響乱交狂曲   作:上新粉

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遅くなりましたっ!!
最近体や心が不調だったため執筆活動が思うように進められず時間が空いてしまいましたが、何とかペースを戻していける様に頑張って参ります!


第二十八番

 敵の襲撃から二時間後、大した問題もなく無事エリレのいる島へとたどり着いた。

 

「んで、後はどうするんだ?」

 

「後ハ私達ニオ任セヲ!」

 

突如輸送船から声が聞こえたかと思うと中からぞろぞろと補給艦どもが上陸してきていた。

 

「お?お前らそんなにぞろぞろと出てきたら目立たないか?」

 

「ゴ心配ナク!」「私達ガ降ロシ終ワルノニ」「十分モカカラナイデスカラ!」

 

まるで一人に話しかけられてる様な錯覚を覚える位に違和感なく補給艦どもは次々と俺に話し掛けていく。

 

「デスノデ」「門長サンハ」「船ノ上デ」「寛イデテ下サイ」

 

「……おう、わかった」

 

補給艦どもに促されるがままに船上へと上がった俺は、エリレ達が居るであろう方向に視線を向けた。

 

「エリレ……出てきてくんねぇかな」

 

「出てきても接触は出来ませんよ?」

 

「ぐっ、それは……そうだが…………ん?」

 

現実を突きつけられ項垂れながら島を見渡していると、茂みの中からこっちの様子を伺う蒼白く綺麗な髪をした少女と目が合った。

 

「ひび……き?」

 

少女は俺と目が合うと直ぐに茂みの奥へと見えなくなってしまった。

 

「どうしました?」

 

「いや……響みたいな子が今こっちを見てたんだ」

 

「響さん?此処には深海棲艦しか居なかったのでは?」

 

「ああ、この間見たときはエリレ達しかいなかったはずだが……」

 

「あの後流されて来たのか、隠れていたのか……もしくは門長さんの幻覚じゃないですかね?」

 

「幻覚じゃ……ねぇ…………はず」

 

いや、もしかして響に会えない事によるストレスが俺に幻覚を見せたのか!?

 

「いやっ、そんなことはない!確かに響に似ているが雰囲気が少し大人びていた」

 

ーふむ、さっきのは恐らくヴェールヌイだなー

 

ヴェールヌイ?海外の艦なのか?

 

ーいや、名前はソ連がつけたものだが間違いなく日本の駆逐だ。と、いうより響の二次改装後の姿だなー

 

響の二次改装後の姿があれか……それはそれでありだな。

 

「よしっ、ちょっと探してくる!」

 

「接触は禁止じゃないですか?」

 

「エリレ達じゃないからノーカンだろ?」

 

「ダメデスヨ」「コノ島ヘハ立チ入ルノハ」「禁止サレテ」「イマス」

 

俺の会心の言い訳を補給艦どもは一瞬で論破しやがった。

 

「ぐぬぬ……」

 

「ソンナコト」「言ッテイル間ニ」「任務」「完了」「シマシタヨ?」

 

「サア」「帰リマショウ」「門長サン!」

 

なんだよ……もう終わったのか。

 

「此処から五時間の帰り道ですね」

 

「うぁ……かったりぃ」

 

ー帰って提督になるんだろ?ー

 

「そうだった!俺は提督になって響に尊敬されるために帰らねばならぬ!」

 

「なんですか?退屈の余り遂に頭が溶けちゃいましたか」

 

「下らんこと言ってないで全速前進だぁっ!!」

 

提督となるため、俺は全速力で基地を目指す。

途中ちょっかいを出してくる奴は頭を吹き飛ばし(旗艦を大破させ)て無我夢中で突き進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 「はぁっ……はぁっ…………帰ってきたぞ……」

 

「オ、オゥ……どうしましたかミスター」

 

さ……流石に五時間全力疾走はキツかった……か。

いや、兎に角戻ってきたんだ。俺の新たな門出を響達に伝えなければ!

 

「こ……こんごう…………全員を……食堂に……」

 

「それはオーケーですが、ミスターはどうするつもりデスカー?」

 

「俺は自分で向かう……だから先に招集しておくんだ」

 

俺の胃袋が悲鳴を上げているが問題など……あるな。

金剛に招集を任せ俺は一度工廠で軽く補給を済ませてから食堂へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 食堂には既に全員椅子に座って俺の到着を待っていた。

 

「待たせたな諸君」

 

「帰ってくるなり全員を集めたりして何を企んでやがんだ?」

 

「別に企んでなんかない。但し、重要な報告がある」

 

俺の真剣な雰囲気に皆が息を飲むなか、俺は一拍置いてから話し始めた。

 

「お前達の提督に、俺はなる」

 

「は……?一回入渠して来た方が良いんじゃねぇか?」

 

「なんだよ、何処にも損傷はねぇぞ?」

 

「ヘーイミスター?とても言いにくいケレド……この基地に提督のワークはナッシングネー」

 

「なん……だ……と?どういう事だ、説明しろ金剛ぉっ!!」

 

「オ、オーケー。まず提督のワークには何があるか分かりますカー?」

 

「ああ、それは知ってる。編成の構成や出撃海域の作戦指令、他の鎮守府との演習の予定を組む、遠征任務の指示……後は補給とか入渠とか建造開発の指示、それに報告書の作成と提出だったか?」

 

「エクセレントッ!大正解デース」

 

これでも提督目指して海軍に入った訳だしな。

 

「デスガ、それは普通の鎮守府の話ネー」

 

「……つまりどういう事だ?」

 

「まず私達から深海棲艦を倒しに行く必要がない」

 

「それ以前に私達の練度だとこの海域にいる深海棲艦に対抗出来ないのです」

 

「それに遠征に至っては練度どころか任務が無いよね?」

 

ううむ……確かに響達にそんな危ない事をさせたくは無いな。

 

「演習するにも相手の鎮守府もいねぇしな」

 

「だ、だが建造開発補給入渠!これらは指示が必要……な、は……ず?」

 

「補給入渠に指示が必要な程艦娘がいねぇだろ」

 

「建造開発はお前が自分で頼めば良い話だ」

 

ぐっ……ならば提督の意味とは何なんだ。

 

ーー我々の目的を統一させ規律を整える為に必要な存在が提督なのだ。その必要の無い今の生活には必要とならないのは必然だろうーー

 

提督になれば認められると思ったのに……

 

ーなに、そんな気落ちする事はない。他にも認められる方法はあるさー

 

「……提督は必要無いのか」

 

「ま、そういうこった」

 

「しかし何故唐突に提督になろう等と言い出したのだ?」

 

「別に大した事じゃない、ただ俺の力を認めて貰いたかっただけだ」

 

「力?お前のとんでもない耐久や火力を認めていない者など居ないと思うが」

 

「松の言っているそれは悔しいが俺の力ではない」

 

「な、なに訳わかんない事言ってんだ?」

 

「そうデース、ミスターはミスターで……」

 

変に狼狽える摩耶と金剛を見て俺は最近感じていたちょっとした変化の原因を理解した。

 

「お前ら……もしかして俺の正体を知ってたのか?」

 

「う"っ……ええとだな……」

 

「ああその通りだ」

 

「マツ!?」

 

「本人が知っているなら隠す必要もあるまい」

 

「デスガ……」

 

「それで門長、お前は自分の事を誰から聞き何処まで知っているんだ?」

 

狼狽えてばかりの金剛達とは裏腹に松達駆逐艦の面々は冷静にこちらを見据えていた。

 

「そうだな、まず聞いたのは当事者である長門と武蔵だ」

 

「長門ッ!長門と話が出来るのですカ!?」

 

金剛が突然立ち上がりこっちを睨み付けてきやがった。

 

「だったら何だっつーんだよ」

 

「長門っ!アナタに知って欲し……」

 

「待ってくれ金剛、今は門長の話を全て聞いてからだ」

 

「……オーケー、ソーリーミスター門長」

 

松の制止により金剛は静かに椅子に座り直した。

 

「きっかけは謎の深海棲艦にやられて意識を失っていた時だ」

 

「彼女達海底棲姫と交戦した時ですか」

 

「ああ、その時だ。まあ聞いた事といえばよく分からん計画の為に武蔵と長門が改修素材になったっつう事と、長門が金剛と明石を憎んているという事位か」

 

「そう、デスカ……」

 

「んで?長門に伝えたい事っつーのはなんだ?」

 

「それは……」

 

金剛は真剣な目でこっちを見つめたまま自分の知っていることを語り始めた。

 

 

 

 

「という事デース。ワタシを信用出来ないのは百も承知デース、それでも謝らせて下サイ……長門、本当にごめんなさい」

 

ふ~ん……そういう事らしいぞ長門。

 

ーー恐らく嘘は言っていないのだろう……しかし、理解は出来ても納得するのは容易には行かない様だーー

 

ま、確かに直ぐには信じられねぇわな。

 

「お前の話は分かった、だが直ぐには信用出来ないってよ」

 

「それは当然デース……償いは必ずさせて貰いマース」

 

「ふむ、改めて話を聞いたが段々と現地味を帯びてきたな」

 

「そうだね松、私も金剛さんや門長が嘘を言っている様には見えないかな?」

 

そう言って二人は響へと視線を向けた。

響は恐らく俺や金剛が話したであろう事は理解しているだろう。

しかしそれは響にとって受け入れたくない事実なんだろうな……

 

ーー私ですらこの有様だ、響にはまだ時間が必要だろうーー

 

「響ちゃん……」

 

「…………認めない」

 

響は一言呟くと立ち上がり、食堂を出ていってしまった。

 

「響……」

 

「ミスター、ビッキーは今自分自身の気持ちが分からなくて戸惑っていマース。ですから今は一人で考えさせてあげて欲しいネー」

 

「……ああ」

 

俺は食堂から出ていく響の背中を見つめながら、響との幸せの為に何も出来ていない自身の無力さを一人噛み締めていた。




あぁ~……一つの事に集中して打ち込める環境が欲しいぃ。

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