響乱交狂曲   作:上新粉

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響視点、時系列的には第百十九番の最後からになります。


第百二十一番〜響〜

相手の艦娘達からの攻撃は激しかったけど、吹雪さん達がフォローしてくれたお陰で私達はあまり損傷を受けずに近付く事が出来たんだ。

それに門長からもこっちに向かうとの通信があった。

直前の通信では摩耶さん達の方も今の所は作戦通りに進んでいるらしい。

 

だからこそ私達もこの説得を確り成功させなきゃね。

 

「む、通信か。こちらは中部前線基地所属の長門だ、貴艦の所属と名前を教えてくれ」

 

『初めまして……いえ、お久しぶりですね長門さん?横須賀第一鎮守府秘書艦、大淀です』

 

オープン回線で繋いできたのは大淀と名乗る女性だった。

 

「長門さん、大淀さんって……」

 

「ああ、海軍の艦娘を使うのであれば権力的にも指揮能力的にもヤツ以上の適任は居ないだろうな」

 

『理解が早くて助かります。ついでに自沈して頂けるともっと助かるのですが如何です?』

 

「こんな所で命を捨てる気は無いさ。それにお前達も我々と戦う理由はないと思うが?」

 

「そ、そうだよっ。艦娘同士で争う事にメリットは無いんでしょ?」

 

「えぇ、確かにあの方々の意向には合わないでしょう。ですが私とあの方々との繋がりを知っている貴女達は国の叛逆者として消しておかなければ国が立ちいかなくなるのですよ」

 

「私達は海軍に話すつもりなんて……」

 

『可能性はゼロにしておいた方が安心でしょう?』

 

どうしよう……どうすれば大淀さんを説得出来るんだろう。

 

『……ですが、条件によっては貴女達を見逃して上げても良いですよ』

 

「条件……なんだい?」

 

『私の独断である以上門長と敵対する事になってもあの方からの支援は望めないですし、不要となれば直ぐにでも消されるでしょう。ですが私とて命は惜しいのです』

 

「私に門長を止めて欲しいって事なら攻撃しなければ門長だって!」

 

『分かってませんね。私はそもそもあの方……いえ、海底棲姫なんかの下で終わる気はないんですよ。ですから彼女達に対抗しうる力を持つ門長を意のままに動かす為に……響、貴女の身柄をこちらで押さえたいのです』

 

「貴様っ!そんな話が通ると思っているのか!」

 

「バッカじゃないの!そんな事認めるわけないでしょ!」

 

「話になりませんね。普通は言葉の通じる方を交渉に出すべきでしょうに」

 

『あら、これ以上無いくらいの提案だと思いますがね?私達は門長の居ない貴女達位なら全て滅ぼして力ずくで響を捕らえる事だって出来るのですから』

 

「くっ……外道がっ」

 

長門さんも姉さん達も論じる事無く突っぱねた。

確かに私があっちに行くのは危険かもしれないし、大淀さんが嘘を吐いてる可能性もある。

 

それでも相手は長門さんや姉さん達と同じかそれ以上の実力者揃いの艦娘達で数も二十倍近くの開きがある……だけどもし私が向こうに行く事で皆が守れるのなら。

 

「大淀さん……信じて良いんだよね?私がそっちに行けば皆には手を出さないって」

 

『ええ、約束しましょう。私達は彼女達に手を出さないと』

 

「響ちゃん……」

 

「大丈夫さ。電も言っていただろう?皆が信じ合えば平和になるって」

 

「それは…………」

 

「だから私は大淀さんも門長も皆を信じる」

 

不安そうに見つめる電に笑顔で返した後、一人艦隊を離れ大淀さんの下へ向かった。

 

「良く来ましたね。霧島、彼女を頼みますよ」

 

「了解しましたっ」

 

大淀さんの隣に控えていた霧島さんが私の手を取って元の場所に戻る。

その時、丁度長門さん達と合流したらしい門長の声が通信越しに聞こえて来た。

 

『おい、響はどうした?』

 

「丁度良いタイミングですね門長さん」

 

『ああ?誰だ!テメェが響を攫ったのか!』

 

「攫った何てとんでもない。私は彼女と取引をしたのですよ。まぁ貴女が私に反抗する様なら無事は保証致しかねますがね?」

 

『テメェも俺を怒らせてそんなに死にてぇ様だな?』

 

「どうぞ?貴女がこちらに近付いた瞬間に彼女は海に還る事になりますが」

 

『……ちっ、要求はなんだ。話だけは聞いてやる』

 

「簡単ですよ、私の為に力を貸しなさい。貴方が協力的である限りは彼女の安全は保証しましょう」

 

『何をする気か知らねぇが、てめぇに力を貸すぐらいしてやるよ』

 

「それは結構、ですが言葉だけでは信用出来ませんので行動で示して貰いましょう。門長、先ずはそこの艦娘達を沈めなさい」

 

『は?』

 

「なっ!?」

 

いや……まだ大丈夫だ。

私だって考えて無かった訳じゃない。

 

「大淀さん、話が違うよ」

 

「そうでしたか?私達は手を出してませんよ。門長さんに全てやって貰いますからねぇ?」

 

そんなのは詭弁だ。

だけどそれなら私にだって手はある。

 

「そうかい、それなら私が自沈しようと何も問題はないね?」

 

『なっ!?何いってんだよ響!!』

 

雷管から一本の魚雷を引き抜き自身の胸に突き立てる。

 

私が自沈すれば門長は鎖から放たれる。

その結果どうなるかは賭けだけど、少なくとも大淀達ではどうにもならない事態になる事は明白だ。

 

「私と駆け引きをしようだなんて愚かな駆逐艦ね。そんな事をすれば門長は暴走するだけ。貴女は大切な仲間を全て巻き添えに出来るの?」

 

「解ってるよ、でもこのままじゃいずれにしろ皆は助からない。だったら1%でも確率のある方を選ぶのは当然だろ?」

 

大淀さんは私の顔をじっと見つめる。

私も負けじと真っ直ぐ見返すと大淀さんは不敵な笑みを浮かべて顔を上げた。

 

「霧島」

 

「はっ!」

 

「うぐぅ!?……う……くる……し」

 

手を掴んでいた霧島さんが突如私を持ち上げると右腕を首に巻き付けて締め上げて来た。

 

『テメェは殺す!絶対に殺すっ!!』

 

「うぐ……と……なが……」

 

駄目だ、こっちに来たら……皆が……。

 

「大淀よ、悪いがこれ以上お前さんの指揮にはついて行けんな」

 

「っつう……は、離しなさいっ!」

 

「うっ……げほっ……げほっ……」

 

「……今なんと言いましたか?()()()()

 

武……蔵、さん?

私を助けてくれた……けどどうして?

 

「門長よっ!あの時は済まなかったな!今回の件で艦娘とか深海棲艦とか考えていた自分が馬鹿だったと思い知ったよ」

 

『武蔵……?あいつじゃねぇな……誰だ?』

 

「ん?分からんか、まあいい。なら一方的に借りを返させて貰うぞ」

 

「私を裏切るつもりですか?残念です……皆さん、裏切り者には粛清を」

 

大淀さんが振り返って艦隊に号令を掛けるも誰一人動く者は居なかった。

 

「なにを……なにをしてるんですかっ!裏切り者を粛清しなさい!」

 

「残念だったなぁ大淀よ、既に我々の工作は済んでいる。お前さんの慎重さには随分手を焼かされたが、ここに来て欲をかいたな!」

 

「なんですって!?一体何をっ!」

 

有り得ないといった風の大淀さんに対して武蔵さんはにやりと不敵な笑みを浮かべる。

 

「お前は響を引き入れた時点で大人しく引くべきだった。そうすれば我々の工作は無駄に終わっていたからな」

 

「工作っ!?馬鹿な!私が気付かない筈がありません!いつそんな事が出来たというの!」

 

「そりゃあ気付かないだろうさ。なんせ本格的に行動を起こしたのはこの作戦が始まってからだしな?」

 

「そんな短時間で寝返るはずがない!何をした!」

 

大淀は日向さんに拘束されながら納得が行かないと言った様子で取り乱していた。

だけどこんな状況にも関わらず誰も動こうとしない事が事実だと証明している。

 

「嘘で固めた信用などヒビが入ってしまえば脆いものさ」

 

「くそぅ……私が……私の野望がァァッ!!」

 

「日向、こいつらを捕縛するぞ。作戦は終了だ!全艦各々の鎮守府に帰投するぞ!」

 

「「了解っ!!」」

 

良かった……これで私達は戦わなくて済むんだ。

傷付け合わずに済むんだね。

 

「武蔵さん、日向さん。ありがとう」

 

「なに、こっちこそ礼を言わねばならん。お前さんが取引に応じてくれなければここまでスムーズに事は運ばなかっただろう」

 

「そう……かな?」

 

「ああそうさ、だから……む、日向避けろっ!」

 

「んなっ──!?」

 

武蔵さんが日向さんに警告した直後、一発の砲弾が私を横切って大淀の胸部を撃ち抜いたんだ。

 

「ぐ……かはっ……!?あ……そ、んな……」

 

「日向っ!大丈夫か!」

 

「うむ、中破はしたがな……それよりも大淀の方が不味いな」

 

「くっ、誰かダメコンは装備していないかっ!」

 

武蔵さんが皆に声をかけるけど誰も装備していないのか返事は帰ってこなかった。

 

このままじゃ大淀さんは沈んでしまう。

けど、どうすれば助けられるんだろう……いや、明石さんならっ!

 

「明石さんっ!聞こえるかい!?響だよ、直ぐにこっちに来て欲しいんだ!」

 

私は通信機に何度も呼び掛けるけど向こうからの声はいつまで経っても返って来ない。

一瞬頭に不安が過ぎるけどそれを振り払って必死に呼び掛けた。

 

「明石さん!聞こえる!?明石さっ!」

 

『…………ひ、びき……ちゃん?』

 

「明石さん!どうしたんだい!?何か……」

 

『に……げて……すぐ……』

 

逃げて?一体基地で何が……摩耶さんや松達は大丈夫なのだろうか。

私は直ぐに門長に通信を繋いで基地の異常事態を伝える。

 

「門長っ!明石さん達に何かあったみたいだ!直ぐに基地に戻ろう!」

 

門長ならきっと戻ってくれる筈だ。

だが、門長からの返事は私の予想だにしなかったものだった。

 

『響……そこの武蔵達の世話になれ。絶対に戻ってくんなよ』

 

え……?な、何を言ってるんだい?

私は門長と一緒に居ると約束したんだ。

それなのに約束を破らせるなんて……。

 

「なに、を……門長は私が護るんだから一緒に居なきゃ護れないよ」

 

『…………足手まといだから来んなっつってんだ。武蔵、こっちの邪魔にならねぇ様にそいつを一緒に連れてけ』

 

「と……なが……」

 

門長はそれだけ言うと通信を切ってしまった。

 

胸が苦しい……気を抜けば足から崩れてしまいそうだ。

だけど…………私はもうあの時の私じゃないっ!

門長が私をどうしても遠ざけたい状況だと言う事は解る、けど!

 

「武蔵さん、私は大丈夫だから皆で直ぐに此処を離れて」

 

「おい、響っ!?」

 

こんな状況で逃げ出す位ならあんな約束は初めからしないさ!

 

「門長……私が護るから」

 

私は武蔵さん達に別れを告げると最大戦速で門長達の下へ急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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