響乱交狂曲   作:上新粉

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第五章開始!!


第五章
第百二番


 俺は少女を守れなかった……正しくは少女の心を守る事が出来なかったのだ。

 

「ひぐっ……ひっ……そんな……ぐすっ」

 

俺に背を向けた状態で膝を地に落とし泣きじゃくる目の前の少女。

そんな少女が抱えて居るのは既に冷たくなってしまった彼女の姉。

その先で今にも仕掛けて来ようとしている刀を構えた黒髪長髪の女……そして、艦娘や深海棲艦が入り混じった大艦隊。

その中には少女が信じた者達も混じっていたのだ。

 

目の前の黒髪の女は残酷な真実を突き付けるように少女へ言い放った。

 

「この世界に争いの無い平和など存在しない。故に闘争を以て調和を成すのだ。そして調和を乱す者は世界から淘汰される。目の前の現実こそがその証明となろう」

 

「なんで……そん…………わからない……わからないっよぉ!」

 

「貴様にも夢の終わりが来たのだ。受け入れろ、現在を」

 

「ひっぐ……い……嫌だ……嫌だよ……こんなの……現実じゃない……信じ……ない」

 

俺は少女の力になりたかった。

少女の願いを叶えたかった。

だがその為に俺がやって来た事は結果的に彼女を傷付けるだけのものであった。

友も、仲間も、そして親愛する姉すらも失った少女は世界に絶望しきった視線の合わなくなった瞳で、壊れかけの心で俺の方を見てうわ言の様に呟いた。

 

「と……なが、おね……がい…………こんな世界……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──もう……見たくない──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あああぁあああああぁああああああ!!!!」

 

「はわわ!?びっくりしたのです!」

 

「ごはぁ!!?」

 

うぐぐ……上も下も痛てぇ。

一体何がどうなって……ってあれ?夢?

 

辺りを見廻すが外の景色も基地の中も変わり映えしない日常が広がっていた。

何だかとんでもない悪夢を見ていた気がするが今さっき受けた衝撃と下腹部の激痛により頭の中から抜け落ちてしまったようだ。

というかいつの間にか自分の部屋にいるんだが。

たしか基地について真っ先に響に会おうと執務室に向かったはずなんだがそっからの記憶が……。

 

「門長さん、おはようなのです」

 

「お?おはよう電……ってどうしてここに?まさか俺を迎えに!?」

 

「響ちゃんを危険な目に合わせた門長さんには罰を受けて貰うのです」

 

えぇ、えっと……?

状況が全く理解出来ないが誰か説明を求む。

俺が辺りを見回すと抱腹絶倒する中枢棲姫と暗い微笑みで此方を見つめる電ちゃん以外は見当たらなかった。

 

う~む、中枢の奴は後で懲らしめるとして電ちゃんに状況を聞くとする……いやまて!

俺が此処に来るまでの記憶がないという事は暴走したか誰かに気絶させられたかという事になる。

だが暴走したのであれば自分の部屋で目が覚めるというのは少し考えにくい。

となると後者だが、俺が簡単に気絶するとは考え難いものの、嘗て俺に恐怖を感じさせた目の前の彼女ならばありえる話なのも事実だ。

 

そうなると下手な事聞いて電を刺激するのは不味いか……そうだ!武蔵、基地についてから今に至るまでに何が起きたか状況の説明を頼むぞ。

 

ーん?ああ、大凡お前さんの想像通りさ。電がお前さんの帰投するや否や至近距離で連装砲を急所に一撃。そして首のそいつを着けてここまで引きずって来たって所だなー

 

なるほど……道理で下腹部に激痛が走るわけだ。

危うく俺の息子が親不孝者になってしまう所だったのか。くわばらくわばら。

だがしかし響を危険な目に合わせたのは確かだし受け入れるとしよう。

…………で、この首についてる首輪は何だ?響に会いに行ったら爆発するのか?

 

ーさぁ、私には普通の首輪に見えるな。強いて言えば鎖の先を電が持っているくらいか?ー

 

そうだな。ならそこは電に聞いてみるのが一番早いか。

 

「なぁ電?俺の首に着けられた首輪は一体何なんだ?」

 

「はいっ、門長さんが勝手に居なくならない様にこの鎖を響ちゃんに持っていて貰うのです!」

 

電は先ほどとは打って変わって溢れんばかりの笑顔で答えてくれた。

束縛系幼女かぁ。それはそれであり……って響が?

 

「いや、それって寧ろ響に対する嫌がらせな気も……」

 

「響ちゃんからは承諾を貰っているのです。それと、犬は四足歩行なのですよ?」

 

「…………」

 

電からの有無を言わさぬ圧力に屈した俺は黙ってその場で両手両膝を着いた。

 

「アッハハハハハハッ!!ソノ姿最高ニ面白イワヨ!」

 

「笑ってんじゃねぇぞゴラぁ!!」

 

「四足歩行なのですよ?」

 

「あ、はい……」

 

くそぅ…………もうどうにでもなれっ。

 

「それと中枢棲姫さん。あなたにも()()()()()()()?」

 

「イ、イエ。遠慮シテオクワ……」

 

これは相当頭に来てますわ電ちゃん。

これ以上余計な事を言えば本当に首輪が爆発しかねないな。

 

「それじゃあ食堂に行くのです。港湾さん所のフラワーさんとル級さんもみんな集まって居るのです」

 

ああそうだ。今回の事と今後の事を話し合わねぇとと思って居たんだったな。

なんで電がそれを知っているのかは分からないが恐らく中枢から少し話を聞いたのだろう。

俺は電に手綱を引かれて四足のまま食堂へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 食堂に入ると当然ながら全員の視線が俺達の方へ集中する。

全員の反応は殆ど同様であった。

 

「あれはっ、春に存在が確認された中枢棲姫ではないですか」

 

「アレガEN.Dノリーダー……」

 

まず初めに目が付くのは深海棲艦であり三人の中で一番高い位置に頭がある中枢棲姫。

 

「あれ?電、門長さんは何処にいるの?」

 

「そういえば少佐の姿が見当たりませ……」

 

「ぶふぅ!ちょっ、おま!?」

 

そして俺の姿を探す者。

まあ奥の方にいる奴は俺が入った時点で気付いたのか既に吹き出しているが……摩耶と明石と金剛に長門、テメェらは今度演習でボッコボコにしてやっから覚えてろよ。

 

電は響を呼ぶと俺の手綱を手渡していた。

受け取った響は少し困った様に照れていたが俺に目配せをしてからゆっくりと部屋の真ん中へと歩いて行く。

正直このままでも良いなと思ってしまったのは此処だけの話だ。

 

ードン引きだなー

 

此処だけの話だっつってんだろうが!聞いてんじゃねぇ。

 

ー聞きたくなくとも聞こえて来てしまったんだ。しかたなかろう?ー

 

ちくしょうがっ。

……まあいい、それよりも今は折角全員集まってる事だしさっさと話しを始めるとしよう。

 

「えーと、まずは俺の現状についてだが響を危険な目に合わせた罰を受けている所なんで気にするなと言っとく」

 

「ま、まあ当然ね!門長さんがいない間大変だったんだから!」

 

「そうですよ!何も相談も無く此処を離れてしまうなんて。貴方は私達が任せた事を理解していなかったのですかっ」

 

吹雪達が俺に任せた事……あっ。

俺は吹雪達が今も俺に変わって港湾の所の護衛任務を受けて貰っている理由を思い出した。

 

「そうだった……すまなかった」

 

俺は反論することなく四つん這いのまま吹雪達に頭を下げて謝った。

俺としては真面目に謝っているつもりだが四つん這いで頭を垂れる俺の姿が余りにも滑稽なのか暁が思わず吹き出していた。

仕方ないとは思うが正直ちょっとだけ傷付いた。

 

「ぷっ……も、もういいです!分かりましたから。か、顔を上げて下さい!」

 

吹雪は吹き出さない様に堪えているのか声を震わしながら顔を上げるように促してきた。

真面目な空気を崩さない様に必死に堪える吹雪が可愛いいのでもう暫くこのままで居ようかと悪戯心が芽生えたその時。

 

「門長さん?お話があるのではないのです?」

 

「よし、じゃあ話を始めるか!」

 

背筋に強烈な寒気を覚えた俺は直ぐに頭を上げて話を進める事に決めた。

じゃないとそろそろ本気で我が息子に別れを告げる事になりかねないからな。

 

俺は中枢棲姫の紹介から始め響と別れた後から基地に戻ってくるまでの経緯とその結果EN.Dとの協力関係を築いた事を簡単に纏めて話した。

 

「マサカ……門長サン一人デ解決シテシマウナンテ」

 

「スサマジイナ。ワレワレガヤッテキタドリョクハナンダッタノカトイイタイクライニナ」

 

「俺の力じゃねぇよ、響が頑張ってくれたのと中枢が約束を守ったからだ」

 

「わ、私はただ……」

 

「約束ヲ反故ニシタ所デ私ノ得ニナル事ハ無イ所カ暴走シタ貴方ニ深海棲艦ガ滅ボサレテハソレコソ本末転倒ナノヨ」

 

「まぁ……何にせよお陰で俺達の目標まであと一歩所まで来ている。そこで今後の動きについて皆で相談したいと思ってる」

 

そこで俺は一番にル級へと話を振った。

 

「ル級、お前なら港湾の考えを聞かされてるんじゃねぇか?」

 

「ン?ナゼソウオモウ。ワタシミタイナイッカイノシンカイセイカンヨリフラワーノホウガヒメサマカンガエヲキイテルトハオモワナイノカ?」

 

「なんとなくだがお前だけ他の奴より港湾に対する態度が違う気がした。あとワ級はポンコツっぽいからな」

 

「ヒドイッ!偏見デスヨ!」

 

つってもル級が港湾を慕っていないとかだったら話は別だがそんな事はないとル級は続く言葉で示した。

 

「ハハハ、ヒメサマニハワルイトハオモッテルガウマレツイテノハナシカタナンカハドウシテモナオセナクテナ。ダガヒメサマノダイコウトシテワタシガココニキタノハジジツダカラナ。ワタシタチノケイカクヲハナストシヨウ」

 

ル級はそう言うと俺達に港湾の計画を伝え始めた。

なんか色々と難しい話をしていたがこの後の動きとしてはEN,Dに属さない軍閥の勧誘と海底棲姫共の対策が主な目的っつう事らしい。

軍閥の勧誘はEN.Dの奴らに頼むのが早いだろうが……問題は海底棲姫共だ。

 

「中枢、軍閥の勧誘はお前等EN.Dに任せる。話し合いでの解決が理想だが、最悪相手を沈めなければ良しとする」

 

「イイワヨ、ソレクライオ安イ御用ヨ」

 

「頼む。で、問題は海底棲姫の奴らの対策だが……」

 

当然ながら意見は出ねぇか。

確かにまともに戦って勝てるような相手じゃねぇのは俺が身を以て実感してる。

だが話し合おうにも何処に居るのかなど見当もつかない。

 

「まあ、こればっかりは簡単にはいかねぇわな。それじゃあ各々で考えて何か会ったら教えてくれ。んじゃあ今日の会議はそんな所だな」

 

そう言って俺は一度会議を締めた。

あ、そういや中枢の紹介を忘れてたが別に良いか。

そんな事より奴の姿が見当たらねぇな。

それぞれが食堂を出ていく中俺は明石に声を掛ける。

 

「明石」

 

「ひぇっ!?ど、どうしましたか?」

 

「砲雷超が何処に居るか知らねぇか?」

 

「え?ああ、あの万能な砲雷長さんなら暇潰しに出掛けてくると門長さんが戻られる二日程前に出ていきましたよ?」

 

ちっ、奴からなら何かいい案が出るかと思ったが肝心な時に役に立たねぇ奴め。

だが居ないなら仕方ない、俺達でなんとか対策を考えねぇとならないか。

 

……ま、それはおいおい考えるとして。

折角電ちゃんが用意してくれたこの状況はある意味ではチャンスだ!

これを期に最近欠乏気味の響分を一気に充填してやるぜ!!

 

「よしっ、話は終わりだ。俺達も戻ろうぜ響!」

 

「えと。うん、行こっか」

 

俺はこの後の計画を練りながら響に手綱を引かれて意気揚々と食堂を出ていく。

 

「なにニヤついてんだあいつ……気持ち悪ぃな」

 

背後で猿女が何か言っていた気がするが気分上々の俺の耳には届く事はなかった。

 

 

 

 




久々に原案を見直してみたら最初の二三歩目位から道を外れまくっててびっくりしました。
覚えていたら完結後に原案を晒すのもありかも知れませんね。(尚需要は……)

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