響乱交狂曲   作:上新粉

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門長視点で日常を書くよりは書きやすい……はず?


第六十七番~母~

 「よしっ、今日はお前らも一緒についてきてくれ」

 

そう言って松竹の二人を連れてやってきたのは西野っつう女提督が保護されている地下施設の入口だ。

 

「むぅ?食材を届けに来たのは解るが態々三人で来ずとも言ってくれれば竹か私が行ってくるぞ?」

 

「おうっ、次からはそうして貰うつもりだが最初くらいは、な?」

 

「いやいや……流石にこれくらいは私一人でもこなせるぞ」

 

「分かってるって。んじゃ先に入ってるぜ」

 

少し呆れた様子の松を横目にアタシは揚々と施設の扉を開けて中に入っていく。

そして音声ガイダンスに従い除染を終えたアタシは更衣室で着替えながら松達が入ってくるのを待っていると扉の向こうが俄かに騒がしくなった。

 

「まっまて!これは聞いていないぞ!?」

 

「ほらほら摩耶さんも西野さん達も向こうで待ってるよ~」

 

「し、しかしっ…………むぅ」

 

おーやってるやってる。松にはちょっと辛いかも知んねぇけど竹もいるしきっと大丈夫だろう。

二人の様子に耳を傾けつつ暫く待ってるとやがて扉が開かれ、中から顔を赤くした松が一糸纏わぬ姿で現れた。

 

「まやぁ……食堂を出る前は艤装を着けたままで良いと言っていたではないかっ!」

 

「あー、そういえば言ってなかったカナー?」

 

勿論言ってないんだけどよ。

まあ先に伝えたらきっと行きたがらなかっただろうし、それじゃあ松の特訓にならねぇ。

とはいえまだあれから一週間しか経ってねぇのに無理矢理連れてきたのは流石に不味かったかもなぁ……。

 

「……帰るっ!」

 

「わ、悪かったって!明日の夕飯は松の好きなもん作ってやっから待ってくれよぉ」

 

回れ右をし出口へ一直線に戻ろうとする松をアタシが必死に引き留めていると、その出口から除染を終えた竹が松と同じ一糸纏わぬ姿で入って来た。

 

「な~にしてんの松?」

 

「竹、私は食堂に戻るぞ!」

 

「え~、これくらい一人でこなせるんじゃなかったの?」

 

「その時とは状況が違うんだ!」

 

「それに明日からは一人で行かなきゃいけないんだよ?」

 

「そ、それは竹が行ってくれ……その間に私は竹の分までやっておくから」

 

竹が持ち出してきたのは入る前にしていた松とアタシのやり取りであり、松も何とか反論を述べているが竹は簡単には引き下がらなかった。

 

「ふ~ん?状況が違うなんて戦場の常だと思うけどなぁ」

 

「それはそうかも知れないが……そ、そもそも情報に偽りがあるのだから作戦自体無効で──」

 

「でもねぇ、摩耶さん別に嘘を言った訳じゃないしー?情報云々言うなら情報収集を怠った松の責任じゃないかなー?」

 

「いや、それはアタシが──」

 

アタシは二人の話し合いを聞きつつ誤解だけは解いとこうとしたが竹が口元に指を当ててサインを出したので、アタシは頷き大人しく成り行きを見守る事にした。

 

「だ、だが摩耶は艤装は着けたままで大丈夫だとっ!」

 

「そうだね。でも摩耶さんは艤装を着けたまま中に入れるとは一言も言ってないよね?」

 

「そ、そんなの詭弁だっ!」

 

「詭弁〜?そんな事ないよ。摩耶さんは松や私達の事をちゃんと考えてくれてるし、そもそも知ってる場所に食材を届けるだけなら摩耶さんだって最初から一人で行かせるでしょ?ほら、少し考えれば分かる事じゃない?」

 

「それは……そう……かもしれんが」

 

「それともあれかな?誇り高き松型駆逐艦のネームシップともあろうお方が自分が気付かなかった事を棚に上げて嘘吐きだとか詭弁だとか言って一度放った言葉を曲げるつもりなのかな?」

 

「ぐぬぬぬ…………そう……だな。済まなかった摩耶」

 

「い、いやアタシも言い方が悪かったよ。ほら、さっさと身体拭いて着替えちまいな」

 

竹に説得させられアタシに深々と頭を下げる松にいたたまれなくなったアタシはすぐさま話題を逸らした。

すまねぇ松、今回の事は全面的にアタシが悪ィんだ。

心の中で松に謝罪していると身体を拭き終えた竹が着替えを持ってアタシの方へ駆け寄り、そっと耳打ちをしてきた。

 

「ま~やさんっ。上々でしょ?」

 

「あぁ、ありがとな。にしてもすげぇよな、アタシじゃあんなにスラスラと言葉が出て来ねぇぜ」

 

「あはは、あれくらい大した事ないよ。あーでも摩耶さんにはあーやって人を騙すような小細工は向いてないし似合わないから止めた方が良いかな?」

 

「あ”~……」

 

人を騙すか、言われてみれば確かにそうだよなぁ。

松の事を騙した上に竹に汚れ役までやらせて何やってんだアタシは……。

 

「……そうだよな。ごめん、竹に嫌な役やらしちまったな」

 

「ふふ、よかった。やっぱり摩耶さんは摩耶さんだねっ」

 

自分の行った事を猛省し謝罪するアタシを見上げていた竹は何故か満足気にそう返すと、着替えを済ませ松を連れて西野達が待っている部屋へと入って行った。

 

「アタシはアタシ……?」

 

竹が言った言葉の意味が解らず暫く呆けていたが、扉の閉まる音ではっと我に返ったアタシは届けるべき食材を持って急いで部屋へと入ってった。

中に入るとそこには茫然と立ち尽くす陸奥と西野の姿があった。

だがまあ無理もねぇ。幾ら姉妹艦とはいえ此処まで瓜二つなのも滅多に居ないだろうし、それに加えていつもは強気な松が借りてきた猫のようにしおらしくなってしまっているんだから初めて見た奴は誰か分からなくてもおかしくねぇ。

ともあれこのままじゃ埒が明かねぇしアタシは食材を持ったまま西野に声を掛けた。

 

「おーい、いつまで呆けてやがんだ?」

 

「え……あっ、摩耶さん!?い、いつも有難う御座います!」

 

「おうっ、取り敢えずこっちに置いとくぜ」

 

「えっ……と、摩耶?この子達って……」

 

陸奥がそう訊ねてきた事でアタシは二人が茫然としていた本当の理由を理解した。

 

「あー、まだ二人に何も説明して無かったのか」

 

「うん、挨拶しただけだよ?」

 

ま、そりゃそうか。二人が入ってから然程経ってねぇもんな。

アタシは気を取り直し陸奥達に松と竹が手伝いに来てくれた事を伝えた。

 

「へぇ~、そういう事だったのね?」

 

「ああ。つう訳で明日からは松と竹が交代で届けに来るから宜しく頼むぜ」

 

「はい、此方こそ宜しくお願いします。松さん、竹さん」

 

「う、うむ……宜しく頼む」

 

「よろしくね!それと西野さん?」

 

「はい、なんでしょうか?」

 

「西野さんは普段睦月や如月達の事をなんて呼んでるの?」

 

「えっ?なんてって……?」

 

西野は竹からの唐突な質問の意味を理解出来ないまま暫くぽかんとしていた。

アタシも言いたい事が解らずに竹の方を見るが、竹は別段周りを気にする事も無く先ほどの質問の補足をするように口を開いた。

 

「ん~例えばさぁ、睦月や如月の事を()()()()とか()()()って呼んでるのかな?って」

 

「へ?えと……いえ、睦月ちゃんは睦月ちゃんですし如月ちゃんは如月ちゃんですが……それがどうしましたか?」

 

「でしょっ!」

 

すると竹は我が意を得たりとばかりに西野に向けて指を差して言った。

 

「だったらさ、私達の事もそう呼んでよっ!」

 

「で、ですが……私達はこちらの皆様から支援を受けている立場ですから」

 

「んも~分かってないなぁ。摩耶さんも私もこの基地の皆もそんな気遣い望んでないの!」

 

「し、しかし……」

 

「しかしも駄菓子もないの!西野さんがそんなだと睦月達だって気が休まらないでしょ!」

 

「…………」

 

暫く考え込んでいた西野だったがやがて考えが纏まったのか一つ頷くと顔を上げる。

 

「そうよね、あの子達には此処の皆と仲良くして貰いたいものね」

 

「永海……」

 

「ええ、解ったわ竹ちゃん、松ちゃん、摩耶ちゃん……ありがとう。そして今暫くの間お世話になります」

 

「はいは~い、改めて宜しくね!」

 

「宜しく頼む、西野大佐」

 

「おう、よろしくな!あ〜てかこのタイミングで非常に言い辛いんだが……ちゃん付けは出来れば勘弁してくれねぇか」

 

流石に照れ臭ぇっつうか呼ばれ慣れてないしこそばゆいんだよな。

 

「えっ?あ、ごめんなさい……」

 

「ああっ違う違う!別に構わねぇんだけどよ。どっちかと言えば呼び捨てて貰った方がしっくり来るかなぁって」

 

「え~いいじゃん摩耶ちゃん。似合ってるよ、マ~ヤちゃん?」

 

「おい竹っ!お前は黙ってろっつうの!」

 

アタシが竹に言い返していると陸奥の方から支援が飛んで来やがった。

 

「あらあら、それなら私もこれからは摩耶ちゃんって呼ぼうかしら?」

 

「ちょ、陸奥まで悪のりすんなよな……」

 

「えっと……でも良いと思いますよ?摩耶ちゃん、可愛らしいじゃないですか」

 

「は~い皆様ご一緒に~」

 

「「ま~やちゃん!ま~やちゃん!」」

 

「ちょ……お前ら、マジやめろって……は、恥ずかしいだろうが……」

 

遂には西野まで乗っかりだしやがったぜ。

松は端っこの方で我関せずな姿勢を貫いてるし救いはねぇのか!?

 

結局この公開処刑はこの後十数分もの間続いたのだった。

はぁ~、これが松を騙した報いだっつうのかよ…………もう二度とあんな真似しねぇぞちくしょうっ!

 




第二章を書いてる最中に次の章を考えている自分がいる。

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