響乱交狂曲   作:上新粉

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第百十番〜母〜

演習を終えた後、大本営の明石はアタシらを一人ずつ工廠の事務室に呼び出した。

内容としてはどうやら今回の演習のフィードバックと言うことらしいが……可能なら明日にして欲しかったぜ。

つうか艤装を付けてる時は疲労を感じにくいんじゃなかったのか?全身が重くて仕方ねぇよ。

 

とはいえ、承諾した手前向かわない訳には行かないのでアタシは覚束無い足でどうにか工廠へと向かった。

中に入ると丁度長門が扉に手を付きながら事務室から出てきた所であった。

 

「お?長門も大分お疲れみたいだな」

 

「まあな、だが摩耶こそ大丈夫か?厳しいようなら私から明石に断っておくが……」

 

「はは、ありがとな。けど大丈夫だ、態々個別に呼ぶ位だし明石にも考えがあるんだろうからな」

 

「うむ……そうだな。だがあまり無理はするなよ?私を含め皆が心配するからな」

 

「おうよっ!分かってるって!」

 

忠告する長門にアタシはサムズアップで答えた。

アタシだって皆に心配掛けたくねぇし別に無理するつもりはない。

 

「うむ、ではまたな」

 

アタシの返事に納得した長門が少しだけフラつく足取りで工廠を出ていくのを見送ると、アタシは大本営の明石が待っている事務室の扉を叩いた。

 

「摩耶だ、入っていいか?」

 

「あ、どうぞ〜。そのまま入っていいわよ」

 

明石からの返答を受けて扉を開くと明石と何人かの妖精は何やら機械を弄りながらこっちに手を振っていた。

 

「いらっしゃい摩耶、今日はお疲れ様。その辺に腰掛けててね」

 

「お、おう。それで?フィードバックって聞いてるけどアタシは何すればいいんだ?」

 

妖精達に手を振り返しつつ明石に通されるまま近くにある座布団の上に胡座をかいて早速用件を尋ねた。

明石は回転脚の椅子の背もたれに寄り掛かりながらモニターをこっちへ見せる様に動かしながら答えた。

 

「簡単な事だから安心して。演習の様子を見ながらその時どう考えて動いたかを聞かせてくれれば良いだけよ」

 

「はぁ……まぁそれは分かった。けど態々今日聞くのには理由があるのか?」

 

「勿論っ!思考というのはその時々で変わっていくものなんだから、出来る限り時間は置きたくないの」

 

即答した明石の言い分は尤もな気がしたのでアタシは黙ったまま頷いた。

 

「ま、そこまで時間は取らせないから安心してね!」

 

「お、おう。それは助かる」

 

「いえいえ。私から摩耶に確認したい事としては大きく分けて二つね」

 

二つ?多いか少ないかで言えば少ない気がするが……。

アタシが疑問に感じている内に明石は構わず話を進めていった。

 

「先ずは最初の所ですが……」

 

そう言って明石は映像を進めていたが、アタシが煙幕を張って不知火達を隠していた所で一時停止させると、真面目な顔で尋ねて来た。

 

「この行動だけど一見単純そうに見えて実の所とても高度な操艦技術と連携を要し、一歩間違えば重大な衝突事故に繋がる可能性があった事は理解してましたか?」

 

うっ……まぁ、確かに普通に考えてこんなコンディションでやる様な事じゃなかったとは思う……が。

 

「簡単な事じゃねぇのは分かってた」

 

「ふむ、ならそれを理解した上で敢えてあの戦術を取ったのは何故です?」

 

明石の尋問とも思えるような問い掛けにアタシはたじろぎながらも自分の考えと、不知火達にも伝えた事を話した。

 

「先ずは水偵を減らさない事にはどうにもならねぇ。だがまともに迎撃したんじゃ長門と金剛の水偵は先ず落とせないだろうとアタシは踏んだんだ」

 

「成程、彼我の戦力の把握は出来てるようね。けどそれだけでこの行動に踏み切ったとは言わないわよね?」

 

「いやまぁ、実際そこまで難しく考えてた訳じゃねぇけど……ただ、暁と不知火の二人じゃなきゃ提案しなかったし、反対があるようなら言ってくれとも事前に伝えてあるからな。出来ねぇ事はやらせる気は無かったんだ」

 

アタシがそこまで答えると明石は何処か引っ掛かる事があったのか声のトーンをさげて質問を続ける。

 

「ねぇ摩耶、私は始める際に旗艦の意に背く行為は慎むようにって言ったわよね?」

 

「……ああそうだな」

 

「であるにも関わらず二人のどちらかが反対したらあの作戦は止めてたって事?」

 

威圧的に聞いてくる明石に対してアタシは真剣に見返して答えた。

 

「ああそうだ。その時点でアイツらに無理にやらせるくらいなら命令違反だろうとアタシは別の作戦を考える」

 

そんな旗艦命令で強行するより確実に出来る事を実行した方が被害も抑えられるし戦果戦果だって上がるはずだ。

アタシの答えを聞いた明石は顎に手を当てながら何かを呟いた後こっちに向き直り落ち着いた口調で言葉を紡いだ。

 

「ふむ……貴女の考えは分かりました。なので私から1つ」

 

「へ?」

 

「まず貴女のやり方ですが、確かに軍属の指揮官としては褒められたやり方ではありません」

 

まぁ、自分の指示に自信が無いって周りに伝えてるようなもんだしな。

指揮官としては良い対応とは言えねぇか。

 

「ですが貴女の立場とアドリブ的な作戦指示にも適応出来る程の信頼関係を彼女達と築けている事も踏まえれば、マニュアル通りにしか動けない艦隊よりもより実践的と言えるでしょう」

 

「お、おう。そう……なのか?」

 

そんなこといきなり言われても正直複雑だぜ……。

要は艦隊戦のイロハなんて知識程度にしか知らねぇアタシが無茶苦茶な事させねぇ様にって思っただけの浅知恵だからなぁ。

 

そんなアタシの気持ちを知ってか知らずか明石は先程までの真面目な表情を崩して言葉を続けた。

 

「まあ色々思う所はあるかもしれないけれど、少なくとも私と今回一緒に演習した暁達は貴女のやり方を高く評価してるから自信を持ちなさい?」

 

「そっか、暁達が……それなら良かった」

 

「ふふ……さて、それじゃあもう一つ見てもらうわね」

 

明石はそう言って微笑むと映像を早送りして次の場面まで移す。

 

「この場面ね」

 

「あ〜……あぁ」

 

次に映し出されたのはアタシが二人を先行させて一人距離を取っている正直客観的に観ても情けねぇと思う場面だった。

 

「摩耶、貴方なら一緒に前に出ると思ったのだけれど……この時の考えを聞かせて貰えるかしら?」

 

「んー、まぁ確か情けねぇなとは思うけどよ……もしあそこでアタシが前に出てたら間違いなく大破して負けてたって言い切れる。アタシの勝手でアイツらの頑張りを無駄にする訳にはいかねぇよ」

 

だからアタシは二人を信じて絶対に大破しないよう意気込んで臨んだ訳だ。

結果的にそれが功を奏したけど、もし長門達がアタシを最初から狙わなかったりアタシが下がった上で大破判定になったりしてたらとんでもなく足を引っ張った結果になってただろう事も確かだから誇れる事じゃねぇな。

実際かなりギリギリだったわけだし……。

 

アタシの返事を聞き終えた明石は何度か頷きながら何かをメモに残していた。

 

「よしっ、分かったわ。それじゃあ朝話した通り明日からも同じ様に訓練後に演習で行くからゆっくり身体を休めると良いわ」

 

「ん?もういいのか。分かった、それじゃあアタシはこれで失礼するぜ」

 

明石に一言そう告げて部屋を後にしたアタシは工廠に艤装をしまう為に艤装を解除し一度床へと置いた次の瞬間。

全身を襲う倦怠感を堪える間もなくアタシの記憶はそこで途切れた。

 

 




摩耶様視点書きやすい!(戦闘を除く)

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