中枢棲姫のゲーム開始の合図から早くも一時間が経過していた。
状況としては奴にとっても俺にとっても予想外な展開となっていた。
まず初めに俺にとっての予想外だったのは俺らとは関係のない海軍所属の艦娘が巻き込まれていた事だ。
「おいっ、あいつらは……」
俺は無関係を伝えようと目を開き中枢の顔を見て思い止まった。
「アイツラ?彼女達ガドウシタノカシラァ?」
「まさか、てめぇの差し金か……?」
「アハ、ナンノ事カシラ?私ガ彼女達ヲ呼ンダトデモイウツモリ?」
このアマがぁ……嘗めた真似しやがって。
だが俺が此処で無関係を主張しようと奴は認めないであろう事は理解できた。
そしで俺の状況が変わっていない以上結局響達を信じて待つ以外選択肢はないと云う事もな。
「ちっ、くそムカつくアマだぜ!」
「アラアラ、随分ト嫌ワレテシマッタワネ」
中枢は口角を吊り上げて不気味に笑うが俺はそれを無視して目を閉じ再び響達に視界を向ける。
そして俺は再び驚愕した。
なんと響が単艦で深海棲艦の方へ向かい始めたのだ。
「な……響っ!?」
「マサカ……特攻デモ考エテルノカシラ?」
その様子に中枢すらも驚きを隠せずにいた。
確かに俺は響に託していた訳だが、まさか長門すら連れずに向かうなんて思わなかった。
今回に限って言えばその行動は正解であるとも言えなくはないが、実情を知らない響が選択するには余りにも危険過ぎる賭けなのだ。
「響……なんて無茶をしやがる」
長門の奴、一緒に居ながらどうして響を一人で行かせたんだ。
奴には後でじっくり話を聞く必要があるが今は響の行く末を見守る事が先決だ。
それに響を一人で行かせた以上長門達が勝手に動く事はないだろう。
あれから更に二時間が経った今、遂に俺と中枢の戦いに決着が着いた。
『だから私はEN.Dの人達と分かり合おうとする事を止めない!』
「……決まりだな、さあ早く撤退させな」
響は奴らとの和解を微塵も諦めるつもりは無いと言ってのけたのだ。
あれだけの深海棲艦に砲門を向けられながらも臆する事無く言い切った。
これ以上は響が言葉を変える事はあり得ないだろう。
「ソンナバカナ……和解ナンテアリエナイ…・・・有リ得ル筈ガナイワ!」
「てめぇらがそう考えている限りは有り得ねぇだろうな。それでも響は手を差し伸べる事を止めない」
「ウソヨ、アンナ駆逐艦ニ……クソッ……『妄想ト現実ノ区別ガ付イテナイ餓鬼ガァ!』」
怒りと悔しさに満ちた怒声を上げた中枢。
だがしかし、俺はその声がダブって聞こえた事に嫌な予感を感じた。
そして俺がすぐさま目を閉じるとその予感は確信へと変わる。
怒り狂った戦艦水鬼改はその背中の異形の腕を大きく振りかざし響に襲い掛かろうとしていたのだ。
俺は通信機を通してすかさず止めに入る。
「テメェ……ぶち殺されてぇか!」
『貴様ハ……ソウカ、貴様ガトナガカ。私ヲ沈メルダト?面白イ、ヤッテミロ!』
『あっ、ぐぅ……!』
だが奴は一度は手を止めるも今度は俺を挑発するかのように異形の腕で響を掴み上げやがった。
あのクソアマが……いいぜ、殺してヤるよ。
「今すぐ殺シに行ってやるカラ覚悟シろ」
ーおいっ、落ち着け門長!艤装を展開したら元には戻れんぞ!ー
ウルさい、少し黙レ。
俺は武蔵を意識の端に追いやると鎖を引きちぎり外へ出ようと歩き始める。
とその時、唐突に背後から肩を掴まれる感覚に俺は振り返る。
「ナンダ、邪魔するならテメェから潰すぞ」
「……作戦行動中ノ全軍ニ告ゲルワ。作戦ハ終了、速ヤカニ撤退シナサイ。戦闘ヲ継続スル者ハ雷撃処分ニ処スワ」
「……」
俺が振り払うよりも先に中枢は奴らに撤退を命じた。
その声を皮切りに中部基地を包囲していた艦隊は次々と海中へと帰って行く。
戦艦水鬼改も響から手を離し一瞥だけすると何も言わずに海中へと去って行った。
「戦艦水鬼ノ行動ニツイテハボスデアル私ガ責任ヲ取ッテボスノ座ヲ降リルワ。ソレデ許シテ貰エナイカシラ?」
「そうか、個人的には奴を沈めてぇ所だが……響も無事だしいいだろう。それで、テメェはどうする気だ?」
「ソウネ、ワタシハ消エルトスルワ。EN.Dノ元ボスガ健在ダト部下達ガ納得シナイシネ。後ハ貴方ガボストシテ組織ヲ好キニ使ウトイイ。ワカラナイ事ガアレバ其処ノル級ニ聞ケバイイ」
「ボス……!」
それだけを話すと中枢は扉の方へ歩き始める。
その姿を見ながら響が無事だった事で落ち着きを取り戻した俺は少しだけ考えた。
以前の俺なら此奴がどっか行こうが知った事では無かったが今はそういう訳には行かねぇ。
響はきっとこいつ等が不幸になる事を良しとはしないだろう。
きっと救いたいと望んでいる筈だ。
だったらどうするかなんて決まっている。
中枢が扉に手を掛けようとした所に俺は割って入る。
「よし解った。じゃあEN.Dのボスとしてテメェの脱走は認めねぇ」
「……ソウ、マア当然ヨネ。イイワ、撃沈処分ナリ何ナリ好キニシナサイ」
そう言って艤装を解除し両手を広げて見せる中枢に対して俺は少し考える素振りを見せてからこう言い渡した。
「そうだな……テメェを沈めたら部下共が復讐に来て面倒な事にならないとも限らねぇしなぁ。よし、表向きにはボスはお前のままで俺とは協力関係って事にすりゃあいい」
「ハ?本気デ言ッテイルノ?」
そこまで驚かれる様な事を言ったつもりは無いけどな。
「勿論だ。ぶっちゃけそんな馬鹿でかい組織の指揮なんて面倒な事やりたくねぇし何より響がたった一人で奴らの前に立って覚悟を示したんだ。俺が邪魔をする訳にはは行かねぇだろう」
「アノ駆逐艦ニ何ガ出来ルッテイウノ?」
「駆逐艦として練度相応の事しか出来ないだろう、今はな?だが響の真っ直ぐな思いはいずれ世界を変える。俺はその道となり橋となる為にこの力を使うつもりだ」
中枢は俯いたまま黙って聞いていたが俺が語り終えた所で徐ろに肩を細かく震わせ始める。
「フフフ……アハハハハッ!世界ヲ知ラナイ小娘ノ戯言ヲ本気ニスルナンテ貴方モ随分ト無垢ナノネ!」
「てめぇ……どうしても俺に喧嘩を売りたいようだな!」
俺が砲身を中枢へ向けて威圧するもそんな事気にする様子もなく中枢は話し続けた。
「面白イワ!ソノ駆逐艦ガ夢カラ醒メタ時、貴方ハ果タシテドウナルノカ楽シミダワ!」
「あ"あ"!?んな事にはならねぇ!響なら必ず平和を実現出来るに決まってんだろ!」
「アハッ、楽シミニシテルワァ。ソレデボス?具体的ニワタシハ何ヲ協力スレバイイノカシラァ?」
「あ?具体的にだって?」
一ミリも実現出来ると思っていない中枢の態度に苛立ちつつも中枢の質問に対して考えを巡らせる。
そこで俺はこの後の事を考えて居なかった事に気付いた。
仕方ねぇだろ!そもそもこいつらの組織をどうするか考える間もなく今回の騒動が起きたんだから考える余裕なんか無かったんだよ!
「それについては戻ってから話し合うからテメェも基地に来い」
「アーッハッハッハッ!ソンナンデ本当ニ大丈夫〜?EN.Dガ貴方ノ配下ニ入ッタ以上事態ハ直グニデモ動キ出スワヨォ?」
「うるせぇ!テメーは黙って付いて来れば良いんだよ!」
「ハイハイ、ボスノ命令ニハ逆ラエナイシ仕方ナイワネ」
くそ、鬱陶しい野郎が……放っとけば良かったか。
突然テンション上げやがって何なんだ一体。
だが問題の一つであったEN.Dに関しては解決したも同然だろう。
後は残る深海棲艦も引き込めれば良いが……。
ま、とにかく今は帰って響を愛でる事にしよう!
エリレと空母と中枢を連れてEN.D本拠地を離れた俺は明るい未来予想に心躍らせて帰ったのであった。
「門長……貴方ハ果タシテ
次回からは第五章へと突入します!
一章が短い?区切りが中途半端?
それがわたくし上新粉作品の定め!
なるべくなら章の区切りはちゃんとしたいんですけどねぇ……