たった一つの意志を遺して全てを失くした門長であった
「グオォォォォッッッ!!!」
「ハハハハハッ!!ソウダ!我々ヲ動カスノハ破壊衝動ノミ。理性ナド人デアッタ頃ノ残留物ダ!」
アイアンボトムサウンドは門長と距離を詰めながら六基十八門の20inch三連装砲を一点に向けて一斉射する。
だが門長はその砲弾を装甲を纏った手の甲で次々と受け流していった。
「マダソンナ付ケ焼キ刃ニ頼ルカ……シズメェェェ!」
「グルル……」
既に短刀程の長さとなった刀を水平に構えたアイアンボトムサウンドは門長の心臓部を貫こうと更に速度を上げる。
その速度は並の魚雷を遥かに凌駕し、他の海底棲姫でさえ避けきる事は容易ではない。
しかしそれだけの速度を以てしても……否、それだけの速度があったからこそ門長は理性無きその身で獰猛な笑みを浮かべたのだ。
「……ッ!?」
その笑みに気付き止まろうとするも時すでに遅し、門長に腕を取られたアイアンボトムサウンドは殺しきれなかった勢いを乗せて空中へと蹴り上げられていた。
「グッ……コノ程度ッ!」
空中でどうにか体勢を整えるアイアンボトムサウンドへ向けて門長は両肩に載せられた大口径の連装砲を放つ。
空中での回避は困難、だがアイアンボトムサウンドは射出成形から着弾までのコンマ数秒の間に刀の柄を一発の砲弾にあてがう事で直撃を避けつつその勢いを利用して一気に距離を離す事に成功させた。
「フゥ……ハァ……成程、ソレモ含メテ貴様ノ力ト言イタイノカ」
「グガ……コ……ロス……」
「オモシロイ、貴様ノ力ガ理外ノ存在ニ届キウルカ見セテミロッ!!」
そう言い放つアイアンボトムサウンドが刀を海中に沈めた時、直感的に危険を感じ取った門長は反射的に後ろに飛び退く。
その判断は正しく、次の瞬間には元いた場所には無数の鋼の板が突き出していた。
「マダマダァッッ!!」
無数に突き出した鋼板からはミッドウェーが発艦させていたものより更に一回りも大型の爆撃機が無数に飛び立っていく。
「ガァァァァッッッ!!!」
四方八方から落とされる爆撃に門長は極めて鬱陶しそうに睨み付けると艤装の機銃を全て稼働させる。
その激しい弾幕は爆撃機も爆弾も等しく蜂の巣にして行った。
だが、真に気を付けるべきは海中から飛び出す降板でも無尽蔵に発艦される爆撃機の規模でもない。
「クラエッ!」
爆撃の雨を目くらましに門長の死角を縫う様に駆け抜けたアイアンボトムサウンドは、門長の背後へと回り込み欠けた刃その首筋へと振り下ろした。
「……ッ!アハハハハハッ!」
確かに門長の首を捉えたはずの一閃はまるで鋼鉄を叩いた様な音を響かせた。
しかし、既に侵食が進んでいる門長の皮膚は既に生身の部分の方が少なくなってきている。
その為普段ならアイアンボトムサウンドの装甲を貫く事など叶うはず無かったその右手はいとも簡単に彼女の腹部を貫いていたのだ。
「ウグッ……本……当ニ……素晴ラシイ……ワ」
「コワ……ス……コワス壊ス壊ス壊ス壊レロォォォォッ!!」
門長は彼女の腹部を貫いた腕を先程までとは打って変わって力任せに叩き付ける。
為す術なく叩き付けられたアイアンボトムサウンドは二、三跳ねながら海面を転がって行った。
アイアンボトムサウンドは既に瀕死の重症を負いながらもどうにか立ち上がり全主砲を門長へと向ける。
そして門長も同様に主砲を彼女へと向けた。
「ハァ……っはぁ……コレなら……もしかシたラ……」
この一撃を受ければ自分は間違いなく沈むと彼女は解っていた。
だがそれでも彼女の目的は果たされたのだ。
その先をこの目で見る事が出来ない事を悔やみつつも、伊東由紀は満足そうに呟いた。
暫しの膠着の後、幕を告げる砲声が放たれる。
だが、それと同時に一人の少女が叫び声を上げて二人の間に割って入って来たのだ。
「
「なっ、なんで!?」
駆逐艦の身で戦艦すら容易く沈める門長を主砲を受ければどうなるかなど考えるまでもない。
「う、ぐぅ……っ!間に合って……!」
此処で彼女を喪う訳には行かない。
由紀は響を下がらせようと慌てて手を伸ばすが、迫り来る砲弾に対して余りにも鈍重な身体ではどう足掻いても間に合わないだろう。
それでも諦めずに手を伸ばした彼女だったが、その想いも空しく響の姿は爆炎へと呑み込まれて行った。
クライマックスなのにどうして短くなるのか……。