響乱交狂曲   作:上新粉

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本作をご覧の皆様大変お待たせ致しました!
本日改めて再開致します!

ストックは……まあ一応用意しましたので暫くは定期投稿が出来る、か……と?


第百番~響~

長門さんの水偵からの報告では百以上は確認されているらしい。

一箇所の偵察でこれなのだから周囲を囲っている深海棲艦の総数は少なく見積もっても千は越えているという事になる。

数だけでも離島さんの時の十倍以上はおり、その上鬼や姫と言った個体も多数存在しその戦力はチュークと呼ばれる海底棲姫の一角にも匹敵するだろうと長門さんは言っていた。

 

チューク

 

その言葉を耳にした時、私の心が恐怖で覆われそうになった。

けど長門さんが何も言わずに私の手を握ってくれたお陰でどうにか平静を保つ事が出来た。

私はその手を強く握り返しゆっくりと深呼吸をして気持ちを切り替えるよう努める。

 

ともあれそれほどの戦力を一箇所に集中させるとなると相当な規模の組織が動いているのが想像出来る。

そんな大組織が幾つもあるとは思えないしそれ以前に私達と関係のある組織なんてEN.D以外に考えつかなかった。

けれど同時に一つの疑問が浮かび上がる。

 

「長門さん、奴らはどうして此処までの戦力をこの基地に集めたんだろう?」

 

というのも門長が居ない事は奴らが一番良く知っているのだ。

なんせ門長はEN.Dの奴らに連れられて行ったのだから。

その事を伝えてある長門さんは顎に手を当てて少しばかり考える素振りを見せてから予想を口にした。

 

「そうだな……短期決戦による我々の掃討又は制圧というのが真っ先に思い付く可能性ではあるが、それを踏まえても過剰戦力である事は変わるまい」

 

「そうだよね。だけど他に何が考えられるだろう」

 

相手の目的が分からず、動く事も出来ないまま時間だけが過ぎていく。

そんな状況に堪えかねたのか彼女達が動き始めてしまった。

 

 

「何なのよ……ああもうっ!こうなったら一体でも道連れにしてやるわよ!」

 

「み、満潮ちゃん!?待ってぇ!」

 

希望が見えない状況に追い込まれた満潮が遂にヤケを起こし単艦で深海棲艦の方へ向かい始めてしまったのだ。

五月雨が慌てて止めようと手を掴むも呆気なく振り払われてしまう。

 

「はぁ……まあでもあいつの言う通りよ。どうせ助からないなら一隻でも数を減らしてから沈む、それが私達艦娘の使命よ」

 

「曙ちゃん!?」

 

「潮、あんたはどうすんの?残念だけど助かる道は無いわよ」

 

「わ、私は…………行きます。最期まで曙ちゃんと一緒に!」

 

「……そ、せいぜい足手まといになるんじゃないわよ!」

 

「えぇっ!!曙さんや潮さんまでもですか!?若葉さんも那珂さんも気をしっかり持って下さい!」

 

「うぅ……しかし……な」

 

「那珂ちゃんまだやりたい事いっぱいあったのにぃ〜!」

 

更には曙達まで覚悟を決めて満潮に続こうとしている。

那珂ちゃんや若葉は今の状況に絶望しきってしまっているようだ。

ダメだ、このまま満潮を行かせる訳にはいかない。

 

「ま、待って!!」

 

「……なに?」

 

「なんなのよ、話があるならさっさとしなさいよ!」

 

「うぅ……」

 

満潮と曙に睨まれ思わずたじろいでしまったが一応は足を止めてくれた。

 

「お前達が駆逐艦であった事に感謝するがいい」

 

なんて長門さんが門長みたいな事を呟いてたけど気にしないことにして満潮達の説得を試みようと口を開いた時、突如私宛に通信が入ってきた。

門長からかも知れないと直ぐに通信を繋いだ。

 

『イクなのねー!響ちゃん達に報告があるのねっ!』

 

「えぇ……と…………」

 

残念ながら門長では無かった。

と、いうより……どうしよう。向こうは私達の事を知ってるみたいだし多分知り合いだと思う…………けど、誰だろう。

 

「……長門さん」

 

「どうした?誰からの通信だった?」

 

「あのね?イクさんって人覚えてる?」

 

「なんだイクか」

 

良かった、長門さんが覚えてるなら話を代わって貰った方が良いよね?

 

「じ、じゃあ話を──」

 

そう言って長門さんに代わろうとしたんだけれど、何だか長門さんの様子がおかしい事に気付いた。

 

「イクね……まぁ、そうだな……」

 

「長門さん?」

 

「あ、あぁ……勿論覚えているぞ!初対面ではない……はず」

 

『……響ちゃんは仕方ないとしても長門さんには覚えていて貰いたかったのね』

 

あ、マイク切り忘れてた。

 

「あ、えと……ご、ごめんなさいイクさん!」

 

「す、済まないイクとやら。奴から離れた時に記憶の欠損があった様だ」

 

『長門さんの話は言い訳臭いけど慣れてるから別に良いのね……気にしてないの。そんな事より大事な事を伝えに来たのね!』

 

イクさんは気にしていないと言っていたけどその声は少し寂しそうだった。

もう忘れてしまわない様に今度イクさんと一緒にお話しよう。

私はそんな思いを胸に刻むとイクさんからの報告を尋ねた。

 

『さっきまで旗艦と思われる深海棲艦の真下にいたけど、全く攻撃が来ないのね!』

 

「へっ?何でそんな所に行ってるんだい!?」

 

『基地周辺を哨戒してたら見つけたの!だから深深度から微速で直下まで行ってから傍聴してたんだけどイクを警戒するどころか探信音一つ聞こえてこないのね』

 

「それは聴音機(パッシブソナー)で既に見つかってるとかじゃないのかい!?」

 

『それも考えたけどもしそうなら陣形を変えるなり何かしら動きがあるはずなのね』

 

なんて無茶をするんだ……幾ら深深度からの偵察とはいえ見つかってたら振り切るのだって容易じゃないだろうに。

 

けれどイクさんがくれた情報はとても貴重だ。

本気で攻め落とすつもりなら例え私達の中に潜水艦が居なかったとしても警戒は怠らないに違いない。

それは殆どの水上艦に取って脅威になるからだ。

対潜警戒を行わないというのは見えない敵を相手にするだけでなく手の内すらも相手に筒抜けになってしまいかねない。

フラヲ達から聞いた限りそれは深海棲艦側に取っても同じ事で、深海棲艦達も潜水艦以外は基本的に砲雷撃や艦載機の発艦等は行えないらしい。

 

だから相手が全く対潜警戒を行わないと言うのは普通では考えられない。

私は直ぐにイクさんの話を自分の考えも織り交ぜて皆に伝えた。

 

「なるほどな、確かに通常の艦隊戦では考えられんな」

 

「そうね、でもそれがどうしたって言うのっ?潜水艦なんか気にしなくても良いくらい戦力差があるって事でしょ!」

 

「ま、順当に考えればそうなるわよね。事実相手が対潜警戒してないからどうにかなるって訳じゃないだろうしね!」

 

「満潮や曙の云う事は最もだよ。けどそれだけじゃない、相手は空母や航空基地が居るにも関わらず未だ艦載機すら発艦させていないんだ」

 

「なによまどろっこしいわね、それがどうしたって言うのよ。さっさと結論を言いなさい!」

 

「そうね、アンタの考えを聞かせてくれるかしら?」

 

私が此処まで話した時点で長門さんは現状の異常さを理解していた。

後は柱島の曙と潮も何かおかしい事に気が付いた様子だった。

私は一拍置いてから自身が辿り着いた答えを発表する。

 

「実際の所は分からない、けど相手の目的は恐らく私達の降伏……正確には私や姉さん達基地に居る皆の降伏、だと思う」

 

「はぁ?深海棲艦が降伏勧告を出してるって言うの?流石にそれは無いでしょ。てかそれじゃあアタシ達はアンタ達に巻き込まれただけって事になるじゃない」

 

「うん……降伏勧告かどうかは推測だけど狙いが私達なのは殆ど間違いはないと思う。だからこそ柱島の皆だけなら助かる術はあるとも思ってる」

 

「なにそれ!アンタ本気で言ってんの!?」

 

「もちろん本気さ。一分でも可能性があるならそれに賭けてみるべきだ」

 

応じてくれるかは分からないけれど今の状況なら話す事位は出来る筈。

 

後は……

 

「長門さん。これから私は彼女達と柱島の人達だけでも帰して貰える様に交渉してくるよ」

 

「そ、それは……わ、私が行ってこよう!」

 

「いや、長門さんだと相手を警戒させてしまうかも知れないし私一人なら彼女達も迂闊には手を出さない……と思う」

 

「響っ!貴女一人で向かうつもり!?何か考えがあるのかも知れないけどそんな無茶はさせないわよ!!」

 

「大丈夫だよ姉さん。リスクが無い訳じゃないけどきっと私を攻撃して来る事はないよ」

 

門長に対しての人質として使うなら沈めには来ないと思う。

もし門長を既に倒しているなら構わずに撃ってくるだろうけど()()()()()()()()

けど私以外は不測の事態に備えて逃げれるように準備しておいた方が良いのも確かだよね。

 

「長門さん、私が向ってる間に基地の皆とも連絡を取って何時でも撤退出来る準備をお願い出来るかな?」

 

「それは構わないが……本当に一人で行くのか?」

 

「うん、大丈夫。私は信じてるから」

 

「……そうか。わかった、必ず無事に帰って来るんだぞ」

 

「もちろん、不死鳥の名は伊達じゃないさっ」

 

私は長門さんにそう伝えてその場を一人離れ、イクさんから旗艦と思われる深海棲艦の下へと進み始める。

帰ったらきっと吹雪さんや摩耶さん達に叱られるんだろうなぁ。まあでもそれはそれで幸せな事なのかも知れない。

これから危険域に入ろうと言うのにそんな暢気な事を考えてる自分に苦笑しながら改めて気持ちを引き締めて速度を上げたのだった。

 

 

 

 


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