響乱交狂曲   作:上新粉

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この章は日常なんでシリアス展開は無しの方向を予定しております!
ふ、フラグじゃない…………はず。


第六十八番~母~

 はぁ~この間は酷い目に遭ったぜ……まああれから西野も少しは肩の力が抜けたみたいだし結果的には良かった……のか?

──っと、そろそろ出る時間か。

今日はフラワーが資材とかを届けに来る日だ、来る前に色々準備しておかねぇとな。

 

「おーい松、竹」

 

「どうした?」

 

「はーい、どしたのー?」

 

「この後フラワーから食材を受け取りに行くけどお前達も来るか?」

 

「行くよーっ」

 

「…………」

 

いつもと変わらぬ調子で答える竹とは反対に松は疑いの眼差しをこっちに向けて押し黙っていた。

 

「あー、この間は悪かったよ。今回はホントに大丈夫だからさ安心してくれよ」

 

そんな松の様子を見てアタシは本当に馬鹿な事をしたなとこの間の事を改めて反省しつつも艤装を外す必要が無いことを伝えた。

 

「……食堂に戻るまで外さなくて良いんだな?」

 

「ああ、此処に戻るまで外す事は無い」

 

「大丈夫だよ松っ。摩耶()()()は良い子だからもうあんな言い方はしないって、ね?」

 

「……くくっ、そうなのか摩耶()()()?」

 

「ぐっ、てめぇら……はぁ、分かってるって。今度からは外す必要がある時は濁さずに言うから……その呼び方はマジで勘弁してくれ」

 

「あはは、仕方ないね。それじゃあ松も摩耶さんも早く行こうよ」

 

「ふふっ、そうだな……ってこら竹!ちゃんと装備してけぇぇぇっ!」

 

はぁ~、竹にゃ適わねぇなぁ……。

竹を何とか引き留めた松が竹に艤装を着けさせるのを確認するとアタシは二人を連れて工廠へと向かった。

工廠に入ると一足先に吹雪が一人で準備を始めていた。

 

「よっ!準備の方はどんな感じだ?」

 

「お疲れ様です摩耶さん。準備は丁度完了したとこです、ってあら?今日は松と竹も来ているんですね」

 

「おう、手伝いとして来てもらったんだ。人手はあった方が良いだろうしな?」

 

「そうでしたか。それはとても有難いです」

 

「お?そう言えば後の二人はどこ行ったんだ?」

 

「不知火は入渠中です。私は不知火を曳航して撤退する事になりましたが暁はそのまま任務を続行してますのでもうじき遠征から帰って来ると思いますよ」

 

「曳航して撤退?不知火は大丈夫なのか?」

 

「心配しなくても平気ですよ松さん。大破はしましたが命に別状はありませんから」

 

「そ、そうか。それなら良かった」

 

「良くないわよっ!」

 

不知火の無事を確認し松がほっとした直後、怒号と共に工廠の扉が勢い良く開け放たれた。

その先には帰ってきたばかりだと思われる暁が肩で息をしながら立っていた。

 

「おぉ、おかえり」

 

「ただいま摩耶さん――って違うのよ!吹雪、不知火は何処なの!?」

 

暁に物凄い剣幕で詰め寄られた吹雪は呆れた様に溜め息一つ吐くと修復時間の表示を指差した。

 

「あ、そりゃそうよね。ってなんなのよー!やっぱり駄目じゃないあのバカぁ!」

 

「おいおい落ち着けって。そんな声を荒らげてどうしたんだ?」

 

「どうしたもこうしたもないわよ!あのバカったら今日の出撃直後から様子が変だったから帰投しろって言ってたのに大丈夫だって頑なに撤退を拒んだ挙句大破して尚進もうするわでほんっと大変だったんだから!」

 

「あの不知火がか……何があったんだ?」

 

「分かんないわよっ!だからこれから問い詰めに行ってくるわ!」

 

確かに不知火が何か悩んでるなら話を聞いて解決してやりたいけれど、暁が行った所で果たして不知火が打ち明けるかどうか。

だったら……

 

「待った、不知火の所にはアタシが行ってくっから暁は二人に積み降ろしを教えてやってくれ」

 

「わ、私じゃ役に立たないって言うの!?」

 

「その通りです。なのでここは摩耶さんに任せて暁さんは大人しくこちらを手伝って下さい」

 

「お、おい吹雪っ!?」

 

「~~っ!バカにしないでよ!私だって人の悩みを聞くことくらい出来るんだからぁ!!」

 

「あ~いや待て、そうじゃなく……っておい!」

 

顔を真っ赤にした暁はアタシが呼び止めるのも聞かずにどすどすと大きな足音を立てて工廠を出て行ってしまった。

はぁ~……まあ変に拗れたりしなきゃいいが。

アタシは何も言わずに暁を焚き付けた張本人を見やる。

 

「……?どうしましたか摩耶さん」

 

「……いや、なんでもねぇ」

 

「そうですか」

 

何食わぬ顔でそういうと吹雪は既にフラワーが来るであろう水平線へ目を向けていた。

……まぁ今は考えてても仕方ねぇか。

そう思いアタシも前を向き水平線を眺めていると唐突に吹雪の方から声が掛かった。

 

「摩耶さん」

 

「おう?」

 

「暁さんが戻ったら不知火さんの事を宜しくお願いしますね?」

 

「おいおい、アタシが言うのもあれだけど暁だって結構しっかりしてるし案外大丈夫かも知んねぇぞ?」

 

もう少し暁の事を信じてやってもいいんじゃねぇかと思ったが、吹雪が言いたいのはどうやらそういう事では無いらしい。

 

「そういう問題ではありませんよ。単純に共に出撃している私や暁さんには話しにくい悩みではないかと考えただけです」

 

「ああ、そういう事か。でもそれなら態々暁の神経を逆なでするような言い方しなくても良かったんじゃねぇか?」

 

「駄目です。不知火さんにはなんでも一人で解決しようと意固地になる事が、どれだけ周りに心配を掛けているか知っていただく良い機会ですので」

 

「ふ~ん……なんか意外だな」

 

アタシが思ったままに口にした言葉に不満があるのか吹雪は一瞬不機嫌そうな表情を見せた。

 

「意外……どういうことですか?」

 

「いや、吹雪もどっちかっつうと不知火側の考え方なのかと思ってたからさ」

 

「……そうですね、私の場合は妹達に不安を与えない様に気を配っていたつもりだったのですが。暁さんから響さんの思いを聞かされて、その後『自分一人で全部解決しようとする人に周りが見えてるわけないでしょ!』って叱られて初めて自分がどれだけ周りが見えてなかったか思い知らされました」

 

「暁がねぇ……あいつ自身結構強がってて逆に子供っぽく見えたりするけどな」

 

「ふふっ、確かに負けず嫌いですし諦めも悪いですがそれでも一人で思い詰めたりしませんし、今日の出撃の時だって旗艦のル級さんに頭を下げてあらかじめ不知火さんのフォローを頼まれていたからこそこうして無事に帰って来れた訳ですしね」

 

なるほどなぁ……子供っぽく見えるのは裏を返せば信用して貰うために素の自分を見せてるって事か。

 

「へぇ……思ってたよりレディーなんだなぁ」

 

「えぇ、私よりずっと姉らしいですよ。暁さんは……」

 

そう口にする吹雪を見ると悔しさと申し訳なさが入り混じった様な瞳で水平線を見つめていた。

そんな吹雪を何とか元気付けてやれないかとアタシは吹雪の頭を撫でてやりながら言葉を紡ぐ。

 

「ま、アタシは吹雪だってしっかり姉ちゃんやってると思うぜ」

 

「本当に、そうでしょうか……」

 

「ああ、暁とはやり方は違えど妹達の為に頑張ってきたんだろ?それはきっと暁も響も解ってる。だからそう自分を責めるもんじゃないぜ?」

 

「摩耶さん…………いつまで頭を撫でてるつもりですか?」

 

「お、おう悪ぃ」

 

「…………べ、別に嫌という訳ではありませんが……

 

アタシは咄嗟に手を離し自分の頭を掻いていると吹雪はそっぽ向いたまま小さな声で何かを呟いた。

 

「ん?何だって?」

 

「何でもありませんっ。それよりフラワーさんが来ましたよ」

 

「お?ホントだ。おーいっ!」

 

数分後、工廠のドックに停泊したフラワーと挨拶を交わしコンテナを降ろしてもらった後、アタシは松達に作業内容を説明しすぐさま物資の積み下ろしに取り掛かった。

 




大丈夫……まだ大丈夫なはずだ。

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