「明石!大本営の明石はいるか!?」
工廠の扉を勢い良く開くとそこには呆けた顔で出迎える呉の明石の姿だけである。
辺りを見回すが既に出ていってしまったのか大本営の明石の姿は無かったので、呉の明石に行方を聞いてみた。
「なあ明石、大本営の明石はどこ行ったか解るか?」
「え、ええと。あの人なら門長さん訓練場に行ってますが……あの一瞬で良く私と明石の違いが分かりましたね」
「ん、それくらい誰でも分かるだろ?」
幾ら同じ姿で生まれたって過ごしてきた環境が違えば性格や雰囲気だって違ってくるもんだ。
それに会ってからそんな経ってないならまだしも呉の明石とはそれなりに経ってるしな。
「…………」
それよりも明石はあいつに稽古を付けてる最中か……流石に邪魔すんのも悪ぃしな。
また時間を改めて頼むとするか。
「騒がしくて済まねぇな明石、また出直すわ」
そう言いながら工廠を出ようとしたアタシはふと立ち止まり、振り返って明石に声を掛けた。
「あー……なぁ明石、さっきは悪かったな。大分取り乱しちまったが今はもう大丈夫だからさ。お前も今回の事であんま思い詰めんなよ?」
まああんな情けない姿を見せちまったアタシが言えた事でもねぇけどな。
それでも今回の事で明石に責任を感じて欲しくねぇからよ。
「えっと……そうですね、お気遣いありがとうございます」
「はは、別にそんなんじゃねぇって。そもそも明石が気に病む事じゃねぇってアタシは思ってっからよ、あんま気にされっとこっちまで申し訳なくなっちまうぜ」
「あはは……分かりました。摩耶さんがそう仰るなら私もその様にしましょう」
「おうっ、よろしく頼むぜ!」
明石の返答に満足したアタシは再び正面に向き直り、訓練場へ向かう為に歩き始める。
さて、この後は松達の夕飯作りを手伝いに行くとすっかな。
「あっ、摩耶さんっ!ちょっと良いですか?」
「んあ、どうした明石?」
この後の動きを考えていると不意に後ろから明石に呼び止められた。
アタシはなんの用かと思い足を止めて顔だけ顔だけ振り向いて尋ねた。
「一つ伺いたいんですが、摩耶さんは深海棲艦の方々を見分ける事は出来ますか?」
「……は?」
脈絡のない質問に戸惑うアタシに明石は分かるように言葉を加えていく。
「いえ、摩耶さんは先程私と大本営の明石さんを直ぐに見分けてたのでもしかしたらと思いまして……」
「ああ……そういう事か……」
明石の言ってる事は解ったが……正直な所、アタシはあいつらの所属も分かんねぇしそもそも顔を見ただけって奴が殆どだしなぁ……。
「あ〜……悪ぃがアタシはあいつらとそこまで関わりがあるわけじゃねぇから断言は出来ねぇな。まぁこっちに居るフラヲ達がどうか位は解るとは思うけどな」
「ふんふん……十分です!でしたら一つ頼まれて頂けませんか!」
「へ、アタシが?一体何をするんだ?」
いやまぁ手伝える事があるなら喜んで協力するけど……明石のやってる事を専門的な知識の無いアタシが力になれるとはあんまりおもえねぇな。
だがどうやらそういう話ではないらしい。
「私が深海棲艦の方々の艤装をメンテナンスしているのは前にお話しましたが、実は彼女達には万一の渡し間違いを防ぐ意味も込めて艤装の整備が終わるまでこちらで待って頂いてまして……摩耶さんにはその間彼女達と交流を深めて頂ければと」
「へ?別に構わねぇけど……交流なら既に暁達がやってんだろ?」
「はい。ただあっちは良くも悪くも仕事上の付き合いという事でお互い余り踏み込まない様にしているみたいなので。ですからメンテ中の空き時間に彼女達が暇しないようにという意味も込めてお話を聞いて頂こうかと」
「なるほどな、明石の考えは解ったしアタシも興味が無いと言ったら嘘になるが……アタシはアタシでやらなきゃならねぇ事があるからなぁ」
アタシが頭を捻らせていると明石はふと気づいたようにある交換条件を持ち出してきた。
「もちろん無理にとは言いませんがもし受けて下さるならそのお礼に私も可能な限りそっちに協力しますし、それにきっと摩耶さんに取っても必ずプラスになります!」
まるで考えてる事が分かってるかのように断言する明石にアタシもなんだかその方が良い気がしてきた。
「解った、じゃあその条件で頼むぜ」
「もっちろんです!それではさっそく明日からよろしくお願いしますね!」
「おうっ、なら今日の所は松達の手伝いでもしに行くとするぜ。またな明石!」
アタシは昼頃に此処を出た時とは打って変わって元気良く明石に別れを告げると、鼻歌交じりに食堂を目指したのだった。
摩耶様視点は一先ずここまで!
次回は本作主人公のあの男の登場だぁー!!