響達と別れてからおよそ三日程は経ったか……。
後どのくらいで目的地に辿り着けるかは定かではないがそう遠くもないだろう。
「グッ……まだダ、奴らをシズメルまでは!」
俺は飛びそうになる意識を何とか押さえつけながらモーターボートを全速力で走らせていく。
だが限界はすぐそこまで来ていた。
「クソッ……此処で暴走シチマッタら全て水の泡ジャねぇか!」
ああ……ナニモカモコワシテ……っだぁ!まだだっつってんだろっ、大人しくしやがれ!
グゥ…………せめて奴らと対峙する時マデは黙ってテくれよ。
「大丈夫か?」
「…………ハ?」
心の葛藤を繰り広げる中に突如飛び込んできた声に俺は耳を疑った。
いや、アリえネェ……俺の周りにハ誰もイナイ、勿論長門も出て行ったのだから俺に話しかけてクル奴は体を乗っ取ろうしてくるコイツ以外はいない。
こんなぶっ壊れた奴が理性的に話しカケテくるとも思えねぇし……。
「……妖精カ?」
俺は声の主に対して問い掛けてみると声の主は豪快な笑い声を上げて話し始めた。
「はっはっは!わたしだわたし、忘れてしまったか?薄情な奴だなぁ全く」
「誰だよ……いや、待てよ?」
確かに聞き覚えのある声だが……しかしあいつはあの時に……
「お前……まさか……」
「お?思い出してくれたか!約束通りまた会えたな、相棒」
声の主はそういって漸く姿を現した。
「武蔵……かと思ったが、なんだ只の妖精か」
目の前に現れたのは褐色肌にさらしを巻いた二頭身の妖精であった。
「おいおい、見た目が変わってるのはお互い様だろう?」
「確かにそうだが……今一つ信じらんねぇな」
「ふ~む……ま、気持ちは解らなくもない。私自身何が起こったのか良く解らんしな?だが事実として私はお前さんの事を知っているし、お前さんが今あまり良くない状況だと言う事も知っている」
「良くない状況か……まあ、確かにその通りだが。もしお前が武蔵だとして今の状況をどうにか出来るとでも言うつもりか?」
「そうだな……根本的な解決は出来ないが、その場しのぎで良いなら方法は無くはないぜ?」
根本的解決は出来ない……期待していた訳じゃねぇがやっぱ響の元へは戻れそうにねぇか……。
だがまぁ目的すら果たせずにこんな所で暴走しちまう位なら試してみるのもありか。
「分かった。なら一時しのぎで構わんからやってくれ」
「ん?ああ、実はもう既にやっているんだが気づかぬか?」
は?何言ってやがんだこの妖精もどきは。
「なに、自分の身体を見れば分かるさ」
「身体?別に何とも……って艤装は何処行きやがった?」
疑問を浮かべる俺に対して妖精もどきは得意げに腕を組んで答える。
「詳しくは私も解らんが簡単に言えばお前の艤装を無理矢理格納したのだ」
「あ?なんだよ、そんなこと出来んのかよ」
「ああ、だがあくまでも無理矢理だからな。次にお前さんが自分の意思で展開すればもう手のつけようがないぜ?」
そういう事か、だから一時しのぎっつう訳か。
「なら仕方ねぇ、行くとするか」
「……ほんとに良いのか?今引き返せば響と暮らし続ける事は可能なのだぞ?」
「そうだな、寧ろそうしてぇよ」
「だったら──」
「だがあんな所で戦わずに過ごすなんて恐らく無理だ。それに例え戦わなくたって抑え続けられるとは限らねぇだろ?」
「む……ならば抑え続けられる保証があれば
そう言った妖精もどき……いや、武蔵の真剣な目が俺を真っ直ぐ見据えていた。
「なるほどな、俺や長門にとっちゃ憎い相手だがお前からしたら大事な提督だから護りてぇってか?」
「……そうだな。それに提督は今の海軍に無くてはならない存在なんだ」
「へぇ?それじゃ俺らは海軍の為の必要な犠牲だって事かよ」
「そういうつもりではない!だが……そうだな、済まない」
ただ……こいつの気持ちも解らなくもねぇ。俺だって何があろうと響を庇うだろうし、響の為なら俺の命くらい喜んで捧げるつもりだ。
「……ったく。まあいい、どっちにしろ横須賀には行くぞ。暴走を抑えておける保証がなきゃどっちにしろ選択肢はねぇんだ」
「門長……そうだな、明石にあてが無いか聞いてみるのが一番だろう」
「奴らが俺を迎え入れてくれるかどうかも怪しいけどな」
「こっちから仕掛けなければ大丈夫だろう。提督達はお前さんと事を構えるつもりはないからな」
どうだかな…………っと漸く本土が水平線に見えてきたな。気を引き締めて行くとするか。
……と、気合いを入れたのが三十分前。
そして今俺がいる場所は横須賀第一鎮守府とやらの工廠内だ。
本当に何事も無く入れてしまい呆気に取られていると奥から俺を勝手にこんな身体にしやがった奴らの一角が姿を現した。
「いやぁ、まさか本当に此処まで来られるとは……あ!もしかして私かなり危険な状況なんじゃないですかねぇ?」
明石の全く危機感を感じさせない軽い口調に俺は湧き上がる怒りを抑え務めて冷静に言葉を返す。
「運が良かったな。別件が無きゃテメェを直ぐにでも地中に轟沈させてやるところだ」
「あっははは!それは助かりました!それで、本日はどの様な御用で?」
やっぱり沈めてぇなこいつ……。
今にも殴り掛かりそうな俺の気配を察したのか右肩に乗っている武蔵が首筋に手を当てながら口を開いた。
「落ち着け相棒。頼みたいのは相棒の身体の事なんだが……」
「あら?妖精さんにしては流暢に話しますし、それに随分と焼けた肌をされてますね?」
「む?ああ、私は横須賀第一鎮守府の武蔵だ。といってもこの姿では信じられんか?」
「武蔵さん!?あら……いやぁ~……長門さんが小さくなったのは伺っていましたがまさか武蔵さんが妖精になられているのは流石に予想外でした」
「はっはっは、私も良く解っていないからな。っとそれより話を続けても良いか?」
「あ、そうですね。武蔵さんの事は後で詳しく伺うとしまして先に門長さんの件を伺いましょうか」
といった具合に武蔵が勝手に話し始めたので俺は仕方無く内容を補足しながら横須賀の明石に伝える事にした。
「──と、言う訳だ」
「う〜ん……そういう事でしたか」
「何か当てはないか、明石」
明石は話を書き留めたメモを見つめながら唸りつつ答える。
「そうですねぇ、その手の案件はタウイタウイの彼女達で駄目なら私の知る中には解決出来る方は居ませんね!」
「こんなにした張本人が出来ねぇってどういう事だよ」
「確かに処置を施したのは私達ですが大元の設計図は阿部元帥と
「んだよ使えねぇな。じゃあその元帥に合わせてくれ、そいつならなんか知ってるんだろ?」
「あれ?不知火から聞いてませんでしたか?」
とぼけた顔で聞き返してくる明石に怒りが込み上げてくるがまあいい……今は話を聞くのが先だ。
「不知火からは海軍と海底棲姫共が手を組んでるって話しか聞いてねぇぞ?」
「う~ん……あ!そういえば金剛さんに伝わらないように私が伏せさせてたんでした!」
「あ”?てめぇ……ケンカ売ってんのか?」
「いやいや、ほんとに忘れてただけで悪気は無かったんですって~」
マジでむかつく奴だぜ……いつか沈めてやるから覚悟しておけよ。
「……んで、金剛に伏せてた事ってなんだよ」
「それがですね、阿部元帥の事なんですが……不知火の目の前で海底棲姫によって殺されているんですよ」
「なに?」
「そんな……馬鹿な……」
「武蔵さんには信じがたい話でしょうが事実です」
「…………なんて事だ」
武蔵が俺の肩の上で膝をつき愕然とする中、俺はなんとも呆気ない結末に面食らっていた。
なんだよ……復讐しようにも相手が居ねぇのかよ。
「……仕方ねぇ、じゃあ今の元帥と合わせてくれ」
「…………いいですよ?では早速参りましょうか」
海軍の奴らと似たようなやり口になるのは気に入らねぇが、
そんな俺の企みを知ってか知らずか、明石は不敵な笑みを浮かべて俺を元帥の下へと連れて行った。
ん~……なんだか地の文が少ないような……あ、門長が何も考えてないからだ!
あ……えと……冗談、ですので……その…………主砲をこちらに向けるのはやめて頂けません……か?