響乱交狂曲   作:上新粉

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こ......これが夏風邪と......言うものか......ガクッ


第二十一番

 マツの質問に対してアカシは大して身構える訳でもなく自然体で答えました。

 

「はい、私は元々呉第一鎮守府第一艦隊旗艦をやっていました」

 

「工作艦が第一艦隊旗艦だと!?」

 

「まじかよ......」

 

「スッゴい新鮮な反応ご馳走さまですっ!」

 

マツ達のフレッシュなリアクションにアカシはご満悦のようネー。

 

「新鮮?工作艦が第一艦隊なんて普通驚くだろ」

 

「答えはノーね。工作艦明石は泊地修理の為に第一艦隊旗艦になるのはよくある事......だから海軍じゃ特に気に留められる事もないのデース」

 

「あはは、実はそうなんですよねぇ」

 

「但し、呉と大本営の明石だけは例外と聞いてマース」

 

「いやいや、大本営の明石さんと私なんかじゃ比較対象にすらならないですよ?」

 

「呉と大本営の明石......その二人は強いと云うことか?」

 

「イエース。大本営の超弩級工作戦艦、呉の魔法使いと言えば海軍でも一、二を争うビッグネームな二人デース」

 

後は奇想天外な装置を生み出そうとしているのも居るようデスガ......

 

「ま、まあそんな話は良いんですよ!周りが勝手に騒いでるだけですから」

 

「ククッ......魔法使い明石か......良い名前じゃないか」

 

「あ~......良いんですかぁ?松ちゃんの素顔を収めたプロマイドを皆に配りますよ?」

 

「なっ!馬鹿な!?あれは全て燃やしたはず!」

 

「バックアップ位常識ですよぉ~?」

 

「くっ、消せっ!今すぐ消せぇっ!!」

 

「嫌です、いずれは双子アイドルとして売り出すんですから」

 

「なっ......や............やめろぉっ!!!」

 

「あっはっはっは!!今は冗談ですよ~!」

 

「今は!?今も今度も駄目に決まってるだろぉっ!」

 

マツはアカシの右手にあるUSBメモリーを奪おうと必死に追いかけますが上手くかわされてるネー。

それにしてもそこまでして隠そうとするマツの素顔とは......とってもミステリアスデース。

 

「......っとそういえばどうしてここに来たか、でしたっけ?」

 

「はぁ......はぁ......そうだ、なんの目的があって来たんだ」

 

「ん~......確かに松ちゃんには言ってませんでしたね。私は第一艦隊旗艦としてサーモン沖北方を侵攻中だったんです。ですが突然の嵐に見舞われてしまって......それだけなら良かったんですが嵐により狭まった視界の所為でレ級eliteが近くまで来ていた事に気付けなかったんですよ」

 

「レ級elite?そいつは強いのか?」

 

「イエース......鬼や姫に匹敵すると言われる程ベリーハードなエネミーネー」

 

「そうです、正規空母三隻分の制空力と雷巡の雷装を持った超弩級戦艦......誰が呼んだか超弩級重雷装航空巡洋戦艦なんて名前が付く位の深海棲艦なんですよ?」

 

「な、なんだそりゃ?詰め込みすぎて訳分かんねーぞ......」

 

まあ、マヤの言い分も理解できるネー。それも姫や鬼のような特異個体でもなく、更にはアップグレードな存在も囁かれているのだから本当に恐ろしいエネミーデース。

 

「まあその悪いタイミングでレ級に遭ってしまったんです。」

 

「しかし、幾ら強いとは言ってもあの男ほどふざけた性能ではないだろう?明石達の第一艦隊の実力がどれ程かは知らないがそいつ一隻位どうにでもなったんじゃないか?」

 

すると先程まで平然と説明していたアカシの表情に陰り差しまシタ。

 

「......そうですね、恐らくそのレ級eliteはそこで撃沈しているでしょう。」

 

「だったら何があったというんだ?」

 

「今さっき言った通りですよ、悪いタイミングだったんです......ヴェールヌイと電、そして私は既にレ級の雷撃距離に入っていたが為に魚雷を回避しきれなかったんです」

 

「そういうことか......済まない、野暮な事を聞いてしまったな」

 

「いえ、松ちゃんが気になってしまうのは仕方ありませんよ。私だって好奇心は旺盛な方ですし」

 

「ああ、明石が好奇心の塊だという事は既に把握している」

 

「ちょっ!塊って程ではないですよ!?」

 

「ならばこいつは処分させて貰おう」

 

マツはアカシの一瞬の隙をついてUSBメモリーを奪い取ることに成功しました。

 

「あぁっ!駄目ですよぉ!」

 

アカシの制止も聞かずにマツはUSBメモリーをクラッシュしたネー。

 

「あぁ......私の松竹コレクションがぁ......」

 

「そんなものは忘れろっ!......そ、その代わりと言うわけではないが明石が再び呉の仲間に逢える様に私と竹も出来る限り力を貸そう」

 

「松ちゃん......ありがとうっ!じゃあ撮り直したいので早速脱いで下さいっ!」

 

「なっ!?ばか、それとこれとは話が別だっ!!」

 

「いえいえ、これは必要な事なんですよぉ?主に私の疲労回復(キラ付け)的に!」

 

「うるさいっ!こ、こっちに来るなぁ!」

 

フィンガーをうねらせて詰め寄るアカシに対してマツは後退しつつ徐々に扉へと向かっていったのデース。

それにしても......ミスター門長がアレなのはともかく、まさかアカシまでだとは......まぁ好みはそれぞれですし別に良いんデスガ。

 

「アカシ?今は兎に角ヒビキと話がしたいのデスガ......これを外して貰えませんカ?」

 

「え?ああっ、そうですね!今外しますね?ですが......どうするつもりですか?」

 

「ワタシはどうもしまセーン!ヒビキと話し合って最終的にワタシをどうするかはヒビキに委ねマス......ですのであの子がどんな答えを出しても決して責めないでくれますカー?」

 

枷から解放されたワタシは皆に頭を下げてお願いしまシタ。

 

「......ほんとにいいのかよ。何を話すか知らねぇけどよぉ、アイツはまだガキだからこのままじゃきっとあんたが出で行く事になっちまうぜ?」

 

「もちろん、誠心誠意を込めてヒビキと話し合うつもりデース。デスガ......守りたい相手の意思を無視して勝手に守るのは唯の自己満足だと思うのデス」

 

「いいじゃねぇか、そういうのも恰好良いとアタシはおもうぜ?」

 

「マヤ......センキュー、でもワタシが居なくてもあの子を守ってくれる存在は沢山いマース。ならばワタシはあの子の意思を尊重したいのです」

 

「ちっ......わぁったよ、勝手にしやがれ」

 

ワタシなんかを気遣ってくれてセンキュウ摩耶、でもこれは私なりのけじめデース。もちろん簡単に引き下がるつもりなんてありませんヨー!

 

「それじゃあヒビキの元へレッツゴーデース!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方響は鎮守府裏の浜辺に体育座りで膝に顔をうずめて一人泣きじゃくっていた。

 

「ながと......かえって......来て......よ......ながっ......とぉ......」

 

「......響ちゃん」

 

響に追い付いた電は響の元へ向かおうとしたところ竹によって止められたのだった。

 

「私達が行っても何も解決にはならないよ。彼女達の事を知っている金剛さんか張本人でもない限りね」

 

後者は先ず無いだろうけどね、と竹は言葉には出さず眼で電に伝えた。

そのまま見守ること三十分、松から竹へ通信が入ってきた。

 

「どしたの松?」

 

「こっちは取り敢えず話は纏まった。金剛が響に話があるそうだから響の場所を教えてくれ」

 

「はいは~い、今鎮守府裏の浜辺に来てるよぉ」

 

「了解した」

 

「ふぅ、後は丸く収まると良いね?」

 

「なのですっ!」

 

それから五分後、響のいる浜辺に遂に金剛が姿を現した。

 

「ヘーイ!ヒビキィー!」

 

「金剛......さん?」

 

響は金剛を見つけると直ぐに立ち上がり逃げ出そうとするが......

 

「響、私の事を嫌いになったのか?」

 

「長門さん!?」

 

響が慌てて立ち止まり声の方へ振り向くがそこには金剛一人しか居なかった。

 

「ソーリー響、ワタシの声じゃ止まってくれなさそうでしたので長門の声を借りまシタ」

 

「なんで......そんなこと......を!」

 

「どうしても話を聞いて欲しかったからデース!」

 

「話......?嫌だ、今は誰とも話したくないんだ」

 

「まずはワタシの所為で長門を巻き込み、そして救えなかった事を謝ります」

 

金剛はそう言って地面に膝を着き手を着き、そして頭を着けて響へ向かって謝罪した。

 

「本当にごめんなさい、響」

 

「な、何したって無駄だ!......どうせ長門さんは帰ってこないんだ......」

 

響は金剛に背中を向けて俯いている。

 

「その事だけど......ワタシに一つだけ当てがありマース」

 

金剛は頭を砂浜につけたまま響へ伝えた。

 

「なんだって!?それはどういうことだい!」

 

「DRCS......次元間遠隔司令制御機構というのは知っていますか?」

 

「聞いたことはある。確か異世界にいるとされている司令官の資質をもつ人間に艦隊の運用を任せる為に作られた機械だったはず。」

 

「ザッツライト、そしてその異世界とこの世界を繋ごうとしてるクレイジーな工作艦が居るのデース」

 

「まさかここの......!?」

 

「ノー、残念ながらここにいるアカシではありまセーン」

 

「じゃあ一体......はっ!だ、だからなんだと言うんだい!」

 

気付かぬ内に話に惹き付けられていた響は必死に取り繕おうと距離をとった。

 

「それがですね、彼女の鎮守府で艦娘と異世界に居る司令官の魂を入れ替えた事があるという噂があるんデース」

 

「そ、そう......世界を繋ごうとしてるならそれくらいしてるんじゃないか、私には関係無いけれど」

 

「本当にそうですか?魂を入れ替えたのデスヨ?」

 

金剛の言っている事が解らない響は訝しげに金剛を睨み付けるが、金剛は構わずに続ける。

 

「ワタシはおもうのデース、魂を別の器に移せるのならミスター門長から長門の魂を取り出せるのではないかと」

 

「なっ!そんなこと......改修された艦娘は元に戻せないって......」

 

「そう、通常の艦娘は改修された時点で意識などは対象の魂に融けてしまう......しかし長門にはまだ意識が残っているネー」

 

「そんな......ありえない」

 

「本当にそう思っていますか?ユーを連れ出したのがミスターだけの意思だと」

 

「そうに決まっている、長門さんはあんなことしない!」

 

「ユーを敵と見做した長門を沈めたのも?」

 

「暴力的なあいつがしそうな事じゃないかっ!」

 

「そうですね......ですが彼の行動の全てはヒビキ、貴女を護る為のモノなのですよ?」

 

金剛はゆっくりと立ち上がり響に近づいていく。

 

「残念ながらミスター門長の言うとおりあの長門は宇和の命令を聞くように指示を受けていたからどんなに時間を置いても響の思いは届かなかったネ......」

 

「......でもっ!元はといえばあいつが私を連れて逃げなければこんなことにならなかったじゃないかっ!」

 

「その誘拐がミスター門長だけの意思なら尤もなクエスチョンデース」

 

金剛は少しだけ言うのを躊躇ったがここで響に受け止めて貰えなければ自分がここに居られなくなるだけでなく長門を救うことすら出来なくなってしまう。

この一時だけは心を鬼にして響に真実を伝えた。

 

「ですが響、ユーは本来六年前に解体されているはずだったのデース」

 

「な...!?な、なにを馬鹿なことを......」

 

「確かに理由はフールな事ネー。宇和少将......彼は元敵国を極端に嫌っていた。その為彼の鎮守府に他国の言葉を使う艦娘は居なかった......ノン、居られなかったネー。あそこの霧島なんかマイクチェックが出来ないって嘆いていたヨー」

 

事実金剛の言うように宇和少将の前で他国の言葉を使う艦娘は練度に関係なく解体されていっていた。

 

「思い......出した。初めて司令官に会った日の事」

 

ーー長門っ!この敵国の艦を今すぐ解体しろ!ーー

 

「そうだ......あの時長門さんが......」

 

ーーイエッサー!おっと済まない、これでは私も解体しなければな?ーー

 

ーーきっさまぁ..........いいだろう!()()()()()()のお前だってうっかりはあるのだ、今回は聞かなかった事にしてやる......が、次はないと思え!ーー

 

ーー了解した。さあ戻ろう響ーー

 

「長門さんが護ってくれたから......私..」

 

「そう、だけど宇和だって決して無能じゃない......入れ替わった事には気付かずとも長門がユーに執着しなくなった事には気づき始めていまシタ」

 

宇和は長門を試すために響の話題をさりげなく出し反応を窺っていたという。

 

「そしてあの日、図らずも響は解体前の待機中だったのデース」

 

「そんな......嘘だ......あれから長門さんに言われてから一回も司令官には言っていないのに」

 

「敵国の艦を自分の鎮守府に置いておきたくなかったのでショウ」

 

「そんな話信じられない!信じられるわけがない......それならなんで私を連れ戻そうとしたんだ!」

 

「それは恐らく周りへの見栄と艦娘達への説得材料デスネ」

 

「うそだ......!嘘だ......」

 

「全てノンフィクションネー。だからこそ長門を救うチャンスがあるんデース」

 

「長門......」

 

「タウイタウイ泊地第六鎮守府......そこのアカシと協力すればきっと長門を救いだす事が出来マース」

 

金剛は響の前で立ち止まり右手を差し出す。

 

「ワタシを長門を救いだす手段として使ってくれまセンカ?」

 

しかし、響は握手には応じずに金剛の隣を通り過ぎていく。

 

「ワタシは信じない......本当に長門さんを助けるまでは金剛さんを認めないしその右手にも応じないよ」

 

「オーケー......今はそれでノープロブレムデース。見ててくださいネー!必ず長門を救って見せマースッ!」

 

金剛の決意を背中で聞きながら響は執務室へと戻っていった。




明石「ふぇっくしゅん!!」

夕張「明石さん大丈夫ですか?」

明石「ん?大丈夫、大丈夫!」

夕張「無理はしないで下さいよ?明石さんに倒れられたら作業が進みませんし何よりワタシがヴェルに怒られてしまいます......」

明石「本当に大丈夫よ。きっと誰かが噂してただけだから」

夕張「提督かしら?全くもう......」

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