ウォルター・ルレイスフォーンという存在は、“創られた存在”だ。
オーロラ粒子、そしてゼロ領域による人体の変質、異民への変化……それを除いても、ウォルター・ルレイスフォーンは“人間”ではない。
細胞、遺伝子レベルでほぼ人間と同じ様に創られてはいるが、それでも人間ではない。
かつてウォルター・ルレイスフォーンが行動していた世界を創りあげた存在……錬金術師、アルケミストにより創られた。
それは、“弟”と定義されているルウ・ルレイスフォーンも同じ事だ。
そしてルウにとって“兄”であると定義されているウォルター・ルレイスフォーン。
お互いにその事実を知りながら、異民となって遺伝子すら変貌しきった中でも、お互いはお互いを“兄弟”であると認め合い、決めている。
2人は、人工的に創られた存在で、人工的に創られた世界で生きていた存在だった。
その事実は、決して変わることのない事なのだ。
それを知ったのはもうずっとずっと昔のこと。
いつだったか忘れてしまうような、ずっと幼い頃に気付いた。
気付いた理由すらも忘れてしまったいまでは、ただ自身が“人間”とはかけ離れた存在であるということのみが、事実としていつもつきつけられている。
この世界……レギオスの世界。
この世界もまた、創られた世界、そして、守るべきものを有する世界。
―――――……世界。人間。異民。……姿かたちが違えど、それはすべて同じ
根底を違うものとして定義され創られた存在であるウォルターとは違う。
このツェルニに居る、ウォルターと同じ位置に立つ者達、レイフォン、ニーナ、フェリ、シャーニッド、グレンダンの女王アルシェイラ、天剣授受者達。
遺伝子地図を使って創られた人体を持つ“この世界の人間達”でさえ、ウォルターとは完全に違う存在とされてしまう。
―――――なら、オレは何処へ行く。何処へ辿り着く
あの男の約束にとらわれ、ここで律儀にこなす“ウォルター・ルレイスフォーン”は、約束が果てれば何処へ行く?
最後にたどり着き、最後に見るものは……
―――――…………………ふん…………………
くだらないな、と“ウォルター・ルレイスフォーン”は頭を振った。
そんなもの、誰も知り得る筈が無い。
はっきりしていることは、ウォルター・ルレイスフォーンは自らを肯定し続けるということだけだ。
自らを否定しても、なにも成す事は出来ない。
―――――ならば、オレがすべきことはたった一つだ
自分自身でさえ知り得ない事、それは未来。
過去へは行き来出来る自分が、唯一行くことを許されない時間、未来。
知ることはできなくても、切り開くことは出来る。
「……やるしかないよな。…やるしか、ないンだ」
それが自らに与えられ、自ら与えた使命。
やると決めたのは、最後に決断を下したのは自らだ。
ならば、その責任はとる。とってみせる。
“ウォルター・ルレイスフォーン”は口角をあげ、自らの上方から降り注ぐ光に眼を向けた。
―――――……っは
呆れた笑いを内心でこぼして、ウォルター・ルレイスフォーンは現実を見据えるべく、“この瞳”を閉じた。
さぁ、“夢”の目覚めだ