俺の気力が大破しました。イベントから撤退します。
くそっ.....なんだここは......海の上みたいだが真っ白で何も見えねぇ!
「はぁ......ったく、ここは一体何処なんだよ......」
取り敢えず真っ直ぐ行けば何か見えてくるだろうと進み始める事にした。
「つーか何も持ってねえのに何で浮いてんだ俺は」
「それはここが意識の海だからだ」
不意に後ろから俺の問いに答える声が聞こえた。俺は声のする方へ目を凝らすと少しずつ見覚えのある奴の姿が映し出されていった。
「てめぇ......また現れやがったか。」
「まあ落ち着け、私は争うつもりはない」
反射的に身構えるが奴は構える素振りも見せずにこっちへ向かってきやがる。
「そんな言葉を信じる訳ねぇだろぉ!」
俺は間合いに入った奴へと殴り掛かるが片手で呆気なく止められてしまった。
「なん......だとっ......」
「そんなに驚く事もないだろう、これが本来の艦娘と人間の差なのだ」
「なにいってんだ......まだ終わってねぇ!」
俺は奴の足に強烈なローキックをお見舞いする。
「ぐぅっ......!」
しかし、痛みに顔を歪ませたのは奴では無く俺の方だった。
「なんだこれは......鉄の塊を蹴ってるみたいじゃねえか」
「ふむ、中々理解が早いじゃないか。我等艦娘は艦艇の魂だ、だからそもそも体の造りからして人間とは違うのだ」
「......つまり俺が人間に戻ったってことか?」
「私は最初に言ったぞ?ここは意識の海だとな」
海っつーのはよく分かんねえが......つまりは俺の夢の中ってことか?
「あぁ.....なんとなく解った。んで?てめぇは何で出てきたんだ」
「そうだな、先にお前の勘違いを訂正しておこう。私はお前が沈めた長門とは別の長門だ」
「あ?それならもっと関係無ぇだろ」
「いや、お前と私は無関係じゃない。何故ならお前の中に私は居るのだからな」
「いや、出てけよ」
なんだそれ気持ちわりぃ......いや、寧ろ俺が響の中に......っていつになったらそこまでたどり着けるんだ!
「私だって好きで居るわけじゃないっ。出ていけるのなら出ていくさ」
「あ?なんだって?」
別の事考えてて何て言ってたか全然聞いてなかったわ。
長門は溜め息をつきながら説明を始めた。
「人の話はちゃんと聞け......いいか、私はお前の改修素材にされたのだ。大和型二番艦武蔵と共にな」
「私を呼んだか?」
すると前からゆっくりと褐色の駄乳が俺の方へ近付いてきた。
「む......今失礼な事を考えて居なかったか?」
「いや、別に」
「そうか、ならばいい。私は武蔵、こうして話すのは初めてだな」
「おう......で、改修されたお前らが何のようだ?」
「結論を急いでも良いことは無いぜ?それより折角三人集まったんだ、こいつを飲みながら語り合おうじゃないか」
すると武蔵は何処からか純米大吟醸とラベルの巻かれた一升瓶を持ち出してきた。
「残念ながらそんな時間はない、単刀直入に言うぞ。お前はこのままでは死ぬ」
「............はぁ?」
いってる意味が理解出来ずに純米大吟醸を見つめる俺に長門が問い掛ける。
「お前はあのとき何をしたか覚えてるか?」
「あのとき?ああ......吹雪と暁を助けようとした」
「何からだ?」
「宇和」
「違うっ、そっちじゃない!」
宇和じゃない......?だったら......
「よく解らん深海棲艦の放った噴進砲か?」
「そうだ、あれの弾頭にはかつて私が最期に受けたものを遥かに凌駕する破壊兵器が搭載されていた。それによりお前の体は見るも無惨な姿となっていたのだ」
なるほど......ってそれだと二人がやべぇじゃねぇか!
「おい!そんなことより暁達は大丈夫なのか!?」
「ふっ、自分が死ぬ直前なのにお前という奴は......大丈夫だ、暁達はお前のお陰で奇跡的に無事だ」
「ま、我々のお陰でもあるんだがな」
「そうか......ならよかった」
「ああ、だが状況としては全く良くない、お前はこのままではあと数時間も持たんぞ?」
そうか......響に一切好かれなかったのは心残りだがあいつ等を守って死ねるのならそれも本望......か。
「覚悟を決めているところ悪いが、私としては困るのでな。私の魂、お前に少しくれてやろう」
「困る?改修素材は確か艦娘が沈んだ時に昇天して再びこの世界に降りてくると授業で聞いたような......」
「授業......な、まあ確かにそうだ。だがその時に前の記憶などは全て失われてしまうのだ」
「なるほど......でもこんな夢の中でしか話せないのに記憶を失うのは嫌なのか」
「ああ、この体なら響を見守ることは出来るからな」
そういうことか、まあその響にはこれでもかって位嫌われてるがな。
「後はお前に対する謝罪の気持ちだ、済まなかったな門長」
「謝罪?素材にされてるしお前らも被害者じゃねぇのか?」
「そこではない、今までの自身の行動で不審に思った事があるだろう?」
不審に......覚えてねぇな......なんかあったか?
俺の様子を見てなぜか長門が肩を落としていた。
「......覚えていないのか......まあいい、まず響を拐った時、そして金剛と明石に対して。最後にあっちの長門を沈めた時......どうだ、思い当たるだろう?」
「ん~......あぁ、確かに金剛と明石をあそこまでボコった理由は解らないままだったな」
「他は疑問に思わなかったのか?」
長門は呆気に取られた様子でこちらへ訊ねてくるが俺は首を横にふる。
「いや、他は自分の意思で決めたことだが?」
「なっ、なんだそれは......私の謝罪を返してくれ......」
「ふふっ、良かったな長門よ?あいつとお前さんは中々に意見が合うようだ」
「はぁ......なんだこの複雑な心境は......」
「それが恋って奴なんじゃないか?」
「茶化すな武蔵!全く......兎に角お前をここで死なせはしない。手を貸せ武蔵」
「良いぜ?お前らと居ると楽しめそうだしな」
長門と武蔵が俺の手を取ると二人の体は徐々に光に包まれていく。
そうして辛うじて人形だと分かるくらいに輝いた辺りでその光は形を崩し俺の周りを包んでいった......
目覚めると俺は見慣れない天井を見上げていた。
現状を確認するために俺は周囲を見渡す。
「ここは......何処だ?小さな小屋みたいだな」
次に自身の状況を確認する。
見るも無惨な姿つってたが全身包帯に巻かれてて良く解らねぇな。
「まあ全身包帯巻きってだけで充分すぎる位重症か......って、ん?」
扉が開く音に気付き、音のする方へ振り向くと赤いオーラを纏った深海棲艦の少女と目があった。
「オ、生キテタミタイダヨフラヲ?」
「待ッテエリレ、ダカラソッチニイッチャ駄目ダッテイッテ......」
俺が少女に見とれていると後から黄色いオーラを纏った空母がやって来た。
つーか見とれてる場合じゃねぇな、今攻撃されたら流石にやべぇんじゃねぇか?
............取り敢えずなにかしら返事はしとくか。
「お、おう。生きてるぜ?」
「ホラ、生キテルッテイッテルヨ?」
「......二人ヲ呼ンデクル、エリレハ見張ッテテ」
「オッケー!」
空母の方が出ていったので俺は少女の観察を続ける。
それにしてもこの少女は一体何者なんだ......エリレ?とか言っていたが駆逐艦だろうか。いやしかし、深海の駆逐艦はまんま化け物みたいな姿だったしな......
俺がまじまじと見つめていると不思議そうに首を傾げて訊ねてきた。
「ナンダ?オレガ珍シイノカ?」
「ん?ああそうだな、ほっぽちゃんの他にもこんな可愛い深海棲艦が居ることに驚いてるとこだ」
「カワイイ?オレガ恐クナイノカ?」
「恐い?何を恐がる必要があるんだ。」
「オマエモオレヲ恐いガラナイ、フラヲト一緒ダ。ジャア友達ダナ!」
そう言ってエリレは小さくて柔らかな手で俺の両手を握りしめ激しく上下に振り回した。
「トッモダチ!トッモダチッ!」
「はっはっはっ、嬉しいのは解ったがそんなに振り回したら俺の手が取れてしま......」
「アッ......」
............取れた。んでもって俺の腕はロケットパンチの如し勢いで天井をぶち破って外の世界へと飛び去って行った。
「何ですか今のは......ってきゃああぁぁぁっ!!!」
「どうしたのよ吹雪!......っぴゃあぁっ!!?」
部屋に入ってきた吹雪と暁が俺の姿を見て次々と悲鳴を上げる。
「なあ......人を見てその反応は流石に傷付くぞ」
「だだだだってうううでが......」
「べべべつに狼狽えてなんかいにゃ....いないわっ!」
うむ、可愛いから許そう。
「それより腕を探しに行かないとな」
「アッ!オレガ行ッテクル!」
エリレが右手を上げて名乗り出てくれた。
「それはありがたいが......良いのか?」
「イイノイイノ!オレガ飛バシチャッタンダモン」
「ううむ......じゃあお言葉に......」
「ソノ必要ハナイワ、落トシ物ハコレデショ?」
突然扉の向こうから放り投げられる俺の腕を俺は何とか身体で受け止めた。
「おい、俺の腕を粗末に扱うんじゃねぇよ空母」
「何?拾ッテキテアゲタノニオ礼モ言ワナイノ?」
「ああ?俺はそんな渡し方があるかっつってんだよ!」
「此方ハ小屋ヲ壊サレテルンダカラコレクライ許容シナサイ、器ガ小サクミエルワ」
「ハイハイ!二人トモストーップ!」
睨み合う俺と空母の間にエリレが割って入った。
「小屋ヲ壊シタノハオレナンダカラトナガニ当タッチャ駄目ダヨフラヲッ!」
「ウ......ダケド......」
「ダケドジャナイヨッ!」
「ムゥ............スマナイ」
「ソレニトナガモダヨッ!フラヲガ持ッテキテクレタンダカラマズハアリガトウッテ言ワナキャ!」
「そ......そうだな。悪かった」
「オレジャナクテフラヲニイワナキャ。ダカラホラ、仲直リノ握手ッ!」
......なんかデジャヴを感じるな。しかし、今はあの時とは違う。断るための正当な理由がここにある!
「済まないなエリレ、仲直りの握手をしようにも今は腕が......」
だが、俺の意思とは無関係に俺の腕は空母の元へと向かって行く。
「ハイッ!」
「ハ......イ?」
う~ん......深海棲艦と比喩でも何でもない俺の右腕が握手を交わしている......
「なあエリレ......これはどういう儀式だ?」
理解が全く追い付かない俺は思わずエリレに疑問を投げ掛けていた。
しかし、エリレは一点の曇りの無い瞳で俺を見つめながらはっきりと答えた。
「見テ分カルデショ?仲直リノ握手ダヨッ!」
............まあ、可愛いから良いか。
「マア、ソレハイイトシテ。オマエ達ハ一体何者ナノ?アソコデナニヲシテイタノ?」
空母は頭の触手でエリレを撫でながら俺達に問い掛けてきた。
ああ......そんなことより気持ち良さそうに顔を綻ばせるエリレが可愛い過ぎる。
「わ......私達は......」
「ヲ級さん、場所と資材を提供して下さった事には感謝してます。ですが深海棲艦である貴女に私達の情報を渡すわけには行きません」
「ソウ、ジャア一ツダケ教エテ。オマエ達ノ仲間デアルコノ男ハ一体何者ナノ?」
「それは......私達も分かりません。彼が一体何者なのか」
「あいつとは仲間なんかじゃないわっ!借りが出来たから仕方無く助けただけなんだから!」
ん?今のは聞き捨てならんなあ?
「暁ぃ、俺等は今は亡き少将殿が認めたれっきとした仲間だろぉ?」
「勝手なこと言わないでよっ!たとえ司令官が言ったとしても暁は認めないんだからぁ!」
「まあそんな堅いこと言うなって、これから一緒に暮らして行くんだからよ?」
「冗談じゃ無いわよっ!だったらここで暮らして行くわ!」
そうか......その手があったか......
「いや、しかし......こっちには響が居るんだぞ?」
「っ......最っ低ね......響を人質に取るつもり?」
「あ、いや......そうじゃないんだが」
「分かったわよ......行けば良いんでしょ。その代わり、響に酷いことしたら赦さないんだから!」
「お、おう......」
ドウシテコウナッタ......
「ソレデ、二人知ラナイトイッテルケド......オマエハ一体何者ナンダ?」
「ああ?俺はここに資材を運ぶ仕事を受けた艦娘の様なものだ」
「ココニ?......ソウカ、彼女達ノ仲間カ」
「つーかお前等こそ何でこんな所に籠ってんだ?」
「ン?オレ達ハネ、ココニ隠レテルンダヨ!」
「ハァ............ソレハイワナイデッテ言ッタデショ?」
「アレ?ソウダッケ?」
「隠れてるって艦娘達からか?」
「......ソンナトコロ」
まあ訳ありなんだろうな......俺には関係無いが。いや、これはエリレを連れて行けるチャンスか!?
「エリレ!俺の所に来ないか?誰から隠れてるか知らないが俺が護ってやる」
「ホントニ!?フラヲ、トナガガ護ッテクレルッテサッ!」
「......遠慮スル」
空母の周りをはしゃぎ回るエリレを空母は触手で落ち着かせながら俺の申し出を断る。
だが俺は一歩も引かずに言葉を返す。
「お前に聞いてンじゃねぇよ、俺はエリレに聞いてんだ」
「ソウカ......エリレ、私ハ此所ヲ離レルツモリハナイガオマエハドウスル?」
「エー......フラヲガココニ残ルナラオレモ残ル」
ま......負けた。これが付き合いの長さの差だというのか......
「まあ、当然よね!」
「そりゃあ、まあ......」
「コレガ答エヨ......修復ガ済ンダラ帰リナサイ」
あっのくそ空母、さっきまで仏頂面だったのにあからさまにどや顔しやがってぇ......
「デモサ、ドウヤッテトナガヲ直スノ?此処ニ修復施設ナンテ無イヨ?」
「「ア......」」
運命の歯車が今ひとりでに回り始める。
私の想像を越えたその先へ......