響乱交狂曲   作:上新粉

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途中深夜テンションが入ったせいでストーリーに影響を及ぼしそう……なんつって。
まあ文字数が伸びてしまった原因ではありますかねw


第三十五番

 全員を集めての会議はこれで何度目かになるが今までとは比べ物にならない程殺気立った空気が部屋を包み込んでいた。

 

「あ~……それでは新しい仲間を紹介しよう。彼女は離島棲姫、この辺を指揮している組織の幹部らしい。だが俺が離島を守る代わりにここにいる俺以外には危害を加えない事を約束してあるから安心していい」

 

「……その深海棲艦はここを襲った首謀者……ですよね」

 

「モチロンソウヨォ?ソレトココノ艦娘共ニ危害ハ加エナイトハ言ッタケレド、馴レ合ウツモリハナイカラ」

 

離島の見下す様な視線を受けた吹雪は、更に殺気を込めて離島を睨み返す。

俺はその間に入り、吹雪含め全員の説得を続ける。

 

「突然の事で納得し難いだろうが、彼女は根は良い子なんだって事を皆にも知って欲しい」

 

「はぁ?何を訳の分からない事を……」

 

「そ、そうデスヨミスター。いい子はこんな事しませんネー」

 

「ワタシガイイコダッテ?面白クモ無イ冗談ネ」

 

「いや、離島がこんな行動を起こしたのは俺に原因がある……らしい、な?」

 

俺は確かめる様に離島を見つめていると離島は憎しみの篭った瞳で睨み付けながら答えた。

 

「…………ソウネ、オマエガ居ナケレバリ級ハ沈マナカッタワ」

 

「そうかもしれん。だがしかし、だからと言って響達が巻き込まれるのは認められん。そこで俺は先に伝えた提案を持ちかけた。すると離島はその提案を呑むにあたってある条件を出したんだが、何だと思う?」

 

俺は吹雪を見ながら答えを伺う。

吹雪は少し考えてからゆっくりと口を開いた。

 

「侵攻中の深海棲艦を沈めずに制圧……でしょうか」

 

「惜しいな……正解は深海棲艦じゃなく艦娘を誰一人沈める事無く戦いを終わらせたら、だ」

 

「私達を?つまり絶対に沈める自信があったということですか」

 

「それもあるだろうが、きっと俺が有言実行出来る奴かどうかを知りたかったんだと俺は思う」

 

「絶対ニ沈メラレル自信ガアッタカラヨッ!都合ノ良イ妄想ハヤメテクレル!?」

 

「でもよ、吹雪が言ったように深海棲艦を沈めずに制圧する方がお前は仲間を守れるし俺にとっては無茶な注文だろ?」

 

まあ結果としてはどっちも成し遂げたんだが。

 

「ソレハ……」

 

「つまり、テメェの仲間一人護れないで敵である自分を護ろうなんて甚だ可笑しいって事だろ?」

 

「…………」

 

「ま、そういう事だ。根本的な原因は俺にあるんだから離島をあまり悪く言うのは無しにしてくれ」

 

俺は話を切り上げ周囲を見渡す。

ここで建造された摩耶や竹は兎も角、響達は流石に直ぐに受け入れるのは難しいか…………だがきっと分かってくれると俺は信じている。

 

「よし、難しい話はこれくらいにして飯にしようか」

 

「おい変態、テメェは先に風呂に入りやがれ」

 

おおっと、言われるまで気付かなかったが中破したままだったな。

 

「しかたねぇ、ちょっくら言ってくるわ。響も来るか?」

 

「うるさい」

 

一蹴されてしまった……軽いジョークなのに。

 

「摩耶さん達の修復は私がやりますんでこの後工廠にいらして下さいね」

 

「お、わりぃな」

 

「センキュー明石」

 

「なあ、俺もぱぱっと修理出来ねぇのか?」

 

無理(面倒なのでやりたくない)ですねっ」

 

イラッ……運の良い奴め。響達が見てなきゃぶん殴っていたところだ。

 

「わぁったよ、行ってくる」

 

俺は仕方なく引き下がり部屋を後にしたのだが……

 

「ん?何だあれは……」

 

海の向こうにある黒い点々に気付いた俺は一旦部屋に戻る事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 基地を出た俺達を追い掛けてきた十隻の深海棲艦から逃げ続けてから一日が経過し漸く目的地の島が見え始めたが、基地を防衛していた時から合わせて丸二日間気を張り続けていた為全員の顔からは疲労が見え始めていた。

 

「艤装が無ければ即寝だったぴょんっ!」

 

確かに艤装を外した瞬間寝付いてしまうだろう強い疲労を感じつつも飛んでくる艦載機を迎撃していく。

 

「卯月、あと少しだ。踏ん張ろう」

 

「ま、着いたからって大丈夫とは限らないけど、ねっ!」

 

「それでも、やるしかないよねっ!」

 

「夜更かしはお肌の天敵……なんて言ってられないものね」

 

「夕月、先に上陸して支援を頼んできて!皆はもう少し持ちこたえていて」

 

「了解した。直ぐ戻る」

 

「こっちもなんとか抑えとくクマー!」

 

俺は全速で艦隊を離れMS諸島前線基地跡へと上陸した俺は、そこで恐れていた事態を目の当たりにしたのだった。

 

「そんな……お前はそちら側だったのか……」

 

件の男、門長が深海棲艦を……それも姫級の手を引っ張って建物から出てきたのである。

 

何を動揺している、その可能性も分かっていただろう。だったらどうする。そうだ、俺は姉達に迷惑が掛かる前に刺し違えてでも止めるだけだ!

俺が魚雷を構え門長へ突撃しようとしたとき。

 

「おらぁっ!!聞こえてるだろ深海棲艦共!!戦闘を止めろ、これはここに居る姫様の命令だ!」

 

「フ~ン、ソレデ私ヲ連レ出シタノネ」

 

「わりぃな、これが離島の仲間をこれ以上沈めない一番最良な方法なんだ」

 

「……好キニスレバ」

 

暫くすると、後方から聞こえていた砲撃や艦載機の音が聞こえなくなっていた。

 

「これは一体……?」

 

「よっ、久しぶりだな」

 

唖然とする俺に門長は親しげに挨拶してきた。

 

「あ、ああ……ひさしぶりだな」

 

「成る程な、俺が大破させた(らしい)旗艦を沈めたのはお前達だったのか」

 

「大破させた旗艦?」

 

そういえば、少し前に大破したリ級改flag shipの艦隊と会敵したことがあったが……まさか。

 

「つまり、その旗艦の仇を討つ為に奴らは基地を攻め入ってきたのか?」

 

「エエ、ソノ通リヨ。全テハリ級ノ仇ヲ取ル為……ケレドコノ状況ジャ無意味ニ部下ヲ沈メルダケダカラクチヲダサナカッタダケヨ」

 

そして目の前に居る姫こそが俺達の基地を襲った黒幕という事か……

俺が言葉を詰まらせていると司令官達が島へ上陸し、こちらへと向かってきた。

 

「夕月!大丈夫クマか!?」

 

「球磨っ、そっちこそ大丈夫だったか?」

 

「おかげさまで、艦載機も深海棲艦も引き上げて行ったから問題無いわ」

 

「うぁ~、本当に一緒に居るよぉ~」

 

「それでも彼らが我々を救ってくれたのは事実だ」

 

感謝を伝えようと門長達の方へ向き直ると西野司令官が門長達と目の前で向かい合っていた。

 

「司令官っ!?」

 

幾らなんでも無防備すぎると止めるよりも先に司令官は口を開いた。

 

「門長さん、離島棲姫さん。この度は助けて頂き有難う御座いました」

 

そして帽子を脱ぎ深々と頭を下げて礼を述べた。

 

「だれだてめぇ?俺は彼女達を助けただけだ」

 

「コイツガ勝手ニヤッタダケデワタシハ関係ナイワ」

 

「すみません、紹介が遅れました。私は西野永海、階級は大佐。南方前線基地の司令官です、以後お見知りおきを」

 

「ふ~ん、俺達の事は知ってるみたいだし紹介は要らねぇな」

 

「大丈夫です、それと離島棲姫さん。先程夕月の通信越しに聞きましたが、今回の事は私達が沈めた部下の仇を取る為だと言うのは事実ですか?」

 

「……ダッタラナンダッテイウノ?」

 

離島棲姫は不敵に笑いながら答えるがその目には明らかな敵意が込められていた。

しかし司令官は頭を下げたまま続ける。

 

「本当に、ごめんなさいっ!」

 

「……ソレダケデ赦サレルトデモ思ッテルノカシラ?」

 

「勿論赦されるとは思っていないわ。ただ、この命は渡せない……その代わり、出来る限りの償いはするわ。だからこの子達には手を出さないで」

 

「虫ノイイ話、ヤッパリ死ヌノハ怖イノネ」

 

「そうじゃないわ……この命は皆の想いを背負っているから、此処で死ぬ訳にはいかないの」

 

司令官が答えると不敵な笑みを浮かべていた離島棲姫はみるみるうちにその表情(かお)を怒りで歪めていった。

 

「……ナニヨソレ、フザケタコト()カスワネ……」

 

「ふざけてはいません」

 

「ナラ戯言ヨッ!ソンナ戯言ガ通用スル訳無イデショ!!」

 

「何と言われようと私は生きなければならないんです!」

 

「ナニガ皆ノ想イヨ…下ラナイワッ!」

 

「離島棲姫さん。貴女だって部下の想いを背負っているから皆さんがついてくるのではないですか?」

 

「…………五月蝿イ……モウダマリナサイ」

 

「司令官っ!!」

 

司令官の一向に引かない態度に痺れを切らした離島棲姫が艤装を展開し、対空砲を司令官へ向けて構えた。

俺達は離島棲姫へ連装砲を構えるが奴に取っては威嚇にもならないだろう。

俺達が手も足も出せなかったその時、一つの影が二人の間を割って入った。

 

「と、門長……さん?」

 

「ナニヨ、オマエニハ関係無イデショ?ソコヲドキナサイ」

 

「まあな、だがこの女を此処で見殺しにすればそこにいる幼き美少女達を悲しませる事になる」

 

「......ソンナコトデ邪魔ヲスルツモリカシラ?」

 

「そんなことではないんだっ!幼き美少女達に幸せを、それが俺の最!優!先!事項なんだあぁぁぁっ!!」

 

この男、ひょっとしなくてもロリコンだった......のか。

 

姫級の深海棲艦すら一歩退かせるほどの魂の叫びを上げた後、奴は司令官を鬼の形相で睨み付けながら司令官の両肩を掴み上げた。

 

「おい女ぁ、お前の話はさっぱりだったがなぁ。もしこれ以上離島を困らす様ならただじゃおかねぇぞ?」

 

「あいつつつつつ……ちょっ、私これでも上官なんですが!?」

 

「あ"あ"?んなもん関係無ぇよ、死なない程度に破壊してやろうか」

 

「ひっ!?ご、ごめ……」

 

「待てっ!大人しく司令官を離して貰おう!」

 

門長が司令官の肩を掴み上げた時に直ぐ動き出していた俺達は門長を後方から砲塔を頭部へ突き付けた。

 

「お?いや、これは……仲裁、そう!仲裁に入っただけだ!」

 

門長ば手を離すとわざとらしく両手を顔の辺りまで上げてひらひらと左右へ振り始めた。

 

「全く、油断も隙も無いぴょんっ!」

 

「やっぱりこいつおかしいクマ」

 

「あ、なんか言ったか?アホ毛引き抜くぞアホ茶毛!」

 

「はっ、やってみろクマ!!」

 

「落ち着け球磨っ、そんな事しに来た訳では無いだろう!」

 

「邪魔するなクマぁっ!あいつだけは水底へ沈めるクマー!!」

 

荒ぶる球磨を卯月と二人で抑え、如月にアイコンタクトでこの場を任せる事にした。

如月はこちらへ微笑み返すと門長の方へと歩き出した。

 

「あの、門長さん?本題に入っても良いかしらぁ?」

 

「ん?ああ、ええっと?」

 

「如月と申します」

 

「ああ、如月ちゃんね。どうしたんだ?」

 

「いえ、私達が此処に来た理由をまだお話していませんでしたから」

 

「それもそうだな、どっかの誰かが此処に来るなり訳の分からんことを言い始めたからな」

 

そういって門長が睨んだ先を見ると司令官が申し訳なさそうに正座をしたまま落ち込んでいた。

 

「ごめんなさいね、司令官も色々思う所があるのよ」

 

「ま、別に良いけどよ。それで、理由ってのは?」

 

「ええ、実は私達の基地が深海棲艦の襲撃を受けて……私達は皆に司令官の事を頼まれて命からがら基地から撤退したのだけれど」

 

「なるほど、つまり此処で暫く匿って欲しいという事か」

 

「そのつもり、だったのだけれど……」

 

如月、一体何を……?

 

「門長さん……如月の我儘、聞いてくれるかしらぁ?」

 

「良いでしょう、何でも言ってみなさい」

 

「え……?」

 

如月は即答する門長に唖然とするも、直ぐに気を取り直し話を続ける。

 

「あ、ありがとう。えっとね、私達の基地にいる仲間を助けたいのだけれど……力を貸して頂けないかしら?」

 

「如月っ……それは」

 

「分かってるわ夕月ちゃん、今から行ってもきっと間に合わない……それでも、自分の目で確かめる前から可能性を捨てたくないじゃない?」

 

……確かにその通りだ、出来るなら助けたい。その想いは皆同じだ。

 

「……そうだな。門長、俺からも頼む」

 

とはいえ門長は今中破以上みたいだし望みは薄いか……

 

「いいぜ、んじゃ早速いこうか」

 

しかし、あの男は数瞬も考えずに即答したのだ。

俺達が呆気に取られる中、離島棲姫が蔑むように問い掛けた。

 

「ソンナ状態デ行クナンテ馬鹿ナノカシラ?」

 

「ん?離島について来て貰えば戦う必要は無いだろ?」

 

「勘違イシナイデクレル?私ハオマエノ仲間ニナッタワケジャナイノ。死ニタケレバ勝手ニ死ンデキナサイ」

 

そう言って離島棲姫はさっさと建物内へと戻って行った。

 

「駄目かぁ……悪ぃ、明石呼び出すからちょっと待っててくれ」

 

そして門長は徐ろに無線機を弄り始めた。

 

「此処には明石も居るのか……」

 

「うーちゃん達の所には居なかったねぇ」

 

「う…………済まない」

 

「ちょっ、そういうつもりで言ってないし、それに夕月が謝る所じゃないぴょん!」

 

そ、そうだった……俺は夕月だ、それ以上でもそれ以下でもないだろう。

落ち着け…………うむ、もう大丈夫だ。

 

「よしっ、直ぐに明石が来る。そしたら出発だ」

 

俺が独り気持ちを落ち着かせている間に、門長の方も話がついたらしい。

 

「ほ、本当に大丈夫なのか?」

 

「ああ、治しながら向かうから大丈夫だ」

 

「さ、流石工作艦……幾ら何でも出鱈目過ぎるぴょん」

 

俺の知っている工作艦と違うんだが、まさかそれが普通なのか……

 

「あ、あのっ!私もついて行きます」

 

「あ?お前が来ても足手まといだろ」

 

「それはっ、そうですが……」

 

「邪魔だから基地で大人しく待ってろや」

 

「そんな言い方しなくてもっ!」

 

「まあまあ提督、出撃は睦月達に任せるにゃしぃ!」

 

「大丈夫よ司令官、必ず無事に帰ってくるわ」

 

睦月と如月がいきり立つ司令官に寄り添う。

 

「陸奥さん達については行ってみなきゃだけど、アタシらは欠けることなく戻って来るからさー。まあ、待っててよ」

 

「うーちゃん達は伊達にこの辺りを遠征してた訳じゃ無いのでっす!」

 

「ああ、だから司令官には我々の帰りをどっしりと腰を据えて待っていて欲しいものだな」

 

「みんな……分かったわ、基地の子達の事頼んだわよ」

 

司令官の敬礼を受けた俺達は力強い礼を返した。

 

「「「「「了解っ!!」」」」」

 

「クマぁ……ん、一体何があったクマ?」

 

「はぁ、やっと正気を取り戻したか。出撃だ、これより南方前線基地に一度戻り仲間の安否を確認しに行く」

 

「そういう事なら了解クマ。でも奴とはいずれ決着(ケリ)をつけてやるクマー」

 

少しして明石と合流した俺達は再び海へ立ち、来た道を門長達と共に戻り始めたのであった。




夕月について私の気まぐれ短編集「卯月と馬鹿」に興味が無い方様に補足。
夕月は元々卯月が来た鎮守府(基地)を異次元から運営していた転生者の様なものである。因みに元の性別は男。
短編を観なくても問題無いと以前言いましたので補足させて頂きました。

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