―――――強がってる?
その言葉に、ウォルターは片眉を上げてハイアを見た。
しかしハイアは掴んでいたウォルターの手をゆっくりと離すと、ウォルターの後ろに居るフェルマウスの方を向く。
そしてその表情が一瞬変わったのを見てウォルターもそちらへと眼を向けた。
「仮面の下、そうなってたのか」
一瞬は眼を瞠ったものの、やはり一瞬、ウォルターは平然とした顔でフェルマウスに言う。
そんなウォルターの様子にフェルマウスの機械の声に驚きが含まれた。
「えぇ、そうです。……動じない方は初めて見ました」
「あ、そうなの?」
「本当さね。さっすがウォルターさ」
「あー、まぁねぇ…、こう言ったらなンかもしンねぇが、色々見てきてるし」
異民……隻眼の死神と共に居た時にあったヤツらの方がもっと酷い状態だった。
事実としては、フェルマウスも彼らもなりたくてそうなったわけではないのは同じであろうが、それでも生きているのだから、フェルマウスのような状態でも驚いたりはしない。
とは言え、正直ウォルターはもう慣れすぎていた。
人ということに関して、ハイアにはああ言われたけれど正直自分でも実感するほどに、冷淡で酷薄な態度を取りやすいと分かっている。
―――――わかりきってるんだ、そんなことは
だが、それでも思う事は諦められないのだ。
そして、しようと思っていることを諦めることも出来ない。
―――――うーむ……。オレって結構優柔不断なんだよな……、こう考えると
困ったことだ、なんとなくそう思いつつ内心溜息を吐いた。
「ともかく、だ。とっとと出るなら出るぞ」
(ルウ、頼めるか)
(……………………………………)
意外にもルウから無言が返ってきた。
ウォルターは内心首を傾げて問う。
(ルウ?)
(…………………怒ってるんだからね、僕)
ルウの思いがけない反論。
ウォルターは珍しい反論に虚を突かれた思いになってルウになにも言えなかった。
(……ウォルターの事は心配だけど……、それでも、怒ってるんだから)
ウォルターはルウの言葉に“現実”で頭を掻く。
(まぁ、別にお前がしてくれなくても、オレには他に方法あるし)
(…………………)
(別に死にゃあしねぇ訳だし、このまま出ても? …ただ、肌が爛れてやばいことになって、再起不能とかになってもう昔の姿なんて見る影もなくなっ、)
(ごめんなさいしますお願いだからそのまま出ないでください悲しくて死んじゃうから、僕が)
(…悪いな。悪気は無いンだ)
だから余計にたちが悪いんだよ、とルウから再び反論が返ってくる。
それにはウォルターも肩を竦めるしか無かった。
(分かってる。オレが利己主義なヤツだなンてことは)
(……別に、そんなことない。だって、ウォルターより僕の方がそうだからね)
(……お互い様…か?)
(そうだね…。でも、無茶はしないで。……いまの僕は客観的にキミを守ることしか出来ない。僕も…、ちょっと頑張らないと)
(頑張るって、なにを?)
(能力の強化。ここでウォルターを守る為に僕ができることはそれだけじゃないかい?)
(ん…そうか……? でも…、…悪いな、本当に)
(いいんだよ。それこそ持ちつ持たれつ、お互い様だと思うよ)
(かねぇ。……本当、お前には感謝してるよ)
(ウォルターにそう言ってもらえるならいくらでも)
ルウの嬉しそうな雰囲気が返ってくる。ウォルターも知らず知らずのうちに頬を緩ませていた。
「……ウォルター、どうかしましたか?」
「…あぁ、なンでもない。行こうぜ」
「………そうですね」
レイフォンが訝しげに首をかしげていたが、ウォルターはとりあえず気にしないことにした。