響乱交狂曲   作:上新粉

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ここから一気に突き進んで参ります!


第百九番〜母〜

演習開始の合図から十分、予想通り前方に水偵を三機捕捉した。

 

「暁、機銃の射程圏内に入ったら合図して撃ち始めてくれ。不知火は暁の合図に併せて撃ってくれ」

 

『了解です』

 

『でも私達の射程圏内に入って来るかしら?』

 

確かに金剛達ならそれ位慎重に来るか……だが、それでも一方的に監視出来る状況を利用しない手は無いはず。

だったら狙えるタイミングはある!

 

「大丈夫。二人は両舷強速で前進、暁から八キロメートル以内に偵察機が入ったら合図をくれ。その後で暁は面舵、不知火は取舵にそれぞれ十五度旋回しつつ第四戦速で前進し射程に入り次第対空迎撃開始!アタシも二人の間に入って射程に入り次第機銃掃射を始める!」

 

『『了解っ!』』

 

指示を出し終えた後、アタシは電探で偵察機の位置を確認しながら機関の出力を上げていく。

奴らは今アタシの位置から十四キロ地点を飛行している。

暁が八キロ圏内に奴らを捉えるまで後数分も掛からねぇだろう。

 

アタシが周囲を見渡しつつ暁の合図を待っていると予想通り三分もしない内に暁から通信が入って来た。

 

『彼我距離八キロに入ったわ!けどもう九時の方向へ旋回を始めてるっ』

 

作戦が見抜かれたか?いや、あれで問題ないと判断したのか。

どちらにせよアイツらが撃墜される可能性を危惧してるって事は即ちやれる可能性があるって事だな。

 

「問題ない!さっき言った通り行くぜ!」

 

二人の返事を無線越しに聞きながらアタシも速度を上げていく。

旋回中の背面からなら対応し辛いだろうし上手く行けば挟み込めるかも知んねぇ。

 

『機銃の有効射程圏内に入りました、これより機銃掃射開始します』

 

「ああ、そしたら偵察機が暁側に行くように誘導しつつ出来る限り追従してくれ!アタシも不知火寄りに回り込んで誘導する。暁は取舵一杯で進路を0-1-0に戻して前進しつつ偵察機が撤退せずに旋回を続けるようなら不知火と挟み込む様に進んでくれ!撤退して行く場合は深追いはせず砲撃に注意するんだ!」

 

『『了解(しましたっ)!!』』

 

 

 

 

 

──長門side──

 

 

 

 

 

 水偵を見送ってから十分が経過している。

相対距離としては四十キロ程から開始しているので進路上に摩耶達がいればそろそろ遭遇している筈だ。

だが未だ妖精さんからの報告は上がって来ていない。

ならばこちら側には居ないのだろう。

 

「妖精さん、一度帰艦してくれ」

 

『むむむ、むねんですがきかんします~』

 

こちらにいないとなると恐らく金剛の偵察域に居るだろう。

もしそうでなければ虱潰しに捜さなければならず、その間に接近を許してしまう可能性があるが……。

だが幸いにも金剛から吉報が入ってきた。

 

『ヘーイナガト!マヤ達を見つけたネー!』

 

「ほんとか!場所はどの辺りだ?」

 

『方位1-7-0、距離四〇〇〇〇デース!』

 

「了解した。ならば一度偵察機を帰艦させて回収及び補給後に再度発艦させてくれ。私の偵察機も併せて向かわせた後、距離三二〇〇〇を切ったら弾着観測射撃を敢行する」

 

『オーケー。皆さん一時帰艦するネー!』

 

よし、大凡の位置は把握出来たな。

後は偵察機が落とされないように気を付ければ弾着観測射撃を決められるだろう。

とはいえこの蓄積された疲労では同じ条件とはいえ高練度の駆逐艦である暁や不知火にこの距離から命中させるのは簡単では無い。

だから順当に考えれば旗艦であり重巡洋艦である摩耶を先に落とすべきであろう。

 

「金剛、まずは摩耶からだ」

 

『ふーむ、妥当だけど良心が痛みますネー』

 

「言わんとする事は解らなくもないが、摩耶とて覚悟をもって臨んでいるのだ。気を遣う方が却って失礼だぞ」

 

『……ザッツライト。彼女もきっと望んでいないデショウ』

 

そう、摩耶が自分の意思で我々と肩を並べて居る以上我々が手を抜いては彼女の為にならない。

だから我々は普段通り力を尽くすだけだ。

それに……

 

『ノォーッ!?偵察機が一機墜とされたヨォ!』

 

大本営の明石が練度の差を覆す様な何かを彼奴に見出したのだ。

であれば一筋縄で行くような相手ではあるまい。

 

「金剛、他の二機は無事離脱出来たか?」

 

『むぅ〜、エスケープは出来たけど一機は被弾してるから直ぐに再発艦出来るのは一機だけネー』

 

金剛には視認出来た時点で一度戻す様に言ってあった。

にも関わらず二機が被弾し内一機が撃墜されるとは。

不知火や暁達の対空能力が高いのか、それとも……。

まあ、どちらにせよ金剛はその一機が落とされては弾着観測射撃が困難になるか。

 

「解った。ならば再発艦後は私の中隊の後方に続いてくれ」

 

『オーケー、そうさせてもらいマース』

 

 

 

 

 

 

それから暫くして、帰投して来た偵察機を回収した私達は燃料補給を行いながら前進を続けていた。

 

「金剛、もう一機の方は行けそうか?」

 

『ノー、やっぱり再発艦は出来ないネー』

 

想定はしていたがやはり金剛の偵察機は一機しか飛ばせない状態か。

ならば精度は下がるが金剛の偵察機には少し後方で観測してもらう事になるな。

大丈夫、その分私が当てれば良いのだ。

 

「ならば先程言った通りこちらの後方に続いてくれ。では発艦させるぞ」

 

『オーケー!こっちも直に補給が終わるからすぐに発艦させるネー!』

 

私は金剛の返事を聞いてからカタパルトに零式水上偵察機を載せて一機ずつ射出させていく。

計三機を発艦した所で金剛の方からも偵察機が発艦されたのを確認した。

 

併せて念の為に電探を確認するも当然ながら金剛とそれぞれの偵察機以外の反応はない。

確認はしていないが未だに偵察機の反応が無いという事は摩耶が水上機を積んで居ないと考えて間違いは無いだろう。

 

それなら妖精さんからの連絡が入るまでは大丈夫か。

そう思いつつも油断はしないように確りと気を張り詰めていた。

というかそうしてないと膝が笑ってしまいそうな程の倦怠感がこの体を苛んでいる。

 

見くびるつもりは無いがあれだけのハードなスケジュール、艤装を着けた私ですら疲労を感じているというのに他の者は果たして大丈夫なのだろうか。

……はっ!もしや何処かで倒れているのでは?

そうなら直ぐに助けに行かなければ!

 

横道に逸れつつあった思考を妖精さんからの通信が一気に引き戻してくれた。

 

『はっけんしました!まやさんしかいません!』

 

「そうか、ならばこれから弾着観……測を……?」

 

まて、何故摩耶一人だけなのだ?

 

「他の二人は近くに居ないのか?」

 

『はい、すくなくともみえるはんいには』

 

うむ……二人が何処へ行ったかは解らぬがまだ然程離れては居ないはずだ。

ならば私のと金剛の偵察機を一機ずつ摩耶に付けておいて弾着観測射撃を行いながら他の二機で索敵を続ければ良いだけだ。

 

「金剛、予定通り摩耶に集中砲火を浴びせる。偵察機はそのまま摩耶の上空を待機だ」

 

『オーケー』

 

続けて偵察機の妖精さんに通信を繋げる。

 

「一番機はそのまま距離を取りながら摩耶の上空を待機。二番機は西側、三番機は東側の索敵をしつつ戻ってきてくれ」

 

『いちばんきりょうかい!』

 

『にばんきしょうちしました!』

 

『さんばんきにんむはあく!』

 

それぞれの返答聞いた後、早速視線の先に居るであろう摩耶へ狙いを定めて一斉射目を放とうとしたその時。

 

『さんばんきひだん!これいじょうのこうこうふか!ふじちゃくします!!』

 

『にばんきひだん!そうじゅうふのうです~!!』

 

…………は?一体何が起きて居るんだ?

 

 

 

 

 

 

 

──摩耶side──

 

 

 

 

 

 

 よし、咄嗟の思い付きだったけど思いの外上手く行ったようだな。

 

「やったわね摩耶さんっ!あっちの偵察機を更に二機撃墜したわ!」

 

「相手の使える偵察機は多くて後三機、良い調子です」

 

アタシの直ぐ後ろから聞こえて来る二人の声を聞きながら少し離れた所で旋回しようとしていた偵察機に機銃掃射を行う。

その内の一発が運良く偵察機の腹に直撃し高度を下げて着水したのを確認したアタシは後ろに振り返り笑顔で返す。

 

「いんや、これで残り二機だ!」

 

アタシらがやった事は言っちまえば単純だ。

暁と不知火の二人をアタシの後ろに隠して偵察機から見えにくくした。

勿論そのままじゃ直ぐに見つかっちまうから二人には衝突しないギリギリまで近付いて貰った上でアタシが出力を最大まで上げてその排煙で上空から更に分かりにくくしたって訳だ。

例えアタシが最大戦速で飛ばしても暁達は追い付ける訳だしな。

 

と言っても普段の長門達なら二人が見えない事に気付いた時点で無闇にアタシに近付いたりはしなかったと思う。

だが疲労で判断が鈍ったのかアタシが旗艦だと油断してたのかは知らねぇが、アイツらは射程圏内にあっさりと入って来た。

 

「これで奴らも迂闊には近付けねぇだろ!」

 

「そうね!長門さん達も十分警戒している筈だわっ」

 

「ええ、ですのでこれ以上は相手も落とさせてはくれないでしょうが……」

 

「ああ」

 

不知火の言う通りだ。

長門達も恐らく今のでかなり警戒してくるだろうからな。

今後射程圏内に入ってくる事はまずねぇだろう。あったとしても何かしらの罠を疑うべきか。

けどそれならそれで構わねぇ!距離が離れていればそれだけ弾着観測の精度も下がるだろうしな。

 

「問題ねぇ、それよりそろそろ砲撃に注意だな。よしっ、通常の単縦陣に戻すぞ!」

 

「「了解っ!」」

 

アタシの掛け声で二人は少しずつ間隔を広げていく。

その直後、アタシの前方五メートル程先で八本の水柱が上がった。

 

「うおっ!?あっぶねぇ……まだ距離があると思ったが、流石だなぁ」

 

「まずいですね……暫くは一方的に撃たれ放題です」

 

くっそぉ……今のアタシじゃあこっちの戦闘距離に入るまで耐えるのは厳しいか。

せめてあの水偵さえ落とせれば……いや、落とした所で正面からの撃ち合いになった時点でアタシに勝ち目はねぇ、か。なら……

 

「暁っ!不知火っ!アタシはこれから後ろに退く」

 

「えぇっ!私達はどうすればいいの!?」

 

暁が驚くのも当然だ。アタシだって出来ればこんな格好悪ぃ作戦やりたくねぇ。

だが格好つけたいが為にテメェの力量も考えずに突出して一人で沈むなんて旗艦としては最悪だ。

 

「普通に考えれば一番練度が低く尚且つ駆逐艦より当てやすい重巡のアタシを狙ってくる」

 

だからアタシはどんなに無様な手段であろうが選ぶ。

 

「そこで暁は方位3-0-5へ、不知火は方位0-3-5へそれぞれ前進してアタシから離れるんだ。そこを狙って接近した長門達を横から挟み込む様に回り込んでくれ。そして雷撃射程ギリギリで雷撃開始。長門達が二人を狙うようなら狙われた方はその間無理せず距離を取ってくれ」

 

「……確かに私が長門さん達でも真っ先に摩耶さんを狙うでしょうが、しかし……いえ、そうですね。了解しました」

 

「わ、わかったわ!後はこの暁に任せておきなさい!」

 

「ああ、奴らとの距離も分かり次第教えてくれ!」

 

アタシは暁達が二手に別れた後、直ぐに後進を開始すると長門達から距離を取り始める。

 

「ふぅ、アイツらにあれだけ頑張らしてんだ。アタシがやられる訳には行かねぇよなっ!」

 

アタシは立ってるのもやっとな脚に喝を入れると降ってくる砲弾の雨をどうにか避け始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あぁ、ついに動き出せる!
というか2年近くも埋もれていたこの作品を読んでくれる人が今だに居ることに感動を抑えきれない!

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