響乱交狂曲   作:上新粉

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第百十八番〜響〜

作戦会議でそれぞれ成すべき役割が決まった私達は決戦当日までの時間を各々訓練や打合せ等に使っていった。

 

私も大本営の明石さんが見てくれた訓練メニューをこなしていき遂に訪れた決戦前夜。

明日に備えて皆が早めに床に着く中、緊張からか変に目が冴えてしまっていた私は少し外を散歩しようと起き上がる。

 

「……響ちゃん?眠れないのですか?」

 

「電、ごめん。起こしちゃったかな」

 

けれど電は静かに首を横に振って答えた。

 

「私もまだ眠れなかったのです。やっぱり緊張しているのでしょうか」

 

「電もかい?実は私も……」

 

明日は今迄以上に激しい戦いになるに違いない。

そうすると深海棲艦達や私達の中から沈んでしまう人が出るかも知れない。

そんなの嫌だ……怖い……そんな辛い思いをするくらいなら戦いたくない。

 

もし私が間違えたり、上手く出来なかったせいで大切な誰かが犠牲になってしまったら……

 

考えない様にすればする程不安が溢れてくるんだ。

 

私が不安を吐き出すと電は静かに頷いてからそっと私の髪を撫でた。

 

「響ちゃんは良い子ですが、とってもぶきっちょさんなのです」

 

「わたしが……不器用?」

 

「はい。失敗なんて誰でもするもなのです。それなのに響ちゃんは皆の失敗まで自分で背負おうとしています」

 

私が皆の失敗を背負おうとしてる?

そんな事は……。

 

「チームの失敗は全員でフォローしあうものですよ?だから自分が失敗したせいで誰かが……なんて難しい事考えずに響ちゃんは響ちゃんが出来る事を精一杯やるだけで良いのです」

 

「電……ありがとう」

 

「気にしなくていいのです、それよりほっとミルクを入れてきますね?」

 

そう言って電は給湯室の方へ入って行った。

 

電の言ってる事は分からなくもないし、少しだけ気持ちは楽になった。

だけど私の悩みが解決された訳じゃなかった。

 

電は私一人で背負い込む事はないと言ってくれたけど……門長に関してはやっぱり私が決めなければならない事なんだ。

 

門長は艤装を展開せずとも勝てるように大本営の明石さんから合気道?っていうのを学んでいる。

とはいえ再びタウイタウイに来た海底棲姫を相手にした時に、勝てる確証は門長自身も無いって言っていた。

 

それでも、例え負けそうになったとしても門長は艤装を展開させようとはしないだろう。

 

()()()()()()()()……。

 

「私が言えばきっと門長は艤装を展開する……けど、その結果門長は敵味方関係なくその手に掛けてしまうかも知れない」

 

逆に願わずに門長が沈んでしまっても私達は助からない筈だ。

 

だがそれは果たして門長のせい?

 

違う。

 

ならその状況まで追い詰められた皆のせい?

 

有り得ない。

 

例えどんな状況であろうと最後の判断を下すのは私だ。

私が間違えれば全てを失ってしまう。

だから私は絶対に間違えられない。

 

「私は間違えちゃいけないんだ……私は……」

 

「何をそんなに恐れているの?」

 

「なっ!?だ、だれ!」

 

不意に掛けられた声に慌てて周囲を見渡す。

周りを確認した事でいつの間にか部屋を出ていた事に今更ながら気付くも、油断せずに警戒を続けた。

 

「お久しぶりね。私は由紀、()() ()()()よ。タウイタウイ以来だったかな?」

 

誰だろう……初めて聞く名前だけど、相手は知ってるみたいだ。

 

「ええっと、だれ?」

 

「ああ、覚えてない?これなら思い出すでしょう?」

 

「刀?あっ、ああ……」

 

目の前の存在が刀を鞘から抜くと月の光に晒された黒い刀身が鈍く輝く。

その刀を目の当たりにしてタウイタウイでの出来事がフラッシュバックを起こした。

 

「か、海底棲姫……!?そんな……と、とながっ!」

 

「待て、そこから一歩でも動けば殺す」

 

「う……わ、私達を沈めに来たのか!ここは通さない!」

 

艤装は付けていないけど私は必死に抵抗の意志を示した。

すると海底棲姫は首を傾げて答える。

 

「襲撃は明日だと伝わっている筈でしょ?今日は宣戦布告、というより降伏勧告をしに来ただけ」

 

「降伏勧告……ほ、本気なの?」

 

「えぇ、私の提示する条件を飲めればだけど」

 

条件……いや、そもそもどうしてこんなタイミングに?

それに私一人で決めるなんて出来る事じゃない。

そんな考えを察してか海底棲姫は話を続けた。

 

「考える必要も誰かに誰かに話す必要もない。貴女達は門長和大と阿部正勝を置いて明日一一〇〇までにこの島を離れなさい。そうすれば貴女達は助けて上げる」

 

門長を……確かに門長一人の方が心置き無く戦えるかもしれない。

今までの戦いを考えても私達と海底棲姫達の実力差が技術や作戦なんかで覆せるものじゃないなら、たぶん私達は邪魔にしかならない。

誰も口には出来ないけどそれこそ囮にすらならない程なのは歴然なんだ。

 

普通に考えればそれが一番助かる可能性の高い方法だ……それでも。

 

「私は逃げない!例え足手まといだって言われようとも私は門長を護ると約束したんだ!」

 

「そう……それは残念ね。その判断が間違っていたと、気付いた時に貴女は全ての責を背負う事になる」

 

「そ、それでも……それでも構わない!私は覚悟を決めたんだ!」

 

海底棲姫は私の目をしばらく見つめていたが、呆れたようにため息を吐くと背中を向けて続けた。

 

「残念ね、じゃあまた明日。今度は貴女を絶望に突き落としにくるわ」

 

「ゆ、由紀さん!明日は私も皆を護る為に戦うよ。だけど聞かせて欲しい……私達はこうやって話し合えるのに、本当に手を取り合う事は出来ないのかい?」

 

「……夢はいつか醒めるもの。貴女に現実が受け入れられるならそんな世界もあるかもね?」

 

そう言い残して由紀さんは海中に消えてしまった。

由紀さんの最後の言葉。

その意までは分からないけれど……

 

「響ちゃん!やっと見つけたのです!」

 

由紀さんの言葉を思い返していると建物の方から電の声が聞こえてきたので、私は思考を中断して声の方へ振り向いた。

 

「電っ、どうしてこんな所に?」

 

「それはこっちの台詞なのですっ!外に出るなら一声掛けて下さい!!響ちゃんに何かあったんじゃないかと思って私……私は……」

 

あ、そう言えば電に何も言わずに出て行ってしまってたんだった。

実際かなり危険な状況だった訳だし、電には心配掛けちゃったな。

 

「ごめんね電、少しだけ夜風に当たろうと思っただけなんだけど考えに耽ってたら長居しちゃったみたいなんだ」

 

「響ちゃん?何か有りました?」

 

「えっ!?別に何も無かったけどどうしてそう思ったんだい?」

 

電に不意を突かれて思わず声がうわずってしまったけど何とか誤魔化しながら質問を返す。

 

「……響ちゃんが答えを見付けられたのなら電は別に良いのです。寒くなって来ましたので早く帰りましょう響ちゃん!」

 

電は暫し疑いの眼差しを向けていたが、追及する気は無いらしく私の右腕へ自身の腕を組んで歩き始めた。

 

ふぅ、電になら話しても大丈夫だろうけど……余計な心配を掛けるだけだしこれは私一人で背負うべきものだ、もちろん覚悟も出来てる。

 

私は今日の出来事を胸に秘めて固い決意を持って明日へと臨む事にした。

 

私は由紀さんの言う現実なんかに絶対負けはしないさ!

 

 

 

 

 

 

 

 




響ちゃんも覚悟を新たにいざ最終決戦!

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