〜報告〜
第四十五番〜母〜にて松と竹の挿絵を追加しました。
作者による拙いアナログ絵ですが良ければ見てくださいね〜
波止場へと戻ってきた俺が水平線の先を見据えながら次の戦いについて思案すること一時間。
ふとある疑問が頭の中をよぎった。
「…………なんでここに戻って来たんだ?」
冷静になって考えてみればまだ響達になにも伝えてねぇし、それ以前に奴らがいつ来るかも分からんのにこんな所で待ってる意味もなかったぜ。
今為すべき事に今更ながら気づいた俺は急いで響達の下へ戻ることにした。
だが、突然鳴り響く警笛に足を止める事となった。
「おいおい……幾らなんでも早すぎるんじゃねぇか?」
ーー別件か……若しくは既に我々の位置が割れていたかーー
その直後、鎮守府中にヴェールヌイと思われる少女の声が響き渡る。
『緊急事態発生。翔鶴、榛名、神通、そして門長少佐の四名は大至急作戦準備室へ。四名以外の練度五十を超える艦娘は何時でも出撃出来る状態で各自待機。繰り返す──』
俺が呼ばれるって事はどうやら後者の可能性が高いな。
事情の説明も兼ねて響達も呼びに行くか。
ーー大至急なのだから急げよ?ーー
わぁってるよ、響達も放送は聞いてるだろうし少し説明すれば付いてきてくれるだろう。
俺は響達のいる部屋まで一目散に駆け出した。
「響っ!いるか!?」
「と、門長っ!?」
扉を力任せに開くとそこには驚いた様子の響と刺すような視線を送る電がベッドに腰掛けていた。
「どうしたのですヴェールヌイさんに乗り換えた浮気者門長さん、彼女が呼んでるのですよ?早く行ったらどうなのです?」
「ちょっ、それは誤解だ……ってその話は後だ、兎に角何も言わず付いてきてくれ」
直ぐにでも誤解を解きたい所だが今は何より時間が無い。
電が辛辣だが今は耐えるしかない……。
「えっ……と……分かった、行こう電」
「……響ちゃんが行くのなら電はついて行くのですっ!ただし、門長さんには後でたっぷりお仕置きを受けて貰うのです」
事が終わった後で沈められたり……しない……よな?
得体の知れない寒気を覚えつつも俺は響達を連れて作戦準備室へ急ぐ事にした。
部屋に入ると五人は難しい顔で既に話し合いを始めていた。
「わり、少し遅くなったか?」
「というよりミスターは何処に行ってたのですカー?」
「テメェには聞いてねぇし何処だって良いだろ」
「オ、オウ……ソーリー」
「こちらは問題ないさ──っと響達も来ているようだね」
「ああ、何も聞かされ無いでってのも不安だろうしな。響達にさっきの話も踏まえて説明を頼む」
「分かった、時間はあまり無いから急ぎで集中して聞いて欲しい」
そうしてヴェールヌイは俺が先程伝えた事、そして今置かれている現状について説明を行った。
現状としては鎮守府近海に百近くの深海棲艦が突如出現しこっちに侵攻して来ているというものであった。
「ただ、意外な事にあれだけの大艦隊だというのに姫級はおろか戦艦や空母すら居ないと言うのは唯一の救いだろう」
「その中にリ級改flagshipはいたか?」
「ああ、全艦確認出来たわけじゃないけれど凄まじいオーラを放つリ級改flagshipがいたという報告を受けているよ」
やはり奴らか……戦艦や空母が居ないっつうのは気になるが恐らくリ級が従える艦隊なんだろうな。
正直話し合いなんてかったりぃ事はしたくねぇが沈めんなって言われてる以上奴らを納得させる以外に方法はねぇよな。
「よし、そしたら前衛の奴らは相手を沈めない様に前線を維持してくれ。抜けられた奴は後衛に沈めてもらう」
とここで予想通り反論が入った。
意義を立てたのは空母機動部隊旗艦の翔鶴だ。
「待って頂けませんか?私達の提督と違い深海棲艦は大破すれば撤退するとは限りません。それなのに沈めずに前線を維持するのは無理があると思いますが……」
「わぁってるよ。だからお前達のとこの艦隊が前線を抑えてる間に俺がリ級改flagshipの所まで行って話を着けてくるんだよ」
「ですが……話し合いで解決出来るとは限らないのではありませんか?」
「勿論解決出来ないと判断した時点で連絡するし、前線を抜けた奴には容赦しなくていい」
「しかし……」
何時までも渋る翔鶴に対して俺が苛立ちを覚えた辺りでヴェールヌイが割って入り翔鶴に説得を始める。
「翔鶴さんの危惧する所はもっともだけれど、彼だって何も無しに理想を述べている訳じゃない。それにリスクがあるにしろ前線を抜けた深海棲艦の撃沈は認めるという妥協案も出しているんだから、これ以上の問答は時間の無駄じゃないかい?」
「それは…………そうですね、失礼致しました」
「よし、そしたら水上打撃部隊は前線で門長少佐の支援を空母機動部隊は後衛から前線の支援及び前線を抜けた敵の撃沈に当たるように、以上!」
「「了解しましたっ!!」」
一糸乱れぬ敬礼を見せると三人は部屋を出ていった。
「さて、門長少佐も準備が出来次第出撃してくれ」
「ああ、だがその前に響達の事なんだが……」
「そうだね、彼女達の事は鳳翔さんに頼んでおくよ。響、電、二人ともこっちにおいで」
ヴェールヌイが手招きをするが二人は……というより響は一向に動こうとしなかった。
「どうした響?」
「……私も行く」
「おう、だからヴェールヌイについていって……」
「違うっ!私も行ってリ級に謝りたいんだ!」
「え…………」
謝る?響が?どうして?
突然の事に俺は理解ができなかった。
すると響からあの時の事を改めて聞かされる事となった。
「守るって言ったのに……すぐ近くにいたのに……私が弱かったから……」
「響…………」
危険な戦場に響を連れて行きたくはないし、離島の事は全て俺の責任であり響が謝る事なんて無い。
しかし、響が望んでいる事を俺の考えだけで簡単に否定して良いのだろうか。
「私が弱い事も、危険な事をしようとしてるのも分かってる。それでも私を連れて行って欲しい!」
護りたい者を戦場に連れ出すなんて矛盾している。
だからって大切な者の思いを蔑ろにするのはどうなんだ?
どうすればいい……どうしたら。
ーー簡単……とは云わないが一つだけ方法があるーー
なに、本当か?
ーーああ、今までと違って一緒に居れるのだから守れば良い。違うか?ーー
…………全くもってその通りだ。
今更考える事も無かったな。
「分かった、一緒に謝りに行こう」
「門長っ……スパスィーバ」
「良いのかい門長少佐?」
「ああ、何があっても俺が響を護る」
「分かった、他の二人はどうする?金剛さんは可能なら手伝ってくれると助かるけれど」
「勿論ヘルプしますヨー?任せて下サーイ!」
「ありがとう、電はどうするんだい?」
「う〜ん……電はお留守しているのです。門長さん、響ちゃんを
「お、おう。分かってる」
「そしたら門長少佐達は波止場に向かってて、電は私に付いてきてくれ」
「おうよ」
「宜しくお願いします」
そう言ってヴェールヌイは電の手を取り部屋を出ていった。
「そんじゃ俺らも行くか」
「うん、行こう」
「レッツゴーッ!!って待って下さいネー!?」
喧しいルー語使いを放置し響の手を取って俺達は波止場へと歩いていった。
道中響の手の温もりを感じながら内心歓喜に満ちていたのはここだけの話である。
進まない!投稿に時間が掛かった挙げ句この展開の遅さ!なんとお詫びすれば良いのやら……(汗)