響乱交狂曲   作:上新粉

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第百十九番

遂に訪れた決戦の日。

これまでに奴らの襲撃は一切無かった事からも中枢が入手した情報が事実である可能性は濃厚だ。

現に不知火の報告では基地の周囲五十キロ圏内に多くの反応があるらしい。

 

「艦娘達の位置が解った。包囲3-4-1、距離四六〇〇〇だ」

 

長門が放った水偵からの報告を聞いて全員に告げた。

その言葉に全員が頷き返すと機関出力を上げていく。

その中で響はいつも以上に身を強ばらせていた。

 

「響、怖いか?」

 

「……少し、でも大丈夫。門長も長門さんも皆も居るからっ」

 

「ああ、何が来ても絶対に護ってやるからな」

 

「うん、お互いにね?」

 

「ははっ、そうだったな」

 

そうだ、俺が全力で止めなきゃならねぇのは奴らが来た時だ。

それまでは響や長門達を信じて任せる事になっている。

 

ったく、出航前に話してたっつうのに緊張してんのは俺の方じゃねぇか。

柄にもなく緊張してんじゃねぇっつうの!

そうだ……大丈夫だ。

俺も響達もやるべき事をやると覚悟を決めてきたんだからよ。

それを忘れなきゃ何も問題はねぇ。

 

「長門さん、相手が三十キロ圏内に入ったよ」

 

「そうか……これから砲撃が激しくなるだろう!皆の者、心して掛かれぇっ!」

 

「「了解っ!!」」

 

目的は戦闘じゃなく交渉だ。

だから今回は機動力を重視した班だと聞いている。

旗艦長門、そして随伴艦に響、電、吹雪、暁、卯月、夕月。

響と電以外は何れも高練度で航行速度も優れる艦隊で、響と電に関しても長門や暁達なら充分にフォロー出来る。

それに深海棲艦に関しては港湾と中枢の所の奴らが対応してくれる事になってる。

だからこそ俺は俺にしか対抗出来ない奴らの出現に備えて力を温存しておかなければならねぇ。

 

「長門、響達を絶対に守れよ」

 

「当然だ。貴様の方こそ相手は奴らだからな、抜かるなよ?」

 

「ったりめぇだ」

 

さあ何時でも来やがれ、俺が返り討ちにしてやる。

その直後、前方から一つの艦影が現れやがった。

 

「敵影発見!距離四五〇〇、数は一つ!」

 

早速出やがったか、だが向こうの艦娘達も気付いたらしいな。

砲撃の幾つかが奴の所に流れて行ってやがる。

 

「よし、奴らが自分の意思で深海棲艦に与してない事が解った!俺があいつを止めてくっから響達は迂回しながら交渉に向かってくれ!」

 

「門長っ!」

 

「どうした響?」

 

「えと……帰って、来てね」

 

「響……ああ、絶対帰ってくる」

 

響と約束を交わした後、俺は前を向き直り再び海底棲姫の所へ突き進んだ。

相手は一人か……さて、どいつが来たのやら。

 

程なくして奴の背部に取り付けられた六つの滑走路から放たれる無数の艦載機が奴を空母型である事を伝えて来た。

 

「空母か……面倒だな」

 

「陸上型の可能性もあるが、まあお前さんには関係ないか」

 

陸上型だか海上型だか知んねぇが艦載機が厄介なのは事実だ。

 

「兎に角注意を向こうに逸らさせない為に全速力で突っ込むぞ!」

 

「はは、つまりいつも通りという事だな」

 

「あ?なんか文句あっかよ」

 

「いや、非常にお前さんらしいし恐らくそれが最善だろうな。だが伏兵には気を付けろよ?」

 

「当然だ、奴らが潜んでる可能性くらいは考えてる」

 

「そうか、ならいい」

 

武蔵もこれ以上意見がねぇようだしやる事は決まった。

兎に角突っ込んで敵を無力化する、あいつの言う様にいつも通りやるだけだ。

 

擦れ違い様に艦載機へ三式弾をお見舞いしてから全速力で直進しておよそ二分、海底棲姫の姿が目前へと迫った所で奴の方から声を掛けて来やがった。

 

「オ久シブリネ、門長?」

 

「ああ、やっぱお前も吹雪達と相対してた時に居た一人だな?」

 

「覚エテイテクレテ光栄ダワ?私ハミッドウェー、知ッテルト思ウケレド海底棲姫ノ一人ヨォ」

 

「互いに知ってんならさっさと本題に入るぞ。俺は響の為にこの戦争を終わらせて艦娘も人類も深海棲艦も誰もが共存出来る世界を作る。お前らが協力するなら戦う必要はねぇが、もし立ち塞がるなら障害として排除するだけだ」

 

俺は左手に持った五十一センチ連装砲をミッドウェーに向けて訊ねた。

だが奴は何が可笑しいのか、腹を抑えて笑いを堪え始めた。

 

「何笑ってんだ、似合わねぇなんて事は自覚してんだよ。んな事よりてめぇらはどうすっかって聞いてんだよ」

 

「フフッ……違ウワヨ。貴方、自分デ矛盾シタコト言ッテルノニ気付イテ無イノ?」

 

「矛盾だぁ?なんの事を行ってやがる!」

 

「誰モガ共存出来ル?自分ノ意ニソグワナイモノハ排除スル事ガ本当ニ共存ダト思ッテルノナラ随分トオメデタイ頭ネ?」

 

「門長っ!奴に耳を貸すな!門長!」

 

「…………」

 

確かに此奴の言ってる事は事実だ。

例えば人類全てが深海棲艦との共存を拒み敵対するなら俺は排除してただろう。

そうなってしまえばそれは既に共存ではなく、粛清、殲滅、そういった類のものになる。

 

「ミッドウェー、確かにお前の言う様にこれでは共存とは言えねぇな」

 

「おいっ!何を言ってるんだ!?」

 

「デショウ?共存ナンテ所詮机上ノ空論ニ過ギナイノヨ。ダカラ私達ハ全テノ種族ガ滅ビナイ様ニ均衡ヲ管理シテイルノヨ」

 

「そうか……お前らの考えは解った」

 

先程ミッドウェーが発艦させた艦載機のエンジン音が戻って来ている。

ミッドウェーは口角を吊り上げて三日月の様な笑みを浮かべて俺に告げる。

 

「ダガラネ……均衡ヲ守ル為ニ貴方ニハ死ンデ貰ウワ!」

 

「門長っ!避けろぉ!!」

 

武蔵が叫び声を上げると同時に背後から大型爆撃機から落とされ続ける大型爆弾が的確に俺の身体に飛び込み周囲を覆い包む黒煙を巻き上げていった。

 

「アハハハハハッ!ソノ姿ノ貴方ジャヒトタマリモナイデショウ?」

 

「ああそうだな、直撃してればひとたまりも無かったな」

 

「ナッ!?アレダケノグランドスラムヲ一体ドウヤッテ耐エタトイウノ!魚雷ナンカトハ炸薬量モ重量モ桁違イナノヨ!?」

 

確かにあれは全て受ければ俺であろうとも沈んでいたに違いない。

だから俺は明石から学んだ力を流す技術を応用する事で着弾地点を逸らしてどうにか直撃を避けた。

それでもかなりの被害は出ているし両手に持った主砲はもう使えそうにない。

つってもそんな事を此奴に説明してやる義理は無いがな。

 

俺は黒煙の中から飛び出しミッドウェーの左腕を捕まえる。

 

「さて、さっきのお前の言葉に対する答えだがな……正直共存だとか違うとかそんな事俺にはどうだっていい。響が幸せなら一つの種族を滅ぼすのも響以外全てを滅ぼすのも大した差じゃねぇ!」

 

「フゥン、イッソ清々シイ位ノエゴイズムネ。平和トカ共存トカイウカラアノ阿部トカイウ男ト同類カト思ッテイタケド。意外ト好感ノ持テル男ジャナイ?」

 

「あんな爺と一緒にすんな。それに幾ら煽てた所でてめぇの死はもう決まってんだよ」

 

「命乞イナンテソンナ弱者ノ手ヲ私達ガ使ウト思ッテイルノカシラ?」

 

強がりを宣うミッドウェーの首を左手で掴み締め上げる。

 

「強がった所でテメェに助かる道はねぇ。さっさと斃れ海底棲姫!」

 

「ウ……グゥ……今ノママデハソロモンニスラ勝テナイ癖ニ……調子ニ乗ルンジャナイワヨ!」

 

ミッドウェーが背部の滑走路の内一つをアームから無理に引き剥がすと、それを俺の腹部に押し当てた。

 

「何をする気か知らねぇがその前に殺すっ!」

 

奴の首をへし折ろうと全力で力を込めるも、想像以上に堅牢な奴の身体は悲鳴を上げながらもしぶとく耐えやがる。

 

「イキナサイ……ランカ……スター」

 

とミッドウェーが口にするや否や押し付けて来た滑走路から先程と同じ大型爆撃機が発艦しようとしていた。

 

「ちっ、テメェら妖精が乗って無いからって好き勝手しやがって……だがんな事すれば互いに只じゃ済まねぇぞ」

 

「ウフフ……グッ……我慢比ベモ悪クナイデショ?」

 

「ちっ、つくづく面倒な奴だ」

 

奴が自爆覚悟で突っ込んで来ない確証はない。

無論数発程度なら耐えられるが、後々の事を考えると被弾覚悟で仕留めるのは愚策でしかねぇ。

当然だが響に戻ってくると約束した以上艤装の展開は論外だ。

 

仕方なく仕留められる機会を手放そうとしたその時。

 

「その手を離すなよ相棒」

 

武蔵がそう口にすると突然肩の上に現れた。

 

「何をする気だ?」

 

ー お前さんの艤装から離れてあの爆撃機を動かしてくる ー

 

艤装から離れるだぁ?んな事したら暴走すんだろうが!

 

ー 艤装を格納してる空間は取り敢えず治ってるはずだ。それに今のお前さんなら……まぁ多分大丈夫だろう。もし次に感情に任せて艤装を展開すればどうなるか分からんがな ー

 

まて、そんな危険な賭けをやんねぇでも此奴を沈めるくらい━━

 

ー 本当にそうか?勝算があったのか他に目的があったのかは解らんがたまたま奴が近付いて来たからこそ今の状況が出来ているが、今手を離せば奴に距離を離されお前はあの爆撃機や攻撃機に一方的にやられるだけだと思うぜ ー

 

……確かにな、奴の方が早ければ追い付けねぇだろう。

だからと言ってお前が離れる必要はねぇ。

 

ー 少なくともあと二体は残っているのにここでこれ以上損傷を増やせば身に付けた技術すら使う余裕が無くなるぞ。そうなればお前さんは艤装を展開するしか無くなるだろうな ー

 

くそっ、他に手はねぇのかよ!

 

ー 手が無いかは知らんが悩んでる時間は無いぜ? ー

 

…………そうだな。武蔵、任せる。

だが、妖精は死なねぇんだろ?

だったらさっさと艤装を抑えに戻って来いよ。

 

ー ははっ、それまでにどうにかして欲しいものだ。まあどうなるか解らんが、帰って来れればそうしよう ー

 

武蔵は軽く返すと滑走路へ飛び移り、そのまま爆撃機の中に入って行く。

その直後、今にも発艦しようとしていた爆撃機のエンジンが止まった。

 

「ナッ……!?マサ……爆撃機ガ……クソッ!」

 

爆撃機の特攻に失敗したミッドウェーは腹に当てていた滑走路を振りかざして叩き付けようとしてきた。

 

俺は直ぐ様左腕に掴んだ奴の首を海面に叩き付けて姿勢を崩し、右腕も奴の首へと向けて両腕で更に力を込める。

 

「グガ……セ……セメテ……一撃……カハッ……!?」

 

ミッドウェーは最期の力を振り絞り滑走路を俺の頭に叩き付けるが、中の大型爆弾を暴発させるには至らず滑走路の先が折れただけに留まった。

 

「はぁ……くっそ……漸くか……」

 

今出せる全力を以てミッドウェーな首を圧し折った事で奴は力無く腕を放り出し、やがて俺の手をすり抜けて海面に溶けて行った。

 

「武蔵……」

 

ミッドウェーが滑走路を振り上げた時に出ていた爆撃機は奴の後方へ飛んでいき大きな爆発を上げていた。

途中で脱出していれば戻ってくるだろうが……。

 

「いや、奴は大丈夫……それよりも今は響達だ」

 

気持ちを切り替え電探で響達が直にあっちの艦娘と邂逅するであろう事を確認した俺は合流する為に進み始めた。

 




戦闘が思ったよりあっさり終わってしまった……

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