「へぇ、面白いもん持ってるさ~」
複合型錬金鋼の調整中、ハイアがとことことやってきた。
レイフォンにキリクが複合型錬金鋼を渡して居るところを後ろで見ていたウォルターは、やってきたハイアを見た。
「あぁ、ライア。てかこら、勝手に見てたらだめだ」
「えー。気になるさー」
「……機密事項だ、失せろ」
キリクが鋭い眼差しでハイアを睨んだ為、これ以上キリクの機嫌が悪くならない内にウォルターがハイアをキリク達から離す。
「ほーら、オレとあっち行こうぜ」
「ちょっ、そんなハードに動いて大丈夫なんさ?」
ハイアが慌ててウォルターに言ってくる。
怪我のことを言っているのだと気付き、ウォルターは少し驚いた顔でハイアを見た。
「なンだ、知ってたのか」
「知ってるさ。だからそんなハードに動いて大丈夫かさ?」
「いや、これからもっとハードに動くからな? だいたい、お前に心配される程、か弱いつもりはないンだがねぇ…」
ウォルターは肩を竦め、ハイアを連れ出した。
少し離れた場所にいたサリンバン教導傭兵団の団員たち……ミュンファとフェルマウスを見つけたウォルターは、そちらにハイアの襟首をがっしりと掴んで差し出した。
「おい、ちゃんとこの犬見とけ」
「あぁ、すみませんヴォルフシュテイン…いえ、ウォルター殿。お久しぶりですね。……うちの犬が迷惑を」
「本当だぜー。盛りの強い犬はきっちり首輪つけておいてくれ」
「すみません」
「おーい、フェルマウスもウォルターも二人してオレを犬扱いするのやめるさぁ」
フェルマウスのノリにウォルターはくつくつと笑いつつ、ハイアを離した。
2人に犬扱いされ、笑われたハイアは何処かバツが悪いという顔でコートを直しつつ悪態をつく。
「酷いさ、ウォルター」
「はいはいごめんねっと」
「謝りに心がこもってないさぁ!」
「えッ、オレの精一杯の謝罪だったのに」
「すんまっせんしたぁぁ」
ウォルターはハイアに向かって驚愕したような表情をむけてぐすぐすと泣く振りをした。
意外すぎるウォルターの反応にハイアが狼狽えた様子で両手を顔の前で合わせて謝罪する。
それを面白がるウォルターはハイアを指してけらけらと笑っていた。
「ハイアちゃん……」
「……ミュンファ、呆れた顔はやめるさ。…おれっちはウォルターにだけは本気で嫌われたくない」
「真顔かよ」
「真顔さ。真面目さ。いたってマジ、」
「分かった、分かった。頼むから詰め寄ってくんのやめてくれね」
真顔でウォルターにハイアは詰め寄る、ウォルターはじりじりと詰め寄られる為後ろに後退するしかない。
途中でどん、と後ろにいた誰かにぶつかる。
肩に手が置かれ、ハイアの表情が苛立たしげなものに変わった為ウォルターは後ろに居るのはレイフォンだろうと見当をつける。
「ハイア、ウォルターを困らせるのはやめてくれないかな」
「…お前ほどじゃないさー」
ほら、当たりだ。
この2人少し前の廃貴族の件があってから更に仲が悪くなったような気がする。顔を合わせれば言い合い開始のゴングがなっているような気がしないでもない。
「……聞いたさ。今回ウォルターが怪我した原因って、お前なんだって? 呆れるさ」
「……………………………………なにが言いたい」
レイフォンは鋭い目つきでハイアを見た。
それでいてウォルターの肩を掴む手は緩めずレイフォンは居る。
そんなレイフォンに対抗するようにハイアもレイフォンを睨め付け、ウォルターの手をにぎる。
ハイアに手を握られ、レイフォンに肩を掴まれ、ウォルターは頬を引きつらせた。
「……お前ら、オレは男に囲まれて嬉しいタイプのヤツじゃないぞ」
「そう言わないさ~、いいじゃないさ、後ろは災いのもとだけど前はいい男さ~」
「失礼な。それこそ前の方がそうなんじゃないの? なにせ、誰でも彼でも見境無く喧嘩売るんだからね」
『…………………』
「……だからお前ら、オレを挟んで喧嘩をするンじゃねぇ」
なんでお前らそんなに仲悪いの。その前になんでそんなにオレ挟んで喧嘩しちゃうの。
なんでオレ挟むと喧嘩しかしないの。いつも喧嘩すンだからオレ挟んだ時くらい仲良くしようよ。
……いや、オレ引率? 的な? いや、どっちかって言うとコミュ力低い方だけンども。
未だいがみ合いを続けるレイフォンとハイアなんとか引き離し、ウォルターは溜息を吐いた。
「いい加減にしろ、お前ら。……それ以上いがみ合いしてると、」
『…………………』
「二度と口聞いてやらん」
『ごめんなさい』
腕を組んでしらっとした顔で言い放つと、2人が即行で離れて腰を折った。
―――――お前ら必死すぎだろ…
ウォルターはどちらかと言うと逆に驚いた顔で2人を見た。
それから溜息を吐いてカリアンに渡された、探査機から持ち帰られた写真を見る。
どういう動きをするんだっけと考えなおしていると、ハイアがにょきっとウォルターの持っていた写真を覗きこんでくる。
「あ、ウォルター、オレたちは前情報としては十二体の汚染獣のうち、六体っていう契約さ」
「知ってる。それは聞いた。…となると、残りの六体をオレとアルセイフが三体ずつ、ってところか」
「…そう、ですね。……あのウォルター、やっぱりウォルターは……痛ッ?!」
レイフォンなりの気遣いなのだろう、とはウォルターも分かっている。
だがそれでもそれを言い切らせるつもりも無く、ウォルターが指でレイフォンの額をはじいた。
「くどい。やるっつったらやるンだよ、オレは」
「……っちょっと……、言ったのはまだ1回目ですよ!」
「まだってことは言う気なンだろうが。しかも顔がうるさい」
「…顔がうるさいって、失礼です」
「だからなンども言わせンじゃねぇぞ、ガキが。やるっつたらやンだよ」
ウォルターはレイフォンを睨め付け、強制的に黙らせる。ハイアがウォルターに声をかけた。
「けどウォルターも元気さね。手術は終わったんかさ?」
「…おう」
「そっか。じゃあ割と安心したさ。けど無茶はだめさ~」
「はいはい。了解してます」
ウォルターが苦笑交じりに頭を掻く。
それでもハイアは信憑性が無いとでもいいたげに頬をふくらませる。
「ハイア、いつまでそうしているつもりだ?」
「フェルマウス。……さっきわざとノリに乗ったヤツに言われたくないさ~…」
「そういやぁ挨拶が遅れてたな。久しぶり」
「あぁ、お久しぶりです」
ウォルターはフェルマウスに挨拶した。
その後レイフォンがフェルマウスに話しかけられ、少し話を続けている間ウォルターはハイアに声をかけられていた。
「ウォルター、どうするんさ?」
「なにがだ?」
「いやぁ、本当に行くのかさ? その体で」
「…………………お前もまだ、言うか…………………」
「ごごごごごめんなさいさ! けどやっぱり…、心配なんさ……」
「……あのね……」
ウォルターは困った顔をして肩を竦める、それでいてしょぼんと肩を落としているハイアの頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
「平気だよ、何度も言うけど。そんなに心配されなくてもオレは平気だって。オレがそういうことに強いのは知ってるだろ?」
「…だから余計心配なんさ。ウォルターは周りに人居るといつも無茶するから…」
「……人居ると無茶するって、オレが頑張り屋さんみたいじゃん、やめろよそういう事言うの」
ウォルターはハイアの言葉に肩を竦めた。
ハイアが真顔で自分の頭を撫でていたウォルターの手を掴んだ。いきなり掴まれたウォルターはきょとんとした顔でハイアの顔を見る。
「…そうやってはぐらかすのはやめるさ。おれっちは、本気で心配してるんさ」
「……ライア?」
「だから、そうやって強がるのはやめて欲しいさ」
ハイアが眉を寄せつつ、ウォルターに静かな声音で言った。