2016年春、鎮守府に遠い国から一人の艦娘が着任してきた。
彼女はかつて、この国の艦娘達と戦争をしていた敵の一人だった。

これはそんな彼女の、誰にも言えなかった秘めたる思いの物語

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※この作品は艦隊これくしょんの短編二次創作です。
※2016年春イベの全海域突破時の妄想ストーリーとなっています。
※現実の世界情勢や歴史を反映させています。
※『』内のセリフは英語で喋っていると思ってください
※自分がプレイしている艦これの内容をほぼ反映しています。舞風ほすぃ。


 ☆要注意☆
 この作品には太平洋戦争に関することが色々と書かれております。それに関する作者の主観や感想がガッツリ反映されていますので、閲覧の際は注意してください。


アイオワさんが鎮守府に着任しました。

 

 ―――――――――――――――――――――

 

 

 2016年5月2日、大本営より兼ねてから計画されていた北太平洋前線の環礁の航空基地設営作戦へ参加せよと我が鎮守府に指令が下る。

 

 5月3日、霧島、羽黒、鳥海、Zara、川内、大井が率いる連合艦隊により基地周辺の制海権確保に成功。

 

 5月5日明朝、最上、神通率いる艦隊によりErehwyna島攻略完了

 

 同日夜、如月、潮、那珂、加古、五十鈴を中心とした輸送部隊がErehwyna島に航空基地設営。神風型1番艦を始めとした数多くの友軍の救出に成功する。

 

 5月6日、航空基地隊の活躍により敵艦隊の逆襲を完全に沈黙させることに成功。

 

 5月15日、南方ラバウル航空撃滅作戦、航空基地部隊と鈴谷、筑摩らが率いる艦隊の活躍により成功。さらに捕らわれていた伊軍の重巡洋艦の救出に成功。

 

 5月16日、友軍泊地奪還作戦救援作戦決行、山城、日向率いる連合艦隊と瑞鳳、蒼龍率いる支援部隊の活躍により敵の首領と思われる中枢棲姫に大打撃を与えることに成功。

 

 5月19日、逃亡した中枢棲姫への追撃作戦決行、比叡、陸奥、あきつ丸率いる第1艦隊、愛宕、那智、ビスマルク、多摩率いる第二艦隊、航空基地部隊を派遣、神風型3番艦と、友軍の撤退を助けるため殿として残り、一人敵の捕虜となっていた米海軍の艦娘、アイオワの救出に成功。中枢棲姫は大打撃を受けながらも逃亡、これ以上の追撃は資源の枯渇を理由に断念、作戦海域での友軍捜索作戦に移行。同時に我が艦隊にアイオワ含む救出された艦娘の配属が決定。

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

 ―――なあアイオワ、今日ようやく、あの国が降伏したよ、これでこのバカげた世界大戦も終わりだ。あいつらも意地張って戦争を続けたりしなきゃ、あんなものを落とされたりせずに済んだのにさ。バカな奴らだよ―――

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

 病室のベッドの上で、懐かしい夢を見た、私が持つ彼との思い出の、いちばん古いもの。

 

 夢から覚めたということは、私は助かったのだろう。私たちの基地が深海の奴らに襲撃され、そのあまりの強さに劣勢に立たされ、私は負傷した姉妹や仲間達、友軍や島にいる市民たちを逃がすため一人残って戦い続けたのだ。我ながら……よく生きていたと思う。

 

 その時……私のいる病室に金髪で白人のスーツ姿の男が入ってきた。

 

『やあプリンセス、どうやら目覚めたようだね』

 

 白人の男が英語で軽快なジョークを飛ばしながら、私のベッドの横にある椅子に腰かけた。

 

『あなたは確か日本にある領事館の……ということは?』

『そう、ここは日本、ヨコスカ基地の軍病院だ。アジア圏の防衛に当たっていた日本の海軍が、我が国の軍を助けるため艦娘達を使って君を救出してくれたんだ』

 

 その話を聞き、私は驚愕すると共に、少し不安な気持ちに苛まれた。

 

『……君達艦娘があの時代の当事者なのはよく知っている。かつては敵同士……殺し合いをした関係だということもね』

『……』

 

 私達が鉄の塊の戦艦から、艦娘と呼ばれる人の姿をした兵器に転生したのは、あの大戦から70年近く経った頃の事だった。しかし両国の間では同盟関係が結ばれたとはいえ、今でもあの戦争時の怨恨を抱えている者や、それに影響された者がおり、度々論争になっていることは知っていた。

この国の艦娘達の前世がどういう運命を辿ったのは、当事者達が残した資料や文献で大体知っている。開戦当初こそ連戦連勝を重ねていたが、相手の物量やABCD包囲網によってジワジワと敗戦を重ね、各地で非業の最後を遂げた。そしてそれは終戦間近に起こったヒロシマ、ナガサキ、オキナワの悲劇に繋がる。

 例えこちらが正しいと主張しても、彼女達はきっと私達を許さないだろう。戦争とはそういうものだ。そして私は……これから彼女達に浴びせられるであろう憎悪に耐えきれるだろうか? この国にいる私の国の兵達も、過去に自分達の先輩達が起こした事故や事件を起こし何も償わなかった事が原因で、毎日この国の国民たちに憎悪を向けられ、孤立し、犯罪に手を染める悪循環に陥っているそうだ。私がそうならないという保証はどこにもない。

 

『それでも彼女達は君達を助けるために尽力してくれた。彼女達の気持ちを鑑みても本当に感謝してもしきれない。そしてつい先ほど、上層部から通達が来た』

 

 そう言ってスーツの男は私に1枚の封筒を渡す。その中身を確認した私は、一つ深いため息をついた。

 

『転属命令……この国の艦娘として戦えっていうのね』

『世界各国は今、シーレーンを破壊され孤立状態だ。日本の艦娘の活躍によりアジア圏の深海勢はほぼ駆逐され、ヨーロッパ各地にもどうにか渡航できる状況にはなったが、アメリカ大陸は未だに深海勢相手に劣勢を強いられている。君にはこの国と共に外側から我が国を救う役割を担ってほしい』

『……私はいいけど、彼女達が容認するかしら?』

 

 私が自嘲めいた笑みを向けると、スーツの男は難しい顔をしつつ前のめりになって私の顔を見た。

 

『君の配属先の提督には念を押してある。こちらでもフォローは約束する。引き受けてくれないだろうか?』

 

 私に選択肢などなかった。ああ……妹達や仲間達の元に帰りたい。でもそれは叶わないのだろう。これはきっと、私が沢山の命を奪ったことに対する罰なのだから。

 

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

―――アイオワ、これから朝鮮に出兵だ、まったく……日本との戦争が終わってまだ数年しか経ってないというのに、息子の出産に立ち会えないのが残念だよ―――

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

 5月下旬、退院した私は、鉄道を使って配属先に向かう。私が配属されるのはヒロシマの隣にあるヤマグチのハシラジマベース、そこの司令官は着任8か月で今回の大規模作戦成功に貢献し、軍上層部から一目置かれているスーパールーキーらしい。他国の艦娘も数人引き入れ、主力として活躍させている所を見れば外国人にさほど偏見はない提督の筈だ……とあの外交官は言っていた。

 なんにせよ覚悟は決めなくてはならない。艦娘というのは戦いを含め多くの宿命を背負い、それからは逃げられないのだから。

 電車から降り、駅を出て、タクシーを使い、配属先である鎮守府に着き、門にいた憲兵に身分証を見せると、憲兵は水兵服を着た小さな女の子を連れてきた。

 

「へ、へろーあいおわさん、ま、まいねーむいずいなずまなのです」

「OK、日本語少し勉強シテマス。アドミラールはドコ?」

 

 イナズマとたどたどしい英語で名乗った少女に対し、たどたどしい日本語で返す私。彼女はこちらなのですと私を提督のいる執務室まで案内してくれた。その道中、廊下で数人の艦娘達とすれ違う。

 

「ねえ飛龍、あの人……」

「ああ、あれが……」

 

 黄色の着物と、緑の着物を着た少女が私を見てヒソヒソと話をしている。事前に貰っていたこの鎮守府に所属している艦娘達の資料によると、彼女達があのミッドウェーで沈んだ正規空母のソウリュウとヒリュウなのだろう。

 他にも複数の艦娘達とすれ違ったが、皆敵意はなくともどこかよそよそしく私を見ていた。まあ予想よりも全然マシな方だとは思う。正直いきなり刺されることも覚悟していた。

 そして私達は執務室の前に着き、イナズマが執務室の扉をノックする。

 

「司令官、アイオワさんを連れてきました」

「ご苦労、入ってくれ」

 

 部屋からした返事を聞き執務室の扉を開けるイナズマ、中には30台後半位の、眼鏡をかけた無精ひげの男が執務室の机に座っており、後ろには10人の艦娘達がこちらを威圧しながら立っていた。

 

(彼女達がこの鎮守府の最強戦力……)

 

 軍の資料の他に得たこの国の友軍の話によると、この鎮守府には主力となる10人の艦娘達がいる。現場の総指揮を務める阿修羅のナチ、戦艦三人衆高速のヒエイと火力のムツと航空のヤマシロ、通称空母の赤鬼ヒヨウと青鬼カガ、曲者スズヤ、水雷の白豹タマ、潜水艦殺しのカシマ。そして最後の十人目は、提督の隣でニコニコしているアタゴ、ぽややんとしていてこちらに敵意は全く向けていない。しかし彼女は数々の戦場で多くの戦果を挙げ、以前の大規模作戦でリコリス戦姫や中枢棲姫に致命傷を与える程の実力の持ち主である。というか……先ほどからカシマにものすごい殺気を放たれている気がする。

 するとそれを察してか、アタゴが彼女の肩を叩いた。

 

「ダメよカッシー、彼女は私達の仲間になるんだから」

「……わかっています」

 

 ああ、そうか……彼女は私が沈めたこの国の艦の姉妹艦か。憎まれるのも当然か……。

 すると提督がコホンと咳払いをして場の空気を換える。

 

「ようこそ我が鎮守府へ、俺はこの鎮守府の提督、権堂博人、階級は少将だ。」

「……アイオワ級戦艦の一番艦、アイオワデス、本日付でこの鎮守府に配属となりましタ」

 

 眼鏡のせいで表情の読み取れない提督の自己紹介に対し、私は淡々と自己紹介して返す。

 そして提督はある提案を私に提示した。

 

「ん……君の上官から話は聞いていると思うが、このように君に対してあまりいい印象を持たない艦娘は少なくはない。そこでだ……二日後に君の同期となる他の艦娘達がやってくる。それまで君はゲストとしてこの鎮守府に暮らしてほしい。その二日間で……ここに着任するかどうか決めてほしい」

「……は? で、ですが……」

「君の上官には既に許可を取っている。案内役はそこにいる電と……」

 

 提督はそのまま、自分の顔を指さした。

 

「俺だ」

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

 ――アイオワ……息子がベトナムで死んだよ……あのバカ息子、父さんみたいな軍人になるんだって言って……どうして止められなかったんだ……!!――

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

 提督の突拍子もない提案に、拒否する隙すら与えられなかった私は、そのままこの鎮守府のお客様として2日間を過ごすこととなった。

 

「ま、そう固くならずに楽にしたまえ、彼女達に様々な思惑があるとはいえ、君に危害を加えるようなことは絶対にさせないから」

「電も全力でアイオワさんをお守りするのです!!!」

 

 そう言って二人は私を鎮守府の中へ案内してくれた。

 

「……提督は業務の方はよろしいので?」

「俺がやる分は午前のうちに済ませておいた。残りはうちの優秀な事務員がやってくれるよ」

 

 そうして私は、鎮守府の外にある演習場に連れて来られた。演習場ではちょうど高速戦艦1と重巡2の3ON3の戦いが行われていた。

 

「くっそ~! 鳥海の奴! この前の大規模作戦で戦果挙げたからって調子付きやがって~!」

「ここであいつらに勝って! 私達の有用性を提督に見せつけるわよ二人とも!!」

「榛名がんばります!! 行きましょう摩耶さん! 足柄さん!!」

 

「うふふ、摩耶ったら殺気立ってますねえ」

「ううう……足柄姉さん怖いです……」

「こちらも提督に選んでもらった以上負けるわけにはいきません!!」

 

 そんな彼女達の演習の様子を、軽巡や駆逐の子達が観戦している。

 

「どっちも頑張れ~クマッ!!」

「時雨はどっちが勝つと思うっぽい?」

「う~ん……四女チームは全員改二だしねえ、三女チームのD敗北じゃないか?」

 

 そして艦娘達の中に、一際目立つ二つの影があるのに私は気が付いた。

 

「筑摩、お前はどう見る?」

「長門さんと同意見ですよ。公平性を保つために、榛名さん達には一回り強い武器を持たせていますし、練度が絶対ではないということはあそこにいる二人が証明しています」

 

 二人が視線を映した先には、木陰で大の字に寝る艦娘に、悪戯をしようとする鉢巻きを巻いた小さな艦娘と、黒い軍服を着た肌の白い艦娘が、顔に小さなヒヨコのぬいぐるみを乗せる悪戯をしていた。

 

「ほおおお……これだけ載せているのに起きないね加古さん」

「このままギネス記録に挑戦するであります。ついでにこの様子をイムヤ殿から頂いた“すまほ”で撮影するであります」

「んぐ―……」

 

 それを見た提督は大声をあげて注意する。

 

「二人ともー、加古が起きる前にやめておけよー」

「「はーい」」

 

 そんな彼女達を見た私は、ふっと笑みを浮かべて提督とイナズマに話しかける。

 

「……いいチームね、ここの鎮守府の艦娘達は」

「彼女達の個性を重視し、それを十二分に発揮できる編成を作り出す……それが提督の指針なのです」

「まだまだ試行錯誤の段階だがね。この前の大規模作戦ももう少し練度が足りている艦娘が多ければスムーズに進められたしなぁ。あきつ丸を低い練度のまま最終作戦に放り込んでしまったし、暁やベールヌイや初月に負担をしいてしまったしな」

 

 そう言って提督は右手で頬杖を付きながらため息をついた。そんな彼を見て、私は演習を観戦する艦娘達を眺めた。

 

「そんな彼女達と一緒に……私は戦う権利があるかしら?」

「アイオワさん……」

 

 私の心境を察してか、イナズマは少し気まずそうに、彼女の顔を覗き込む。

 そして提督は私の横に立った。

 

「ま、君をどう起用するかは、俺がこれからの君を見て判断する。とりあえず……茶でもどうだ?」

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

――アイオワ……イラクで孫が死んだよ。軍人なんてやめろって言ったのによお……息子と同じで大馬鹿野郎だよ……!!――

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

「ようこそ甘味処間宮へ! なのです!」

 

 私は鎮守府の奥にある食堂……マミヤというところに連れて来られた。

 

「ここは……コーヒーショップ?」

「んん、まあそんなところさ。間宮さん、予約していた席は?」

 

 提督はすぐ傍にいたエプロン姿の女性に話しかける。

 

「ええ、空いています。あそこに……」

 

 マミヤと呼ばれたエプロン姿の女性は、私達を窓側にある4人用のテーブル席に案内してくれた。そしてそこには……既に眼鏡をかけた銀髪の女性が座っていた。いったい彼女は何者だろうと首を傾げる私に、提督は表情一つ変えずに口を開いた。

 

「紹介するよアイオワ、彼女はこの鎮守府に所属する……」

「練習巡洋艦、香取です……」

 

 その名前を聞いて、私は心臓を掴まれたような感覚に陥った。目の前にいる彼女は……かつて私が鉄の塊の戦艦だった頃に、手にかけた艦の一人だった。

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

――アイ、オワ……曾孫が死んだよ……テロで破壊されたビルの下敷きになって……――

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

 私は、ちょうどカトリの目の前に座らされた。そして彼女の隣に座る提督は呑気にメニューを眺めながら、何を注文するか頬杖を付きながら悩んでいた。

 

「んー……最近糖分を取りすぎているしなぁ、今日は緑茶にするか」

「電はリンゴジュースな気分なのです」

 

 まるで他人事、今日この席を設けたのもいやがらせか何かかしら……そんなことを心の中で毒づきながら、私は恐る恐るカトリを見る。彼女は眼鏡越しにこちらをチラチラと見ている。あちらはあちらで何を話せばいいのか迷っているようだ。

 

「香取さんとアイオワさんは何を頼みます?」

 

 すると私の横に座っていたイナズマが、空気を呼んだのか私達が話す切っ掛けを作ってくれた。

 

「私は……お紅茶にします。アイオワさんは?」

「……コーヒーを頂くわ」

 

 初めて交わす会話はぎこちなく、すぐに途切れてしまう。再び二人の間に流れる沈黙……しかし意を決して、カトリの方から話しかけてきた。

 

「わざわざ米国からこの艦隊に来ていただいて、ありがとうございます。この鎮守府には大和型も装甲空母もおりませんので、アイオワさんの力添えは助かります」

「……果たしてここの艦娘達は、私の事を受け入れてくれるかしらね? 特にあなたは……私が、その……」

 

 その時、エプロン姿の女性が、私達が注文した飲み物を持ってきた。カトリは自分の飲み物を上品に一口すすると、窓の外に広がる青い空を眺めた。

 

「私は……自分が沈んだ時の様子を、おぼろげにしか覚えていないんです。それにあれは戦争……厳しいことを言ってしまえば、自分達に力がなかったのが……身の程をわきまえなかったのがいけなかったんです。だから私はあなたをどうこうしようなんて……」

「……私ははっきり覚えているわ。あなたを沈めたときのことを、初陣だったから」

 

 場がさっと凍り付く。提督は表情一つ変えず、イナズマは冷や汗をかきながら縮こまり、店員たちは物陰でじっとこちらの様子を伺っている。

 そして私は、妹や仲間たちにも話したことない。あの初陣の時の事を、当事者であるカトリに話した。

 

「私はあの日……初めての任務でソウヤミサキに行ったわ。そこであなた達と戦った。そして……貴方達の仲間を沢山沈めた。それだけじゃない、わ、私に乗っていたクルー達は、漂流するあなた達に乗っていたクルー達を、み、皆殺しに……!」

 

 あの日の光景を、彼らの悲鳴を、そして……その時の仲間達の表情を思い出して、私の体は震えていた。目には涙が浮かんでいた。

 

「あんなに……任務に向かう航海ではあんなに楽しそうに笑っていた彼らが、まるで機械のように、戦えなくなった兵たちに止めを刺す姿を見て、民間人ばかりの工場を爆撃して、私は……私は優しかった人間たちがここまで残酷になれるなんて、し、知らなくて……怖くて、悲しかったわ……!」

 

 その時、私の手にイナズマの小さな手が重なる。私がイナズマの顔を見ると、彼女は微笑みかけた。

 

「大丈夫なのです。言いたい事、電達がちゃんと受け止めるのです」

「……OK」

 

 私は手を握られたまま、鋼の戦艦だった頃から抱いていた気持ちを、カトリ達にさらけ出した。

 

「私は……あんなことを繰り返させたくない。あなた達の生き延びた仲間達や、子孫たちがそうしたように……ずっとずっと、私達は、間違えて、繰り返して、悲しいことばかりだったから……!」

 

 記憶の片隅にいる、私の戦友。彼が国と時代に翻弄され、子も孫も曾孫もすべて失い、天国へ旅立つ前に語ったあの言葉を思い出した。

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

――アイオワ……我々は確かにあの戦争に勝った。でも勝ち取れたものは何もなかった。何も気付くことができなかったんだ……!――

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

「……貴女の想いは解りました」

 

 私が一通り語り終えると、カトリはハンカチを私に差し出してくれた。私はそれを受け取り、目元の涙を拭きとった。そしてこれまで話を黙って聞いていた提督が、カトリに問いかけた。

 

「香取先生、彼女は合格ですか?」

「ええ、アイオワさんは私達と同じ志があります。この艦隊に入れても問題はないでしょう」

「じゃ、決まりでいいな」

 

 そう言うと提督は、自分が持っていた湯飲み茶わんをテーブルの中心に差し出した。

 

「二日後に君を含めた新任の艦娘達の着任式を行う。それまではのんびりしていたまえ。では正式な着任を祝して……乾杯」

「えーっと、英語で乾杯はなんていうのですか?」

「……チアーズよ」

 

 オレンジジュースの入ったグラスをもって首を傾げるイナズマの愛らしさに私は思わず笑みをこぼしながら、カトリと一緒に手に持つグラスをコンとぶつけて乾杯した。

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

 それから二日後、私は今日やってきた新任の艦娘達と共に、司令官室で改めて着任の挨拶を行っていた。

 

「駆逐艦磯風、着任しました」

「く、駆逐艦照月、着任します!」

「駆逐艦神風! 着任しました!!」

「駆逐艦春風、着任しました」

「水上機母艦瑞穂、着任しました」

「正規空母雲龍、着任します」

「せ、潜水艦U-511、着任しました……」

「重巡洋艦ポーラで~す。よろしくお願いします~」

「戦艦アイオワ、着任しました」

 

 多種多様、様々な艦娘達が私の同期だ。そしてその誰もが……私に気を使っているのか無理やり無関心を装っている。

 無理もない。どの子もかつて私の国の敵だったのだ。いきなり受け入れられるはずがない。

 そして提督と補佐官であるオオヨド、秘書艦であるナチは一通りの挨拶と手続きを行う。

 

「これで晴れて君たちはこの鎮守府に所属する艦娘となった。そこで……ささやかながら歓迎パーティーを行う。一同間宮に向かうように」

「「「「「「「「「了解!」」」」」」」」」

 

 数分後、私達は提督らに連れられてマミヤの扉の前にやってきた。

 

(歓迎会、か……)

 

 先日、提督やカトリには認められたものの、ここに所属するこの国の艦娘達には認められるかどうかわからない。最悪……虐められることも覚悟しなくては。そんなことを考えているうちに、提督はマミヤの扉を開いた。

 

 すると中から、パパパパパンとクラッカーの音が複数鳴らされた。

 

「「「「「ようこそ我が鎮守府へ!!」」」」」

 

 私達を出迎える祝福のクラッカー、よく見たら私と一緒に着任したはずのウンリュウ達もクラッカーを持っていた。

 

「おっしゃー! 作戦成功だぜ!!」

「皆、中々の演技だったわね~」

「え、これはどういう……」

 

 眼帯の少女と頭に円盤のようなものを浮遊させている少女……テンリュウとタツタのしてやったりといった表情をしているのを見て困惑する私。すると私と一緒に入ってきたカミカゼとハルカゼが説明してくれた。

 

「ごめんなさいアイオワさん、私達事前に天龍さん達に説明されていたんです」

「貴女が私達に敵意を持ってないことや、あなたの平和への想い……だから先輩方と一緒に、あなたを歓迎してあげようって事になったんです」

「え……」

 

 すると、私の目の前にナガトとムツが立ちはだかり、手を差し出してきた。

 

「えーっと……うぇるかむとぅーじゃぱん? でいいのか?」

「あらあら長門、無理して英語で言わなくていいんじゃない?」

「何を言う! わざわざ遠い国から、過去を乗り越えてこの鎮守府に来てくれたんだ! こちらもそれ相応の礼をもって迎えなければ!! それに……彼女は私達以上に長く生き、数多くの戦争で沢山の戦友を失ったのだ……私達だけが偉そうなことは言えんさ」

 

 そう言ってナガトはそのまま私の手を握り熱い握手を交わした。それに呼応するかのように、他の艦娘達も私に祝福の言葉を投げかけてきた。

 

「ようこそ日本へ!」

「ふえー! 背が高いねえ!」

「貴女達、あまりアイオワさんを困らせちゃダメよ」

 

 そんな彼女達の温かさに触れ、私の目に暖かな涙が流れてきた。

 

「えっちょ!?」

「ど、どうした!? 我々が何か粗相でも!?」

 

 私の様子を見て、ナガト達が慌てふためく。

 

「違うの……私、嫌われていると思ったから、歓迎されると思っていなかったから、皆の、優しさが、う、嬉しくて……!!」

「アイオワさん……」

 

 するとこちらの様子に気が付いたアタゴが、私をぎゅっと抱きしめてくれた。

 

「大丈夫、ここに来た以上、あなたは私達の家族……ファミリーだから」

「うん……うん……!」

 

 すると、いつの間にかマミヤの中に設置されていた壇上に上がっていた提督が、マイクを片手に私達に向かって語り掛けてきた。

 

「えー、新任の諸君、まずは着任おめでとう。この鎮守府に来てくれて、私は大変うれしく思う」

 

 ワイワイ騒いでいた艦娘達がシンと静まり返り、提督の話に耳を傾ける。

 

「諸君も知っての通り、この鎮守府には立場や国籍、思想の違う様々な者が集まっている。中には立場が違うが故に起きた悲しい出来事を忘れることができない者もいるだろう。だが私は……今目の前にある困難に、立場を乗り越え手を取り合って立ち向かえれば、過去を乗り越え、今を生きる者やこれから生まれてくる命たちへ、君たちが味わったような悲しみが無い世界へ繋げることが出来ると俺は信じている」

 

 初めて会った時の印象とは真逆の、魂のこもった言葉で提督は話を続ける。

 

「皆……俺に力を貸してくれ、俺も君たちが最大限に力が発揮できるよう、最善を尽くすつもりだ。この星に海色を取り戻し共に暁の水平線に勝利を刻もう」

 

 次の瞬間、ドッと140人を超える艦娘達から歓声が沸き上がった。

 

「勿論だぜ提督―!!」

「一生付いていくわー!!」

「提督カッコイイでちー!!」

「結婚してなのね―!!」

 

 そんな大歓声の中、アタゴが私の耳元に囁いてきた。

 

「どう? うちの提督? 惚れちゃった?」

「……そうね、命を預けるに相応しい人だと思うわ」

「ふふふっ、ここに来た皆そう言うの。素敵な人よね……」

 

 そう言ってアタゴは、自分の右手薬指に填められている指輪を愛おしそうに見つめていた。

 

「さ、堅苦しいのは終わりだ。今日は皆、思いっきり飲んで騒げ。怪我だけはするなよ」

 

 提督の合図とともに、艦娘達は再び各々騒ぎ出した。

 そしてすぐ傍にいたムツが、私の手を取った。

 

「貴女、お酒は飲める?」

「一応ね」

「私は飲めんぞ」

「貴女には聞いてないわ長門。提督は貴女を次の大規模作戦の切り札としての運用を考えているの。だから今のうちにね……色々お酒を交えてお話ししましょう?」

 

 ムツの視線の先には、テーブルを囲うこの鎮守府の最強戦力たちとカトリが、こちらを見て笑顔で手招きをしていた。

 

「……OK! Meはお酒はストロングよ! 朝まで飲み明かしましょう!!」

 

 

 

 こうして私は、この鎮守府のファミリーとして迎えられた。

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

 数週間後、月が変わりTooYouというロマンチックな季節に入った頃、すっかりこの鎮守府になじんだ私は、カトリ達と一緒に次の大規模作戦に向けて演習で練度を上げたり近海に残存する敵勢力の掃討任務に当たっている。

 

「アイオワさんお疲れー!」

「お疲れさまです!!」

「Ohサツキ! ズイカク! さっきの砲撃ベリベリナイスよ!!」

 

 本日の任務が終わり陸に上がり入渠を終えた後、私と一緒に練度を上げているサツキとズイカクに、私は我が国特有の愛情表現であるハグをサツキにしてあげる。サツキは照れくさそうにえへへと笑う。なんとも愛おしい笑顔だ。

 するとそんな私達の元にカトリがやってきた。

 

「皆さんお疲れ様です。本日の業務は終了です。あとは自由時間……」

 

 次の瞬間、私はすっとカトリの隣に立ち、アオバから貰ったデジカメで私とカトリのツーショット写真を撮った。

 

「きゃ! アイオワさん!?」

「うふふ、カトリのキュートなフェイスゲットよ!」

「あーなんか私達も撮ってたよね。それも故郷の人達に送るの?」

 

 ズイカクの問いに、私は笑顔で答える。

 

「ええ! 故郷の皆にこの国のファミリーを紹介してあげるの!」

 

 

 

☆ ☆ ☆

 

 

 

 自室に戻り、私はデジカメに入っている沢山の写真のデータを電子メールに添付し、そのまま海の向こうにいる姉妹や仲間達に送った。

 写真にはこの鎮守府で友達になったカトリ達の写真、そして提督……アドミラルが私に語った言葉を、自分の気持ちも交えてそのままメールに載せた。

 

 

 

 

 

――先日の大規模作戦では、敵の中枢を叩くことは叶わなかった。すなわち日独伊三カ国の力では足りない。もっと沢山の国の力が必要になるわ。だからいつか、あなた達もこっちに来なさい。そして今度は世界中の人達の力を結集して、この星に静かな海を取り戻しましょう。きっとあの戦争で共に戦った仲間達も、空の向こうでそれを望んでいると思うから……。――

 

 

 

 アイオワさんが鎮守府に着任しました 完

 




というわけで、春イベントで苦労してゲットしたアイオワの気持ちを想像して書いた短編は以上です。Gレコ最弱のほうが遅れたお詫びも兼ねて書いてみました。
 他の二次創作ではアイオワに対してマイナスな気持ちを持つ人が多く、某動画ではわざと解体する人もいましたねぇ。難しくてデリケートな問題なので仕方ないことなんですが。
 作者自身としては、あの時代に指導者に相応しい指導者はどの国にもいなかったという感想しか湧きませんでした。なのでアイオワや今のあの国にどうこう言う気は全くないです。
 それにうちの鎮守府では大和も武蔵もいないんで、アイオワさんには次イベントの最終海域の切り札として頑張ってもらいますが(笑)ていうか普通に好みですし……指輪も渡す予定です(爆)

 ではみなさん、またほかの作品でお会いしましょう。連載中の自分の他の作品もよろしく!!!


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