俺が始めて入渠してから二日とちょっとが経過していた。
「門長さん、もう上がっても大丈夫ですよぉ。」
やっとか......二日間も風呂に入ってたらふやけちまうだろうが。
「なんでこんななげぇんだよ......」
「知りませんよぉ、ご自身の身体に聴いてみてください。」
「因みに今回お値段は燃料4000に鋼材8000となりましたっ!」
俺は妖精の強力な呪文に心が大破しそうになった。
「まじか............それで、今回の収穫はどうだった!?」
「収穫ですか?凄いですよぉ?」
よ、よかったこれで何とか......
「鋼材、燃料それぞれ2000。弾薬が1000。ボーキサイト100ですね!」
「遠征の収穫としては確かにすごいですが......」
完全にマイナスじゃねぇか......
俺は思わずその場にひざまづいた。
「ま、まあ今までの蓄積した損傷分もありますし......?」
「慰めなんかいらん......要は攻撃を受けずに敵を捕獲すればいいんだろ。」
「門長さんの場合耐久を1相当修理するのに鋼材80、燃料40を要するのでワ級flagshipを一隻捕獲するのに損傷を5%以下に抑えないとマイナスになるわよ?」
成る程な......要するに当たる前に当てろって事か。
「よし、明石。何でもいいから偵察機を作れ。」
「はあ、まあ作れますが門長さんはそんなに持てるんですか?」
「なにいってるんだ?まだ四十六センチ三連装砲一つと電探しか持ってねぇだろ?」
「いえ、今後の話ですよ。大和砲を四つ装備しようとされてるじゃないですか。」
「ああ、持てねぇのか?」
「そうですね、何故かスロットは五つありますがそれでも大和砲四つと電探で埋ってしまいます。」
そうか......まあそんときはそんときに考えりゃいい。
「そんなのは後回しだ、兎に角今必要だから直ぐに作れ。」
「はぁ......わかりました。」
よし、明石に偵察機は任せて俺は建造を始めるとするか。
資材を入れ建造ドックのスイッチレバーを下げようとした時、何者かに俺の手が止められる......ことはなくレバーを下げた。
「ちょっと!?少しは止まってくださいよぉ!」
「貴様、俺の野望を阻止しようというのか?」
「野望って......ただでさえ門長さんの修理と補給に恐ろしい位資材消費してるんですよ!?流石に開発が出来なくなってしまいます!」
「最低値で回してるだけだろうが......ったく、仕方無ぇから今回はこれで最後にしてやるよ。」
そういって二つ目の建造ドックのレバーを下げる。
「えぇ~......と言うか既にボーキが足りないので偵察機を開発出来ませんよ......」
あ..................そうかボーキサイト。
俺は前回輸送船団強襲時にボーキサイトを手に入れて無いことを思い出した。
「まて、じゃあなんで四十六センチ三連装砲の開発は出来たんだ?」
「それはここに元々ボーキサイトが結構余っていたので使わせてもらったんですが、それも大和砲の開発で殆んど......」
マジかよ......
「ヘーイ、ミスター門長?トラブルのようですネー!」
突如工廠の扉を開け放ってルー使い金剛が乱入してきた。
「なんだ急に、冷やかしなら帰ってくれ」
「ノーノー違いマース!ワタシがミスター門長をサポートするネー」
「サポート?一体どう......い......」
金剛の懐からチラリと覗かせるその姿に俺は言葉を失う。
「ワタシを連れていけばきっと役に立てるネー?」
「お前は要らん、そいつを貸せ」
「ノォー!?ストレート過ぎマース......でも残念ネー、ワタシの妖精さんが認めないデース」
「なに?」
「こんごうをわるくいうやつにゃぁこいつはわたせねぇな?」
「あ、やんのかこら。」
「門長さんストップです。」
妖精をつまみ上げようとした時、突然襟足を思い切り引っ張られた。
「いっつ......なにすんだ」
「門長さん、私達妖精に手を出すと貴方は妖精全員を敵に回す事になりますよ?」
「なんだそれ?上等じゃねぇか。」
「はぁ......知らないようなんで教えときますけど私達は艦娘達の建造、修理、艤装の操作、そして解体、種族単位で言えばそれら全てを行えるんです。」
「おう、それで?」
「そして自然の概念である私達に死も数の上限もない......まあぶっちゃけて言ってしまえば艦娘だろうと深海棲艦だろうと人間だろうと三日あればこの世界から消し去る事が出来る訳なんですよ。」
こ、こんなのは只の脅しに決まってる......が。
「な、ならなぜやらない。」
妖精は初めて出会ったときのようなおぞましい笑みを浮かべ答えた。
「もちろん私達が流れに身を任せるのが好きな種族だからですよ?だから基本的に私達の意思で手を出すことはありません......反撃は徹底的にしますけどね?」
くっ......流石に三日で消せると言うのは無いと思うが武器が使えなくなるのは困るな。
「わ、悪かった......じゃあ金剛」
「は、はいぃ!?」
蹲って頭を抱えていた金剛は勢いよく立ち上がり背筋をピンと伸ばし直立した。
「な、なんですカー?」
「......偵察は任せた。」
「おぉ......オーケー!!ワタシに任せればドントウォーリーネ!」
金剛は明らかに動揺しながらも受け答えた。
「あっは!そんなに動揺しなくても大丈夫ですよぉ?私達に直接的に手を出さなきゃいいんですから~」
回りの様子を見て妖精は愉しそうに話す。
全く......お前の方がよっぽど悪役が似合うぜ。
「じゃあ行きましょうかねぇ門長さん!金剛さん!」
「まあ......そうだな。」
「オーケー......レッツゴーネー......」
「あはは......いってらっしゃいませ~」
重苦しい空気の中俺はリベンジする為に沖へと出ていった。
「相変わらずこの移動時間は何とかならねぇのかよ......」
「ワタシとトークしてればあっという間ネー!」
「要らん、却下」
「おおぅ、即答デスカ......」
「ほらほら常に気を配っていないと被弾してしまいますよ~?」
流石に電探にも映ってないのに食らうわけ......なんて思った瞬間、俺の足元から大きな水柱が二度に渡り上がった。
「ヤッタゾ!」
「ヘンナセンカンヲシズメタゾ!」
「ミスター門長!?」
「だから言ったじゃないですかぁ。」
クソ潜水艦が......今のでてめぇら何体分の資材が飛んだと思ってんだ......
「ナンダアイツ!?」
「ゼンゼンキイテネェ!」
俺は急速潜航しようとする潜水艦の首を掴み上げる。
「ハナセ!」
「ソキュウサァーン!!」
「逃がさねぇよ」
ソ級に呼び掛けるヨ級目掛けて俺は主砲を撃ち込んだ。
「ヨキュウゥゥー!!チョッマテヤメロ!?ウワアァァァッ......」
続けて俺は再装填中の主砲でソ級の頭部を殴打し続ける。
返り血?を浴び白い制服の肩の辺りまで蒼く染まったところで所でソ級の身体は海へ還っていった。
「ちっ、くそがっ......」
「ちょっと、中にいたら危ないじゃないですか!」
「あ、忘れてた。」
つかいつの間に外に出てたんだ?
「アンビリーバブルネー......怖いもの知らずにも程がありマース」
「あ、いや......だってわざとじゃねぇし。」
「わざとじゃないなら仕方無いですね。」
「ホァッツ!?あれはオーケーですカ?」
「まあ、私達に対して悪意のない攻撃まで気にしてたら今頃戦争なんて無くなってますよ?」
「まあ......ずっと妖精と一緒に戦争してるわけだしな。」
それにしても潜水艦は忘れていたな、発見する手段がねぇ......今度はソナーと爆雷でも持っていくか。
「そうですか......ん?ミスター門長!南西方向にファイトしてる艦娘と深海棲艦がいるデース!」
「そうか。」
「ホワイ?行かないのですカ?」
「俺は既に犯罪者だからな。余計な接触は避けるのは普通だろ。」
「そうでしたカ......駆逐ガールズには荷がヘビィな相手ですが彼女達なら上手く撤退してくれるでショー」
ん......?こいつ今なんつった......
「艦娘は誰がいるんだ......?」
「ンー......球磨を旗艦に睦月型が五隻いるネー」
睦月型五人......だと!まさかあの時の彼女達では!
「それを先に言え!進路変更だ、救援に行くぞ!」
「オーケー!そう来なくっちゃ!」
俺達はいたいけな少女達を助けるべく全速力で南西へと急いだ。
妖精さんにストライキされたら要求を飲むしかなさそうだ......