響乱交狂曲   作:上新粉

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あぁ〜早く二次元へ行きたいじぇ


第九十六番

深海棲艦の奴らによって連れてこられた場所は一見何も見当たらない小さな島だった。

 

「おい、エリレは何処にいんだよ」

 

「ワタシタチハキカサレテイナイワ」

 

「ソコノクウボニカンシャスルンダナ」

 

なんだ使えねぇな。

それにこいつは何わけわかんねぇ事言ってんだ?響を人質取るような奴に感謝する理由がねぇだろうが。

 

「ちっ、んじゃあさっさと知ってる奴の所に連れて行きやがれ」

 

「ハァ……コッチヨ」

 

戦艦が溜息を吐きながら半径二メートル程の縦穴を指差した。

中を覗くと傾斜六十度程の急勾配に縄が一本だけ垂れていて、中心には薄ぼやけた灯りが等間隔で奥まで続いていた。

 

「なんだこの面倒くせぇ入口は、もっと入りやすい場所はねえのかよ」

 

「深海棲艦ハ元々地上ニ入口ハ作ラナイノヨ、コレハ普段ハ滑走路トシテ機能シテイルモノヨ」

 

「滑走路?地上に出て発艦するのも面倒だってか?」

 

「それは分からんが、本当に此処から発艦出来るのであれば地上基地よりも断然発見しにくく攻めにくいだろうな。それにこの縦穴を潜って敵施設に攻撃を仕掛けるのは熟練の艦載機乗りでも至難の業だろう」

 

突然背中から現れた武蔵がそう言って答えた。

だが正直どうでも良い話だったので俺は適当に返事をしながら地下へと続く縄に手をかける。

 

「んで、此処を降りてから何処に行けばいいのか?」

 

「エ、アア。フツウニオリタサキデマッテレバダイジョウブヨ」

 

「あっそ」

 

俺は興味無さげに返してから縄を掴んだまま一気に縦穴を滑り落ちて行った。

 

お、流石に急だな。

掴む縄が無かったらやばかったかもな。

 

「おいおい、この速度ではあいつらより先に着いてしまうんじゃないか?」

 

「そうか?ま、別に良いだろ」

 

あいつらが来なきゃ勝手にエリレを探し始めりゃ良いだけの話だからな。

そう考えて縦穴を滑り落ちて行くが、残念な事に俺が下に降りた先には既に戦艦が待っていた。

 

「ヨク来タナ門長、歓迎スルゾ」

 

「さっきの戦艦……とはどうやら違ぇみてぇだな」

 

先程の戦艦と同じく黄色いオーラを纏っているが左眼には青い焔が揺らめき艤装も一回り程でかいそいつは泰然たる態度で話しかけてきた。

 

「ソウダナ、紹介ガ遅レタ。私ハEN.D中枢連合艦隊総旗艦ル級改flagship、簡単ニ言エバオマエヲ連レテキタ奴ラノ上司ノ様ナモノダ」

 

そう言ってル級は俺の前に立つと右手を差し出す。

だが俺はその握手には応じず奴の顔を睨みつけて尋ねた。

 

「てめぇが呼んだのか?ならさっさと用件を話してエリレを解放しろ」

 

「話ハ伝ワッテイナイノカ……マアイイ、オマエニ用ガアルノハ私デハナクボスノ方ダ。私ハオマエヲボスノ所マデノ案内役ヲ任サレタダケダ」

 

ボス?そんな事言ってたか?

良く分かんねぇが約束通りエリレを解放するなら何でもいい。

 

「じゃあさっさとそのボスって奴の所に連れてきな」

 

「フフ。コッチダ、ツイテコイ」

 

そう言って振り返り歩き出すル級の後を俺は何も言わずについていくことにした。

 

 

 

 

薄暗い洞窟を歩く事十分、目の前には金属製と思われる重厚な扉が立ちはだかっていた。

 

「ボス、門長ヲオ連レシマシタ」

 

ル級がその扉の向こうの存在に俺の到着を伝えた。

 

「通セ」

 

「失礼シマス」

 

少しして奥から女の声がするとル級は一声返し目の前の扉に手を掛け押し開けて行く。

扉を開き切ったル級は俺に入るように促すので俺は何も言わずに入って行く。

中はかなり開けた空洞となっており床に設置された薄暗い照明では天井が見えない程である。

床はここに来るまでの凸凹した道とは違い人が二、三人が並べる位の幅で舗装された道が一本奥まで続いていた。

そんな舗装された道を歩いて行くとその最奥には奴らがボスと呼んでいた奴だと思われる深海棲艦が玉座へ腰を降ろし昂然とした態度で出迎えていた。

 

「ハジメマシテ空漠タル存在ヨ。先ズハ私ノ誘イニ応ジテクレタ事ニ感謝スルワ。私ガ世界ノ六割ノ深海棲艦ヲ従エル組織EN.Dノリーダー、中枢ノ姫。人間共カラハ中枢棲姫ナンテ呼バレテルワ」

 

「人質を取っておいて何が誘いに応じてくれただ。早くエリレを解放しろ、断るならてめぇらを捻り潰す」

 

俺が五十一センチ連装砲を中枢ト名乗る存在へ向けて構えるがそいつは余裕の笑みを崩さずに口を開く。

 

「心配ハ無用ヨ、私ハ貴方ト争ウツモリハ無イノダカラ。捕縛シタレ級ナラ今頃ヲ級ト一緒ニイルンジャナイカシラ?」

 

争うつもりは無い?ヲ級と一緒にいる?

人質を取って俺を連れてくる様な奴の言葉を鵜呑みにする程俺は間抜けじゃねぇ。

 

「今すぐ此処に連れてこい。話はそれからだ」

 

「ウ〜ン、騒ガシクナルカラアンマリ彼女ヲ連レテ行キタクナインダケレド…………」

 

やはり素直には連れてこない……いや、連れてこれないのか。

恐らくエリレから情報を聞き出す為に拷問に掛けたからその姿を俺に知られる理由に行かないのだろう。

 

ここまで分かれば後はこいつに聞くことはねぇ。

今すぐ磨り潰してエリレを助けに行かなければ!

 

「それがテメェの答えか、ならばこれ以上話す事は無い。沈めっ!」

 

俺はそう言った直後、構えていた主砲の引き金を引いた。

 

「ボ、ボス!!」

 

洞窟内である為、想像を絶する轟音を立てながら放たれる砲弾はその次の瞬間には目の前の存在に着弾し激しい爆炎に包まれた。

 

轟音が今も反響し入口側に控えていたル級の声は聞こえないが激昴してこっちに砲を向けているので、俺はル級へたもう片方の主砲を向けて引き金を引こうとする。

 

と、その時ル級と俺の間に突然壁が現れた。

突然の事に呆気に取られつつも耳が少しずつ聞こえるようになってきた俺は背後から聞こえる高笑いに気付きすぐさま振り返る。

 

「アーッハッハッハッハッハッハ!ヤッパリ貴方ハコチラ側ヨ!」

 

「あ?まだ生きてやがったのか」

 

「フフフ……マア待チナサイ、私ハ別ニ連レテコナイトモ連レテコレナイトモイッテイナイワ」

 

「何だと?」

 

まるで俺の行動が分かっていたのか艤装と思われる異形はそいつの身とル級を庇っていた。

その為本体は煤一つ付いておらず玉座に座っていた時と変わらず白い肌と白く長い髪を垂らして立ち上がっていた。

 

「レ級達ハ今コッチニ来テルワ。本当ハ色々揺サブリヲ掛ケテ貴方ガ取ル行動ヲ観察シヨウト思ッテイタケレド、オ陰デ手間ガ省ケタワ」

 

中枢の奴が何を言っているのかさっぱり分からねぇ。

だがエリレがこっちに来てるっつうなら待ってれば分かるはずだ。

俺は再び中枢へと主砲を構え直し待っていると奴の言う通後ろの扉から聞き馴染みのある元気な声が飛び込んできた。

 

「ヘェ〜、コノ先ニボスガイルンダネ!」

 

「この声はっ!」

 

俺はすぐ様扉の方を振り向くと重厚である筈の扉がそこそこに勢い良く開かれたのであった。

 

「アー!門長モ来テタンダァ!」

 

「エリレ、モウチョット落チ着キナサイ」

 

「レ級、ボスノ御前ダゾ。口ヲ慎メ」

 

「良イノヨル級、今ノ彼女達ハ私ノ配下デハナイノダカラ。ソレヨリモ……門長、マダ得物ヲ降ロシテハ貰エナイノカシラ?」

 

言う通りにするのは癪だが、実際にエリレの無事は確認出来たからな。

 

俺は構えていた砲身を下に降ろし、中枢を睨み付けたままここまで連れてきた理由を改めて訊ねる。

 

「で?人質を取ってまで俺を呼び付けた理由はなんだよ」

 

下らない理由だったらさっさとエリレを連れて帰ろう。

そう考えていると、中枢は待ってましたと言わんばかりに口角を吊り上げて質問に答えた。

 

「ナァニ、簡単ナ話ヨ。人間共ヲ滅ボスノニ手ヲ貸シテ欲シイ、タダソレダケヨ」

 

「人間共を?つまりテメェの下につけって事かよ」

 

「別ニ上下関係ニコダワルツモリハナイワ。タダ私達ノ目的成就ノ為ニ力ヲ貸シテ欲シイノ、勿論報酬ハ貴方ノ望ムダケ用意スルワ」

 

ああ、つまり報酬と引き換えに俺に仕事を頼みたいって事か。

つってもこいつ等の目的は人類と艦娘の根絶だろ?

人間は兎も角響達にまで危害を加える様な思想の奴らに手を貸すなんてのは論外だ。

 

「響や電の様な美少女達すら手に掛けようとするテメェらに協力する気はねぇ。話は以上だ、帰るぞエリレ」

 

「ソウ、ナラ報酬トシテ鹵獲シタ艦娘ノ処遇ヲ貴方ニ一任スルトイウノハドウカシラ?」

 

「あ?お前らの目的は根絶だろ?艦娘の処遇を俺に任しちまって良いのかよ」

 

「エエ、構ワナイワ。人間サエ滅ボセバ後ハドウトデモナルノヨ」

 

「ふ〜ん……」

 

人間にそれだけの重要性があるかはさておき、鹵獲した艦娘はこっちで好きに出来るってのは確かに魅力的だ。

それに人間が介入しない方が話が纏まる可能性は高いかも知れん。

 

「悪くない……だがな、てめぇらの理想の先には俺の理想はねぇんだよ」

 

「貴方ノ理想ガナイ?ソレハドウイウ事カシラ」

 

「俺は支配者になりたい訳じゃねぇし、ましてや恐怖の象徴なんて以ての外だ。俺が目指すのは響との幸せな日常……そして、眩いばかりの無垢な笑顔が溢れる少女達との平和な世界。唯それだけだ!」

 

俺は目の前の中枢棲姫に向けてはっきりと言い切った。

だが奴は不気味な笑みを貼り付けたまま俺に問いかけて来る。

 

「残念ダケド貴方ノ理想ハ永遠ニ叶ウ事ハ無イワ」

 

「あ"あ"?んなもんやってみなきゃ分かんねぇだろうが!勝手に決めてんじゃねぇぞ!」

 

「ウフフ、空漠タル存在ノ貴方ハイズレ人類ハ勿論、艦娘ヤ深海棲艦カラモ忌ムベキ存在トナル。ツマリ世界ハ貴方ヲ受ケ入レナイ。ダッタラ貴方ガ世界ヲ支配スルシカナイ、違ウカシラ?」

 

「なっ……!?」

 

くっ、腹立たしいが此奴の言ってる事は全部が出鱈目って訳でもねぇ。

奴がどこまで知ってるかは解らねぇが現にタウイタウイの時ですら鎮守府の代表であるヴェールヌイや負い目を感じていた夕張達を除く殆どの艦娘があの日以降俺の事を避けていた。

艦娘ですらそうなのだから人類の反応なんて考えるまでもないだろう。

 

「確かに大多数からはすれば俺は脅威にしかなり得ないだろうし、お前の言う通り俺の理想は叶わねぇのかも知れねぇ」

 

「解ッテ貰エタヨウデナニヨリネ、ソレジャア……」

 

そして中枢の提案に魅力を感じているのも事実であり、少し前の俺なら二つ返事で受けていただろう。

 

「だがな、こんな俺を忌避する所か歩み寄ってくれる奴だって居るんだ。だからそいつらの為にも例え理想が叶わないとしてもお前らに協力する訳にはいかねぇ」

 

俺の返答が気に入らないのか中枢は一瞬だけ眉間に皺を寄せて俺を睨み付けた。

だがすぐに表情を戻すと自身の艤装に腰を降ろして片肘をついて俺に再び問いかける。

 

「……アノ基地ニモソンナ存在ガ居ルノカシラ?」

 

「ああ、だからどうした。手を出す気なら俺は此処でてめぇらを壊滅させる」

 

「ソンナツモリハナイワ。タダソウネ……門長、ヒトツ私ト賭ケヲシマショウ?」

 

は?賭け?

中枢の突然の提案に俺は理解が追い付かず唖然としていると奴は気にすることなく話を続けた。

 

「貴方ヲ慕ッテイル存在ガ居ル事ハ分カッタワ。ケドソノ者ガ貴方ノ恐ロシサヲ充分ニ理解シテイルトハ思エナイノヨ。ダカラソノ者ニモ充分ニ伝ワル脅威ヲ前ニドンナ行動ニ移ルノカ、ソレヲ賭ケノ対象ニシヨウッテ事」

 

「……どうする気だ?」

 

中枢の話は殆ど分からなかった為、俺は具体的にこいつが何をしようとしてんのか尋ねた。

すると中枢は艤装に腰を掛けたまま俺の前まで来ると、徐ろに俺の右手を掴んだ。

 

「は?何やってんだてめぇ」

 

少女以外が俺の右手に勝手に触れてんじゃねぇ!

たが俺が振り払う前に中枢は一言呟いた。

 

「目ヲ閉ジナサイ」

 

俺は中枢の発言を不審に思いながら片目だけ閉じてみる。

すると突然海を見下ろすような不思議ながらも何処か見覚えのある視界が広がっていた。

 

「これは、離島の航空機を借りた時の視点みたいだが一体……」

 

「フフ、ドウヤラ離島ノ配下ガ言ッテイタ事ハ事実ダッタミタイネ。コレハ私ノ艦載機ノ視界ヨ、ソシテコノ景色コソガ艦娘ガヒト目デ解ル脅威ヨ」

 

俺は開いていた方の目も閉じて艦載機の視界に集中すると段々と異様な光景が映り込んで来た。

基地から少し離れた海が黒く染まっているのだ。

 

いや、正確には黒い何かが一面を覆う様に浮かんでいるのだ。

 

「あれは……」

 

「ワカルカシラ?アノ海域ニハ今EN.D全体ノ約四割ガ集結シテルワ。ソノ中ニハ海域ヲ治メル一部ノ姫モ呼ンデアルワ」

 

「一体どうする気だ……」

 

とは言いつつも既に俺の中では最悪に近い想像が出来上がっていた。

俺を此処まで連れてきた上で組織の四割もの勢力を基地に集結させてする事なんて殆ど決まっている様なものだ。

基地にいる響達を人質に取り俺を従わせるか、俺を含め障害となりうる存在を排除するつもりか。

くそっ!俺は響を守りたいだけなのにどうしてこうなる!

だがそんな事を言っている場合じゃない、間に合わなくなる前に戻らなければ!

 

「何がそんなつもりはないだ、やる気満々じゃねぇか。いいぜ、その喧嘩買ってやるから後悔すんなよ!」

 

俺は中枢の手を振り払い部屋を出ようとした時、奴は俺の目の前を艤装で再び遮る。

そして目の前の障害を吹き飛ばそうと両手の主砲を構える俺にこう伝えたのだ。

 

「話ハ最後マデ聞キナサイ。ソレト勝手ニ部屋ヲ出テイケバ貴方ガ危惧シテイル事ヲ実行ニ移スワ」

 

危惧していること、つまり部屋を出ればその時点で基地にいる響達に手を出すと言う事か。

ならば中枢共を今ここで潰すしかない。

 

武蔵、再装填は済んでるか?

 

ーああ、だが奴とて一大組織を纏める者だ。此処で戦闘になった際の策は用意してあるだろうー

 

策か……確かに此処は奴らのホームだが、策の一つや二つでやられる様な俺じゃねぇ。

 

ー私以上に脳筋であるお前さんが考え付かんのも仕方ない。だが、お前さんが先走った結果基地の仲間を失う可能性がある事も考えた方がいいぜ?ー

 

なにぃ!?じゃあテメェは俺に指を加えて待ってろって言うのかよ!

 

ー違う、奴の話が終わってないのだ。判断するのはそれからだろうー

 

奴の話……そうか、だが奴が次に言う事はほぼ分かりきっているんだから時間の無駄だと思うけどな。

俺は武蔵の意見を少しだけ聞き入れ直ぐにでも撃てるように構えながら背後に佇む存在へ続きを促す。

 

「で?最後に何を言うつもりだ?」

 

「フフ、賢明ナ判断ネ。デハ詳シク話ソウカシラ、賭ケノ内容ト賭ケルチップヲ」

 

賭け?そういえばさっき賭けがどうこうって言ってたか。

背後で不敵に笑う中枢の話を聞く為、俺は砲塔を下げて仕方なく後ろに耳を傾けたのだった。

 

 




指が進まない……不味い、そろそろストックが尽きる可能性が(;´Д`)

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