最近時間がショートカットされてる様な……
食堂を出た俺は響の提案で島の海岸沿いを歩いていた。
俺の膝や手の平に砂利やら貝やらが刺さったりするがそんな些細な事を気にするつもりはない。
なぜならこれは俺が何か言うでも無く響から言い出した事だからだ。
電がついて来なかった事は気になるがきっと響が俺と二人きりになりたいと説得したに違いない!
とするとこれは……もしや!?
「門長、こっちに来て」
響に誘われるままに俺は建物裏手の小さな丘に腰を掛ける。
続いて響も俺の隣に来るようにゆっくりと腰を下した。
おおぉ、落ち着くんだ。早まるな俺!
いや、だが……。
「ねぇ、門長?」
「お、おおうっ?」
「…………」
響が俺の右手にそっと両手を被せて見上げてくる。
これはっ……!俗に云う良い雰囲気というやつでは無いのか!?
「ひ、ひびき?」
「…………あのね」
間違いない!この状況に疑いの余地なんてある筈がない!
ついに……ついにぃ!!我が世の春がき──
「門長の身体、まだ治って無いの?」
……た?
「ええと?いや……俺は至って健康だぞ?」
質問の意図が分からないまま俺はそう答えるが、如何やら響の聞きたかった事とは違かったようだ。
響は首を横に振って否定すると手を握る力を強めて改めて聞いてきた。
「門長の
俺の問題……?
もしやタウイタウイで別れる時に解決して戻るって言った事だろうか?
それについては明石の奴には頼んでは居るが現状はまだ糸口すら見えていない状況だが……。
いや、他の事かも知れないし、もしそうだとしてもそれを伝えるのは吹雪達の期待に応えられないと自白する事になるし、響に隠し事をさせる事もしたくはない。
そんな俺の少しの間を察したのか響は先んじて言葉を加えた。
「別に解決して無いからって私は門長を恐れたりはしない。それよりも何よりも私は…………私は門長に置いてかれる方が、怖い」
そう言った響の手は僅かに震えていた。
此処で嘘でも大丈夫だと言えば響は安心するかも知れない。
だが、同時に彼女の想いを再び裏切る事になる。
…………はっ、何を悩んでんだか。
答えなんか考えるまでもねぇってのによ!
響が俺を信じてるのに俺が信じないでどうすんだっつうの。
「悪ぃな響。最近色々あり過ぎて柄にもなく考え過ぎちまってたぜ」
「門長?」
「全部話す。だから響もそれを聞いた上で今後どうするか決めてくれ」
「……うんっ、わかった」
大丈夫だ、響なら分かってくれる。
俺は今の武蔵が抑えてるが何時まで抑えられるかは分からないという事と現在明石達に対策を考えさせているが艤装が展開出来ない以上このまま海底棲姫共と相対するのは厳しい事を正直に話した。
「──とまあ、こんな感じだ。簡単に言っちまえばいつ爆発するか解らない地球破壊爆弾って所だな」
「そっか…………」
響は暫く難しい顔をして考え込んで居た。
まあ目の前の存在が何れ訪れる脅威に退けられない所かいつ爆発するかも知れない超弩級危険物だって知らされたんだ。普通なら冷静を保つ以前に事実を認める事すら容易じゃない筈だ。
だが、響は何かに納得したのかスッキリした顔付きで立ち上がった。
「響?そうだっ、この事は……」
「解ってるさ、姉さんや吹雪さん達には言わないよ。皆を不安にさせたくないのは私だって一緒だよ。」
「ああ、済まない」
「門長が謝る事は無いよ。それで、私が今後どうするかだよね?」
響は真っ直ぐに俺を見つめると真剣な表情で答えた。
「私は門長と一緒に居る。そしてすぐ側で門長の事を護るから門長に私を護って欲しいんだ」
「響……」
響は俺の話をしっかりと受け止めてその上で俺の事を受け入れてくれた。俺を必要としてくれたんだ。
こんな小さな少女が大きな決意をもって応えたっつうのに俺が何時までも及び腰でどうすんだ!
今さっき気付いたばっかだろうが、俺に余計な考えは要らねえ!不安なんて物も似合わねぇ!
「おうよ!俺と響が一緒に居りゃあ不可能なんてねぇぜ!つーわけでこれからもよろしくな響っ!」
「ふふっ、こちらこそよろしくね門長?」
そうして俺と響は固い握手を繋いだのだった。
「おっし、それじゃあ部屋に戻るか。ってか四つ足に戻さないと電に睨まれちまうか?」
「あははっ、電には私から話すよ。私もこれは流石に恥ずかしいからね」
「知ってる奴しか居ないとは言っても流石に──」
「感動しましたっ!様々な苦難を乗り越えて今なお尽きぬ障害を前に固く繋がれたその手は正にお互いの絆その物!!これは俄然やる気が出てきましたよぉ!!」
響との強い絆をその手に感じつつ俺が非常に晴れやかな気持ちで丘を下ろうとした時、俺達の前に邪魔者が現れて何やらごちゃごちゃと言い始めたのだ。
「おいおい、盗み聞きとは感心しねぇなぁ
「いえいえっ、声が聞こえてきたので何かと思いましてね?近付いたのは良いけど出難い雰囲気でしたので仕方なく」
「だったら出てくんじゃ──」
苛立ちに任せ俺が明石の顔面に掴み掛かろうとした時、俺の足は宙を舞った。
そして抗う暇も無く次の瞬間、俺は地面に仰向けに横たわっていたのだ。
「門長っ!?」
「もう~、初対面の女性の顔に掴み掛るなんて紳士的じゃありませんよぉ?」
そう言って明石……いや、明石に良く似た何者かは俺の手を引いて立ち上がらせると敬礼をしてみせた。
「門長さん、響ちゃん、初めまして!
前作から話には出ていた彼女が満を持して登場!
キャラの書き分けと呼び間違いには気を付けねば(戒め)