この世界の有象無象が俺を誘惑するだぁ!!
リスポーンまであと六日......
「防衛に当たっていた横須賀第二、第三鎮守府主力艦隊壊滅。既に第一鎮守府正面まで迫ってきています」
「早すぎる......大量破壊兵器か」
「いえ......それが......」
普段からどんな報告でも淡々と話す大淀が珍しく口篭っていた。
「どうした?」
「それが、敵の誘導噴進砲により二十四艦ほぼ同時に
「そうか......正に規格外の化物だな」
「現在此方へ進撃中です。如何致しましょうか」
「戦闘態勢解除、奴らを執務室へ招待したまえ」
そう言いながら阿部はゆっくりと椅子に腰掛けた。
「し、しかし......それでは元帥が」
「なあに、抵抗したところで今の私達には奴らを止められないのは明らかだろう」
「それは......了解しました」
大淀は待機中の全ての艦娘に戦闘終了を言い渡す。
「そして、現時点で対象に一番近いものは武装解除し奴らを執務室へ案内せよ」
「よし、後は奴らが話し合いに応じてくれるかどうかだな」
待つこと三十分、小さなノックが執務室に鳴り渡った。
「陽炎型駆逐艦ニ番艦不知火、対象をお連れしました」
「ご苦労、通したまえ」
不知火が扉を開けると三体の深海棲艦が入ってきた。
「ゴ招待預リ光栄ヨ元帥?」
「チヨットシタ歓迎モ眠気覚マシ位ニハナッタワ」
「サア、タノシイ話シ合イデモ始メマショウカ」
「はっはっは、あれで眠気覚まし程度とは参ったね。それで、なんのようだい?」
阿部は深海棲艦の放つ圧倒的な気迫に屈することなく受け答えた。
「アラァ~?トボケルツモリカシラ」
「そんなつもりはないさ。ただね、この立場までくると思い当たる節が多すぎて検討がつかないのだよ」
「アッハハ!面白イワ!ワカッタ、私達ガ何者ナノカ。ソシテココニ来タ理由ヲ話シテアゲル」
「私ハミッドウェー。ト言ッテモ人間ガ造リ出シタ艦艇トハ関係ナイワ、言ウナレバミッドウェー海底棲姫トイッタ所カシラ?」
蒼白い肌に足首まで流れるストレートの黒髪が印象的な姫は答えた。
「ジャア私ハソロモン海底棲姫ッテコトネ」
「ソシタラ私ハバミューダ海底棲姫ニナルノ?」
続いて銀髪ショートのソロモン、銀髪セミロングで龍田の様に頭の上に三角形の何かが浮遊しているバミューダが名乗った。
「ミッドウェー......ソロモン......バミューダ......一体どういう事だ?」
「解ラナイカシラ、私達ハソレゾレノ海域デ生マレタイワバ艦艇ノ集合体ノヨウナモノ」
「ソシテ私達ノ目的ハ恒久的ナ現状ノ維持。ソノ均衡ヲ崩ソウトシタ人類ニ罰ヲ与エニキタ」
「......なぜそんなことを?戦争を膠着させることに何の意味があるのだ」
確かにどちらかが勝っても争いが全く無くなるとは言わないが今より被害を抑えられる筈......
そう考えていた阿部はやはり人間であり敗者の立場までは考えられていなかった。否、考えようとはしなかった。
そんな阿部に向かってバミューダは見下した視線を向けながら尋ねた。
「所詮生物、同胞ノ事シカ守ロウト考エナイ。全ヲ守ロウトハ思ワナイノ?」
「なに?相手の種族を護るなどそれこそ夢物語だ」
「ソウネ、ダカラ現状ヲ維持スルンジャナイ」
「無駄だ、海を塞がれたその先に人類は滅亡の道しか残されていない」
「大丈夫ヨ、ソノ為ニ彼女達艦娘ガツイテルノデショウ?」
「私達ガ維持シテイル限リ知的生命体ガ滅ブコトハナイワ!」
「お前達がそこまでの事をやれると言うのならなぜ争いを続けさせる」
深海棲艦の一人、ミッドウェーは阿部へと迫り耳元でそっと囁いた。
「アラァ、思ッタ以上ニロマンチストナノネ」
「なんだと?」
「争イノナイ世界ナンテ、生命ノイナイ世界以外ニ有リ得ナイワ、ヨ?」
「いやしかし、人類だけならばぁっ!?」
ミッドウェーの指先に装備されている機銃が阿部の心臓を瞬間的に蜂の巣に変えた。
「人類ダケナラダッテ!?ソンナ考エノ人間ハ幾ラダッテイルワヨ?ダカラ争ハナクナラナインジャナイ」
「黒人ダケナラ、日本人ダケナラ、仲ノ良イ奴ダケナラ......」
「ソウヤッテ他ヲ受ケ入レヨウトシナイ生物カラ争イヲ無クスコトナンテデキルワケナイジャン?」
「ッテアラ、アマリニモ下ラナイ事ヲ言ウカラツイヤッチャッタワ」
「マア元々ソノ為ニ来タノダシ問題ナイ」
「ソレヨリアノ駆逐艦ガ逃ゲチャッタケドドウシヨッカ?」
「ソウネェ......
「了解しました。所で一つ宜しいですか?」
大淀はミッドウェーに一つの資料を手渡した。
「コレハ?アア彼ノコトネ、無謀ニモ私達ニ楯突イタカラコノ間オッサント一緒ニ沈メテアゲタワ」
「そうですか、なら偽りの報告かもしれませんが。一週間程前に拠点に彼が帰投した報告が金剛よりあがっております」
「アラ、ヘェ......水爆ヲ耐エタンダァ......」
海底棲姫達の口角が不気味に吊り上がっていく。
「フ~ン......面白イ報告ネ、デモコノ程度ナラ均衡ヲ崩ス程ジャナイワ」
「彼がまだ本来の姿で無いとしてもですか?」
「本来ノ姿?ソレハドウイウコトダ」
「本来艦娘は艤装を展開して深海棲艦と渡り合う事が出来ますが彼は兵装のみで深海棲艦を圧倒しているのです」
「ソンナノ展開デキナイダケジャナイノ?」
「確かに現在は展開出来ていないようですが......」
「貴女ハ少シ心配性過ギルワヨ?マ、ソコガ良イトコロナンダケドモネェ。ワカッタワ、気ニ掛ケトクワ」
「何卒ご注意下さいませ」
「アアソウ、新シイ元帥コノ中カラ選ンドイテネェ」
ミッドウェーは大淀にリストを渡すと執務室から出ていった。
「オツカレ」
「ジャネ~!」
ソロモンとバミューダもミッドウェーに続き次々と部屋を後にした。
「......お戯れを」
大淀がリストをめくると様々な大将の名が並ぶ中に一人だけ少佐の名がありそこだけ丸で囲われていた。
私は気が付くと奴等から逃げるように無我夢中で駆け出していました。
「はぁっ......はぁっ............奴等と戦うために生まれた存在なのに......これは重大な落ち度です」
しかし、不知火一人ではお話にならないでしょう。
だからといって艦娘全員が私を沈めようと躍起になっているこの状況で誰と手を組めると言うのか......
「......ここは、工廠ですか......兎に角弾薬と燃料は補給しておきましょう」
工廠の資材置き場から弾薬と燃料を調達していると入り口の方に艦娘の反応を不知火の電探が捉えました。
「もう見つかってしまいましたか、弾薬は不十分ですが仕方無いですね」
一気に飛び出し相手の重要区画を狙い撃とうとした。
しかし......
「少し話し合わないかしら?」
そこには両手を上げて武装解除した明石が歩いて向かって来てました。
「............良いでしょう。武装もしていない工作艦にやられる様な不知火ではありませんから」
「あはは、大本営の明石さんが聞いたら何て言うか......まあでも今は有り難いのでよしとしましょうか」
「それで、話とは一体なんでしょうか」
私は一切の気も緩めず明石を威嚇したまま話を伺うことにしました。
「いやね、とある条件を飲んでくれたら此処から貴女を匿ってくれる場所へ案内してあげようかなって思いましてね?」
「条件?それは......」
「それはですね............」
「グッモーニング!!良い朝ですネー!」
燦々と照りつけるサンシャイン、何処までも拡がるシーサイド!一ヶ月前にはこんな清々しい朝を迎えられるとは思わなかったネー。
皆さんには本当に感謝デース!
「随分と気分が良さそうですね、金剛さん」
「そりゃもうグッドもグッド、ベリーグッドデー......ス......」
ホワッツ......この声は此処じゃ聞こえないはずじゃ?
恐る恐るシーサイドの方を振り向くとサングラスを掛けたちょっと関わってはいけない感じの雰囲気を纏った桃色ポニーテールガールが私を凝視してました。
「ハ、ハロー不知火?ワタシの事を知ってる、オーケー?」
「何が言いたいのか解りませんね......まあ良いでしょう。横須賀第一鎮守府所属陽炎型二番艦不知火、中部前線基地の庇護下に入れて頂きたく馳せ参じました」
「庇護?一体横須賀に何があったのデスカ?」
「それは後で話します、今は門長少佐に会わせて頂けますか」
「オ、オーケー。この時間ならブレイクファーストの前ですから食堂に居る筈ネー」
「案内していただいても宜しいですか?」
「ノープロブレム......但し、ミスター門長にはワタシと関わりがあることはシークレットですヨ?」
「理由は解りませんが......まあ了解です」
取り敢えず釘を刺しておきましたが......予想外過ぎてボロが出ないか心配デース。
ワタシの不安は晴れないまま食堂へと向かうのでした。
しかし......此処を耐えれば新たな境地にたどり着けそうな気がする。