明星の虚偽、常闇の真理   作:長閑

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息をつく間もない

 

「さぁ、やろうか」

 

 外力系衝剄を化錬変化、剛天(ごうてん)

 頭上に刀の切っ先を向け、剄技を放つ。放たれた剄は細長く針状に変化し、再び進行を始めた汚染獣達に降り注ぐ。そして一歩踏み込むと汚染獣を蹴りあげ、食らい付こうと口腔をみせつける汚染獣に刀を突き刺す。

 刀は汚染獣の口腔上部を突き抜け、体液を噴き出させる。そのまま刀の柄を持ち直して下段への切り下げ、横から襲いかかってきた汚染獣へ横薙ぎに刀を振るう。さらに後方から来た汚染獣の突進を跳躍して避け、刀から形を変形、槍へと変化させた。

 柄を逆手に掴んで、ウォルターは口角をあげる。

 

「たまには、いいよな?」

 

 外力系衝剄を変化、華月(かげつ)

 ウォルターは下降する勢いに乗せ、槍の刃と柄の繋ぎ目横に足を置いて、そのまま突き刺した。

 汚染獣の悲鳴にも似た咆哮が発され、もがく動作に合わせてウォルターは槍を引き抜き、そのまま横に振るうと、勢いのまま目の前の汚染獣に突き刺し、上に振り上げながら斬撃を繰り出す。

 

「っと」

 

 槍を持ち直すと、ウォルターは逆手で構え、ほぼ一直線に並んだ汚染獣に向かって濃密な衝剄を纏う槍を放った。

 活剄衝剄混合変化、月刃(げっぱ)

 豪速で放たれた槍は汚染獣を貫き、汚染獣の鎧甲を貫いているにも関わらず速度を落とさない。ウォルターが右腕を引く。右手には不可視の糸が巻き付いている。巻き付いている糸は、鋼糸。

 槍の石づきから伸びた鋼糸はウォルターの右手に巻き付いており、ウォルターが右腕を引いた事により槍がウォルターの手へ戻る。

 

「ある程度終わってきたか?」

 

(……かな。領域を広げて確認してるけど、数は確実に減ってきてるよ)

 

「ならいい」

 

 後方接近者、有。一名。

 レイフォン・アルセイフ。

 現状報告をしてくれたルウに答えたウォルターの背後から、先程戻った筈のレイフォンがかけてきた。

 

「ウォルター!」

 

 レイフォンは複合錬金鋼を構え、ウォルターの隣に立つ。その片手が空いている事に気づいて、ウォルターが背後を確認する。

 

「……アントーク」

「はい。隊長も帰ってきました」

「…それは良かった」

「え」

「…え、って…なンだよ」

 

 レイフォンの間抜けな顔に眉を寄せつつ、ウォルターは横から来た汚染獣へ蹴りを放った。

 狼狽したようなレイフォンが、おかしな挙動をしながら言葉を紡ぐ。

 

「だ、だってそんな普通に言うと思わなくて」

「…お前オレをなんだと思ってるンだ」

「……邪知暴虐、自由奔放、自己中心的人間」

「やめろ、無駄に思いつく限りの罵倒の言葉を並べるのはやめろ」

「いえ、やっぱりこう文句を言えないとだめですよね」

「お前な……はぁ」

 

 呆れ半分にウォルターは肩を竦めて、溜息を吐く。

 調子が戻ったようで何よりだとは思うも、自分に関してなんだかんだと言われるのはやや癪に障るのだが……再び溜息を吐きながらもウォルターはレイフォンに声をかける。

 

「ともかく、だ。…やれるな? アルセイフ」

「はい」

「……いい瞳だ。じゃあ、やろうか」

 

 ウォルターが槍を刀へもどして肩に担ぎ、不敵に笑みを浮かべてレイフォンへ視線を向けた。

 その視線に応え、レイフォンは錬金鋼を握りしめ、構える。

 

「遅れるなよ」

「当然です」

「…っは。そうこないとな」

 

 ウォルターも刀の柄を握りなおし、大地を蹴りあげた。

 

 

 

 

 

 

 事態も終息し、落ち着きを取り戻しつつあるマイアスでリーリンは双眼鏡を握りしめ、うんざりと溜息を吐きながら呟く。

 

「どうなってるの?」

 

 ここの所毎日通っているにも関わらず、いつまでたっても来ない放浪バスに苛立ちを隠せないリーリンは、八つ当たり混じりに鉄柵を叩いた。

 

「まぁ、世の中そううまくいきませんね」

「そうだなぁ。……今日も無駄だろうし、諦めて帰ろうぜ。人間諦めが肝心ってな」

 

 背後で、苦笑しながらベンチに座るサヴァリスと、気怠げにだらしなく座るウォルターの声が聞こえてリーリンは眉を寄せて振り返り、2人を見た。

 

「そういう風に言わなくてもいいじゃないですか」

「だって、何処にも放浪バスの姿は無いし」

「そうですねぇ」

「……それはわざわざどうも」

 

 双眼鏡を使うリーリンより遥かに遠くを見ることが出来る2人からそう言われてしまっては、リーリンもなにもいうことが出来ない。

 溜息を吐き、それでも諦めきれずにもう一度双眼鏡を覗きこんだ。

 

「……レイフォンがだめになっていたらどうします?」

 

 サヴァリスの唐突な言葉に、リーリンはきょとんとしてサヴァリスを見る。

 

「もし、ここに居たあの武芸者のように、無様を晒していたらどうします?」

「……頑張って頑張って、みっともないんだったら、それはそれ…だとおもいます。でも、もしも、情けないことを言っているようだったら…叩いて直します」

「アルセイフが古いテレビな扱いされてンだけど」

 

 ウォルターはリーリンに苦笑し、「まぁ」と頷く。

 その頷きに、サヴァリスを見ていたリーリンは視線をウォルターへ向ける。

 

「確かに、そのくらいの喝があったほうがいいかもな」

「……ウォルターさん、何か知っているんですか?」

「いいや? なンでオレがアイツの事を気にかけないとなンないのか、さっぱりなンだけど」

「……………………そうですか」

 

 リーリンはそれ以上問いただす事を諦めて、双眼鏡を再び覗き込む。

 そんななか、ウォルターはある一点に視線を向けたまま。ウォルターの視線に気付いたサヴァリスが、リーリンに声をかける。

 

「探すなら、もっと大きい物を探すといいですよ」

 

 ほら、と言ってサヴァリスはウォルターの視線の先を指した。リーリンは双眼鏡をそちらへ向け、倍率をあわせる。

 

「え? あれって……」

「都市、だな」

「……紋章見えるかい? ウォルター」

「当たり前だろ」

「…………あの、紋章は…………」

 

 図案化された少女と、ペンのマーク。

 それはレイフォンの合格通知が来た時にリーリンが見たものと同じ。

 

「どうして……ここに」

「学園都市、ツェルニ…だな」

 

 現れた都市、学園都市ツェルニ。

 ゆっくりとマイアスへ向かってくるツェルニを、リーリンは呆然と見ていた。

 

 

 

 


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