響……ヒビキが……生きてる?
「と、門長さん!貴方、騙されてますよ!貴方の知ってる響ちゃんは沈んだんです!それとも駆逐艦響なら誰でもいいんですか!?」
砲雷長のイウ通リだ……響は沈んだ、じゃあ俺に砲を向けてくる彼奴はニセモノ?
「そうですよっ!本物の響ちゃんなら貴女に砲を向けたりしません!」
ソウダ……ホントにソウカ?
ワカラナイ……ケド……敵意を感ジナイ……何故?
「門長、今助けるから」
「ヒ……ビ……キ……?」
「門長さん!撃ってきましたよ!さぁ反撃ですよ!」
撃ってキタ……けど俺を倒す弾ジャナイ……あれは……俺を……?
「コレ……ハ?」
「ふふふ、何をするかと思えば……偽物なら偽物らしくもっと愛想でも振りまいておけば時間稼ぎ位にはなったでしょうに。さあ門長さん!あんな目障りな偽物さっさと沈めてしまいましょう!!」
何もオキナイ……だが、ナンだろうな。
さっきまでヨリ意識がハッキリしてる。
「何をボサっとしてるんですか!貴女の大切な存在を騙る偽物が現れたんですよ!」
「砲雷長……ウルセェ、集中出来ねぇダロ」
「なっ……!?」
で、今の状況ダガ……確かにコイツの言う通り目の前の響は俺の知ってる響とは限らナイ。
「……違ウ、馬鹿かオレハ!」
こんな禍々シイ異形を身に纏うオレにあんな慈愛に満ちた目を向けられる存在が他にイルカヨッ!
「門長さん!私の声を聞いて居れば貴方は救われる!偽物に惑わされては駄目ですよ!」
「黙レって言ってんダロ!」
「くっ……駆逐艦風情が……何をしたっ!」
「なに、特殊な電磁波を発生させる演習に使う弾頭を使っただけだよ。あれくらいじゃ門長自身には何ら影響は無いけど、頭に当てれば通信にノイズを混じらせる位は出来るらしいね」
ノイズ?言われてみれば音が少しダケ聞こえずらくなってイル。
「貴様……一体何処でそれを」
「私を救ってくれた親切な妖精さんが教えてくれたんだよ。そんなことより……門長、心配掛けてごめんね」
「チ、チガ……ウッ……!」
響が謝ル理由ナンテナイ!
俺が響の信頼を裏切ってマタ……。
なのに……ドウして、どうシテ響が謝るんダ。
「違わないよ、門長を守るって言っておきながら私は……彼女が居なければ取り返しの付かない事をしてしまった。由紀さんを庇った事を後悔するつもりは無いけど、咄嗟に動いてしまったのは確かだ」
「ソレデモ……オレハ……俺は……っ!」
こうして目の前に響がいるとはいえ俺が響を沈めてしまった事実は変わらない
「響……」
「ごめん……全く怖くないとは言えないけど、それでも私は今でもちゃんと門長を信じてるよ」
恐怖など抱いて当然だし、拒絶されても可笑しくない仕打ちをした。
それでも響は恐れに震える身体で優しく、それでいて確りと俯く俺を抱き締めてくれた。
「ありがとう……ありがとうな、ひびきぃ……」
「
その心地良い響きを聞きながら限界を迎えた俺の意識は徐々に白んで行く。
「ああ……あと……は……頼……む」
「うん。お休み門長」
響に許された俺はその安心感と共に気付けば深い眠りに付いていた。
「さて、やりますか」
────────────────
気を失った門長を比較的動ける状態の不知火さんに任せて私は門長と共にいた妖精の前に立った。
「砲雷長さん、それともエラー娘さんって呼んだら良いかな」
「どっちでもいいわ、そんな事より私の計画を台無しにしてくれちゃって覚悟は出来てるんでしょうね?」
「覚悟するのはそっちだよ。その計画とやらの為に門長にやらせようとしてた事も、門長の気持ちを利用した事も決して許さない」
「はぁ?艦娘如きが生みの親である私達妖精に反抗しようだなんて調子に乗るんじゃないわよ!私が命ずる、来なさい深海棲艦達っ!」
妖精が声を張り上げた直後、付近で戦闘していた深海棲艦達が一斉にこっちへ進み始め、ものの数分で私達の周りは囲まれてしまった。
「さあ、お前達が如何に絶望的状況が解っただろう?さっさとその男をこっちに寄越しなさい!そうすれば苦しまずに終わらせてあげるわ!」
360度敵だらけの絶望的な状況だ。
それでも門長に託されたんだ、私は絶対に諦めない!
「Урааааааааааааа!」
「馬鹿な駆逐艦ね、本当の絶望を教えてあげるわ!」
妖精の号令と共に深海棲艦達は次々と鉛の雨を降らすが、私はそれらを一切気に留めずただひたすらに突き進む。
それでも段々と精度が上がって行く砲弾が私の身体に傷を増やして行った。
「まだ……まだなんだ……!」
「諦めなさい駆逐艦っ、次の斉射は貴女には避けられないわ!」
その宣言通りに放たれた砲弾は私の進む先に落ちようとしていた。
今の私には彼女の加護はない。
つまり弾雨に飲まれれば今度こそ助からないと言う事だ。
それでも……それでも突き進むしか無いんだ!
「今だ、電ぁぁぁっ!!」
私は大声を張り上げながら足に力を入れて前方に勢いよく飛び込んだ。
「なに!?まさか私の探知を抜けて──!?」
妖精は慌てて周囲を見渡しているけど電を見つけられ無いみたいだ。
だがそれも当然さ。
「誰を探してるんだい?私なら此処だよ」
電は初めからこっちには来てないんだからね。
「ちっ、護られてるだけのガキのくせに小賢しこと」
「そんな事は私が一番分かってるさ。だからこそ私は門長の為ならもう手段は選ばない。全てを使ってでも門長を護ってみせるよ」
「ふ、ふん!私に触れる事すら出来ない癖にどうしようと言うのかしらね!」
そう言いながらも妖精は私の一挙一動を見逃さない様に注意深く観察している。
それは裏を返せば捉えられる可能性を危惧してるに他ならない。
ならば仕上げと行こうじゃないか。
「そうかい?だったら試して見ようか」
そう言って私はシルクグローブを装着し、目の前の妖精に掴みかかる。
私の手が妖精に触れようとしたその時、一発の砲弾が私の腹部を穿った。
「油断したわね駆逐艦、アイアンボトムサウンドを沈めなかったお前の負けよ」
「なっ……響っ!うそ……そんな……どうして……!?」
私が振り向くと信じられないといった表情の由紀さんが私の姿を見て涙を浮かべてくれていた。
「あっははは!私にここまでやらせた事は褒めてあげるわ!でも所詮艦娘、この世界を変える事なんて出来ないのよ」
「う……ふぅ……っ……ま、まだ……生きてる」
「そうね、その身体で何が出来る事もないでしょうけど?」
そう……それは……どうかな?
瀕死でも……注意を向ける事は出来る。
私は口角を三日月の如く吊り上げた。
「……っ!?」
そんな私の異質な様子に妖精が僅かに身体を硬直させた次の瞬間。
「にひひっ、捕まえたのっ♪」
妖精の背後から音もなく浮上した一隻の潜水艦。
イクさんは悪戯を成功させた子供のように無垢な笑顔で妖精を両手で捕まえたのだ。
「なっ!何者……!?」
「初めましてっ……じゃないのね!潜水艦伊19よ。うん、イクっ!」
イクさんに捕らえられた妖精は彼女の存在を思い出すのに少し時間が掛かっていた。
申し訳ない事に私も電から紹介されるまでは忘れてしまっていた。
こんなにも個性的なのに意識していないと何故か覚えていられない不思議なひとだが、今回はそれが役に立った。
元々私達に対してあまり警戒してなかった妖精が記憶にない潜水艦を警戒なんてする可能性は低いと踏んだ。
とはいえただそれだけでは浮上時に気付かれてしまうので、私が敢えて致命傷を受ける事で勝利を確信させ油断を誘った。
その結果が今の状況を創り出したんだ。
私は遠のきそうな意識を確りと保ち、私の拙い策を見事に成し遂げてくれた
「ありがとうイクさん。
私の言葉に訝しげな表情を浮かべる妖精だったが、直後イクさんの頭の上から降りてきた赤み掛かったツインテールの妖精の姿に苦虫を噛み潰したように顔を歪ませた。
「お久しぶりですね、エラー娘さん……いや、
「……ちっ、やはりお前が一枚噛んでいたか土下座娘。中立派のあんたがあんなのを生み出してまで何をする気だったのかしら?」
チュートリアル娘と呼ばれた妖精は忌々しげにそう言い返す。
だが赤髪の彼女はそんな視線を軽く受け流しつつ淡々と答えた。
「そうですね、貴女が従えていた海底棲姫……でしたか?世界の歪みを直す修正力としての役割を彼に持たせました」
「はっ、その結果新たな歪みを生み出してちゃ世話ないわね」
「もちろん後のことは考えてありますよ。まぁ、周囲への影響力がありすぎたのは誤算でしたが……結果的にあなたの手駒は全て失いました」
「ふん、これで勝ったと思わない事ね。あれくらいなら私と
エラー娘さん改めチュートリアル娘さんはまだ何かを企んでいるかのように不敵な笑みを浮かべていた。
その視線の先には由紀さんが……ってまさか!
「イクさん避けて!」
私がイクさんに呼び掛けるのと操られた由紀さんが引き金を引いたのはほぼ同時だった。
「えっ、き、急速潜航なのね!」
「手遅れよ、死になさい潜水艦!」
私は反射的にイクさんと砲弾の前に割って入っていた。
今の損傷でもう一撃喰らえばきっと助からない。
そんな事は分かっていたけど私にはやっぱり誰かを見捨てるなんて出来ない。
駆逐艦響としても私としても……あんな想いは二度としたくない。
だからごめん、門長……調子のいい事を言おうとしてるのは分かってるど……もうこれしか方法はないから……
信じさせて。
「とながぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」
私が叫んだ直後、周囲は激しい爆煙に包まれた。