響乱交狂曲   作:上新粉

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第百六番~技~

 大本営の明石さんと別れ事務室へと戻った私はまず初めに部屋の掃除を始める事にしました。

こんな散らかってる部屋にあの人を入れる訳には行きませんからねぇ。

 

私は床に散乱している機材なんかを集めながら先程の大本営の明石さんと門長さんとの試合を思い出していました。

 

あの時門長さんから感じた背筋が凍るような寒気、それに尋常ではない速度……響ちゃんには伝えなかったけれどあれはきっと以前門長さんが話していた魂の変異による艤装の変質化よね。

どういうわけか暴走はしていなかったみたいだけれどあれが暴走したらなんて考えるだけでぞっとするわ。

そうなる前にどうにかしたいけれど、タウイタウイの明石と共同で研究を進めているとは言え半年以内に間に合わせるのは正直厳しいと思う。

色々方法を考えてはいるけれどやっぱり門長さんの艤装を下手に扱えないってのが一番のネックよねぇ。

 

 

 

そうこうしている内に片付けは済んだので次は門長さんの戦闘データを纏めてるファイルを開きシュミレーターの準備をしているとしているとドアを叩く音が聞こえて来ました。

 

「はーい、あいてますよー」

 

私が返事をするとなんと大本営の明石さんが扉を開けて入ってきました。

 

「準備出来てる~?」

 

「へっ!?あ、あれ?もうそんな時間ですか!?」

 

思わぬ来客に私は慌てて時計を見ると私が事務室に戻ってからまだ一時間程しか経って居ませんでした。

 

「え、ええと?演習は如何したんですか?」

 

「え?いやだってあそこに居たって見えないじゃない。だから審判は私の所の妖精さんに任せました」

 

私の質問に大本営の明石さんは当然とでも言うように答えました。

 

えぇ~……まぁ、この人が問題ないと思うのなら大丈夫なんでしょうし私も何とか片付けが終わったので気にしない事にしましょう。

 

私は気を取り直して大本営の明石さんに椅子をお渡ししてから準備の続きを進めました。

 

「えと、一応これが門長さんの戦闘データを残した物です」

 

「ふ~ん、じゃあ早速始めてくれる?」

 

「はいっ」

 

私は門長さんの戦闘データの中から一つを選びシュミレートを開始しました。

今みている映像は門長さんとレ級flagshipとの演習時の映像であり、数少ない正常にシュミレートが動くデータです。

 

「なるほどね、これが普段の門長さんの戦闘ね。実力としてはさっきの試合の序盤と概ね同じくらいね」

 

「そのとおりです。これは相手のデータもあるのでシュミレートと映像が同様の結果となる数少ないデータですね」

 

早送り等を行いながらざっと見て頂いた後、続いて次のデータの映像を再生しました。

次は日付的にタウイタウイで門長さんが暴走した時のデータの筈なのですが、残念な事に視覚情報と聴覚情報が全く入っておらず電探の情報くらいしかまともに確認出来ないものでした。

 

「これは……」

 

「はい、タウイタウイの明石から聞いた話では艤装展開による暴走を起こした時のものらしいですが。電探の情報以外正しく記録されて居ませんでした」

 

「その話は聞いてるわ。誰も轟沈しなかったと聞いてるけど、もし彼がさっきと同じだけ力を発揮してたのならそれはあり得ないと思う」

 

「えと、つまり不完全な暴走だったって事、でしょうか?」

 

確かに先程の試合を見てると響ちゃんが止める隙すらあったとは思えないけど……一体どうして。

 

「たぶんだけど……ねぇ、もしかして他の正常に記録されてないデータもこれと似たような症状じゃないかしら?」

 

私は大本営の明石さんに言われ、他のデータを幾つか開いてみる。

不鮮明ながら所々視界情報があったり聴覚情報があったりと違いはあったものの大多数は電探情報以外正常に残っていない状態でした。

 

「やっぱり。そのデータ、正常に記録出来ているとは考えられないかしら?」

 

「えぇっ!?これが正常って事は……」

 

「これはただの仮定だけど、恐らく彼の艤装はなんらかの原因で正常に展開出来ていない。それ故に彼自身の視覚や聴覚が機能していないという事はあり得ると思うの」

 

確かに門長さん自身の視覚が一時的に失われているなら視覚情報が記録されていないのも頷ける。

それに話ではタウイタウイのヴェールヌイが避難が済むまで時間を稼いだって聞いてるけどそれも門長さんが全力を出せて居なかったのなら辻褄も合いそうね。

 

いや、でも待って。それならもし門長さんの艤装が正常に展開されたら?

…………いや、これは結論を急ぐべきじゃないわね。

けど一応タウイタウイの明石には話しておこうかしら。

 

「明石?」

 

「へっ?あ、ええと……すみませんっ」

 

「別に良いんだけど、なんか引っ掛かる事でもあった?」

 

不思議そうにこっちを見つめる大本営の明石さんに私は自分の思った事を伝えてみました。

 

「ただ、この方法が誤りであれば取り返しのつかない事になりますし下手に実行には移せませんが……」

 

「そうねぇ……確かに実行は慎重に検討するべきだと思うけれど。いつでも実行出来る様に方法を見つけて置くのはありじゃない?」

 

「方法……です、か。なるほどっ、仰る通りです!ありがとうございます明石さん!」

 

そうと決まれば門長さんにも協力して頂かなければならないわ!

 

「あら、そろそろ演習が終わるようね。一旦戻るわ。後で今日の演習のデータを見るから用意しといてくれる?」

 

「はいっ、お待ちしてます。それでは行ってらっしゃいませ!」

 

部屋を出ていく明石さんを工廠の出口まで見送った私は部屋へ戻り、僅かながらに見えて来た希望を伝える為タウイタウイの明石に連絡を取り始めました。

 




明石同志で話をさせると頭がこんがらがってしまいそうです。
ただし、次も明石達の話となりますがね……

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