明星の虚偽、常闇の真理   作:長閑

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その瞳に世界の覇者を見据え

 

「ウォルター」

「……アルセイフ?」

 

 後ろから声がかかり、ウォルターは後ろを振り向く。

 声の主、レイフォンは少し後ろに2つの念威端子を引きつれていて、その念威端子の形からフェルマウスの念威だったと思うのだが、聞こえてきた声は機械音声ではなかった。

 

(……イオ先輩)

 

「……この声……、ロス…か?」

 

 聴き馴染みのある声にウォルターはきょとんとした顔をした。

 2つの念威端子は隠し切れない怒気を放ちながらウォルターへと寄ってくる。

 先程まで顔をそむけていたハイアも、ウォルターを見ると念威端子へと視線を向けた。

 念威端子に追い抜かされたレイフォンは、何処か青ざめた顔でウォルターに小さく口を動かした。

 

「ご愁傷様です」

 

 青ざめた顔の為他意がある訳でも、悪意がある訳でも、いつもの調子でざまあみろと思っていた訳でも無いらしいが、それでもウォルターは嫌な予感がしてならない。

 

(……なにをしているのです……あなたは……!)

 

「うっ」

 

 フェリの怒りが最高潮に達している事が言葉に隠しきれていない怒気から察する事ができた。

 レイフォンはやはり青い顔でウォルターの方へ寄って来て、ハイアの居ない方の隣へと回った。

 念威端子は強い光を放ちながら、フェリの鋭い声を届けてくる。

 

(…あなたの主治医に聞きました。あなたまだ、手術が終わっていないそうですね……?)

 

「……う」

「えっ?」

 

 先程出発前に、ウォルターはハイアとの話の中で「手術は終わった」と言っていた。

 それにレイフォンもハイアも眼を丸くする。

 

―――――ティアリスのヤツ、余計な事を余計なヤツに…

 

 ウォルターは内心で舌打ちをし、バツが悪いという顔で念威端子から眼をそむけた。

 

(その様子では、レイフォン達には言って居なかったようですね。……そこまでしてあなたは戦いたいんですか? 死にたいんですか? それともばかなんですか? なんですか)

 

「…いやぁ…、死にたくはないな」

 

(じゃあなんです。はっきりしませんね。うやむやにされるのは酷く不快です)

 

「…いやでも…、しなくちゃいけない事があるのは確かだし……」

 

(あなただけが戦うなど、ばかでしょう!)

 

「うっ!」

 

 珍しいフェリの明らかな怒りや、ウォルターが言いくるめられているという姿にレイフォンはどちらも、ハイアはウォルターの姿に、眼を白黒させて目の前の光景を見つめていた。

 ウォルターは困惑の表情を浮かべ、頬を掻く。

 

「……えー、と……、…………………ごめんなさい?」

 

(何故疑問形なのです……?!)

 

「……ごめんなさい」

 

(……まぁ、いまはそこまでで許してあげましょう……そのかわり、ツェルニにあなたが帰ってきたら、脛を蹴り倒して差し上げます)

 

「…………………正直、勘弁して欲しい…………………」

 

(………何か、言いましたか………?)

 

「いや、言ってない」

 

 フェリの不機嫌全開のオーラにウォルターが肩を竦め、苦笑する。

 

(……ともかく……、いまは汚染獣ですね)

 

「そうだな。ライア、準備できてるか?」

「……え、…あ…、できてる、さ~」

「それならいい。そろそろ休眠もとけるだろう。身体、ならしとけよ」

 

 ウォルターはレイフォンとハイアに言い、溜息を吐いた。

 

(……あ、そういえば)

 

「あン?」

 

(忘れていました)

 

「あ? なにが………………………ッ?!」

 

 2つあった念威端子のうち、ひとつが眼を焼くような光を放って爆発した。

 念威爆雷だ。フェリが念威を操作して端子を爆破させた事により、あたりに衝撃が散らばった。

 

「っちょ、フェリッ!!」

「ウォルター!」

 

 都市外部では決してしてはならない事をした。まさかフェリがウォルターを念威爆雷で爆破しようとするなど誰が考えるだろうか。

 爆風のせいで砂埃が巻き上がり、ウォルターの安否確認は出来ない。

 レイフォンも、ハイアはレイフォンよりももっと、どうやってウォルターが汚染物質遮断スーツも無しに外へ出られるのかという仕組みを知らない2人は焦った。

 爆破の影響により巻き上がった砂煙がほんのすこしずつ晴れていく。

 

「……っとー……、あぶねぇなぁ、ロス妹め」

 

 ウォルターはそこに立っていた。

 服についた砂煙を払いつつ、悠然と立つウォルターの余裕たっぷりの言葉と態度にフェリが苛立たしさを隠さない声音で悪態をつく。

 

(……だから気に食わないのです、あなたは)

 

「そりゃあ悪い」

 

 肩を竦めていたウォルターだったが、傷という傷は見られない。それどころか、先程舞い上がった砂粒のひとつついていない。

 ウォルターの悠然とした苦笑にハイアとレイフォンはやはり眼を丸くしてウォルターを見ていた。

 

「…っ、ウォルター本当に大丈夫なんですか?!」

「平気だって、平気」

「……本当かさ?」

「そう疑うなって。お前ら誰に言ってンだ」

 

 そう言ってウォルターはレイフォンとハイアのヘルメットを軽く叩いた。ウォルターは軽く肩を竦めて未だ訝しげなふたりの視線に苦笑する。

 

「……と言うか、ウォルターさっき、フェリ…先輩に、手術終わってないって言われてましたよね。……嘘……ついたんですか」

「…………あぁ……うん……、気にすンな」

「気にするさ、それでいいと思ってるんさ?!」

「そうですよ。そうなれば、さっき…」

「もうなンも言うな、お前ら」

 

 溜息を吐きながらウォルターはレイフォンとハイアのヘルメットの前方を手で掴んだ。

 

「っちょ……っ、そんなことしても見えてますからね? あまり強情に言うとフェリに熱感知してもらいますよ」

「おいおい、熱感知は反則だろ」

「そう言ってる場合でもないさ。ウォルターがそんな風なのに、心配せずに居られる訳ないさ」

「……お前らは……。大丈夫だって言ったら大丈夫だよ。痛みは無いし、傷にも熱を帯びてるような感覚もない」

「ウォルターがただ意識から省いてるとかそういう話は無いんですか」

 

 ウォルターは頭を振り、レイフォンのヘルメットを軽く叩いた。

 同様にハイアのヘルメットも叩き、ウォルターは金の腕輪を弾く。

 

「おら、つべこべ言ってンな。…休眠がとけるぜ」

 

 背後で気配が動く。

 汚染獣の休眠がとけはじめ、甲殻を割って動き出しているのだ。しかしレイフォンとハイアはウォルターを見ながら眉を寄せている。

 

「……ふたりとも、ンな不安そうな顔してんじゃねぇよ。戦い前に不謹慎だろうが」

 

 はぁ、とウォルターは大きく溜息を吐き、はやくしろとだけ言うと踵を返した。

 

「ほら、動き出した」

 

 ウォルターは刀を握る。

 藍錆色の紐が揺れ、そこに交差してつけられた柑子色のピンも連動する。

 ウォルターが瞳を鋭く細め、口角をあげた。

 

「……さぁ。戦の始まりだ」

 

 世界の覇者をその視界に映し、そう、呟いた。

 

 


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