レきゅうごふっ!?」

 

減速していたとはいえまだ三十ノット近く出ていたモーターボートに対して真正面から三十ノット超で突っ込んでくる少女の姿をした戦艦。

凡そ百キロを超える速度で衝突した俺達はそのままボートから勢い良く弾き出され、海面を何度も叩きつけられながら少女と共に転がっていった。

 

「ごほっ、ごほっ……!ふぅ、まさかこんな熱烈なアタックを受けるとは思わなかったぜ」

 

「コノ間ノ続キヤローゼッ!」

 

「おぅふ、すっげぇ元気だな」

 

「普通ならどちらかが沈んでも可笑しくはない事故なんだがなぁ」

 

マジかよ……つかこの間の続きって事はこいつは離島の時に俺と戦ったレ級か?

 

「まぁいいや、それでこの間の続きなんだけどな」

 

「ウンッ!アノ時ハヘンナチッコイノニ邪魔サレタケタケド今度ハ俺ガ勝ツカラナッ!」

 

ああ、癒されるなぁ……ってそうじゃねぇか。

俺はレ級の頭を撫でながらその申し出をやんわりと断る。

 

「悪ぃが燃料と弾薬を補給してからな。まともに動けない俺と戦っても面白くねぇだろ?」

 

「ウーン、確カニ弱ッチィノトヤッテモツマンナイナァ…………ウンッ、ワカッタ!ジャア早ク帰ロウゼ!」

 

そう言って俺の手を引くレ級を眺めながら俺はすっ飛んでったモーターボートを回収するとレ級を乗せて再び我が家へ向けて突き進んで行った。

 

「オォォォォーッ!スッゲェー!?」

 

「こんなスピード感初めてだろ?」

 

「ウンッ!俺ヨリ全然速イ!!」

 

そんな興奮冷めやらぬレ級を横目に三時間程走らせていると前方に基地の様相が薄らと見えてきた。

 

「おっ、あと五分くらいで着くな」

 

「勢い余って座礁するなよ?」

 

「おいおい、幾らなんでもそんな初歩的なミスをやらかす訳ねぇだろ」

 

俺は海岸が近づくにつれ、徐々に速度を落としていく。

えーっと、確か工廠はこっちだったか。

 

「ウンショ、ヨイショ」

 

「お?どうしたレ級」

 

取り舵を切りつつ工廠を探しているとレ級が唐突に操縦する俺の膝の上に潜り込んできた。

俺はその様子に幸福を感じながらもどうしたのか尋ねると、レ級は満面の笑みをこちらを見上げるとスロットルレバーを握る俺の手を握り締める。

 

「ど、どうしたっ!?なななにかあったのか?」

 

「ンー…………エイッ!」

 

突然のスキンシップに動揺する俺を気にする様子も無く、レ級は俺の右手と共にレバーを勢い良く前に倒した。

 

「いや、お、俺には響っつう愛する人が……って、へ?」

 

「イッケェーッ!!」

 

「おぉぉぉっ!?」

 

フルスロットルで加速していくボートにレ級はどうやらご満悦の様子……なのは良いんだが、このままじゃ基地に帰れねぇ。

仕方なくレバーから引き離すために左手でレ級の腕を掴んで引っ張る。

 

「ちょ、レ級!?ちょ~っとその手を少しどかして貰えんかねぇ?」

 

「ヤダーッ!モット飛バスンダァッ!」

 

「それも後でな!今は基地に戻るんだって!」

 

手を離す事を頑なに拒むレ級に苦戦しながらも漸く引き剥がす事が出来た。

レ級は不満そうに尻尾を船体に何度も打ち付ける。

 

「バンバンすんのやめい!ボートが壊れちまうだろ!?」

 

「ダッタラ離セーッ!」

 

「それも駄目だ!離したらまたレバーを上げるだろ」

 

「ギャー!ギャー!」

 

「ああもうっ!聞き分けの悪い子とは遊ばないぞっ」

 

「おい門長、レ級と戯れてる場合ではない!今すぐ前を見ろ」

 

「んだよ!こっちは今忙しいんだ……ってああ!?」

 

横槍を入れてくる武蔵に苛立ちを覚えながらも一度前を見てみる。

すると海岸が既に目の前まで差し迫っていた。

更に言えばレバーも戻し忘れていた為、最高速力五十ノットのまま突っ込んでいる所だった。

当然の様に転舵出来る余裕など既に無い。

 

「レ級!衝撃に備えろっ!!」

 

「ヘッ?」

 

その数秒後、俺達は本日二度目の人間砲弾を敢行する事となった。

 

「いつつつ……大丈夫かレ級?」

 

「ウーン……フラフラスル~」

 

地面を転がってたせいで目を回してるみたいだが、それ以外の問題は無さそうだな。

しかしボートの方はそうも行かねぇだろうなぁ。

俺は砂を払いながらボートを探すと手前の砂浜の方で予想通り音を立てて炎上していた。

 

「あ〜あ、しゃーねぇな。後で明石にでも頼んどくか」

 

「はっはっはっ、まさか本当に座礁させるとは思わなかったぞ」

 

「あれは不可抗力だろ、どうにもならん」

 

誰が悪いわけでもないんだ!

 

「まあそれは良いが、まずは何処に行くんだ?」

 

「門長!早ク補給シヨウゼ!」

 

「ああ、だがその前に響に合わせてくれ」

 

「エー?ハヤクシロヨナァ、コノ前ノ続キモシタイシボートッテ奴ニモマタ乗リタインダカラヨ!」

 

「解ってる解ってる。んじゃあ武蔵、後でレ級の修復が出来そうな奴呼んでくっから工廠に連れてっといてくれ」

 

「ああ、承知した。ついでに明石に入渠する事も伝えて置くぞ」

 

ん?ああ、確かに何度か戦闘もあったし二回の人間砲弾で俺も多少の損傷はあるからな。

 

「おう、頼んだ」

 

その辺の事は武蔵に任せて俺は先ず響が居るであろう執務室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋の前に着いた俺は響にすぐに会いたい気持ちを必死に抑えて扉をノックする。

ふふふ、俺だって学習したんだ。

扉を力任せに開け放っても響を怖がらせるだけだって事をなっ!

そうして暫く待ってるとゆっくりと扉が開かれた。

 

「あ……と、と……門長さん!??」

 

扉を開けて中から現れたのは響……ではなくどういう事か明石の奴が驚きを隠せないといった表情でこっちを見てやがった。

 

「…………」

 

「えっ……と、おかえりなひゃっ!?」

 

俺はお呼びでない明石ごと両開きの扉を勢い良く開け放ち部屋の中を見渡す。

中にはお茶を啜りながら半眼でこっちを見据える電と机の後ろから顔半分を覗かせプルプルと震えながら様子を窺う響の……はっ!?

しまったぁ!結局怖がらせてんじゃねぇか!!

 

「ひ、響?た、ただいま~元気だったか~?」

 

「………………」

 

へ、返事が無い……どうすれば……。

 

「い、いや別に脅かすつもりは無かったんだが……すまんっ!」

 

「と…………な……が……」

 

「初めは頑張って我慢してたんだけど……」

 

などと弁明していたその直後、俺の身体に小さな衝撃が走る。

視線を下に落とすと響が俺の腰周りにひしとしがみついて嗚咽を漏らしていた。

 

「響?どうしたっ、まさか明石になんかされたのか!?」

 

「ええっ!?」

 

明石の野郎……ただで済むと思うなよ?

俺は奴に対して怒りを漲らせていたがそうではないと響は首を横に振る。

違うのか。電が響を泣かせる様な事するとは思えない。となると……やっぱりさっきの俺のが原因なのか。

 

「いや、その…………驚かせて悪かった」

 

しかし響はまたもや首を横に振り、そして嗚咽混じりの掠れた声で話してくれた。

 

「……ひっ……ぐ…………信じてた……っ……帰ってぐるって……げどっ……ずずっ…………怖かった……からっ……」

 

「響…………」

 

「でも……ひっ……帰って来てくれたっ……だから……いいの………………おかえり、となが」

 

そう言って抱き締める力を強める彼女の思いを受け、俺はあの時ヴェールヌイが俺に話した言葉の意味を初めて理解した。

そして危うく響を不幸にしてしまう所であった事に。

俺が居なくても長門が居れば大丈夫だと思っていたが、やはり俺はまだ響の事を何も分かってやれて無かったのかも知れねぇ……。

正直問題は解決してねぇし、どうやっても響を悲しませる決断をせざるを得ない状況になるかも知れない、だが……今の俺なら間違った決断をする事は無いだろう。

だから今は、俺を信じて待っててくれた響に感謝を込めて確りと言葉で伝えよう。

 

 

 

 

 

「ああ、ただいま」

 

 

 

 

 

 

 




門長帰宅っ!門長帰宅っ!
視点も切り替わったのでそろそろ第三章に入ろうと思いますが話が始まらないのでもうちょっとだけ第二章続きます。

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