※投稿が間に合わない場合は改めてお伝えいたします。
演習の後、大本営の明石によってアタシ等は三つの組に分かれて訓練を行う事となった。
けれどアタシは今の組みに疑問を抱いていた。
いや、勿論何か考えがあっての事だとは思うしみんな大切な仲間で別に嫌だって訳じゃねぇんだけどよぉ。
「それじゃあ初日なので点呼を取りましょうか!」
そんなアタシの気持ちとは関係なく明石(大本営)は点呼を始めている。
「長門っ」
「はいっ!」
「金剛っ」
「ハーイッ!」
「不知火っ」
「はい」
「暁っ」
「はいっ!」
「摩耶っ」
「……はい」
「声が小さいわよっ!もう一度、摩耶っ」
「はいっ!」
さて、この時点で解ってくれてるかも知んねぇが改めて紹介するぜ。
アタシが今いるメンバーはアタシ含めて五人、左から長門(82)、金剛(99)、不知火(96)、暁(93)、そしてこのアタシ、摩耶(17)様だ。
何なんだこの一人だけ場違いな練度の差は。
これがアタシの訓練で皆が教導艦って事なら贅沢過ぎるがまだ分からなくはねぇ。
だが明石(大本営)は組を決めた時にこう言っていた。
『皆様には強化箇所によって訓練内容毎に分かれて貰いましたので暫くはこの組分けで訓練を行いますっ』
それはアタシと長門達が同様の訓練を行う事を意味していた。
因みに強化箇所については明石は一切触れなかった。
もちろん、今日の点呼の後もだ。
「とりあえず今日は初日だし訓練スケジュールは軽めにしておいたわっ」
そういって手渡された紙を見てアタシは顔を青くした。
基礎体力作りはアタシも怠っていたつもりは無かったんだけどなぁ。
書かれている内容は普段アタシがやっているより数倍ハードな内容となってたんだ。
最初に頼んだ時から覚悟はしていたが……。
海軍で厳しい訓練を受けていた筈の長門や不知火まで動揺してるってのはどうなんよ?
海上訓練はどうやら二対三で旗艦をローテーションしていくらしい……ってやっぱり場違い感が半端ねぇな。
あとはついで程度に回避訓練と射撃訓練も入ってるみてぇだけど、アタシは正直そっちを重点的にやるべきなんじゃ……。
ここまで来てアタシは遂に明石(大本営)に尋ねる事にした。
もしかしたら奴の勘違いでここに入ってるって事も万に一つはあるかも知んねぇからな。
「なぁ明石?」
「どうしたの摩耶、何か解らない所でもあった?」
「いや、その……アタシって、本当にこの組であってるのかなぁって……」
そう尋ねるアタシに対して大本営の明石は含みのある笑顔で返して来た。
「ふ〜ん?始まっても居ないのにもう弱音ですかぁ?彼女達達と肩を並べる覚悟も無いのでしたら部屋で大人しく護られてても良いんですよぉ〜?」
「なっ?そういう事じゃ──」
「明石っ、幾ら貴様とて私の友を侮辱する事は赦さんぞ!」
アタシが言い返そうとしていたその時、横で聞いていた長門が間に割って入ってきた。
だけど大本営の明石は長門の事を気にも留めずアタシを真っ直ぐに見据えて続ける。
「摩耶、もし貴女が出来ないというなら直ぐに別の組に移って貰いますが……本当に良いんですね?」
真剣な表情の明石を前にアタシはまだ覚悟が足りていなかった事を気付かされた。
明石の真意は解らねぇけど意味がある事さえ分かれば十分だ。
それにこれはアタシが皆を守れる力を身に着けるチャンスなんだ。
だったら周りに劣等感なんて感じてる場合じゃねぇよな!
「いや、やってやるぜ!お前の期待に応えてやろうじゃねぇか!」
「覚悟は出来ましたね。でしたら始めますよ!」
「「了解っ!!」」
少し躓いちまったがこうして無事アタシ等の特訓が始まった。
それから四時間程経過し、基礎体力訓練を終えたアタシ等は十分の休憩の後艤装を着けて海上へと出ていた。
このまま演習という事だが既に疲労困憊のアタシ等は余計な事を考える余裕なんて無かった。
二対三に分かれて定位置についた所で大本営の明石から通信が入って来た。
『みなさんは今出せる全力を尽くして勝利を掴み取って下さい。ただしあくまで艦隊戦ですので旗艦の意に背く行動は慎むように!もしそんな事をするのであれば……相応の覚悟をしておいて下さいね?』
「「…………」」
『それでは三度目の砲撃を合図に始めますよ!』
明石の通信が切れると同時に周囲に緊張が走った。
旗艦の意に背く行動を抑制する……つまり旗艦が如何に状況に適した指示を出せるか、そして随伴艦が如何に正確かつ迅速に指示通り動けるかが鍵を握ってるって事、だよな。
そして明石の奴は初めの旗艦に長門とアタシを指名した。
長門の随伴艦は金剛、そしてアタシの随伴艦は不知火と暁だ。
勝てる気がしない、無茶振りもいい所だ……ってさっきまでなら言っただろうが、覚悟を決めたそばからそんな恰好悪ぃ真似を晒す訳には行かねぇ。
例え演習でも負けるより勝ちたい、当然だろ?
アタシは海面を強く踏み付けて大きく水飛沫をあげる。
上がった水飛沫が顔に掛かり疲労で鈍った頭を少しばかり醒ました。
「よしっ!暁、不知火、調子はどうだっ?」
「わ、私は大丈夫よっ!それより……」
「不知火も大丈夫ですが……」
暁も不知火も大分疲れてる様子だが、まだ動きには出ていないみたいだ。
って事は恐らく長門達も似たような状態か……。
「おっけー。そしたら暁、不知火、始まったら先ずは対空迎撃からだ」
「了解です」
「解ったわ。で、どんな作戦で行くつもり?」
「ああ、それは──」
そのとき、三回目の砲撃音が轟く。
アタシは意識を前に向けて暁達へ通信を繋いだ。
「直ぐに水偵が来る筈だっ。まずは対空警戒用意!作戦は追って伝える!」
『『了解っ!!』』
二人が前に出たのを確認すると、悲鳴を上げる自分の両膝に喝を入れて暁達の少し後ろへと続いて行った。
さて、望み通り無理難題に全力を尽くしてやるよ。明石さんよぉ!!
戦闘を飛ばすか否か、それが問題だ。