響乱交狂曲   作:上新粉

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第百二十三番

毅然とした態度で刀を構えるアイアンボトムサウンドにさっきまでの油断は見られねぇ。

くそっ、これじゃあ後の先も取れそうにねぇぜ。

艤装まで展開したっつうのにまだ奴には届かねぇのかよ。

 

「何時まで構えてるつもりだ?自身を押さえつけながら勝てる相手じゃないと既に理解しているだろうに」

 

「へっ……ダレがテメェの言葉なんか真にウケルかよ」

 

「愚か……」

 

奴は呆れた様にそう呟くと同時に俺の視線から消えやがった。

辛うじて初動は見えたが、反応する間もなく奴の刀は俺の脇腹を切り抜けて行った。

 

「ぐっ……がぁ……っ!」

 

「私を倒したければ捨てろ。貴様のそれは理性を持って扱えるようなものではない」

 

「……ル、せェ。てめぇノ尺度で測る……んジャ……ねェ!」

 

くそっ……理性を保て……響が俺を信じてんだ!

ここ一番で情けねぇ姿晒してんじゃねぇぞ!

 

「マダだ……まだ負けちゃいねぇ……」

 

「その強がりが何時まで続くか……」

 

落ち着け……取り乱すな……。

 

奴はわざとらしく隙を見せながらゆっくりと俺に近づいてきやがる。

今にも溢れ出さんとするこの破壊衝動に身を委ねれば奴を仕留める事が出来るだろう……だが、それこそが奴の思う壺だ。

だから俺はこの衝動を押さえつけつつ己の意思で右腕を振りかぶった。

 

「遅いっ」

 

「うぐっ……ぅ……」

 

しかし、奴はその腕を難なく切り捨て空振る俺の顔面を蹴り上げた。

 

「う……あ……ま、まだ……だ!」

 

「期待外れね……もういい」

 

「期待……?由紀さん……それって……」

 

「ちっ……まだ居たのか?奴の底が知れた以上貴様などもはや不要。ここで死んで貰う」

 

「え……?」

 

なっ!?アイアンボトムてめぇ!響に何する気だ!

くそがぁ!動け!響に手出しはさせねぇぞ!!

 

おい……やめろ……マジで……そっちに行くんじゃねぇ……こっちだ…………俺が相手だ……だから……

 

──力ニ身ヲ委ネレバ良イ──

 

……巫山戯んな、そんな事したら元も子もねぇだろ!

 

──響ヲ救エルトシテモカ?──

 

…………救えるのか?

 

──無論──

 

しかし…………

 

──解ッテルダロ?今動ケナケレバオ前モ響モ死ヌダケダト──

 

クソがっ……ああ、テメェの口車に乗ってやるよ。

だがな、ぜってぇにテメェの思い通りにはさせねぇからなっ!

 

 

 

 

 

 

──ソレデ良イ、使エルチカラヲ使ワヌホド愚カナ事ハナイ──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

私の喉元に切っ先を突き付けた海底棲姫こと由紀さんはその無表情の中に何処か落胆した空気を漂わせていた。

 

期待外れ……それは相手に期待をしなければ出てこない言葉だ。

そう言えば最初から彼女の行動は何処かおかしかった。

夜に私に言ってきたことも門長が艤装を展開出来る状況を作りたかった様にも思えるし、艤装を使いこなそうと……いや、抑えようとする門長にも納得していなかった。

 

 

「ゆ、由紀……さん。もしかして、門長なら自分に勝ってくれるって……そう、期待してたんじゃ」

 

「……それが事実だとしても、これから死にゆく貴女には関係ない話よ。安心なさい、あの男も直ぐに屠ってあげるから」

 

どうしよう……門長を護るって約束したのに。

やっぱり私じゃ力になれないのかな。

 

【俺と響が一緒に居りゃあ不可能なんてねぇぜ!】

 

門長……うん、そうだよね。

私と門長なら出来ないことなんて無いんだ!

 

「大丈夫だよ由紀さん。門長は期待外れなんかじゃない」

 

「そう、なら……愚かな幻想を抱いたまま死ね」

 

由紀さんはそう言い終えるや否や刀を振り上げると、私の首へと目にも止まらない速さで振りかぶる。

 

だけど私には恐怖はない。

門長が絶対に護ってくれるから!

 

「……なっ!?」

 

直後、由紀さんは目の前で起こった出来事に驚きの声を漏らした。

刀は確かに振り抜かれた、だけどその刀身は半分以上無くなり私の眼前を空振ったのだ。

 

「お前……」

 

「門長っ!」

 

由紀さんの視線の先を追うとそこにはさっきよりも黒い装甲に覆われた門長が奪い取った刀身を白く染まった手で砕き海へ捨てていた。

 

「グルル……コロ……ス……邪魔……スル奴……全テッ!」

 

「とな……が……?」

 

「ふふふ、確かに貴様の言う通りだったようだ。そしてやはりトリガーは響、貴様だったか」

 

門長の様子がおかしい。

それにさっきまで紅い気焔を放っていた右目が黄金に輝いている……で、でも大丈夫さ!()()()だってちゃんと目を覚ましてくれたんだ。

 

だから…………

 

「何を考えてるか知らんが変な期待せずにさっさと逃げた方が良い。まぁ、逃げきれればの話だが」

 

それだけ言い残すと由紀さんは六基十八門もの大きな三連装砲を展開して門長の方へ飛び出して行った。

 

二人の激しい攻防に割って入る事など出来ない私は、姉さん達が巻き込まれないように避難させてから二人の無事を祈りながら見守り続けた。

 




少し短いですが一旦切ります。

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