門長の奴が食堂を出ていった後、大本営の明石主導の下作戦会議が行われた。
「今回の作戦はお互いに大規模の戦闘が予想されます。そこで指揮系統の混乱を防ぐ為に深海棲艦・艦娘連合として総旗艦を設けたいと思います!」
総旗艦か……大本営の明石か、港湾とか中枢辺りが妥当だろうな。
そんな風に考えていると何故かこっちを見て笑い掛けて来た。
「そこで私は総指揮に摩耶を、指示役としてル級改flashipさんを任命したいと思います!」
「……は?」
「反対意見がある方は挙手願います!」
いや待てって、普通に考えておかしいだろ!?
そんなもん反対多数に決まって……。
「うむ、妥当だな」
「ええっ、摩耶さんになら任せられるわ!」
は、はぁぁっ!?何言ってんだよ!
誰も反対しないとか可笑しいだろう!?
つーかそうだ、ルフラは流石にこの采配に納得行かねぇだろ!
「な、なぁルフラ!幾らなんでもそりゃあねぇよな?な?」
「……アアソウダナ」
「だろ!?」
「私ガ指示ヲ出スヨリ摩耶ガ直接伝エタ方ガ奴ラモ士気ガ上ガルトイウモノダ」
んなわけねぇだろぉぉぉぉぉっ!!!
EN.Dは実力主義の組織だったんじゃねぇのかよ!?
なんなんだ皆してアタシを担ぎ上げるような事して……はっ、まさか?
「そんな回りくどい真似しなくても戦力外だって事はちゃんと受け止めてるさ。だから変に気ぃ遣わねぇでくれよ、な?」
「はぁ、まだそんな事を……良いでしょう。この際なのでハッキリと言ってあげますよ」
大本営の明石は先程までとは打って代わり、明らかに怒気を含ませながらアタシの前に立ち人差し指を突き付けてこう言った。
「この時代で半年程度しか過ごしてない小娘がこの私を愚弄する気?貴女が基地の中で一番のくそ雑魚なのは此処に居る全員が理解しているわ」
「お、おう……」
改めて口に出されるとくるものがあるな。
「ですが艦隊の指揮に必要なのはそんな物じゃない。そうでなければ人間の提督などそもそも必要とならないのだから」
「まぁ……確かに」
「そう、特に今回指揮する艦隊の規模は長門さんや金剛さんに管理出来る規模をゆうに超えてるの。本来優秀な提督十数人規模で管理するレベルの指揮を余り物に任せる様な愚行を私が指示すると?貴女はそう言いたいのかしら?」
「わ、わりぃ……」
こ、怖ぇ〜……いや、だけど言われてみれば確かにそうだ。
だが理解をすれば今度はその重圧に不安が込み上げてくる。
「……けど、尚更アタシがそんな重大な役目をこなせる器だとは思えねぇよ」
艦娘に出来ない事を艦娘であるアタシがやる?
そんな矛盾した事をアタシが出来る気がしねぇんだが。
そんな不安を吐露すると大本営の明石はアタシの肩に手を置いてニッと笑みを浮かべて答えた。
「貴女なら……いえ、貴女にしか出来ません。もちろん私も近くにいます……それに呉の明石を手伝っていた三ヶ月があればどうにかなりますよ」
呉の明石を手伝っていた三ヶ月か。
……ははっ、殆どアイツらと話してただけじゃねぇか!
それがどう関係するかは解んねぇが大本営の明石がこうまでハッキリと言ってくんなら信じるしかねぇよな。
「解った、アタシに任せてくれ。ルフラも後で変われっつっても変わってやんねぇからな?」
「はい、宜しくお願いしますね」
「ハハハ、期待サセテモラウゾ」
「それでは次に相手側の艦娘を説得する班と基地を防衛する班を決めましょうか」
そうして話し合いの上、アタシを総指揮に置いた基地防衛連合艦隊と艦娘交渉艦隊が完成した。
その後大まかな作戦を決めて今日は解散となった。
アタシはというと総指揮としてそれぞれの旗艦と顔合わせを行う為にルフラに連れられて海岸へ出ていた。
「サテ、今回作戦ニ参加シタEN.Dノ旗艦達ヲ紹介シヨウ。出テコイオ前達」
ルフラの合図に合わせて現れた深海棲艦達の姿にアタシは思わず息を飲んだ。
「なっ……!?お前達は!」
「フフフ、ドウシタ。知リ合ニデモ似テイタカ?」
「似てるも何も……全員呉の明石の所に来てた奴らじゃねぇか!」
驚きを隠せないアタシを見てルフラはネタばらしを始めた。
「直グニ気付クトハ流石ダナ。オ前ノ想像通リコイツラハ全員オ前ニ面識ノアル者達ダ。アノ桃髪ノ女ガ海底棲姫ト事ヲ構エルナラ恐ラク総力戦ニナルダロウカラト提案シテキタノダ」
明石……もしかしてそんな前からアタシをこの状況を想定してたっつうのかよ、信じらんねぇ。
「確かに上位個体とか鬼姫級がよく来るなとは思ってたけど……」
「マヤサンハワタシヲワタシトシテアツカッテクレルカラスキデス」
「そりゃ同じ姿つっても中身は一人一人違うんだから当然だろ?」
「フフ面白イ艦娘ダ。同一艦ナド同ジ深海棲艦デモ見分ケルノハ容易デハナイゾ?」
そういうもんか?まぁ確かに何処が違うか全て書き出せって言われたら困るしなぁ。
やっぱり感覚的な所もあんのかねぇ?
「ダガ我々ニモ自我ハアルシ、ソレヲ認メテ貰エル事ハ嬉シイモノダ。ダカラ食堂デノ私ノ言葉ハ全テ本心トシテ取ッテ貰ッテ構ワナイ」
ああ、アタシが直接言った方がって言ってた事か?
可笑しいなぁ、EN.Dは実力至上主義だって聞いてたのに。
だがまぁ、旗艦全員と面識があるのは良かった。
少しは気が楽になったぜ。
「ありがとなお前達、そして今回は宜しく頼む!」
「マヤサンノタメナラガンバリマスヨッ!」
「貴女ノ事ハ気ニ入ッタカラ助ケテ上ゲル」
さっきのタフラと駆逐棲姫に続いて次々と声を掛けてくれる深海棲艦達を嬉しく思い改めて頭を下げる。
そんなアタシらの様子を見ていたルフラは揶揄う様にタフラに訊ねる。
「オイオイ、オ前達ニ直接指示ヲ伝エルノハ私ナノダガ?私ノ言ウ事ハ聞いイテクレナイノカ、悲シイナァ」
「ア、イエッ!ソノヨウナコトハゴザイマセンルフラサマ!」
「本当カ?ボスヨリ本作戦ノEN.D側ノ全権ヲ預カッテイル私以上ニ摩耶ノ指揮ガイイト思ッテルノダロウ?」
「ソ、ソレハッ……ソンナ……コト……」
「ルフラ、ソレクライニシナサイ」
「ハハッ、ソウ腹ヲ立テルナ駆逐棲姫ヨ。タフラモ気ニスル必要ナイ、ソモソモ私ト摩耶デハ立場モ関ワリ方モ違ウカラナ」
「ハ、ハイ」
「ソレヨリモ、摩耶……」
ルフラがこっちを向いてさっきまでとは違い真面目な顔で聞いてきた。
「今度ノ作戦ニツイテ此奴ラモ交エテモウ少シ細カク話シタイノダガ時間ハアルカ?」
「ああ、アタシだけじゃ言葉が足りねぇかも知れねぇから補足は頼むぜ」
「分カッタ、任セロ」
こうして深海棲艦達との海岸での三時間に及ぶ作戦会議が行われた。
その後、作戦会議を終え解散したアタシは夕飯の支度を代わってくれた松達に礼を言ってから部屋へ籠ると決行日までにアタシがすべき事を紙に書き出して行くのであった。
後悔なんか絶対にしない為に。
三ヶ月で深海棲艦達のアイドルと化した摩耶様。