響乱交狂曲   作:上新粉

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私の資材(現金)も底をつきそうな今日この頃......毎月の追加資材が待ち遠しい。


第十六番

 「あ、門長さんお疲れさま......って一体どうしたんですかその格好っ!?」

 

「あ?何がだよ」

 

「気付いてないんですか!?」

 

俺は明石が持ってきた手鏡の中の自分の姿を確認すると上半身が赤いっつーか赤黒くなっていた。

 

「ああ......ただの返り血だ、問題ねぇよ」

 

「いや問題ですよっ!早く風呂で洗い流して来てくださいよ」

 

「報告してからでも良いだろ」

 

「響ちゃんをそんなに怯えさせたいんですか?」

 

はっ!そうか、このままでは響にトラウマを植え付けてしまうやもしれん!

 

「ちょっと風呂行ってくる!話があるから全員を執務室に集めといてくれ!!」

 

「はいはい、呼んでおきますから行ってきちゃってください」

 

俺は明石に召集を任せると急いで風呂に行き返り血を洗い流す。

そして風呂から出た俺はそのままの足で執務室へと向かった。

 

「全員揃ってるか?」

 

「はい、全員居ますよ」

 

「なんでてめぇは上半身裸なんだ......」

 

「んなの服が汚れたからだ。っとそんなことより話がある」

 

摩耶の突っ込みを軽くあしらって話を続ける。

 

「今日の事なのです?」

 

「ああそれも伝えて置かなきゃな。まずこっちの被害だが響、俺、金剛が小破、他は損傷無し又は軽微って所か......んで相手の損害だが」

 

響が真剣な顔つきで俺に意識を向けている。

この話じゃ無ければ素直に喜びたい所なんだがな......

 

「加賀、赤城、霧島、飛鷹中破。扶桑、山城、足柄、五十鈴、大破。暁、朧、龍驤、損傷無し。」

 

「......長門さんは!?」

 

響の問いかけに俺は嘘偽りなく返した。

 

「長門は......俺が沈めた」

 

「な!?......な......んで......」

 

「奴を見逃せばいつかお前が奴に沈められてしまう」

 

「そんなことは無い!長門さんだっていつか解ってくれた筈だ!」

 

「それはあり得ない、奴はお前を敵だとさも当然のように言い切った!お前の仲間だと言う言葉にも耳を貸さずにな」

 

「嘘だっ!嘘だ嘘だ嘘だ嘘だっ!!」

 

響は俺の言葉を信じようとはせず耳を塞いでその場に踞ってしまった。

 

「響ちゃん......」

 

不意に電が響に近づきそっと抱き締め囁いた。

 

「ねえ響ちゃん、長門さんが沈んでしまったのはなんでかわかる?」

 

「......それはあいつが長門さんを沈めたから......」

 

「ううん、違うのです。それは彼処にいた皆が強くなかったからなのです」

 

「強くなかっ......た?だって主力艦隊だよ!?皆強いに......」

 

響の言葉を遮るように電は話を続ける。

 

「強さと言っても戦闘力だけでは駄目なのです」

 

「どういう......こと......だい?」

 

「全ての他人を信じる強さ、それが長門さんにも門長さんにも......そして響ちゃんにも足りなかった、だから悲しい結末になってしまったのです」

 

「私は!私は長門さん達を信じてる!電達だって!」

 

「でも響ちゃんは門長さんを信じていないのです」

 

「そんなの当然じゃないかっ!どうやってあいつを信じろって言うんだ!」

 

「でも信じてれば長門さんは沈まずに済んだかも知れないのです」

 

「訳が解らないよっ!何を言っているんだ電......」

 

「もし、響ちゃんが門長さんの強さを信じて長門さんを沈めないで欲しいと頼んでいたら....そしたら長門さんを沈める事も無かったかも知れないのです」

 

「あいつがそんなこと......」

 

「するなんて信じてないから頼もうともしなかった」

 

「............」

 

「でも門長さん、長門さん以外誰一人沈めて無いのです」

 

「そんなの偶々だ......」

 

「たとえ偶々でも気遣わなければ門長さんの運じゃほぼ確実に出来ないのです」

 

今何気にディスられた気がする......電だから許しちゃうけど。

 

「私達は他人をもっと信じられる様になれば世界はいつか平和になるのです!」

 

「電......」

 

「為になる言葉をありがとうな電。まあだからと言って体も心も直ぐになれるものじゃねぇよな。」

 

「それは......そうなのです」

 

「ちょっ!?別に否定してる訳じゃねえぞ?ただ俺が出来ないことを無理強いはしたくねえから選択肢を用意してるってだけだ」

 

「選択肢だと?」

 

「ああそうだ松。これは響だけじゃなくお前ら全員の話だ」

 

「ミスター門長......」

 

「ここから北西に暫く行ったところに南方前線基地がある。そこの提督はどんな奴かは知らないが所属艦の話を聞く限りお前らならきっと受け入れてくれる筈だ。」

 

「なるほど、選択とは此処に留まるか南方に保護して貰うかと言うことか......」

 

「ああ、好きな方を選んでくれて構わない......っと言っても決まってるようなものか」

 

「ああ、考えるまでもないな。私と竹は此処に残るぞ」

 

「松......!そんなに俺の事を......」

 

「変な勘違いをするなっ!私達が既に海軍の敵である可能性があるから此処の方が安全だと判断しただけだ!」

 

「松も素直じゃないなぁ?あ、私は松も居るし此処の方が楽しそうだからねっ!」

 

「私は響ちゃんに付いていくのです!」

 

「電......私は......私は......」

 

「響ちゃん......」

 

「......此処に残るよ......いつか強くなって鎮守府の皆と仲直りするんだ」

 

「響ちゃんっ!その意気なのですっ!」

 

電は響に勢いよく抱きついてはしゃいでいた。

そんな微笑ましい光景を眺めながら俺は内心胸を撫で下ろしていた。

 

「良かったですね門長さん」

 

「ああ?なんだよいきなり」

 

「響ちゃんが居なくならなくて安心してるんでしょう?」

 

「......るせ、てめぇらはどうすんだよ」

 

「へ?私ですか?そうですねぇ......私はあっちにいきましょうかねぇ?」

 

「明石さん!?」

 

「行っちゃうのですか!?」

 

「おう、じゃあな」

 

「相変わらず容赦ないですねぇ......門長さんも少し位止めてくれてもいいんですよ?」

 

「あ?俺が言い出したのに俺が止めてたら何がなんだかわかんねぇだろうが」

 

「まあ......そうですよねぇ......取り敢えずは頼まれたものが完成するまではこちらに居ますよ」

 

「そうか、金剛は?」

 

「私はミスター門長についてくネー!!」

 

「おう、てめぇはどうすんだ?」

 

「あ、あたしも残るぜ。チビどもに飯作ってやらなきゃならねぇしな!」

 

なんと、まさか全員残るとは思っても見なかった。

最悪一人で生きていくことも覚悟していたからなんだか気が抜けたぜ。

 

「本当にいいんだな............よしじゃあ話は以上だ。響達はドックに行ってこい」

 

話は終わり各々は自身の部屋に戻っていった。

 

「なぁ変態、本当に海軍を敵に廻してるならいずれまた来るんじゃねぇか?」

 

ふむ、確かにこいつの言うことは尤もだ。

今回は一方向からだけだったが囲まれる可能性だってあるし今回も金剛が居なきゃ相手を沈めずに撃退するのも厳しかったからな。

俺一人でも響達を護りきる自信はあるが相手も沈めないようにとなると一人では流石に無理か......

 

 

「よし!全員で特訓しよう」

 

「はぁ?」

 

「なんだその顔は、そんなに特訓したくねぇのか?」

 

「ちげぇよ......今更過ぎて呆れてんだよ」

 

「今更?ああそういやお前は陸上で何かやってたな」

 

「アタシだけじゃねぇよ、響達だってとっくに始めてるぜ?」

 

な......に......?俺はそんなとこ一言も聞いていないぞ......いや、俺には言わねぇか。

 

「しかしいつやっているんだ、俺は見たことねぇぞ?」

 

「そりゃお前に見られないようにやってたんだろ?」

 

そうだったのか......じゃあ特訓は各自やってるとして後はどうするか。

 

「まあ来るもんはしゃあねぇし、アタシらはいつでも戦えるように資材と装備を整えとけばいいんじゃねえか?」

 

「なるほど......やはりそこにたどり着くか」

 

しかし、資材を溜めようにも俺が出るとそれだけでマイナスになりかねんからな。

だからと言って響達にそんな危険な任務をさせたくは無いしなぁ......

 

「やっぱり艦娘が護衛してる輸送船団を襲う方が楽に多く資材が入りますよ?」

 

「お前は艦娘に恨みでもあるのか?」

 

「いいえ?私は合理的なだけですよ?」

 

「確かに深海棲艦側は戦艦とか空母が護衛してるからな」

 

「いっそのこと深海棲艦側で船団護衛任務とかすればいいんじゃないんですか?」

 

「いや、あいつら話聞かねぇだろ」

 

確かに出会い頭で撃ってくるような奴等だが人形であれば話せることは確認済みだからな。

 

「ちょっと試してみるか......」

 

「はぁ!?マジかよ!」

 

「マジだ。俺の修理が終わり次第作戦実行だ。俺も響達が出るまで寝る事にする、じゃあな」

 

「深海棲艦を護衛とか......どうかしてるぜ。」

 

頭を押さえる摩耶はほっとき俺は隣の寝床へと帰って行った。

 

「言ったのは私ですが本当に深海棲艦側に付くつもりですか?」

 

「いんや、別にどっちに付くつもりもねぇよ。依頼ならどっちだって受けるつもりだ」

 

まあ艦娘から依頼が来ることはまず無いと思うがな。

 

「それじゃあどちらからもスパイだと思われますよ?」

 

「そんなのは仕事で示せば問題ない」

 

「ふ~ん、まあ楽しみにしてますよ。じゃあ私はこれで」

 

「おう、お前にも手伝って貰うからな」

 

「兵装の操作なら何なりと~」

 

妖精は俺の肩から飛び降りるとひらひらと手を振りながら廊下を飛び去っていった。

 

「......ま、なんにせよ今日の所は寝るか!」

 

しかしこの一時間後、空腹に睡眠妨害され続けた俺は工廠へと向かうことになるのだった。

 

 

 




寝てても資材(現金)が溜まる幽霊提督のようなお仕事がしたい(切実)

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