西村との話し合いが纏まり響達の居る基地へ戻る事にした俺は横須賀の工廠で修復と補給を受けていた。
と言っても後は乗ってきたボートの補給が終われば完了だけどな。
「いやぁ~修復資材もさる事ながら燃費の悪さも異常過ぎますよ、ほんとそんなんで良くやっていけてますねぇ」
「こんなんにしたのはてめーらだろうが……」
「あはっ、その通りです!と胸を張っては言えないのが悔しい所ですが、事実門長さんのその力は明らかに常軌を逸してますからね」
「あ?それがお前らの真なんたら計画何じゃねぇのかよ」
「あら、金剛さんか武蔵さん辺りからお聞きになられてたんですか?」
「ああ、金剛が前に言ってたのを思い出しただけだ」
つっても内容の殆どは覚えてねぇがな。
「そうでしたか、それなら話は早いですね。その真七九八号計画というのは嘗ては様々な問題が立ちはだかり建造不可能とされ起工するに至らなかった超大和型戦艦七九八号艦、完成していれば紀伊と名付けられていたであろう戦艦を艦娘もとい人型として建造する事を目的として行われたのですが……まあ、我々の計画としては戦艦棲姫等の姫級を単艦で撃退できれば充分だったんですよ」
「…………?その戦艦棲姫っつうのが何者か知らねぇが奴ら程じゃなきゃまず負けねぇと思うぜ」
明石の言う事はさっぱり解らんので何となく理解出来た部分に対してだけ返答すると明石は何故かその言葉に興奮ぎみに食いついてきやがった。
「そもそもそこが既におかしいんですよ!海底棲姫の存在なんて私達艦娘は勿論、人間達にだって恐らく知らないでしょう。そうするとどうして門長さんが規格外な力を持つ未知の存在に対抗出来たのでしょうか」
「そんなん俺が強かったからだろ」
「今はそんな話をしてる訳じゃありませんよ。良いから黙って聞いててください」
なんだこいつ……そもそも何でこいつの訳分からん話を聞かされなきゃならんのだ。
補給が終わったらさっさと帰るか。
「ですが実はこの計画に関わった者で唯一初めから奴らの存在を知っていた可能性のある人物がいるんですが誰だか分かりますか?」
「は?大淀じゃねぇのかよ」
「いえ、確かに大淀は知っていたみたいですが計画には関わっていません。答えは門長さんがいらした時にした話の中にとある妖精が出てきたのを覚えてますか?」
「知らん」
「あはは、ですよねー。私の推測ではその妖精こそが海底棲姫なるものを生み出したのではないかと思うんですよ」
「訳わかんねぇ、奴らの目的は現状の維持なんだから俺を強くする理由がねぇだろ」
「確かに不知火からの又聞きですがそう聞いてます。ですがこうは考えられないですか?門長さんを引き入れる事によって戦力を補強し尚且つ人類に対して余計な事をしても無駄だという見せしめにしようと企んでいたのだと考えれば門長さんの規格外の強さにも辻褄が合います」
はぁ、何が辻褄が合うだ。そんな考えが奴らにあったらいきなり攻撃を仕掛けてきたりしねぇっつうの。
ふぅ……補給も終わったしこれ以上こいつの下らん妄想に付き合ってやる義理は無い、さっさと行くとするか。
俺は補給を終えたボートに乗り込みエンジンを回し始める。
「門長さんもそう思いませんか!ってあれ、聞いてますか?」
「そんじゃ、西村によろしく言っといてくれ。じゃあな!」
「えっ、あのちょっと!?」
明石が何か言おうとしてるが俺はそれをエンジン音でかき消しアクセル全開で工廠を飛び出して行った。
にしてもこの俺が世界平和なんつうもんを唱えるなんてこれ以上ねえぐらい似合わねぇ……だが、他に俺が響を護れる方法がねぇんなら仕方ない。
世界を平和にする方法なんて皆目見当もつかないが、後どれだけ時間が残されているかも解らん……だったら動くしかねぇよな!まずは一度基地に戻ってから考えるか。
こうして俺は決意を新たに大海原を駆け抜ける。
目指すは遥か南東、響が待つ中部前線基地!
これにて第一章は終了となります。
第二章はアンケートの集計結果を元に門長がタウイタウイへ出発した日から帰ってくる辺りまでを摩耶視点で進めていく予定となります。
話の特性上響の登場が後半以降となります(泣)
追記︰章の区切りが中途半端だった為タウイタウイ編からここまでを第一章に変更致しました。
元々章を分けたのも途中からでしたので皆様に混乱を招いてしまった事を深くお詫び申し上げます。