これはミスター門長が誘拐事件を起こす四年前の春の話ネー......
「遂に此処まで来たぜ......この学校を出れば念願の楽園生活を謳歌出来るんだな西村!」
この海軍を嘗めきった発言をしている青年が当時二十一歳のミスター門長デース。
「おいおい......思っててもそんなこと言うんじゃねぇよ。誰かに聞かれたら大変なことになるぞ?」
「おっと、それは不味いな!ところで西村、お前この渡された紙に何か書いてあったか?」
「ん?ああ、甲って書いてあったぜ。多分クラスの事だろ?」
フレンドであるミスター西村の持っているペーパーには「甲」と一文字書かれていた。しかしミスター門長の紙には何も書かれていなかった。
「なんだそれ、書き忘れか?」
「いやわからん、だがこれじゃクラスが分からないしちょっと教導室に行ってくるわ」
「おう、またな」
そう言ってミスター西村と別れた彼が再び姿を現したのは三年後の卒業間近だったのデース。
それではここからミスター門長の身に何があったのかを説明していきマース。
「ここが教導室だな......学徒番号676468、門長和大です」
ミスター門長は教導室をノックしスクールナンバーを伝えると中から一人の白い軍服に身に纏った初老の男が現れミスター門長に即効性の麻酔銃を撃ち込んだのデース。
「なっ......に......しや......が............」
「悪く思わないでくれたまえ、君は選ばれた人類なのだから......」
選ばれた人類......人類の中には艦娘の兵装を一部扱える個体は居ましたが彼はその中でも電探すら扱える極めて艤装適性の高い個体だったのデース。
そして彼の登場と共にワタシのテートクを中心とするある計画が本格始動しまシタ。
「素体は入手した、後は真七九八号計画の改修素材に高練度で尚且つ提督と強い絆を結んでいない戦艦二隻を用意せよ」
強い絆を結んでいる艦娘は提督と魂の繋がりがあるため改修素材にしても真価を発揮しないそうデース。
しかし強い絆を結んでいない戦艦の殆どは練度が八十にすら達して居なかったりと想像以上に難航を極めてまシタ......
「そこで計画の中心であるワタシの提督がいる鎮守府から練度九十九の大和型二番艦武蔵、そして同じく練度九十九である金剛型一番艦金剛が選ばれたのです.....」
「人に艦娘を改修するだって......なんだよその訳わかんねぇ計画は......」
「真七九八号計画は適合する人間の現代の知識と艦艇の記憶と艦娘の想いの力を合わせ過去に計画段階だった未成艦の艦娘化もとい擬人化させるプランデース」
「本人の意思など知ったことではないということか......まるで実験動物のような扱いだな」
「マツの言う通り、確かに彼のやり方は強引でした......しかしそれも全てはピースフルなワールドの為にテートクはっ!」
「ひっどい話だねぇ。どうせ保身の為に利用するだけ利用して用が済んだら処分でしょ?」
「ノー......あの人は......あの人はそんな人じゃないデース」
タケの言葉がワタシのハートをキリキリと締め付けていきます............我が身可愛さに彼女の優しさを利用してしまったのはワタシなのダカラ。
「竹ちゃん、そんなことを言ってはいけないのです。確かに三人とも可哀想なのです......でも金剛さんの司令官さんだってきっと自分なりの方法で平和な世界にしようと頑張っているのです」
「イナヅマ......信じてくれてセンキューデース」
「......あれ?改修された二人の内の一人って確か......」
ビッキー......悟られない様に気を付けていたのに。一番気付いて欲しくない子に気付かれてしまうなんて、スパイ失格ですネ......
「金剛さん、確か一つの鎮守府には同名艦は一隻しか建造してはいけない決まりになっているはず。けど金剛さんが改修されて居ないのは何故だい?」
「......グレイトなアイズの付け所デース。そう、本来改修されるはずだったのはワタシ......では何故改修されずにここに居るか」
「計画自体が完了しなかった......なんて事はまず無いな............恐らく別の奴が代わりとなったのだろう」
ここのチビッ子達は本当に頭が働くネ......これじゃあどっちにしろいつかは気付かれていたでショウ。
「ザッツライト。そう、ワタシの代わりとなった戦艦......それは」
ワタシの初めての親友でありワタシが初めて騙した彼女......
「ワールド・オブ・ビッグセブン。舞鶴第八鎮守府所属長門型一番艦長門......ワタシが彼女を陥れてしまったのです......」
「舞鶴第八......ってこの間来た響がいた鎮守府だよな」
「イエス、そこの長門デース」
「嘘だっ!だって長門さんは私が着任したときから居たんだ!」
「ビッキーが来たのは今から六年前でしたネ。ビッキーを一向に育てようとしないテートクに長門はどうにか出来ないかとワタシによく話してくれまシタ」
「明石さんっ!金剛さんは嘘をついているよっ!何で鳴らないんだい!?」
「......信じたくない気持ちは解るけど検知器は壊れてないわ」
アカシはビッキーに向かってとても気まずそうに答えてまシタ。
「だって......長門さんはあの男が沈めやがったんだ」
「ヒビキ、ユーが言っていたことを思い出すデース。少なくともワタシの知っている長門だったらヒビキ達に向かってあんなことは言わないネー」
ヒビキは先日の出来事を思い出したみたいで言葉を詰まらせていたネー。
「分かって貰えましたカ?これが彼の正体、そしてワタシのミッションは彼が人類に反逆を企てない様に監視することデース。ですから今日の話はくれぐれもミスター門長にはシークレットね?」
「秘密にするのは良いが最後に一つ聞いて良いか?」
「ホワッツ、なんですかマツ?」
「陥れたとはどういう事だ?」
「オゥ......勘の良いキッズは嫌われマスヨ?」
と言ってもワタシはボロを出しすぎただけ......デスカ。
「嫌う奴は嫌えば良い。私は私を解ってくれる奴が居ればそれで良い」
強いですネ......ワタシなんかよりずっと......うらやましいネ......
「......オーケー、話しまショウ。」
私が選ばれたあの日、ワタシはテートクに呼び出されたのデース。
「テートク?話とは一体なんですカ?」
「君が助かる方法がある......と言ったらどうするかね?」
「あっ、あるのデスカ!?」
命令なら仕方ないと思っていても改修素材になんかなりたくない。当然ワタシは唯一の希望にすがろうとしまシタ......しかし。
「君と仲の良い舞鶴第八鎮守府の長門、確か彼女の練度も九十九だったな」
「ま......さか......ノー。マイフレンドを売るわけには行かないネー」
「そうか......それは残念だ、では君に最期の任務を与えよう。」
そうしてワタシに与えられたのは独国との交流が目的の遠征任務。
ワタシは分かってました。最初からテートクは長門を改修に使うつもりだったと....
だけどワタシは怖かったのデース。反抗して解体されるのも......長門を騙してワタシだけ生き残るのも......。
私が強ければ......今のミスター門長のように海軍を敵に回せる覚悟があれば......
しかしワタシは逃げてしまった......何も知らない振りをして命令通り独国へと......
遠征を終えて帰ってきたワタシは聞きたくない報告をテートクから聞かされまシタ。
「見たまえ金剛、これが真七九八号計画の姿だ。と言っても艤装の展開が現在出来ない状態だがな」
真七九八号計画の完成......それは彼女の犠牲をひしひしとワタシに伝えてまシタ。
「長......門......ソーリー......ごめん......なさい......」
「ああ、彼女は大分暴れていたね。お陰でうちと横須賀第三鎮守府の明石が中破してしまったよ」
ワタシはその場に泣き崩れて居るとミスター門長は近付き右手でワタシのネックを絞め上げ何かを呟いたのデース。
「......ウラギリモノメ」
「ぐぅ......っは......ソ......ソー......リー............」
このまま
「止めないか門長!!」
テートクの一声により一瞬ミスター門長の視線がテートクへと向いた。
その隙を突くように周囲から麻酔弾が何発も放たれたネー。
「っ!?............」
十数発ほどヒットした辺りでワタシは解放されミスター門長はその場に倒れこんだのデース。
「大丈夫か金剛」
「っはぁ......はぁ............イエス......」
「君にここで死んで貰っては困る」
永遠に続く呪縛に彼女を縛りつけてしまったワタシは彼女を救うことも死ぬことも出来ずにただ生き長らえている......
「なんで......なんで長門さんが......金剛さんが居なくなれば良かったんだっ!」
「ヒビキ............」
「おい響!幾らなんでもそんな言い方はねぇだろ!」
「っ......!」
「響ちゃん!」
瞳に涙を溜めたヒビキは部屋を飛び出してしまいました。
「響ちゃんを追いかけてくるのですっ!」
「私も行ってくるよ!」
すかさずイナヅマとタケがヒビキを追いかけてくれたのでひとまず大丈夫でショウ。
「さて、話すことは話しましたし邪魔者は去るとするデース」
立ち上がろうとしましたが椅子に縛られていたので直ぐに引き戻されてしまいまシタ。
「オー......ソーリー、枷を外して貰えますカー?」
誰も外してくれませんネー......まあ皆を騙していたのですから報いを受けるのは当然デスカ。
しかし、彼女らの反応は私の予想を裏切るものでシタ。
「去るって言っても他に行く当てなんかあんのかよ」
「それは......何とかなりマー......」
突如アラートがワタシのイヤーを襲ったネー。
「ノォォォッ!?」
「なんだよ、やっぱねぇじゃねぇか。」
「だろうな、奴の監視も出来ずにのこのこ帰ったのでは間違いなく見限られるだろうな」
悔しいですが否定は出来ないデース......恐らく別の鎮守府へ保護して貰ってもいずれは......
「バット、仲間を裏切るような艦娘を置いといてもプラスな事はナッシングデース」
「んな理由で仲間を見放したら寝覚めがわりぃじゃねえか」
「ノー......ワタシには仲間なんて呼ばれる資格はありまセーン。だから気に病む必要もナッシング!オーケー?」
「オッケーじゃねぇ......よっ!」
「いっ!?」
マヤの放ったチョップがワタシのヘッドにクリティカルヒットしたネ......
「あんたの目的はあいつが海軍に反逆しないように監視するのが目的なんだろ?だったら別に続けりゃ良いじゃねえか」
「私達に直接危害を加えに来たのでは無いなら問題はない。寧ろ続けた方がプラスになることもある」
「でも......私の報告を聞いた彼らが攻めて来る事だってあり得マース」
「そんときゃそんときだろ?別にそこであんたを責めたりはしねぇよ」
「それにお前が居なくなっても監視役はまた来るだろう。だったら今のお前の方が断然信用出来る」
「マヤ......マツ......セン......キュ......ウ......です」
長門......今はまだウェイトしててネ。いつか貴女を救い出す方法を見つけるから......そしてそれまではワタシ達でヒビキを守り続けるから、昔の様な過ちは繰り返さないデース!
ワタシは浸水して使い物にならない視界を閉ざし決意を固めまシタ。
「さて、金剛さん問題は纏まりましたが響ちゃんの方はどうしましょうか」
「それもそうだが、その前に一つ良いか明石」
「へ?どうしました松ちゃん」
「いや、この際だしお前も何か私達に何か隠してる事はあるなら話さないか?」
「松ちゃんの素顔とかですか?」
「なぁっ!?今は私の事は関係無いだろう!」
「あっはは!冗談ですよ。ただ、別に隠してるつもりは無いので訊かれれば答えますよ?」
「じ、じゃあお前は何者なんだ。どうしてここに来た」
はい、まだ続いちゃうんです!