響乱交狂曲   作:上新粉

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こんな時期に風邪を引くとは……デジャブを感じる……
ま、まあ取り敢えずは落ち着いたので執筆再開しました。
遅れを取り戻したい(願望


第五十六番

 リ級の襲撃から一週間が経ったある日、俺はタウイタウイの明石に呼び出され工廠に来ていた。

 

「あっ、どうもお待ちしておりました門長さん」

 

「早速だけどこっちに来てもらえるかしら?」

 

「なんだ、分離する準備が整ったのか?」

 

奥に進むと明石と夕張がカプセルの様な機械の周りで何かの準備をしながら手招きをしていたので、俺は機械に歩み寄りながら呼んだ理由を聞いてみた。

だが、返ってきた答えは俺の予想とは違ったものであった。

 

「いえ、それはもう少し掛かりますが──」

 

「なら出来たら呼べ、俺は戻る」

 

「ちょっと!?待って下さいよ!」

 

ちっ、俺は響や電と親睦を深める方法を考えるのに忙しいんだから余計な事で呼ぶんじゃねぇ。

俺は文句を垂れながら工廠を出ようとしたのだが。

長門によって強制的に動きを止められた上で話は最後まで聞けと長々と説教を受けた。

話の大半は覚えてねぇが─響に愛想尽かされるぞ─という一言により渋々明石たちの話を聞くことにしたわけだ。

 

 

 

「──と、いうわけですが如何でしょうか?」

 

明石が一通り話終えると俺に返事を求めてきた。

実際の所、小難しい話ばかりで殆ど何言ってるか解らなかったが。

まあ解った所だけで要約すると俺と長門を分離させる過程で俺の艤装を展開する方法が見つかったらしい。

 

「んで?艤装が展開出来ると何が出来るんだ?」

 

「え?ええと……海上を航行出来る様になるわよ?」

 

「もう出来てんだろ」

 

「そ……そうよね。後は…………明石さんっ!」

 

どうやらこいつは何も知らないらしい。

夕張が明石に放り投げたので俺も明石に聞く事にした。

 

「そうですね、本来艤装が展開出来ないと航行すら出来ないので夕張ちゃんの言う事も間違っては無いんですけど……私からは門長さんが艤装の恩恵を受けてないと考えられる事をお伝えしますね」

 

艤装の恩恵?今のままでも充分戦えてるのに更に強くなんのか?

 

ーーそれは分からない。しかし奴らから響を護る事を考えれば幾ら強くなっても行き過ぎという事はなかろうーー

 

……確かにそうだな、特に今回相対したあの黒長髪アマから響を護るのは至難の業だろうな。

だからっつって引く気もねぇけどな。

 

「あの~門長さん……聞いてます?」

 

なんとなく呼ばれた気がしたので表に意識を向けると明石が訝しげにこっちを見ていた。

 

「どうした、まさかもう話は終わっちまったか?」

 

「いえ、まだですけど……」

 

「そうか、それで艤装の恩恵ってなんだ?」

 

何やら明石が不満げに目で訴えて来るが気にせず明石に説明を促した。

明石は暫くジト目でこっちを見ていたが、やがて溜め息を漏らしつつポツポツと話し始めた。

 

「……まぁ、別に良いんですけど……。それで艤装の恩恵についてですが、私達の中では私達が行使できる艦艇本来の性能(ちから)の事を〝艤装の恩恵"と呼んでいるんです」

 

「艦艇本来の?つまり海の上を走ったりできるとかそういうのか?」

 

「勿論それも恩恵の一つです。そして恩恵の中には艤装を装備していれば行使できるものと、展開しなければ行使できないものの二種類ある訳なんです」

 

装備?展開?訳が分からなくなってきたぞ……

 

ーー簡単に言えば艤装が()()()状態なのが()()()()()()()状態なのが()()()という事だーー

 

なるほどな……つまり今の俺は艤装が見えない状態ってことか。

……という事は……分かって来たぜぇ?

 

「つまり、海の上を走るのは()()()でも行使できる恩恵って事だな?」

 

だが、自信満々に言い放った俺の推理はむなしく空を切ることとなった。

 

「う~ん……此処までの説明をご理解頂いているのは有難いのですが、と言うよりそれは艤装展開時でなければ出来ないと先程言ったのですが……」

 

「は?」

 

「ま、まぁという事で門長さんは完全に例外ですので先日頂いた戦闘データや身体データから門長さんが現在受けていないと思われる恩恵をご紹介いたします」

 

そういって明石は右ポケットから折りたたまれた紙を俺の目の前で開き始めた。

開かれた紙には色々と書かれていて、明石はその紙を指差しながら説明を続ける。

 

「まず一つ目に門長さんを艦艇と見立てた時の最大推力を十全に使えるようになります」

 

「最大推力を十全に使えるとなんか意味あんのか?」

 

俺の質問に明石は顔に驚愕を浮かべる。

 

「いやいやいや!なにかどころか全てにおいて意味がありますから!」

 

「お、おう」

 

「良いですか?艦娘であろうと人間であろうと歩くのには足を上げる力が必要ですし走るなら大地を蹴りあげる力が、泳ぐなら手で水を掻いたり足で水を蹴ったりする力が必要です。つまり我々が動くのに必要なのがこの推力という力なのですっ!それが十全に使えるというのがどれだけの事かはもうわかりますよねっ?」

 

なんか明石にすっげぇ捲し立てられて腹が立ったが、まあ言いたい事は分かった。

つまりは基礎身体能力が向上するって考えときゃ問題ないだろう。

 

「そいつは理解した。他には?」

 

「へ?あ、はい。次はですね、艤装展開中における眠気や空腹の抑制が行われます」

 

「眠気や空腹の抑制?ずっと動いてられんのか?」

 

「まぁ疲労も溜まりますし燃料も切れますので動き続けると言うのは無理ですかね。それにあくまでも抑制ですので艤装を外した時や格納時に一気にしわ寄せが来ますのでどちらにしろ度を超えた無理はしない方が良いですよ?」

 

そうか、やっぱ完全無欠とはいかねぇよな……だが長期戦も出来ると考えれば悪くもねえか?

 

「なるほどな。で、他にはまだあるのか?」

 

「後はですね……あ~、これについては既に恩恵を受けていたら申し訳ないんですが思考能力、速度の向上ですね」

 

思考能力に速度の向上か……良いじゃねぇか艤装の恩恵とやら。

これさえあれば俺の事を散々馬鹿にしやがった猿女に一泡吹かせる事が出来るってこった。

 

「……あの、最後のは絶対に向上する保証はありませんからね~…………ってダメだこりゃ」

 

「ふっふっふ……覚悟しろよ猿女ぁ……」

 

明石が何かぶつぶつ言っていたが俺は気に留めずに摩耶に一杯食わせる算段を立てていた。

少ししてある程度考えもまとまったので早速明石に艤装を展開できるよう依頼を出した。

 

「お任せくださいっ!では早速施工しますのでこちらで横になって頂けますか?」

 

どうやら明石はこの施工を試したくてうずうずしていたらしく、俺が頼むと既に準備万端の状態の機械に入るよう促してきた。

俺はその機械の中で横になると強めの麻酔が掛けられ数分もしないうちに夢の世界へと誘われていった。

 

 

 

 

 

あんな悲劇が起きるなど露知らず…………

 

 

 

 




艤装の恩恵については他にも色々あります。
ただ、門長は作中で話したもの以外は確実に恩恵を受けているものなので名称と一言を此処に記しておきます。
アクティブ(展開時)
水上航行(作中) 
推力最大(作中)
活動限界(作中) 
高速回路(作中)

パッシブ(装備時)
集中防御(艦艇の装甲を得る)
兵装操作(兵装の操作が可能)
推力活用(最大推力の一割までなら活用可能)
経口補給(燃料を口から補給可能)

細かい所を言えばもう少しあるかと思います。


と、いっても本作の独自設定なんですけどねw

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