響乱交狂曲   作:上新粉

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久々にあるお方のSSの続きを呼んでテンションが上がったので書いちゃいました!
睦月型もみんな可愛いよね!
夕月も早く来ないかなぁ〜


第四十九番

……さん…………と……さん……

 

揺すられる感覚を覚え重い瞼をゆっくりと開くと、視界に映り込んできたのは愛しい響……ではなかった。

 

「ん……響を連れて出直して来な」

 

「なに言っているんですか、もう朝ですよ。検査の方も完了しましたので起きてください」

 

少しづつ意識がはっきりしていく中で俺を起こしたのがやはり響じゃなく明石であった事に不満を漏らしつつも仕方なく上体を起こす事にした。

 

「んで?もう長門は出てったのか」

 

「流石に昨日の今日で出来る事じゃ有りませんよ。今回取った情報から長門さんの魂を特定して移し替える方法を見つけるのに暫く時間が掛かると思います」

 

はぁ、やっぱそうなるか。

まあそれならその時間を有効活用して響と親睦を深めるとするかな。

 

「そうか、なら俺は響達の所へ戻るぜ」

 

「あ、待って下さい!」

 

 

貴様。俺の邪魔をする気か?

 

 

目で明石を黙らせ工廠を出ていこうとするが奴は再び俺を呼び止める。

 

「んだよ、喧嘩なら買ってやるよ」

 

「いや、そうじゃなくて。響ちゃん達なら直ぐにこっちに来るので待ってた方がいいって言おうとしたんですよ」

 

「へ?響がこっちに来るのか?」

 

「もう来てるよ。この子を怖がらせたくないなら冷静になったらどうだい?」

 

突如背後から聞こえた声に俺は反射的に首を捻り振り向いた。

 

「ヴェールヌイ!?響と電まで!」

 

「ヘーイミスター、ワタシもいますヨー?」

 

「おはよう門長少佐、昨日はよく眠れたかい?」

 

「門長さん、おはようなのですっ!」

 

「…………おはよう」

 

はっ、心無しか響が怯えてる気がする!

 

「おはよう響〜?今日はいい天気だなぁ」

 

「…………」

 

や、やっちまったぁ……。

親睦を深めるどころか溝が深まってんじゃねぇか……

 

「怖がらなくても大丈夫だよ。きっと彼の根っこは優しい、響はそうは思わないかい?」

 

「…………思わない……事も……ない」

 

「ナイスフォローだぜ、おかげで救われた。まあただ俺は優しいとかそういう柄じゃねぇと思うけどな」

 

今まで言われた事もねぇし俺自身他人に優しくなんて考えた事もねぇ。

 

「そんな事ないのですっ!門長さんは悪鬼羅刹の如く優しいのです」

 

いやいや電ちゃんまで────ってえ?なんかおかしくね?

悪鬼羅刹って優しい存在だったっけ?

 

「そ、それはそうと昨日の演習の件だけど朝食の後で頼めるかな」

 

「お、おういいぜっ!因みに相手は誰なんだ?」

 

悪いが正直な話六対一でも負ける気はしねぇんだよな。

だがヴェールヌイは俺の事を随分と評価してくれていたらしい。

 

「そうだね、本来なら絶対にこんな事はしないのだけれど。今回は門長少佐が噂に違わぬ実力者だと判断してこちらの主力十二隻による空母機動部隊で当たらせてもらうよ」

 

「なるほど、そんじゃあ精々楽しませてもらうぜ」

 

「こちらも利根川艦隊主力という誇りがある。全力で勝ちに行かせてもらうよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝食を終えた俺達は演習のルールを聞いた後、演習海域まで出ると開始位置にて向こうから通信が入るのを待っていた。

 

「待たせたね、こちらもいま開始位置に着いたよ」

 

「おう、こっちはいつでもいいぜ」

 

「了解。それじゃあ三度目の砲撃が開始の合図だ、こんな条件で言うのも何だけど良い試合にしよう」

 

「ああ、楽しみにしてるぜ」

 

通信が途切れてから暫くして砲音が鳴り響く。

一回、二回、そして三回目の砲音が戦闘開始を告げる。

 

さて、敵は空母機動部隊だったか?

 

ーーああ、機動部隊が翔鶴、赤城、鳳翔、大和、利根、筑摩の六隻。そして水雷戦隊がヴェールヌイ、神通、暁、北上、ビスマルク、榛名。いずれも練度九十は越えている強者揃いだーー

 

なるほどな、空母は少し厄介か。

 

ーー厄介なのはそれだけじゃないさ。ヴェールヌイ、あいつは普通の駆逐艦だと──いや、普通の艦娘だと考えない方が良いだろうーー

 

確かに昨日のは驚かされたな。

だが、戦いは頭が良いだけで勝てるもんじゃねぇだろ。

 

ーー確かにその通りだが……戦略のせの字も知らない様な男が言ってもなーー

 

うるせ、兎に角戦闘は始まってんだ。

後はやる様にやるだけだろ。

 

俺は一方的に話を終わらせると表へと意識を向ける。

丁度前方から偵察機の中隊がやって来ている所であった。

 

「今落としてもこっちの位置は割れてるか、だがまあ鬱陶しい事には変わりねぇ。三式弾に換装だ」

 

「は〜い、さんしきだんですねぇ〜?」

 

換装を終えた連装砲を正面に構え、妖精に指示を仰ぐ。

 

「よし、あいつを墜とすぞ!」

 

「そしたらそのままかまえてぇ〜…………はっしゃー!」

 

弾けるような轟音と共に打ち出された三式弾は敵中隊の進行方向を遮るように飛んでいき奴らの目の前で激しく炸裂した。

 

「たーまやー!ってか?」

 

「かーぎやー!」

 

なんて余韻に浸っていたのも束の間、なんと黒々と広がる爆煙の中から落としたはずの偵察機が悠々と飛び立って行ったのだ。

 

「……おい、落ちてねーじゃねぇか」

 

「ば、ばかなっ!?へんさにはっしゃたいみんぐともにかんぺきだったはずっ!」

 

どうやら妖精は俺以上に動揺しているようだ。

まあ確かに俺から見ても一機も落とせなかったのは不思議ではあるが……

 

「ま、偵察機ぐらい大した問題じゃねぇ」

 

が、やはり空母が厄介なのは変わらねぇな。

先に潰すべきだな。

 

「おい、こいつの射程はどんぐらいだ?」

 

「たしか……ゆうこうしゃていさんじゅっきろ、さいだいしゃていはよんじゅうごきろだったはずです」

 

「よし、なら空母が五十キロ以内に入ったらやるぞ」

 

「まかせなさいっ!ふねにならあててやります!」

 

主砲の扱いは自信満々な妖精に任せて俺は基地にいる明石に改修させた電探を起動させる。

 

お、もう索敵範囲内に居るじゃねえか。

数は八か……あの少し離れてる奥の奴が怪しいな。

 

ーー順当に考えれば戦艦二、又は空母二かーー

 

戦艦空母が全員下がっていれば巡洋艦の可能性もあるか?

 

「ま、分かんねぇが兎に角奥の二隻を潰すぞ」

 

「おくのふたりか、しょうち!」

 

「みぎてをにせんちうえにあげてください」

 

「ひだりはいっせんちしただ」

 

「こんなもんか?」

 

「「はっしゃ!!」」

 

妖精共のタイミングで両腕の連装砲を一斉射すれば海面を波立たせながら四発の砲弾は空の彼方へと消えて行った。

と、同時に未だに水偵を受け取っていないことを唐突に思い出した。

あれからドタバタあり過ぎて完全に忘れてたが明石の野郎ちゃんと作ってあんだろうな……。

取り敢えず帰ったら確認してみっか。

 

「兎に角今は考えててもしょうがねぇ、再装填までどれ位だ?」

 

「あとにじゅうびょうです」

 

二十秒か……まだ距離はあるが駆逐艦(少女)相手に肉弾戦に持ち込む訳にも行かねぇし少し速度を落とすか。

そう考えた矢先、対空電探に一つの大きな反応を捉えた。

 

「何だあれ、でかい飛行物体でも飛んでんのか?」

ーーいや、あれは航空機の群だ。十個中隊程だろうーー

 

「電探で判別出来ない程固まってるって事か?」

 

ーーあれだけの芸当、舞鶴の空母艦娘より練度は高いかもしれんなーー

 

「だがあんなもん当てて下さいって言ってるようなもんじゃねぇか。いくぞ妖精!」

 

「やってやんよ!」

 

三式弾への換装を済ませ航空機の塊へ狙いを定める。

 

「ってぇーー!!」

 

「おらぁっ!」

 

しかし、三式弾が放たれた直後航空機は四方へ散開したかと思うとすぐ様切り返して俺を囲むように突っ込んできた。

 

「くそっ!あんな固まってても三機しか落ちねぇのかよ!」

 

「かんむすのかんさいきはばけものかっ!!」

 

「わ〜!!ぎょらいがいっぱいきたぁ〜!?」

 

四方から二百近い数の魚雷がばらまかれ逃げ道を失った俺はなす術もなく雷撃の嵐に飲み込まれて行った。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇利根川艦隊サイド◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

うーん……やらかしてしまったかもしれない。

鳳翔さんの流星をその場に待機させて状況を確認してもらっているが水煙が酷くて視認は未だ出来ないらしい。

一応明石さんから戦闘終了の連絡は来てないから轟沈判定にはなっていないだろうけれど……。

 

「流石に大破してしまった……かな」

 

「はっきり言って轟沈判定になって無いだけでも異常だと思うわ」

 

暁の言う通り、最大火力だけで考えれば姫級二、三人は沈められるような火力を放ち尚且つ全てが足元で起爆するように魚雷同士を接触させたのだ。

普通ならこんな過剰火力を単艦にぶつけたりはしない。

それでも、厳重警戒中の連合艦隊を前にしても怯むことなく突き進んでいくあの姿と、中部海域からここまでの道のりを目立った傷も負わずにやって来た事を踏まえるとこれでも足りない気がしたんだ。

 

「済まない、秘書艦である私が相手の力量を測り間違えるなんて」

 

しかし、過ぎてしまった事はどうにもならない。

明石さん達には後で謝っておこう。

そう考え、決着を付けるため艦隊に指示を出そうとした時。

 

「目標視認っ!ヴェールヌイさん、どうやら貴女の見込み通り……いえ、それ以上の様ですよ?」

 

「っ!鳳翔さん、彼の被害状況が分かったのかい!?」

 

「あら、そんなにあの方の心配をされては提督がやきもちを妬いてしまいますよ?」

 

「そ、そういう事じゃない!」

 

「ふふ、冗談ですよ」

 

もう、鳳翔さんも人が悪い……私が心に決めた人は一人だというのに──ってそうじゃない!

…………ふう、兎に角一度落ち着いて状況を確認しよう。

 

「鳳翔さん、報告を頼むよ」

 

「はい、目標は現在こちらへ向かって進行中。損害はありますけど小破に満たない位ですかね」

 

「了解」

 

あれだけ受けて小破未満か。

時間までの撃破はまず不可能と考えるべきか……となると。

 

「翔鶴さんと赤城さんは後退しつつ第二次攻撃の準備を」

 

「はいっ!」

 

「了解しました」

 

「鳳翔さんは彼我距離三十キロを維持、弾着観測と周期的に偵察。大和さんは鳳翔さんのサポートと余裕がある時に砲戦に参加して欲しい」

 

「畏まりました」

 

「大和、了解しましたっ!」

 

「榛名さんとビスマルクの二人は射程ギリギリから、利根さんと筑摩さんは二十キロを維持しながらそれぞれ砲戦を開始してくれ。神通と北上、そして私と暁は十五キロ辺りを維持しながら魚雷をまくよ」

 

「任せなさいっ!」

 

「任せてっ!」

 

「承知しました!」

 

「やっちゃいましょ〜」

 

「行きますっ!」

 

「腕がなるのう!」

 

「ふふ、行きましょうか利根姉さん」

 

「最後に一言、今回に限っては撃破では無く勝利を目標とする。つまり被害は最小限、火力は最大限とする事を意識して欲しい」

 

「「了解っ!!!」」

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆とながサイド◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いやぁ、流石に焦ったなぁ。

魚雷を百九十発以上も食らったこともだが、それ以上にそれを受けて尚小破すらしねぇこの身体に焦ったわ。

 

ーー確かにな。だが私が離れた後にどうなってるかは分からんのだからあまり無茶はするなよ?ーー

 

わぁってる、俺だって本当は響と平穏に暮らしてぇんだよ。

 

ーーほう、てっきり戦闘狂なのかとばかりーー

 

誰が戦闘狂だ誰がっ!──ったく。

必要があるから戦ってるだけだっつーの。

 

「じゅんびばんたんだっ」

 

「いつでもうてますよ〜」

 

「お、装填完了か」

 

俺は気を取り直して再び連装砲を構える。

狙いは勿論空母────って空母がどれだか本格的に分かんなくなってきたぞ。

下がっている二人はおそらく空母だと思うが今撃っても弾着までに射程圏外に出ちまうな。

んじゃあ三十キロ位にいる奴全員を撃てばいいか。

 

「三十キロ付近にいる奴らを順番に撃っていくぞ」

 

「まかせなっ」

 

「は〜い」

 

ーーふふふ、それにしてもまさかお前がこれ程考えながら戦う姿が見られるとはなーー

 

あぁ?仕方ねーだろうが。艦載機が落とせねぇ以上無理やり突っ込んでも被害が増すだけなんだからよ。

距離も一向に縮まらねぇわ魚雷は次々と流れてくるわでそりゃ考えたくもなるぜ。

 

ーーああ、見事なまでに相手の戦術に嵌っているな。最初の一撃でのこちらの損失を確認するや否や敵を倒す戦術から敵を抑える戦術へと即座に切替えた様だなーー

 

倒す戦術から抑える戦術?良く分からねえが つまり【ガンガンいこうぜ】から 【いのちだいじに】に作戦を変えたって事か。

なら俺に考えがある。

 

ーーほう、なにか作戦を思いついたようだなーー

 

ああ、魚雷を避けずに全速力で突っ込む!

 

ーーそれは……作戦……か?ーー

 

そうだ、だが何も勝算無く突っ込むわけじゃねぇぞ?

恐らくあの中に俺より速力の小さい奴がいるだろう。

 

ーー確か鳳翔と大和の最大速力はお前より小さかったかーー

 

やはりか。俺はそいつらに全力で接近して潰す。

そうすれば陣形も乱れる筈だ。

 

ーー成程、耐久と装甲に物を言わせた作戦とも言えないお粗末なものだが……この状況では他に方法も無いかーー

 

そうと決まれば善は急げってな。

俺は機関を全開にし、他より動きが遅いと感じた前方奥の二人へと突っ走った。

 

 

 

 

 

 

途中攻撃機による一斉雷撃と水雷戦隊からの雷撃を受けて中破手前まで削られたものの果たして鳳翔と大和の目の前まで接近する事に成功した。

 

「さて、散々やってくれたがとうとう追い詰めたぜ」

 

「あら、これは参りましたね」

 

「ここは大和に任せて!鳳翔さんは下がってくださいっ!」

 

「大和さん……ええ、分かりました」

 

「悪いが空母ば逃がさねぇぜ!」

 

俺は後退を始める鳳翔に向けて構えた連装砲を放つ。

だが、その直前に振り下ろされた大和の手刀によって砲口は下げられた砲弾は大きな水飛沫をあげて海中へと没した。

 

「やってくれるじゃねぇか……っ!」

 

「鳳翔さんの所へは行かせませんよ」

 

「いいぜ、まずはテメェから潰してやるよ!!」

 

「大和の力を舐めない事ねっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー戦闘終了ー

 

 

 

 

 

 

 

 




テンションが上がりすぎて予定より長くなってしまったので丸々戦闘回で止めます。
演習結果は次回のお楽しみに〜

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