響乱交狂曲   作:上新粉

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シリアスは抑えられた。日常の勝利である(大本営発表)


第七十一番~母~

全然眠れそうに無かったアタシは気を紛らわそうと再び明石の所に戻って来ていた。

 

「明石、まだ起きてるか?」

 

「摩耶さん?忘れ物ですか?」

 

「いんや、ちょっとまだ眠れそうになくてな。大丈夫かな?」

 

「ええ、平気ですよ」

 

「ありがとな」

 

アタシは明石にお礼を言って座布団に座る。

……つっても特に話す事も思い浮かばねぇな。

そう思ってると明石の方から話題を振って来てくれた。

 

「いやぁ、今日もお疲れ様でした。不知火もあの調子ならきっともう大丈夫そうですね」

 

「ああ、そうだなぁ」

 

あれ、会話が終わっちまった……。

しかし明石は気を使ってくれたのか別の話題を振ってくれた。

 

「そう言えば松ちゃん達はちゃんとやってますか?」

 

「んあ?どっから聞いたんだ」

 

「睦月ちゃん達が話してたのを小耳に」

 

「そっか……お陰様でとても助かってるぜ」

 

最近は皆で一緒に飯が食える様になったしな。

そういうアタシはあいつらに恩を返せてんのか?

アタシの出来る事……かぁ。

 

「……摩耶さん」

 

「お?」

 

不意に明石に名前を呼ばれたアタシは顔を上げる。

明石はアタシの顔を見ながらニンマリとした笑顔で言った。

 

()()()()()()()()()()()()()()()。ですよ?」

 

あ、そっか……だからアタシは戻ってきたのか。

 

「…………けど、いいのか?詰まらない話になるぜ?」

 

「摩耶さんは困ってる人の話を詰まらないって切り捨てるんですか?それに先程から救難信号が発信され続けているのに放っておける程私は非情ではありませんよ」

 

救難信号って。なんだよ。アタシの身体は世間話をしたくて来たわけじゃないってアタシより先に知ってたってことかよ。

 

「……ぶっ、あっははははっ!はは、アタシってば分かり易い身体してんなぁ」

 

「そうですね、そういう所も摩耶さんらしくて私は好きですよ」

 

「あー……ありがとな。じゃあ悪ぃがちょっと付き合ってくれ」

 

「もちろん、あ、それじゃあいつ甘えたくなっても良いように隣に行きましょうか?」

 

「いやいやそれは流石にな?」

 

「恥ずかしがっていたら言いたい事も言えないですよ〜?」

 

「そ、そうか?いや、でもなぁ……」

 

「ほら、何を躊躇ってるんですか?はっきりしないでうじうじするのは貴女自身が嫌ってる事ですよ!」

 

うっ……そうか、そうだよな。人に言うだけ言って自分が駄目じゃ筋が通らねぇ……よな?

 

「…………頼む」

 

「何をですか?それじゃ伝わりませんよ!」

 

「………………」

 

「あ……ちょっと調子に乗っ──」

 

「と、隣にっ!……来て…………くれ……

 

「あ、えと摩耶……さん?」

 

くっそ恥ずかしい……けど言わなきゃ……駄目だ!

 

「甘えっ……させて……欲しい…………

 

……ふぅ……ってあ、ああちょっ!?ななななに言ってんだアタシわぁ!!?

意味分かんねーし!別に言う必要ねーだろこんな事!!

 

「…………」

 

「わわわりぃ明石っ!ア、アタシやっぱもう戻るわ!!じゃ、また──」

 

「あか……し?」

 

急いで立ち上がろうとするアタシは不意に後ろから抱き締められた。

 

それだけでさっきまで感じていた恥ずかしさなど既に何処かへと消えアタシはえも言われぬ安心感に包まれた。

 

「ごめん、少し調子に乗り過ぎちゃいましたね」

 

「いや……でも、だいぶ楽になった」

 

「そうですか?では、座り直して残りも吐き出してしまいましょうか」

 

明石に促されるまま座布団に座るとアタシはそのまま明石の肩にもたれ掛かった。

 

「膝の上でも良いんですよ?」

 

「ん、これで良い」

 

「そうですか、分かりました」

 

「……なぁ、アタシってあいつらの力になれてんのかな……」

 

「そうですねぇ。質問を質問で返す様で申し訳ありませんがご自身ではどう思われます?」

 

「アタシ?……アタシ自身はさ、実際人にご高説垂れる事が出来るほどこの世界を生きてねぇからよ……今の時代を戦い抜いてきた不知火達にアタシが口を出すってのはお門違いっつうか、烏滸がましいんじゃねぇかって思うんだ」

 

「……そうですね。それでも私は摩耶さんにはそのままでいて欲しいと思っています」

 

「は……?なんでだよ、訳わかんねぇ」

 

「先程摩耶さんは不知火に対して周りに助けを求めるのも大事だと言いました」

 

「ああ……」

 

アタシ自身一人じゃ絶対にここまで生きて来れなかったって言える位に周りに助けられて来たからな。

だからこそアタシも仲間の力になりてぇ……!

なりてぇ……だから…………アタシは……

 

「……ですが助けの求め方が解らなかったり、不知火の様にいつの間にか言えなくなってしまった人に対してはこちらから踏み込んで行かなきゃ救えないのも事実です」

 

そう言いながら明石はアタシの頭を引き寄せ自身の膝の上にそっと乗せた。

その時感じた頬を伝う冷たさに初めて自分が泣いていた事に気付いた。

左手で目元を覆い泣いているのを隠そうとするアタシの頭を明石は優しく撫でながら続けた。

 

「そういう時に真っ向から当たって、時には強引に引っ張り出してあげて、そうして悩みを一緒に解決してあげられる人が必要なんです。それが出来るのは摩耶、此処には貴女しかいません。そんな貴女だからこそ皆に慕われているんです」

 

「アタシが……?」

 

「えぇ、門長さんや金剛さん。私や不知火達には出来ない、摩耶にしか出来ない事だと断言してもいいです」

 

そっか、そうだと……いいな。

 

「でもさ……やっぱアタシ一人じゃ荷が重すぎるからよ…………また……こうして……甘え……て……

 

「えぇ、私で良ければ──ってあら……ふふっ、おやすみなさい摩耶さん」




摩耶様が良い夢を見れます様に……

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