響乱交狂曲   作:上新粉

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次は日常回といったな、あれは嘘だ。
いやぁ……此処を逃すと書くタイミングを失いそうだったのでつい(^_^;)

それと今回は三人称視点となります。
話数で言えば六話ぶりですが時間がたったせいで久しぶりに感じますねぇ。


第三十四番

門長と離島の過去最大級の抗争は無事終幕を迎えた。

しかし、全てが終わった訳ではない。

時同じくして南方前線基地では壊滅寸前の危機的状況へ追い込まれていた。

数は八十隻以上いるものの、レ級flagshipの様な飛び抜けた戦力が入っている訳ではない。

だが、深海棲艦の加勢があった向こうとは違い空母が圧倒的に足りていない為、制空権を完全に奪われ基地が壊滅するのも時間の問題であった。

 

「何とかしないと……このままじゃ……」

 

白い軍服に身を包んだ黒髪ポニーテールの女性、西野永海(にしのなみ)は執務室で前髪を滅茶苦茶に掻き乱しながらも打開策を見つけ出そうと必死になっていた。

そんな中、二人の少女が扉を蹴破り部屋の中へ飛び込んできた。

 

「う、卯月ちゃんに夕月ちゃん!?」

 

「しれぇかん!直ぐに此処を出るぴょん!」

 

「で、でもどうやって撤退するというの!」

 

「……陸奥さんや大和さん達戦艦と赤城さん加賀さん達空母が注意を惹きつけてくれている間に我々第四艦隊が司令官を連れて最寄りの基地へ向かう」

 

「そんなっ!彼女達を見捨てるなんて……」

 

西野が作戦に異を唱えようとしたところに夕月が割込む。

 

「司令官、分かっているだろう!どの道このままでは全滅は免れない……」

 

「だからって……」

 

「う~ちゃん達だって仲間を見捨てたくはないぴょん……でも、これは陸奥さん達の意思なんだぴょん」

 

「陸奥達が……」

 

「ああそうだ、司令官が我々を護ろうとしてくれているのと同じ様に我々も司令官の事を護りたいんだ」

 

「…………」

 

「心苦しいのは分かってはいるが先程言ったように時間が無い、済まないが命令違反の処罰は後で受けよう」

 

「こっちだぴょん!」

 

そういって夕月と卯月は思い悩む西野の手を取り執務室を離れた。

 

 

 

 

 

 「こちら夕月、今司令官を連れ出した」

 

「良くやったクマ、夕月達はそのまま工廠へ行くクマー!」

 

「分かった、そっちは?」

 

「球磨達も直ぐに向かうクマ、だけど……最寄りとは言えなんで態々あいつの居る所なんだクマ」

 

球磨の疑問は最もである。

確かに前線である南方基地は深海棲艦の侵攻をいち早く察知する為に置かれているので一番近い基地でもタウイタウイ泊地に設営されている基地であり、門長達の所に向かうより十倍以上距離がある。

だからと言って中部海域にある基地へ向かうのは深海棲艦の中枢へ乗り込む様なものであり、普通に考えて無謀以外の何者でもなかった。

それでも夕月には確信は無くとも理由はあった。

 

「ああ、勿論ただの思いつきじゃないさ。深海棲艦が何を狙って攻めて来たのか解らないが、もし司令官又は基地の艦娘含め全員ならば追ってくる可能性がある」

 

夕月の言いたい事を理解した如月が夕月に代わり答えた。

 

「なるほどねぇ、確かにあれだけの数を本土に近づけさせる訳には行かないわねぇ」

 

「ああ、戦力を余裕で割ける位に優勢な奴らが執拗に我々の基地の前で留まっているのを見るに目的は基地の壊滅か我々の殲滅だ。ならば我々があちらへ向かえば少なくとも本土まで危険が及ぶ事は無いだろう」

 

本土へ危険が及ばないように……確かにそれもあるが夕月にとってそんな事は重要ではない。

彼女の本当の目的とは、卯月をそして姉達を護りたい。

それこそが夕月が此処に来た理由であり、此処に居る理由。

そして、普通の鎮守府よりもあの男が手を貸してくれた方が助かる可能性が高いと踏んでの事であったが……

 

「でもさ~、噂じゃ深海棲艦と手を組んでるって話だよ?頑張って撤退したけど捕まりましたなんて勘弁だよあたし」

 

「そうだクマ、あいつは極悪人なんだクマ!やっぱりタウイタウイまで撤退した方が良いクマよ」

 

二人の反対に夕月は内心渋い顔をする。

一度だけとはいえ、門長と話した事のある夕月には彼が噂に聞くような極悪人とは思えなかったからだ。

しかし、だからといって皆の反対を押し切れるほどの根拠が無いのもまた事実であった。

 

「望月……球磨……」

 

「ちょっと待つぴょんっ!」

 

夕月が引き下がろうとしたその時、黙って聞いていた卯月が待ったを掛ける。

 

「卯月……?」

 

「確かに悪い奴かもしれないけど、うーちゃん達はあいつと直接話した訳じゃ無いぴょん!」

 

「まあ、あたし等は眠らされてた訳だしねぇ」

 

「あれは……うーちゃんも悔しかったけど……でも冷静になって考えればそこがまず変だぴょん」

 

「まあそうねぇ。麻酔弾なんて普通使わないし、その上夕月ちゃんだけ寝かさずに資材を三分の一だけ持って行ったなんて不思議よねぇ」

 

「ん~……言われてみれば可笑しな泥棒さんにゃしぃ」

 

卯月の説得により如月と睦月の考えが揺れた。

そして卯月は畳み掛ける様にさらに続ける。

 

「それに、夕月が行きたいって言うならうーちゃんは何処にだってついてくっぴょん!!」

 

卯月の一言に睦月と如月はお互いに顔を見合わせ、そして微笑み合って言った。

 

「そうだねっ!お姉ちゃんもついていくぞよ。にひひっ」

 

「う~ん、そうね。かわいい妹に頼まれたら断れないわねぇ」

 

「あんた等からしたらあたしも妹なんだけどぉ~……まぁ滅多に我儘言わないし、今回は()()()()()()譲るとするか~」

 

「姉さん達…………あ、ありがとう」

 

卯月達と一緒に生活を始めてから一年以上経つが未だにちやほやされる事に慣れていない夕月は顔を夕日の様に赤く染めながら小さな声で感謝を伝えた。

 

「あ~……もういいクマ……球磨達の目的は提督を護る事クマ、だからどっちが良いかの最終判断は提督に委ねるクマ~」

 

こんな状況にも拘らず甘々な空気全開の睦月型を前に球磨は半ば呆れながら判断を西野に放り投げた。

 

「私!?え、ええと……」

 

唐突に話を振られ動揺する西野を夕月が落ち着かせる。

 

「勝手に話を進めてしまって済まなかった司令官。安心して欲しい、どちらへ向かおうとも我々は全力で司令官を護る」

 

「そうだクマ―、ただどっちに行ってもリスクは発生するから提督の行きたい方を選べば良いクマ」

 

「そう、ね……」

 

西野は目を瞑り秘書艦である陸奥の顔を思い浮かべながら大きく深呼吸をしてから、目を開き指示を出した。

 

「これより陸奥達が前線を抑えてくれている間に私達はMS諸島前線基地跡まで撤退します」

 

「「「「「「了解(クマ)(ぴょん)!!」」」」」」

 

(陸奥、私はこの子達と生きてみせる。だからあなた達も、どうか……)

 

陸奥達の思いを胸に、工廠で合流した西野達は前線基地を去って行った。

 




少し短いですが戦闘は色々と避けたかったので此処までとなります。
次こそは日常回行きたいですねぇw

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