(ウォルター……お疲れだね)
「まぁ、それもあるけど…っと」
ついいつもの感覚で口に出してルウと“会話”してしまった。
あたりにいた生徒が少なかったことと、ただの一般生徒だったことが幸いか。
(ライアだよ。あいつ大丈夫か?)
(今更でしょ? 頭の出来を心配したって)
(いや、そこ……)
そこ違う。
そう言おうかと思ったが、結局は放っておく事にした。別に言ったところでルウは気になどしないだろうし。
ただ少しだけ気になったのだ。ハイアの様子について。
(ま…なるようになるかな)
(そうだと思うよ? まぁそれに、もしもウォルターに危害を加えるようなばかなヤツが出たら僕が消せばいいだけだしね)
(お、おう…?)
(ふふ、冗談だよ)
どこからどこまでが冗談だかわかんないけどな、と小さく返してウォルターは腕を組んだ。
小声でさて、と呟きながらウォルターは道を歩いていた。
(…頼まれたことはやるの?)
(まぁ、一応。面倒くさいけど)
(律儀は健在だね。……でも、怒るんじゃない?)
(まぁそうだけどな。その辺は適当に…なンとか…)
ウォルターが曖昧に返すと、ルウはほんの少し苦笑を浮かべた。
(……って事はー…リーリン・マーフェスの方とか、都市の戦争には参加しないわけだ)
(マーフェスの方にはルッケンスがいンだし、都市戦の方はなンとかなるだろ)
(でた、ウォルターの超楽観視)
(…でたってなんだよ…別にいいだろ? オレばっか気張るなンざ面倒だしな)
(まー…それはそうだねー。当然だよ)
ルウの同意を聞きながらウォルターは息を吐き、あるマンションのロビーに入った。
「ここだったが…そういえば」
(どうしたの?)
(十七小隊、呼び出しがあったような気がする)
気がするだけかもしれないが、とウォルターは眉を寄せて頭を掻く。そう思っていると丁度、不機嫌そうではあるが目的の人物が現れた。
「……イオ先輩?」
どうしようか、と思いつつ、ウォルターは苦笑をこぼしながら声をかけた。
「どういうことだ?」
ニーナは困惑していた。
現在、マイアスと明日接触するということで十七小隊は集まっていた。
しかし、フェリとウォルターがいつまでたっても来ないのだ。
「……フェリのことはなんとなく察せるような気はしないでもないのだが…ウォルターはどうした? レイフォン、何か知らないか?」
「どうして僕に聞くんですか…。……知らないです。話ではここ数日、アパートと病院を行き来していたそうですけど」
その言葉にやや眼を丸くして、シャーニッドが眉根を寄せて答えたレイフォンに問う。
「そうなのか? あいつまた調子崩したり…」
「…いえ、そういうわけではないらしいです。病院でただの検査だとのことです」
「あぁ、そういう。…お前、知らないって言った割には知ってるな」
「別に、聞いただけですよ、そ、そう! そうです、小耳に挟んだだけです!」
「……そ…、そう…なのか?」
ほんの少し困惑した様子で、ナルキは慌てた様子のレイフォンに言葉を返した。
だが、その言葉に更にレイフォンは狼狽したようで、首を縦に勢い良く振る。
「そ、そうですよ! それ以外の他意なんてありません、あ、ある訳無いですっ! …べ、べつに…病院のほうに行ったからついでに聞いて知ってるなんて事無いですから!」
「レイフォン、口から全部事情駄々漏れだぞ」
レイフォンが早口で強情に言い張ったが、すべて駄々漏れ。しかしニーナとシャーニッドはいつものことだと言わんばかりに苦笑しながら頷いた。
だが、と呟いてシャーニッドのやや後ろにいたダルシェナが憤りの混じった声音で悪態を吐く。
「いくらちからを持っているとしても、こういう時にしっかり動かないのは好かんな」
「いや、そう言うけどなぁ、シェーナ。ウォルターならいつもきっちり来てるはずなんだよ。寧ろ、来てないっていうこの状況のほうがおかしいんだ」
そう、ウォルターならば必ず来ているはずだ。
なのに、来ていない。
怪訝な顔をしたナルキが小さく口を開いて、言う。
「……フェリ先輩やウォルターに、何かあったんですかね」
「フェリはその可能性を考えてもおかしくはないが、ウォルターはな…」
「…あのウォルターに危害を加えられるヤツなんて、いないんじゃねぇの?」
シャーニッドの言葉に、落ち着きを取り戻しつつあるレイフォンは、そうであって欲しいと思いながら眉を寄せた。