長文注意?
大本営所属の明石と名乗る女の登場に俺は怪訝な目を向ける。
西村が寄越したのであればいいがもし奴らと通じてる海軍の奴らからの使者であれば基地に立ち入れる訳にはいかねぇ。
「トレーナーだと?一体誰の差し金だ、目的はなんだ!」
俺は響を庇うようにしながら目の前の桃髪の女を問い詰める。
「彼の立場の関係上申し訳ありませんが私からお伝えする事は出来ません。後日直接彼の方から来ますのでその時にご紹介致します」
だが女は動揺する事なく平然と答えた。
「なんか胡散くせぇが答える気は無さそうだし今はいいだろう。それで、俺達を鍛えて何をしようってんだ?」
「えぇっと実はですね、海底棲姫と命名された規格外の深海棲艦の住処を極秘裏に彼と共同で進めていたのですが今回特定に至らないまでも大きく絞り込む事が出来ました」
明石が言うには殆ど記録が存在しない奴らの出現報告から奴らが来た方角を纏めて凡その絞り込みに成功したらしい。
「で?それとお前が此処に来たのと何の関係があるんだ?」
「はいっ!実はその場所というのが此処から少し北にある太平洋北西部周辺なんですよ。なので奴らとの戦いとなる場合どうしても貴方達が最前線になってしまうんです」
なるほどな。だから前線維持の為に俺達を利用しようって訳か。
勝手にドンパチやられて巻き込まれるのも面白くねぇし、俺としても響を守る為には艤装を使わずとも強くなる必要があるが……。
「お前の目的は分かったし内容に明らかな矛盾はない、お前が大本営の明石ならな」
もし奴が本物の大本営所属の明石でなければ海底棲姫を知っている事もその根城を絞り込んだという話も一気に信憑性を失う。
そもそも一介の工作艦にそれだけ情報が集まるなんてありえない事は碌に勉強していない俺だって容易に想像出来るからな。
どうやら明石は想定していたらしく、考える素振りも見せずに提案してきた。
「それは勿論。ですのでそれについては工廠で個体情報を確認して頂ければ証明出来るかと」
「個体情報?」
「建造やドロップした艤装を艦娘化した時に妖精さんが専用のデータベースに登録して管理してるんだよ」
「成程、ありがとな響」
疑問に答えてくれた響の頭を撫でつつ俺はどうして妖精が艦娘の情報を管理しているのか考える。
だが、その疑問も図らずも明石が答えた。
「本来は他鎮守府の艦娘が解体されたり潜入や工作行為を防止する為の物ですが、逆に考えれば全ての鎮守府に
「そうか。まあ工廠に行けば分かるっつうならさっさと行くか」
正直妖精が関与する話でもない気がするがその辺はきっと妖精と海軍の間で話し合ったんだろう。
既に興味を失った俺は此奴の正体を確認する為に響を一緒に工廠へと向かい始めた。
三人が工廠へ足を踏み入れると中では妖精達が資材を運んだり建造ドックの点検なんかをしていた。
俺は取りあえず一番近くにいた掃除をしていた妖精に声を掛けてみる。
「おい、そこのモップ妖精」
「わたしはもっぷようせいじゃありません~!」
モップ妖精は不満そうに抗議するが俺は気にせず用件を切り出した。
「こいつの個体情報を確認したいんだが可能か?」
「む~っ、こうしょうちょうならかくにんできるです。いまはあかしさんとじむしつにいるのです。かんしゃするのです」
事務室っつうと……ええと……
ー奥の片開きの扉の上に事務室と書いてあるだろうー
あ……べ、別に見つからなかった訳じゃねぇぞ!暁達が居たら声を掛けようと思っただけだ!
ーそうか、では暁達は居ないようだし行くとするかー
う、うるせぇ!!お前に言われるまでもねぇんだよ!
くそっ、余計な茶々が入ったぜ……。
俺は鬱憤を晴らすように扉を強く開け放つと口を開いたままアホ面を晒す明石(呉)と目が合った。
「おい明石っ!工廠長っつうのは何処に居やがる!」
「えっ?ええと、工廠長さんなら私の前に座ってる妖精さんですが……そちらの方は?」
明石(呉)の前に居る妖精……こいつか。
「工廠長、こいつが何処の所属か調べられるか?」
「しょぞくちんじゅふですかぁ?じゃあしらべますんでぎそうのてんかいしてくださいね~」
「はいは~い、お願いしますね?」
明石(自称大本営)は言う通りに艤装を展開して工廠長について行った。
調べられるか聞いたんだけどな……まぁ、話が早いが。
俺は何か既視感を覚えつつ明石(呉)と二人が戻ってくるのを待っていると十分程して漸く戻って来た。
「工廠長、結果はどうだった?」
「かのじょはだいほんえいしょぞくなのでかいたいやかいしゅうはできませんよぉ?」
「えっ、いま大本営って……?」
「そうか、わかった」
別に解体しろとは言ってねぇんだがな。
だがまぁ工廠長からの回答でこいつが大本営の明石だという事は証明された訳だ。
明石(呉)が何だか青い顔をさせてるがそんな事はどうでもいいか。
「取り敢えずお前が大本営から来たって事は解った。だが俺達を鍛えるつったってどうするつもり何だ?」
「訓練内容については皆さんにお会いしてから細かく練らせて頂きますよ。それと門長さんの暴走については聞いていますので艤装を展開せずに海底棲姫達と渡り合える術を身に付けて頂くつもりです」
明石(大本営)の奴が平然と言いやがるがこいつは奴らの実力を解って言ってやがんのか?
「おい、お前が教えるような小手先の技なんかで奴らとやり合えると思ってんのかよ」
「そうですねぇ……あ、そうだっ!門長さん、もし良ければ私と陸上で手合わせしてみませんか?工作艦の私の技術が性能で圧倒的に勝る門長さん相手に何処まで戦えるか体験して頂きましょう!それに私も奴らとの比較対象があった方がやりやすいですし」
「は……?」
この工作艦は何言ってんだ?
幾ら艤装が展開出来ないからって俺の身体能力は海底棲姫の仲間である改レ級flagshipをも凌ぐ程だ。
大和の時みたく身体が動かし難くなってるなら兎も角、万全の状態では俺の相手にすらならないだろう。
だがまぁ、俺を鍛えに来たっつうんならそれに見合う実力があるか見てやろうじゃねぇか。
それに出会い頭にぶっ倒してくれた礼もしてやらねぇとなぁ……?
「良いぜ、なら表に出ようじゃねぇか。期待外れだったらつまみ出してやっから覚悟しとけよ」
「あは、やるだけやってみますよ。燃料を補給したらね?明石ぃ、燃料貰えるかしら?」
「へぇ!?あ、はいっ!!」
「ん、ありがと!」
明石(大本営)は明石(呉)の持ってきた燃料を受け取ると豪快に喉奥へと流し込み始めた。
その様子を明石(呉)と茫然と眺めている内に補給を終えた明石(大本営)が俺の前に戻ってくる。
「お待たせしました、では行きましょうか!」
「ああああのっ!明石さんの強さを疑うわけじゃ有りませんが、流石に門長さんと戦うのは辞めた方が……」
「まぁ何にせよ門長さんには認めて貰わないと。それに強い人と戦うなんて久々ですからね。ワクワクしてるんですよ!」
明石(呉)は止めようとするが明石(大本営)はあくまでも戦う姿勢を崩さなかった。
つうか強敵と相対してワクワクするって俺なんかよりコイツの方が余程戦闘狂じゃねぇか。
明石(大本営)の態度に呆れながらも俺達は基地の前の開けた海岸へと足を運んでいった。
海岸に着いた俺達は道中話し合ったルールを改めて確認する。
「兵装の使用は無し、艤装格納状態での格闘戦。先に小破させた方が勝ちって事だが……本当に良いのか?」
明石(大本営)の方から言ってきた事とはいえ余りにも俺に有利すぎる内容だ。
だが奴は全て承知の上で答える。
「もちろんっ、一発も貰わずに門長さんを小破させるくらいの技術でなければ教えた所で意味はないでしょう?」
「なるほど、それは言えてるな。だが本気で出来ると思ってんのか?」
俺は挑発的に尋ねるが、明石は考える素振りすら見せず事も無げに言ってのけた。
「ええ、門長さんも呆気なく小破しないで下さいよ!なんてね?」
「ああっ?そりゃこっちの台詞だぁ!一瞬で終わるんじゃねぇぞ!」
俺を舐めた事、死ぬほど後悔させてやるぜ!!
「えー、それでは私呉第一鎮守府所属工作艦明石が開始の合図を務めさせて頂きます!」
明石(呉)の言葉に呼応する様に歓声が沸きあがる。
俺と明石(大本営)が位置についた時、誰から聞いたのか基地の連中がぞろぞろと海岸に集まって来たのだ。
見に来た奴らの話によるとどうやらこの明石(大本営)は海軍では陸上戦最強とも名高いらしく、戦艦すら薙ぎ倒すその姿から【超弩級工作戦艦】なんて呼ばれている工作艦とは思えない程の武闘家だそうだ。
「それではお二人共位置に着いて──」
まあ戦艦だろうがなんだろうが俺の相手じゃねぇが、問題は奴が言う技術だ。
出会い頭に貰ったあれもダメージこそ無かったが何をされたのか未だに分からねぇ。
だが、それでも負ける気はしねぇがな!
「よ〜い、始めっ!!」
「しゃあ!先手必勝だぁっ!!」
俺は明石(呉)の合図と共に地面を勢い良く踏み込んで瞬時に距離を詰め十二分に加速された右の拳を明石(大本営)目掛けて振り下ろす。
当たれば大破必須、受け止めても中破は免れない正に必殺の一撃。
しかし明石(大本営)は余裕の笑みを崩さず俺の拳に左手を添えると下方向へと力を受け流した。
「いつでも先手必勝とは行きません、よっ!!」
それによりバランスを崩し倒れ込む俺の勢いに上乗せする様に奴の踵が後頭部へ突き刺さり砂や砂利を大きく巻き上げた。
「普通なら大破してもおかしくないくらいの衝撃だったんですがね。どうやらまだまだやれそうですね」
「くそ、がぁ……!面白ぇ、てめぇのその余裕面を苦痛に歪ませてやるよぉ!」
俺は砂に埋まった頭を引き抜き顔の砂を払って目の前の相手を見据える。
油断はしていないらしく既に距離を取って構えている。
あれが技術って奴か、だがあんな小手先の技で圧倒的な力量差を覆せる訳がねぇ!
「こっからは手加減無しだ、陸で沈みたくなきゃさっさと降参しなぁ!!」
「まんま悪役の台詞じゃないですか──っておぉ!?」
俺は再び明石(大本営)に接近し今度は限界まで力を込めた中段蹴りを浴びせる。
さっきの打ち下ろしと違い相手の脇腹を捉えたこの蹴りなら受け流す事は出来ず明石(大本営)は後ろに飛び退いた。
「ふぅ、想像以上ですね。これは流石と言わざるを得ませんねぇ」
「へっ、言ってろ!今のでてめぇの弱点は見えたぜ」
俺は三度奴に接近を試みる。
奴の弱点、というより奴では俺の攻撃を受け流したり躱す事は出来ても防ぐ事が出来ない。
何故なら俺の殆どの攻撃を奴が防いだだけで小破する様な威力を持っているからだ。
だったら一撃必殺よりも受け流し辛いラッシュの方が効果的だって事だ。
そう結論付けた俺は接近戦でのラッシュを選んだ。
「ぐっ……ぅ!」
だが俺が走り出そうと地面を踏み抜いた直後、明石の右ミドルキックが俺の水月に深く突き刺さっていた。
「奇遇ですね、私も門長さん弱点が分かりましたよ」
「ぐっ……な、ん……だと!?」
「はい。動きが単調な事とその予備動作の大きさですね。と言っても普通の海戦なら気にする必要もない事ですが、門長さんが今後戦う可能性のある相手は普通では有りませんからね」
明石(大本営)は俺が息を整えるのを待つかの様に話し始める。
「そうかよ……それで?お前の技術を身につければ普通じゃない相手と渡り合えるって言いてぇのか?」
「そうですねぇ、あくまでも門長さんより圧倒的に強力なだけでしたら可能です。ただ、その上で相手の技術が上回る様であれば厳しいでしょう」
なるほどな、だとすると技術を身に付けたとしても奴を倒すのは厳しいかも知んねぇな。
「明石、お前の技術ってのは解った。だから最後に確認させてくれ」
「何でしょうか?」
「その腰の軍刀を俺に貸して俺の渾身の一太刀を捌いて見せろ」
「えっ……?」
俺の要求の意図が読めないのか明石(大本営)はキョトンとしている。
今なら一撃位入りそうだがそんな事は今更どうでもいい。
「その一太刀さえ捌ければ俺を小破させずとも俺の方から頭を下げてやる」
「……分かりました、やりましょう」
明石(大本営)は俺の要求を聞き入れ腰の刀を俺に投げ渡した。
「悪ぃな。響っ、済まんが工廠に残ってる高速修復材と工廠妖精を連れてきといてくれ」
「そ、そんな……」
心配そうに見つめる響を安心させる為に笑顔で返す。
「大丈夫だ、絶対に死なせねぇよ。だから頼めるか?」
「……うん、行ってくる」
そう答えて工廠に駆けてく響を見送ると再び明石(大本営)を真っ直ぐ見据える。
「……行くぞ」
「はい、いつでもどうぞ」
俺は鞘を抜き捨てて刃先を明石(大本営)に向けて構える。
力は脚だけでなく全身に満遍なく漲らせる。
己の性能だけで振り抜く一太刀すら捌けないなら奴を倒す力にはなり得ない。
だが中途半端な一撃では確認出来ない。
少なくとも奴の七割、いや八割の力で振り抜かなければ。
武蔵、もう少し出力を上げられねぇか?
ー止めておけ、精神が持たなくなるぞー
いや、此処で確認しておかなければ駄目だ。
奴らとの戦いの時に艤装を展開する必要性がどれ位あるかは確りと見定めておく必要がある。
それに明石(大本営)にも奴らの力の片鱗を知って貰った方が今後の為だ。
ー…………六割に抑えて一秒が限度だ。それ以上は認められんー
一秒だな、解った。
「明石、艤装を展開しろ。俺も一瞬だけ展開する」
「なっ!?……はぁ、正直無手の門長さんを小破させる方が簡単でしたが、良いでしょう!」
明石(大本営)は艤装を展開し限界まで出力を上げ始める。
奴も恐らくは俺の目的に気付いた様だ。
俺は明石(大本営)の準備が出来たのを確認し一気に出力を上げて明石(大本営)へと突っ込んで行った!
門長の最大出力とかは書くタイミングがあれば書くかも知れません。