「西野大佐からの報告は以上になります。」
「ああ、有難う大淀。」
白髪の老人は腰掛けた椅子を回し横須賀の軍港を見つめながら次なる一手を思案する。
「そうだな、彼女を門長くんの所へ送り込んで暫くは様子見だな。」
「しかしまだ彼の位置は特定出来ていませんが......」
「それならおおよその見当はついている。西野君の所から中部海域の境界にある前線基地跡地に向かって偵察機飛ばすように伝えといてくれ、それと彼女を一旦そっちに連れていくともね。」
「前線基地跡地......ですか?しかしあそこは既に深海棲艦の占領下では。」
「そんなこと彼には関係無いさ。それに燃料弾薬以外にあれだけの鋼材、設備が整った場所でなければ使い道が無いだろう。それと......」
老人は椅子を戻し大淀へ向き直り続けて指示を出す。
「彼女を送ってから一ヶ月程したらそれとなく宇和君の耳に入るようにしておいてくれ。」
「了解しました。」
大淀は敬礼すると踵を返し部屋から出ていった。
「邪魔が入らなければいいが......」
老人は机に肘を着き手を重ね祈るように佇んでいた。
一方その頃元前線基地では新たな艦娘が誕生していた。
「よっ!アタシ摩耶ってんだ。よろしく......な。」
摩耶が勢いよく開け放った扉の向こうには両手で顔を覆う電とそもそもそっぽ向いている響と何故かズボン脱いでいる門長の姿があった。
「な......な......なにやってんだてめぇはぁっ!!」
次の瞬間門長の顔面をライダー顔負けのドロップキックが襲う。
勢い良く吹き飛んだ門長は床を転がりながら執務室の壁へ激突した。
「ぐぅ......何しやがるてめぇ......」
「そりゃこっちの台詞だっ!チビどもの前で何しようとしてんだっ!」
門長は額に青筋を立てながら摩耶へと近づいていく。
「ポーカーで負けたから脱いでるだけだろうが、文句あっか。」
「どうみても嫌がってんだろうが。」
摩耶も門長を睨み付けながら近づいていく。
二人の距離が縮まっていき一触即発の危機に電が立ち上がった!
「二人とも止めて欲しいのですっ!!」
「「へ......?」」
突然の声に二人の視線は電へ向いた。
「私が......わたしが門長さんにトランプを......しようと言ったのが......い、いけないのです......」
今にも泣き出しそうな電を二人は慌てて慰めた。
「い、いや!俺があんな罰ゲームを考えたのが悪かった!」
「そ、そうだな。アタシもちょっとやり過ぎたぜ。」
「うぅ......ひっく......お二人には......仲良くして欲しいのです......」
「こ、この変態と仲良くだって!?」
「そりゃ無理な話だぜ。」
「あぁ?それはこっちの台詞だ!」
「ひっく......電のせいなのです......いなづまのせいでふ二人の仲が悪くなってしまったのですーーっ!!」
「わかったわかったっ!仲良くすりゃいいんだろ!」
「ほーら電!俺とあいつは仲直りしたぞ~!」
門長は電の方へ拳を突きだし親指を上に立てる。
「握手......」
「え......」
「仲直りの握手なのです......」
「それは......ちょっと......」
「やっぱり嘘なのです?」
電の表情が次第に曇っていく。
「嫌だなぁ~、嘘な訳ないじゃないか!これから夜露死苦ね摩耶サン!」
「ああヨロシクな
二人の間にミシミシと聞こえてきそうな位固い握手が交わされた。
「二人とも無事に仲直り出来てよかったのです!」
「お、おう......ソウダナー」
「あ、そういや二人建造したはずだがもう一人はまだ建造出来て無いのか?」
「あれ?さっきまで一緒に来てた筈だけどな。」
「ずぅーーっと此処にいるのねっ!!」
全員が声のする方へ視線を合わせるとスク水巨乳少女が手を振り回して地団駄を踏んでいた。
「あ、誰だお前?」
「さんざん放っとかれた挙げ句第一声が誰だとか酷いにも程があるのねっ!」
「彼女は潜水艦の伊19さんなのです。」
「自己紹介まで盗らないで欲しいのね!!」
「ひぅ!ご、ごめんなさいですぅ。」
「へぇっ!?べ、別に怒ってる訳じゃ無いのね。」
ゆっくりと動き出した門長は伊19の頭を鷲掴みにすると徐々に力をこめていく。
「おいこら駄乳、なに電ちゃん泣かしとんだ?埋めるぞ。」
「いたいいたいいたいっ!この仕打ちは幾らなんでもあんまりなのねーっ!」
「あ?反省の色が見れねぇなあ?そんなに壁と一つになりたいか。」
伊19を掴んだまま門長は壁際へと歩きだした。
「ちょっ!?イクが悪かったのね!許して欲しいのねん!」
「あ~ん?反省してるようには見えねぇなぁ。」
「わ、私は大丈夫なのですっ!だからイクさんを放してあげてほしいのです。」
イクの言葉は残念ながら門長には届かなかったが、電の一言により壁の改修素材になる運命からは解放されたのであった。
「まあ......最低限の資材で建造してなんでお前らが出たのかは良いとして、此処に来た以上生きるために食糧調達はやって貰うぞ。」
「別にあたしらは最悪なにも食わなくてもくたばらねえぞ?」
「じゃあお前は飯無しな。」
「はぁ?ふざけんなっ!あたしはてめぇが生きるためにとかいうから死なねえっていっただけだろ!」
「うるせぇな、飯食うために手伝うか爪楊枝くわえて黙って見てるかの2択なんだよ。」
摩耶は歯軋りをしながら門長を睨み付ける。
「......わーったよ、だけどてめぇの分はねぇからな!」
「ちっ、別に構わねぇよ。じゃあ駄乳は魚とか取ってこいよ、解散」
「ちょっ!イクは駄乳でも海女さんでも無いのねっ!」
「周り全部海なのに魚食わんでなに食うんだよ。」
「問題はそこじゃないのねっ!提督はもっと話を聞いた方がいいの!」
「俺は提督じゃない、以上。解散!」
門長は意義を唱え続けるイクの首根っこを掴み廊下へと放り投げた。
「ほら、お前もどっか行け。」
「あ?てめぇみたいな変態を野放しに出来るかっ!」
「失礼な奴だな、俺ほど純愛な男はいねぇだろ。」
「子供と脱衣ポーカーをするのが何処が純愛だって?」
「只の戯れに決まってんだろ?実際に一回も勝ってないしな。」
「勝てないの間違いだろどーせ。」
摩耶の鋭い突っ込みが門長の心を深くえぐる。
「この......クソアマがぁ......ならば戦争だ。」
「お、やんのか?」
門長は机に勢い良くトランプを叩きつける。
「てめぇの裸なんか一切見たくねぇが全部ひん剥いて生き恥さらしてやらぁっ!」
「そっくりそのまま返してやんぜ!」
二人の壮絶なる脱衣ポーカーが幕を............閉じた。
「クソがぁぁっ!!」
「なぁ............幾らなんでも弱すぎねぇか?」
開幕と同時に響達は摩耶が撤退させたので難を逃れたが直接対峙していた摩耶は完全勝利したにも関わらず精神的に深刻な損害を受けていた。
「......取り敢えずパンツは穿けよ。」
「敵の情けは受けねぇ。」
「情けじゃねえっ!目に毒だから穿けっつってんだよ負け犬が!」
摩耶が怒鳴ると門長は無言でパンツを穿いた。
「覚えてろ、借りは必ず返す。」
去り際に一言だけ呟くと門長は部屋を出ていった。
「......なんだこれ、これじゃ只の弱いもの苛めじゃねぇか。」
摩耶は肩を竦めながら机に置かれたままのトランプを眺めた。
「十戦してツーペア以上の役が出ないとか本当にわざとなんじゃねーだろうな。」
摩耶はトランプを片付けながら一人不満そうに呟いていた。
今回は新しく仲間に加わった二人の自己紹介でした。
今度からの建造回にほぼ1話使うかは未定ですが折角なんで使いたいですね。