響乱交狂曲   作:上新粉

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こりゃあ、驚いた。まさか四千文字も書いて此処まで話が進まんとは……
はよ続き書かねば(紙の様に軽い紙命感


第三十二番

 「こちら不知火、開始位置に到達。」

 

「こちら暁、こっちも今到着した所よ」

 

「了解、行動不能時はこちらの回線へ各自報告するように。それでは演習開始です」

 

「まずは第一戦速のまま前進するわ、竹も響も単縦陣で私に続いて。響は電探に反応があったら直ぐに教えるのよっ」

 

「りょーかいっ」

 

「わかった」

 

不知火さんとの通信を終えると同時に姉さんの指示に従い私たちは縦一列となり東へ真っ直ぐと進み始めた。

三十分程進んでいると私の電探が三つの反応を捉えた。

 

「姉さん、十一時の方向に反応があったよ!えと……単横陣で方位二七〇度へ進行中」

 

「このままだと反抗戦になるわね、よしっ!回り込んで丁字戦不利に持って行くわよ!」

 

「う~ん、いまだに違和感が抜けないかなぁ」

 

「そうだね、少し気にはなるけど仕方ないさ」

 

「そんな事は慣れなさいっ。()()私達には有利だとしても妖精さん達がそう言っている以上統一しなきゃ認識に齟齬が発生しちゃうでしょ」

 

そう、姉さんのいう事はもっともだ。そして妖精さんが何者にも縛られない存在である以上必然的に私達が合わせる必要がある為、私達艦娘にとって一方的に有利な状況にも拘らず今の呼び方となっている。

 

「取り舵一杯!直に相手の索敵圏内に入るわ、気を引き締めて!」

 

「「了解っ!」」

 

不知火さんの電探(サングラス)は今回使用しないと言っていたので恐らく駆逐艦娘に初期搭載されている索敵距離十六キロ程の電探を使用しているはず。

そう思い電探を確認すると相手との距離は既に十七キロを切った所であった。

 

「姉さん!彼我距離十七キロ切ったよ、予定通り丁字不利だ!」

 

「わかったわっ。十六キロ以内に入り次第絶え間なく撃ち続けるのよ、そうすれば相手は反撃に出にくいわ」

 

「さて、やりますかっ」

 

「まっかせてぇ!」

 

しかし、何故か竹は足に着けている四連装酸素魚雷をおもむろに発射し始めた。

 

「ちょっ!?なにしてんの!」

 

「え?だってこの距離から当てたら凄くない?」

 

勝手に魚雷を放った竹に対して姉さんはとても怒っていた。

 

「いい?その身勝手な行動一つで仲間を沈める事だってあるの。あなたは何の為に旗艦が居ると思ってるの?」

 

「……ごめんなさい」

 

「ごめんなさいじゃないでしょう?誰かが旗艦を努めなければ艦隊戦なんて成り立たないの。これは私達……いえ、深海棲艦にだって言える事よ」

 

「ね、ねえさん。竹だって反省してるみたいだしそれくらいに……」

 

「……そうね、今は兎にも角にも砲撃開始よ」

 

そういって姉さんは砲撃を始める。

私と竹も続いて砲撃を始めていると姉さんは少しだけ気まずそうに一言だけ付け加えた。

 

「別に何も考えるなって言っている訳じゃないわよ?旗艦に確認が取れる状況なら確認してから動けって言ってるの」

 

「……うん、わかった!次からは言ってから撃つね!」

 

「ちゃんと旗艦が許可してからよ?」

 

「おーけーおーけー!」

 

「もうっーーって砲撃だわ!全員面舵一杯っ!!」

 

相手の砲撃を捉えた姉さんはすぐさま私達に指示を送り、それを受けた私達は右に大きく回頭することによって砲撃のほとんどを避ける事に成功したが……

 

「くっ……」

 

「響っ、大丈夫!?」

 

「大丈夫だよ、まだ小破さ」

 

一発の砲弾が運悪く私の肩に直撃してしまったが有効射程ぎりぎりからの射撃だった為、大事には至らなかった。

 

「大丈夫ね、じゃあ直ぐに砲撃に戻って」

 

「分かった」

 

そうだ、私はもっと強くならなきゃ!電も姉さんも皆を護れる様に。たとえ演習だって負けるわけにはいかない!

私は直ぐに連装砲を構え直し砲撃戦へと戻った。

とその直後、松から行動不能を知らせる通信が入ってきた。

 

「おいっ、竹ぇっ!!お前だろあんな距離から適当に魚雷ばら撒きやがったのは!」

 

「やったぁ!運も実力の内ってねっ!当たる方が悪いのさっ」

 

「認められるかぁっ!!」

 

「あちゃ~、あの距離で当たるなんて松も相当運が無いわね……」

 

「松、まだ演習中だわ。静かにするのね」

 

「う……すまない……」

 

そのまま向こうからの通信は切れてしまった。

 

「いやぁ、やったね!」

 

「竹も調子に乗らないの、たまたま当たっただけだしそもそも人の命令を無視してんだから」

 

「むぅ……」

 

姉さんに窘められむくれている竹を眺めながら何の気なしに電探を確認すると私達六人の他に反応が不知火さん達の近くに増えていた。

 

「不知火さん!そっちに何かいるよ!」

 

私は直ぐに回線を繋ぎ不知火さんへ報告すると間も無くして不知火さんから返事が返ってきた。

 

「こっちは問題ないわ、此処二、三日島を囲っている深海棲艦の一人よ。但し良くない事が起こっているみたいね」

 

「良くない事?一体何が起きたっていうの不知火」

 

不知火さんは一息ついてから私達に深海棲艦から聞いた内容を伝えた。

 

「七十を超える敵深海棲艦の大艦隊がこの基地目指して進行中、三時間後にはここは戦場となるわ」

 

「七十だって!?そんなのどうすればいいんだい!」

 

「ほんと、無茶苦茶もいいとこだねぇ」

 

「確かに厳しいわ、でもここの深海棲艦と協力すれば撃退は可能なはず」

 

「なにそれっ!?深海棲艦と協力する艦娘なんて聞いた事無いわよっ!」

 

「そうですか?不知火は横須賀で見ましたが」

 

「そんなのどう見ても悪役じゃない!」

 

深海棲艦と協力することを姉さんは猛反対している。

姉さんの反対する理由は分かるし私だって鎮守府の仲間を奪った事は許せない…………けど。

 

「姉さん、私は不知火さんに賛成だな」

 

「響っ!?貴女まで深海棲艦と協力しようなんて言うの!?」

 

「姉さん、私達艦娘だって着任した鎮守府の環境や個体によって考え方は様々なんだ。だったら深海棲艦だって全てが敵だとは限らないんじゃないかな。それに……私はそんな深海棲艦に一度助けて貰ったんだ」

 

「響……わ、私だってこの間の深海棲艦には響を護ってくれた事は感謝しているわ!」

 

「だったら……!」

 

「うっ……そ、そうね……仕方ないわね。どうせ私達だけじゃ太刀打ち出来ないもの」

 

「ありがとう、姉さん」

 

「皆さん納得されたようですね、では彼女には伝えておきますので先に補給に戻って下さい」

 

「行こう、姉さん!」

 

私は姉さんの手を取って一旦補給の為に工廠へと戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 「お帰りなさい皆さん。演習はどうでした?」

 

「演習は中止になったわ。明石さん、悪いけど六人分の補給を準備してくれるかしら?」

 

「ええ、勿論用意できていますよ」

 

「さっすが明石さんだね!」

 

私達は明石さんの用意してくれた燃料と弾薬を補給しながら先程の話とこれからの動きを伝えた。

 

「なるほど、七十を超える深海棲艦をですか……」

 

「そうなの、だから明石さんには補給と修理を頼みたいのだけれど良いかしら?」

 

「そうですねぇ……補給は此方の妖精さんが用意してくれますので私は前線で皆様の修理を受け持ちましょう」

 

「それは、助かるけど……危なくないかしら?」

 

「そうだよ、幾ら練度が高いとは言え明石さんに無理はさせられないよ」

 

「確かに、工作艦が前線に出るのはどうかと思いますが」

 

「ええ……と、大丈夫なんだけどなぁ……」

 

工作艦の戦闘能力はほぼ皆無に等しい。その上耐久も回避も高くない為、前線に出る事がどんなに危険であるかなんて誰の目から見ても想像に容易かった。

しかし、そんな全員一致の反対を押し切ろうとする存在が突如現れた。

 

「ヘーイッ!話は聞きましたヨー。だったらアカシは前線に出すべきネー」

 

「金剛さん、この暑さで頭がやられてしまいましたか?」

 

「オウ、ベリースパイシーネー不知火。ワタシだって他のアカシならそんなインポッシブルな事言いまセーン」

 

「ここの明石さんなら平気だとでも?」

 

「イエース!なんたって彼女は呉の魔法使いと呼ばれ、数々の前線にて泊地修理ならぬ前線修理任務を請け負っていたんですからネー!」

 

「金剛さん、その呼び名は止めましょうよ……」

 

「呉……そうでしたか。分かりました、そういう事ならぜひお願いします」

 

「ま、まあ明石さんと金剛さんが大丈夫だっていうならわかったわ」

 

「でも明石さん、無理はしないで」

 

「わかってますよ!私だって簡単に沈むわけにはいきませんからね!」

 

「さぁ、ブッキーもマヤも外で待ってるネー!レッツゴー!」

 

補給を済ませた私達は吹雪さん達の元へと急いだ。

 

 

 

 

 

 海岸へ出ると既に吹雪さんと摩耶さんが海に出て青空を睨み付けていた。

 

「ブッキー!マヤ!お待たせしましたネー」

 

「響さん……あなたは下がってたらどうですか?」

 

「いやだ、私も戦うよ」

 

「そうですか……どうなっても知りませんよ」

 

吹雪さんはそれだけ言うと興味なさげに顔をそらした。

 

「吹雪さん……」

 

やっぱり嫌われてるんじゃないかと不安に駆られていると海面から一隻のワ級が姿を現した。

 

「皆様、オマタセシマシタ。私ガ今回ノ基地護衛艦隊ノ旗艦ワ級flagship後期型、フラワートオヨビクダサイ」

 

「私が此方側の旗艦を臨時的に努めてマース、英国生まれの帰国子女金剛デース!今回は私達に協力してくれて感謝ネー」

 

フラワーさんと金剛さんの間に固い握手が交わされた。

確かに不思議な光景だけれど、私には不思議と様になっているように感じた。

 

「…………なんで深海棲艦なんかと……」

 

だけど吹雪さんはその光景を納得していなかった。

 

「あ……ふ、吹雪さん。あの……」

 

「どうしました、響さん」

 

吹雪さんにも分かって欲しい……深海棲艦の全てが憎むべき存在じゃない事を。

私を助けてくれたフラワーさんのような深海棲艦だって居るんだってことを。

 

「…………大丈夫ですよ。納得できなくとも今自分の為すべき事位は理解しています」

 

私が上手く言葉に出来ないでいると吹雪さんは私の頭に手を乗せたまま初めて微笑み掛けてくれた。

 

「私の……いえ、私達の居場所を護るために私は戦います。響さんも頼りにしてますよ」

 

「……分かった、やるさ」

 

結局私は吹雪さんに上手く伝える事は出来なかった。けれど吹雪さんは私に笑顔を見せてくれた、そして頼りにしてくれた。

その一言で私は嫌われていないんだと思えた、今はそれで充分さ。

 

「敵機接近!我々ハ水上艦ノ相手ヲシマスノデ艦娘ノ皆サンハ艦載機ヲオ願イシマス!」

 

「おっしゃあ!この摩耶様達に任せておきな!」

 

「準備オッケーネー!」

 

「命中させちゃいますっ!」

 

「量産型だと見くびるなよ?」

 

「どっちが多く落とせるかなっ!」

 

「当たって下さいっ!」

 

「落ちろっ」

 

「ってぇーい!」

 

「ウラァーッ!!」

 

皆の気勢と機銃音と共に今までで最大の海戦が幕を開けたのだった。




まともな砲戦をするにはもうちょっと練度が足りなかったかなぁ(誰のとは言っていない)

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